14 / 200
第一章 龍の料理人
第13話
しおりを挟む
真っ先にカミルが手を伸ばしたのはキラーフィッシュのソテーだった。カミル用に大きく切り分けていたのだが……それをも一口で口に含んでしまった。
そして咀嚼するたびにどんどん彼女の顔が満足そうにほころんでいく。
「美味しいのじゃぁ~。骨もないし……このトロッとしておるやつが濃厚で味わい深い……。これは何なのじゃ?」
「それはキラーフィッシュの肝臓を裏ごしたものだ。」
「なんと肝臓とな!?妾が喰った時は血生臭くて喰えたものではなかったぞ?」
「その時は私が教えた処理をしなかっただろう?だから血生臭かったんだ。ちゃんと処理をしてやれば……この通りさ。」
「うむぅ~……料理とは奥深いものじゃ。」
うんうんと頷きながらカミルは次々にソテーを食べつくしていく。そんな時だった……。
「むぐふっ!?~~~~ッ!!」
「ん!?カミル?どうした!?」
突然カミルが顔を真っ青にして、苦しそうに喉を抑えながらもがき始めた。
「むっぐぐぐ……の、喉に……魚が……。」
「つ、詰まらせたのか!?一先ずこれで流し込むんだっ。」
ぽんぽんとカミルの背中を叩きながらお吸い物が入った器を差し出すと、彼女はプルプルと震える腕でそれを受け取り少しずつ口に含む。そしてゴクリ……と大きな音を立てて飲み込んだ。
「ぷはっ!!た、助かったのじゃ~……。まさか飯を喉に詰まらせて死を覚悟することになるとはの……。」
「だからもっとゆっくり食べるんだな。」
「うむ、肝に銘じておくのじゃ~。にしてもこの水……優しい味がするのぉ~。」
自分の命を救ったお吸い物の優しい味わいにカミルは舌鼓を打っていた。
一緒に盛り付けていたキラーフィッシュのアラもワイルドにバキバキと噛み砕きながら、彼女は一気にそれを飲み干した。
そして残るはいよいよ……カミルが酸っぱさで顔をしかめた、ライムルの実を使ったドレッシングをかけたカルパッチョのみとなった。
「……のぉミノル?」
「もちろんそれにライムルを使ってるぞ。」
カミルが問いかけたいことを先読みして私が話すと、彼女はとても驚いた表情を浮かべた。
「な、なな……なんで妾が言いたいことがわかったのじゃ!?」
「料理人ってやつをやってると、人の心ぐらいだったら読めるようになるんだよ。」
それにカミルは表情によく現れるから読み取りやすいしな。
「まぁ、さっきのライムルのことは一回綺麗すっぱり忘れて食べてみてくれ。また違う世界が見えるはずだ。」
「くぁ~……ミノルはズルいのじゃ。そう言われれば食わんわけにはいかぬじゃろ。………あむっ……む!?」
酸っぱさを我慢するためかカミルはぎゅっと目を閉じてカルパッチョを一切れ口に運んだ。しかし、次の瞬間には驚きで目を見開いていた。
「ふっ……どうだ?」
「お、美味しい……のじゃ。し、しかしなぜじゃ?さっきは刺激的な酸味じゃったというに……これは……。」
「それは酸味が適切な塩加減……そしてキラーフィッシュの脂と絶妙に噛み合っているからなんだ。」
そう説明している間にもカミルはあっという間に大皿に並べられたカルパッチョをペロリと平らげてしまっていた。
そしてもの足りなさそうに、私の分の料理をじ~……っと見つめている。
「食べるか?」
「し、しかし……ミノルの分が無くなってしまうのじゃ。」
「私のことなら心配はいらない。自分自身なぜかはわからないが……こちらに来てからというものの腹は空いていないんだ。だから遠慮せず食べてくれ。」
「む、むぅ……な、なんか悪いのぉ~。じゃがここはミノルの好意に甘えるのじゃ。」
そうしてカミルは私の分の料理まであっという間にペロリと平らげてしまう。
「むふぅ~……満足じゃ。今日も今日とて美味しかったのじゃ。」
ポンポンと膨らんだお腹を撫でながら満足そうにカミルは言った。
そんな彼女に私はある疑問をぶつけてみることにした。
