蜂蜜まみれのオレに彼女が教えるこの世に生きる喜び、そして哀しみのこと

付和雷象

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「白い闇、眠り、ダムカード、美しさ、コールタール」

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 二人で老人の頭と足を持ち、パトカーの後部座席まで運んだ。
 ずるずる、と音が聞こえた。老人のシャツが地面にすれているのだろうと思っていたが、腰と尻がすれている音だった。少しでも浮かして運ぼうと、握っていた足首を高く持つが、警察官のほうは、はっきりと、ひきずりながら運ぶつもりの頭の持ち方をしているように見えた。
 
 運ぶ途中、目が慣れてくると、ここが山奥にひらけた田園だということがわかってきた。きっと緑の美しい良いところに違いない。老人を運んでいる間、高2の冬のコンビニ強盗の時のことを思い出していた。


「なあ、生きるってゆうのは死ぬことなのか?」


 コンビニの太った六十前の男がライフルの銃口を向けながら言ったシーン。
 けれど、どうしても思い出せなかった。
 ライフルをつきつけられた、その後のことが。


 そのうち、次第に、今運んでいるこのやせ細った老人が、あの時のライフルを構えた六十前の男だったとしたら? という夢想にとりつかれていった。というよりも、そうとしか思えなくなってしまっていた。そして無意識に言葉にしていた。

「知らんがな」

「え? なんか言った?」と、後部座席に老人を横たわらせながら警察官が聞いてきた。オレは首を横に振り、後部座席のドアを閉めた、その時、にゅる、と音がした。あ。


 次の瞬間、あたりは一面のまばゆい光と、静寂の世界につつまれていた。

「なんか素敵やん」

 というすこし昔のテレビタレントの声がまた聞こえた。声にはディレイがかかっていて、やん、やん、やん、やん、と語尾が響いた。それ以外はなにも聞こえない。やん、やん、やん、やん、やん・・・・


 それは、白い闇だった。





 次に気がつくとオレは、暗闇を走るパトカーの助手席に座っていた。

 警察官はカーステレオをつけず、黙って運転をしていた。車のウィンドウをばち、ばち、と虫が叩いた。病院へむかっているはずだろうに、いつまでたっても闇の中をパトカーは走っていた。より深い闇へとむかっているように思えた。

 やがて前方に小さく光る道路情報表示の電光情報板が見えてきた。近づくにつれ、すこしずつ文字が読めるようになり、やがてはっきり見えるようになった。電光情報板にはこう書かれてあった。


 全てのものにとって平等である死は
 自らの生を証明しうる唯一の方法である


 ひゅん、とパトカーは真下を通り過ぎた。
 遠ざかっているであろう電光情報板を思いながら、オレは瞼の重さを感じ、そうして、いつの間にか眠ってしまっていた。



 警察官に揺り起こされて、眠りから目を覚ますと、そこはあたり一面真っ暗で、とても病院の施設とは思えないところだった。

 パトカーを降り、暗いながらも目をこらしていると、そこは木々の枝に覆われた廃道であるらいしいことがわかってきた。闇の明るいところは木々の枝がひらけており、そこからコンクリートの巨大な建物らしいものが見えた。

「どうだろうか? 深夜でもダムカードもらえるのだろうか?」と警察官が言った。
「ダムカード?」
「うん、あつめてんの」
「ここって・・・?」
「ダムだよ」何言ってんの? みたいに警察官が言った。
 
 よくわからない。

「え?」
「え?」
「なんで?」
「ん?」
「なんでダム?」
「だから、ダムカードあつめてるから」
「いや、そういうことじゃなくて」
「もう、めんどくさい人だなあ。あ、ついでだし、捨てちゃうわ。手伝って」と警察官は後部座席のドアを開けた。
「え?」
「ダムの駐車場からよりもこっからのほうがすぐダム行けっから。意外とけっこう重かったもんねー。そこでポイしちゃおう」

 頭が混乱してきた。

「病院は?」
「ん?」
「行かないんですか?」
「だってもうダムきちゃったもん」
「なぜダムに?」
「なぜって、ダムか、病院かでゆったらダムの方が好きだからに決まってんじゃなーい。だってダムカード集めてるんだよ。そんな疑うなら見せようか?」
 

 話しているうち、正直いろいろどうでもよくなってきた。

 ふたたび、ふたりで老人の頭と足を持ち、老人の腰と尻をずるずる地面にすりながら、廃道からダムへと向かった。ダムは美しさを追求したアーチ状のダムで、大きなダム湖の水面はコールタールのように重く光って見えた。ダムには我々以外の人間の姿はなかった。鹿が、親子の二匹の鹿が、少し離れたところからじっと我々を見ていた。
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