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第一章 龍の料理人

第12話

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 私は柵にしたキラーフィッシュの身を、柳刃包丁で和食で言うお造りのように一枚一枚切りつける。
 ちなみになぜ魚の切りつけにこの柳刃包丁を用いるかというと、牛刀等の両刃の包丁とは違い柳刃包丁は片刃の包丁だ。片刃の包丁は切りつけたときに食材の角が立ちやすい。……まぁつまりより美しく切れるってことだな。

 そして切りつけた身を大皿に花を咲かせるようなイメージで盛り付けていく。一見和食のお造りを作っているようにも見えるが、今回は生憎醤油という最高の調味料が無い。だから今回はさっぱり食べられるカルパッチョ風に仕上げようと思う。

 私はインベントリから緑色の表皮をした果実を取り出し、きれいなまな板の上に置いた。それを見たカミルが首をかしげている。

「む?それはなんじゃ?」

「ライムルって果実らしいぞ?さっき湖で実っていたのをとってきたんだ。」

 良く洗ったライムルの実をペティナイフで半分に切ると、さわやかな柑橘系の香りがふわりと香ってきた。カミルもそれを敏感に感じ取ったらしく、鼻をひくひくと鳴らしている。

「おぉっ?良い香りがするのじゃ!!」

「食べてみるか?」

 皮を剥いて果肉だけになったライムルの実をカミルに差し出すと、彼女は目を輝かせながらこちらに寄ってきた。

「よいのかのっ!?」

「あぁいいぞ、ほら……。」

「では遠慮なくいただくのじゃ~!!あ~……むっ……むぎゅぅ!?」

 美味しいことを期待しながらカミルはライムルの実を口いっぱいにほおばった。しかし、口に含んだ瞬間にカミルの顔が一気にしかめっ面に変貌する。

「しゅっ……しゅっぱいのじゃぁ~っ!!何なのじゃこれは~~ッ!!」

「私も湖で一つ食べたが……なかなか酸っぱいだろ?」

「うぅ~……美味しいと思っていたのに損をした気分じゃあ~。」

「まぁそう言うな。最初にこの味を知っていた方が、後々どれだけ美味しくなるか楽しみになるだろ?」

 私の言葉にカミルはとても驚いた表情を浮かべて言った。

「こんな酸っぱいものを料理に使うというのかのっ!?」

「もちろんだ。特にこういう柑橘系で酸味が特徴的な果物っていうのは、こういう脂がのっている魚によく合うんだぞ?」

 わかりやすい例でいえば、冬場の脂がのりにのった鰤にポン酢が合うっていうことと同じことだ。
 
 カミルは露骨に嫌な顔をしているが、そんな事お構いなしに私はライムルの実を絞り果汁を抽出していく。
 そして抽出した果汁に適量の塩とこのブラックペッパーのような香辛料を混ぜる。これでドレッシングは完成だ。

「あとはこのライムルの皮を薄く剥いて、針状に細く刻み上に散らせば……見た目も香りもばっちりだ。」

 これは冷やしておくためにあの異世界式の冷蔵庫の中に入れておこう。できる限り冷たい状態で食べたいからな。
 出来上がったキラーフィッシュのカルパッチョを仕舞った私は次の料理に取り掛かる。

「今回は調味料が塩しかないから、シンプルに塩焼き……と思ったが調がここにあったな。」

 私がそう言って手にしたのはキラーフィッシュの体内で肥えに肥えた肝臓……つまり肝だな。幸い新鮮だし、しっかりと血抜きもしていたから血生臭さはない。これを使えばまた一風変わっていて、味わい深い料理が作れるな。

 まずはこの肝を一度湯通しして軽く火を通す。そうしたらきっちりと粗熱をとって、裏漉しできっちりと裏漉して滑らかなクリーム状にする。これで濃厚な肝のクリームが完成だ。

「そしたらキラーフィッシュを焼く前に……軽いお吸い物用の出汁を引いておこうか。」

 深い寸胴鍋に三枚下ろしの時に出たキラーフィッシュの骨や頭などのアラを入れて、たっぷりの水を注ぐ。そうしたら火を入れてしっかりと灰汁を取りながら出汁を引く。一度沸騰した時にきっちりと灰汁を取り切ることが出汁を濁らせないコツだ。後は水洗いの時に、しっかりと血やぬめりを落としておけば出汁が濁ることはない。

 そうして綺麗な出汁を引いたら塩のみで味を引き立てる。醤油などを使えば味をごまかすことができるが、塩だけで当たりをつけるとなればそうはいかない。絶妙な塩加減という難しい技術が必要だが、塩だけで当たりをつけるとその出汁の美味しさが一層際立つのだ。

「当たりはこれでバッチリだ。後は最後盛り付けの時にライムルの皮を刻んだものを香りとして入れよう。」

 よし、お吸い物の準備もできた。それじゃあメインの仕上げにかかろうか。

 柵取りしたキラーフィッシュの身を大きく焼き物用に切り分けて少し強めに塩を振る。そして塩を馴染ませたらフライパンで軽く焼き色を付けるぐらいに火を通す。そうしたら皮の上から先ほど作った肝のクリームをかけて……オーブンで中まで火を通し、肝クリームに軽く焦げ目がついてきたら完成だ。

 ちなみにカミルの分はわかりやすくめちゃめちゃ大きく切ったぞ。

「キラーフィッシュのソテー……肝クリームを乗せてって感じかな。」

 さぁ、あとは盛り付けて並べるだけだ。

 冷蔵庫に仕舞っていたカルパッチョを出し、お吸い物とキラーフィッシュのソテーを盛り付け、どんどんカミルの前に並べていく。

「おぉ~っ!!あのキラーフィッシュがこんなにも様々な料理に変化するのかっ!!」

「これでもまだ少ないほうだぞ?もっと調味料があればいろんなのができるんだが……。」

「それに関しては明日街に行ったときに好きなだけ買えばよいのじゃ。金なら腐るほどあるからのぉ~。……っと今はそんなことよりも飯にするのじゃっ!!妾はもう辛抱たまらんぞ。」

 カミルはもう待ちきれない様子だ。口元から今にもよだれが垂れそうになっている。彼女をこれ以上焦らすのも可哀想だし、話は後にして食べるとしようか。

「そうだな、料理が冷める前に食べよう。」

「うむっ!!ではいただくのじゃ~っ!!」

 カミルは溜まっていた欲望を解き放つがごとく料理に飛びついた。そんな彼女を見て苦笑いを浮かべながら私も料理に手を伸ばしたのだった。
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