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「蜂蜜、ライフル、麻美ゆま、目、午後五時二十五分二十一秒」
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頭のなかで、にゅるにゅる動くものがいる。その存在に気がついたのは昨日の夕方のことだった。
駅前のおはぎ屋のおばばがケケと笑い、なんや気色わるい、と思ったその瞬間、にゅると音がした。え?
次の瞬間、店先一面に並べられたおはぎに、あんまり食いたいとは思えないおはぎに、年中ハエがたかっているおはぎに、ハエにうんこと認識されているがためにたかられているにちがいないおはぎに、うんこおはぎに、実は以前からそう思っていたおはぎに、おばばが手作りで売っているおはぎに、おばば手作りのうんこに、いや、おはぎに、いや、おばばの優しさに、そのぬくもりに、いや、その抜き差しならない存在に、そんな、うんこに、それらが一面に並べられた店先の台の上に、気がつけばダイブしていた。
美しい夕陽が差し込み、雑踏の埃がキラキラと輝いていた。スローモーション。
「なんか素敵やん」と言うすこし昔のテレビタレントの声が聞こえた。それ以外はなにも聞こえない。
「なんか素敵やん」
静寂の世界。のなかへとオレはとびこんでいた。
この腕が、頬が、胸が押し潰すおはぎの感触。
台の上でひっくりかえるオレ。
地面へとゆっくり落ちてゆくおはぎ、衝撃で跳ね上がるおはぎ、そして何枚かの千円札と小銭。
おばばの顔。笑っている。ケー。ケー?
むせ返る蜂蜜の匂い。蜂蜜?
蜂蜜まみれで跳ね上がるおはぎ、蜂蜜まみれの千円札、蜂蜜小銭。蜂蜜おばば。
まだ笑っているおばば。そして前歯。おばばの前歯。やけに光る前歯。蜂蜜。
などを、ぼんやり眺めながらオレは死について考えていた。
死。
はじめて死を意識したのは高2の冬、生まれてはじめてコンビニ強盗をしたときだった。
カウンターの前、ナイフを出そうとするオレに、店の太った六十前の男はライフルの銃口を向けて、言った。
いや、正確にはカウンターの前に立った瞬間には、もうライフルの銃口は向けられていた。
ライフルの銃口からオレの目までの距離と、オレの目からライフルの銃口までの距離、ジャスト5センチ。
ライフルを構えた男が言う。
「なあ、生きるってゆうのは死ぬことなのか?」
で、今。
「なにやってんの、はやく!!」という女の声がして、オレの腕をつかむ感触があった。
オレは蜂蜜まみれになっていたのでつるつるすべってつかみにくいらしく、
「もうなんなの!? なんで蜂蜜!?」とイラつきながらも、女はオレのネクタイを力任せにぐい! とひっぱって、オレの目から女の目までの距離、ジャスト5センチ。
誰?
「走るよ!」といって駆け出してゆく女。
なんだかわけもわからずオレも走る。
飛び散る蜂蜜、パトカーの音、怒声、おばばの雄叫び、ひずみまくったギターの音、ギター?
後ろを振り向こうとすると、
「見ちゃダメ! 前だけ見て! とにかく走って!」と女が怒鳴った。
あれ? あ!
メガネがないことに気がついた。おはぎ屋で落としたのだ。
「なあ」
「なに!」
「メガネがない」
「どうせたいしたもん見てたわけじゃないでしょ!」
ゆうべみたもの
麻美ゆまAV 夫を腹上死させた未亡人
さっきみたもの
笑ったおばばの前歯
目(女の)
「なあ」
「うるさい!」
「あんた誰?」
そう言った瞬間、真横から蹴飛ばされ、橋の欄干越えてオレ落下。うそ! 橋の上だったの!?