「そういえば……カミルは一日一回しか食事をとらないのか?」
「む?基本的にはそうじゃの~。人間は違うのか?」
「まぁ私がいた世界では一日三食食べてたな。朝、昼、晩って。」
ダイエットとかで何食か抜いている人もいるが……そういうのを除けばふつうは三食食べる人のが多いな。
「ほぉ~?朝昼晩と三食か……妾はちと無理じゃな~胃袋が破裂してしまう。ミノルの美味しい料理を一日に三回も食べられるというのは魅力的ではあるがの。」
くつくつと苦笑いしながらもカミルは言った。
「ドラゴンは体の燃費がいいんだな?」
「当り前じゃ。妾はこれでもこの世界の生物の頂点じゃぞ?肉体の性能も随一なのじゃ~!!」
エッヘンとカミルはふくらみがない少女特有の胸を大きく張る。
こういう姿は全く人間の子供と同じなんだよな。いや、むしろ子供より子供らしいかもしれない。食事を楽しむ姿といい、こういう自分を誇る姿だったり……な。
「ふっ……そうか。」
そんな子供っぽい姿に思わず笑みがこぼれていると……。
「んなっ!?ミノル、お主信じておらんなっ!?」
「~~~っいででっ!!し、信じてるからそんなに強く引っ張るなって!!」
尋常ではない力でカミルに腕を掴まれ引っ張られる。や、やはりドラゴン……私のような人間一人を片手で振り回す程度造作もないらしい。
「むあぁぁっ!!お主が信じるまで止めぬのじゃ~!!」
「信じてるって!!だから離してくれっ!!腕がとれて料理ができなくなるぞっ!!」
「……!!それは困るのじゃ。」
私の言葉で突然我に返ったカミルは勢いそのままに私の腕を離した。
「うわァァァッ!!」
そして当然……遠心力とカミルの力が合わさった勢いは凄まじいもので私は厨房の壁に思い切り頭を打ちつけてしまう。
「し、しまったのじゃ!?み、ミノル!!おい返事をするのじゃ!!」
急速に意識が遠退く最中、カミルが慌てて私を呼ぶ声が聞こえるが……それに返事をする前に私の意識は遥か底へと堕ちていった。
そして咀嚼するたびにどんどん彼女の顔が満足そうにほころんでいく。
「美味しいのじゃぁ~。骨もないし……このトロッとしておるやつが濃厚で味わい深い……。これは何なのじゃ?」
「それはキラーフィッシュの肝臓を裏ごしたものだ。」
「なんと肝臓とな!?妾が喰った時は血生臭くて喰えたものではなかったぞ?」
「その時は私が教えた処理をしなかっただろう?だから血生臭かったんだ。ちゃんと処理をしてやれば……この通りさ。」
「うむぅ~……料理とは奥深いものじゃ。」
うんうんと頷きながらカミルは次々にソテーを食べつくしていく。そんな時だった……。
「むぐふっ!?~~~~ッ!!」
「ん!?カミル?どうした!?」
突然カミルが顔を真っ青にして、苦しそうに喉を抑えながらもがき始めた。
「むっぐぐぐ……の、喉に……魚が……。」
「つ、詰まらせたのか!?一先ずこれで流し込むんだっ。」
ぽんぽんとカミルの背中を叩きながらお吸い物が入った器を差し出すと、彼女はプルプルと震える腕でそれを受け取り少しずつ口に含む。そしてゴクリ……と大きな音を立てて飲み込んだ。
「ぷはっ!!た、助かったのじゃ~……。まさか飯を喉に詰まらせて死を覚悟することになるとはの……。」
「だからもっとゆっくり食べるんだな。」
「うむ、肝に銘じておくのじゃ~。にしてもこの水……優しい味がするのぉ~。」
自分の命を救ったお吸い物の優しい味わいにカミルは舌鼓を打っていた。
一緒に盛り付けていたキラーフィッシュのアラもワイルドにバキバキと噛み砕きながら、彼女は一気にそれを飲み干した。
そして残るはいよいよ……カミルが酸っぱさで顔をしかめた、ライムルの実を使ったドレッシングをかけたカルパッチョのみとなった。
「……のぉミノル?」
「もちろんそれにライムルを使ってるぞ。」
カミルが問いかけたいことを先読みして私が話すと、彼女はとても驚いた表情を浮かべた。
「な、なな……なんで妾が言いたいことがわかったのじゃ!?」