欄干をひょんと飛び越え、女も後から落ちてくる。
ちょうど橋の真下を運航中の屋形船の屋根をバシャンと破って、二人がお座敷に辿りついたのが午後五時二十五分二十秒。
「誰だっていいでしょ」と女が言ったのが午後五時二十五分二十一秒。
駅前のおはぎ屋のおばばがケケと笑い、なんや気色わるい、と思ったその瞬間、にゅると音がした。え?
次の瞬間、店先一面に並べられたおはぎに、あんまり食いたいとは思えないおはぎに、年中ハエがたかっているおはぎに、ハエにうんこと認識されているがためにたかられているにちがいないおはぎに、うんこおはぎに、実は以前からそう思っていたおはぎに、おばばが手作りで売っているおはぎに、おばば手作りのうんこに、いや、おはぎに、いや、おばばの優しさに、そのぬくもりに、いや、その抜き差しならない存在に、そんな、うんこに、それらが一面に並べられた店先の台の上に、気がつけばダイブしていた。
美しい夕陽が差し込み、雑踏の埃がキラキラと輝いていた。スローモーション。
「なんか素敵やん」と言うすこし昔のテレビタレントの声が聞こえた。それ以外はなにも聞こえない。
「なんか素敵やん」
静寂の世界。のなかへとオレはとびこんでいた。
この腕が、頬が、胸が押し潰すおはぎの感触。
台の上でひっくりかえるオレ。
地面へとゆっくり落ちてゆくおはぎ、衝撃で跳ね上がるおはぎ、そして何枚かの千円札と小銭。
おばばの顔。笑っている。ケー。ケー?
むせ返る蜂蜜の匂い。蜂蜜?
蜂蜜まみれで跳ね上がるおはぎ、蜂蜜まみれの千円札、蜂蜜小銭。蜂蜜おばば。
まだ笑っているおばば。そして前歯。おばばの前歯。やけに光る前歯。蜂蜜。
などを、ぼんやり眺めながらオレは死について考えていた。
死。
はじめて死を意識したのは高2の冬、生まれてはじめてコンビニ強盗をしたときだった。
カウンターの前、ナイフを出そうとするオレに、店の太った六十前の男はライフルの銃口を向けて、言った。
いや、正確にはカウンターの前に立った瞬間には、もうライフルの銃口は向けられていた。
ライフルの銃口からオレの目までの距離と、オレの目からライフルの銃口までの距離、ジャスト5センチ。
ライフルを構えた男が言う。
「なあ、生きるってゆうのは死ぬことなのか?」
で、今。
「なにやってんの、はやく!!」という女の声がして、オレの腕をつかむ感触があった。
オレは蜂蜜まみれになっていたのでつるつるすべってつかみにくいらしく、
「もうなんなの!? なんで蜂蜜!?」とイラつきながらも、女はオレのネクタイを力任せにぐい! とひっぱって、オレの目から女の目までの距離、ジャスト5センチ。
誰?
「走るよ!」といって駆け出してゆく女。
なんだかわけもわからずオレも走る。
飛び散る蜂蜜、パトカーの音、怒声、おばばの雄叫び、ひずみまくったギターの音、ギター?
後ろを振り向こうとすると、
「見ちゃダメ! 前だけ見て! とにかく走って!」と女が怒鳴った。
あれ? あ!
メガネがないことに気がついた。おはぎ屋で落としたのだ。
「なあ」
「なに!」
「メガネがない」
「どうせたいしたもん見てたわけじゃないでしょ!」
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笑ったおばばの前歯
目(女の)
「なあ」
「うるさい!」
「あんた誰?」
そう言った瞬間、真横から蹴飛ばされ、橋の欄干越えてオレ落下。うそ! 橋の上だったの!?
欄干をひょんと飛び越え、女も後から落ちてくる。
ちょうど橋の真下を運航中の屋形船の屋根をバシャンと破って、二人がお座敷に辿りついたのが午後五時二十五分二十秒。
「誰だっていいでしょ」と女が言ったのが午後五時二十五分二十一秒。
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