「料理人ってやつをやってると、人の心ぐらいだったら読めるようになるんだよ。」
それにカミルは表情によく現れるから読み取りやすいしな。
「まぁ、さっきのライムルのことは一回綺麗すっぱり忘れて食べてみてくれ。また違う世界が見えるはずだ。」
「くぁ~……ミノルはズルいのじゃ。そう言われれば食わんわけにはいかぬじゃろ。………あむっ……む!?」
酸っぱさを我慢するためかカミルはぎゅっと目を閉じてカルパッチョを一切れ口に運んだ。しかし、次の瞬間には驚きで目を見開いていた。
「ふっ……どうだ?」
「お、美味しい……のじゃ。し、しかしなぜじゃ?さっきは刺激的な酸味じゃったというに……これは……。」
「それは酸味が適切な塩加減……そしてキラーフィッシュの脂と絶妙に噛み合っているからなんだ。」
そう説明している間にもカミルはあっという間に大皿に並べられたカルパッチョをペロリと平らげてしまっていた。
そしてもの足りなさそうに、私の分の料理をじ~……っと見つめている。
「食べるか?」
「し、しかし……ミノルの分が無くなってしまうのじゃ。」
「私のことなら心配はいらない。自分自身なぜかはわからないが……こちらに来てからというものの腹は空いていないんだ。だから遠慮せず食べてくれ。」
「む、むぅ……な、なんか悪いのぉ~。じゃがここはミノルの好意に甘えるのじゃ。」
そうしてカミルは私の分の料理まであっという間にペロリと平らげてしまう。
「むふぅ~……満足じゃ。今日も今日とて美味しかったのじゃ。」
ポンポンと膨らんだお腹を撫でながら満足そうにカミルは言った。
そんな彼女に私はある疑問をぶつけてみることにした。
「そういえば……カミルは一日一回しか食事をとらないのか?」
「む?基本的にはそうじゃの~。人間は違うのか?」
「まぁ私がいた世界では一日三食食べてたな。朝、昼、晩って。」
ダイエットとかで何食か抜いている人もいるが……そういうのを除けばふつうは三食食べる人のが多いな。
「ほぉ~?朝昼晩と三食か……妾はちと無理じゃな~胃袋が破裂してしまう。ミノルの美味しい料理を一日に三回も食べられるというのは魅力的ではあるがの。」
くつくつと苦笑いしながらもカミルは言った。
「ドラゴンは体の燃費がいいんだな?」
「当り前じゃ。妾はこれでもこの世界の生物の頂点じゃぞ?肉体の性能も随一なのじゃ~!!」
エッヘンとカミルはふくらみがない少女特有の胸を大きく張る。
こういう姿は全く人間の子供と同じなんだよな。いや、むしろ子供より子供らしいかもしれない。食事を楽しむ姿といい、こういう自分を誇る姿だったり……な。
「ふっ……そうか。」
そんな子供っぽい姿に思わず笑みがこぼれていると……。
「んなっ!?ミノル、お主信じておらんなっ!?」
「~~~っいででっ!!し、信じてるからそんなに強く引っ張るなって!!」
尋常ではない力でカミルに腕を掴まれ引っ張られる。や、やはりドラゴン……私のような人間一人を片手で振り回す程度造作もないらしい。
「むあぁぁっ!!お主が信じるまで止めぬのじゃ~!!」
「信じてるって!!だから離してくれっ!!腕がとれて料理ができなくなるぞっ!!」
「……!!それは困るのじゃ。」
私の言葉で突然我に返ったカミルは勢いそのままに私の腕を離した。
「うわァァァッ!!」
そして当然……遠心力とカミルの力が合わさった勢いは凄まじいもので私は厨房の壁に思い切り頭を打ちつけてしまう。
「し、しまったのじゃ!?み、ミノル!!おい返事をするのじゃ!!」
急速に意識が遠退く最中、カミルが慌てて私を呼ぶ声が聞こえるが……それに返事をする前に私の意識は遥か底へと堕ちていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
206
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる