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「17歳、ベトナム、中国のアダルトサイト、唇、朝の光」
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数年前になにがあったのか。
政府によって完全に隠蔽されているから、はじめて聞くことになると思うんだけど、数年前のある夜、日本のとある田園地帯の国道沿いに立つコンビニが在日米軍の戦闘機によって誤爆されたの。
ひたすら田畑が広がるような車通りもほとんどない場所のコンビニだったから、そもそも当時、誰もコンビニの爆破になんか気づいてなかったし、情報統制によって新聞にもコンビニのガス爆発事故として、それは小さくとりあげられただけだった。
でも、当時、誤爆の事実を確認した米軍はすぐさま証拠となりそうなすべてを回収、隠蔽するために特殊部隊をそのコンビニに送ったのね。そして、がれきの中から一体の男性の死体と、大けがをして気を失っている17歳のあなたをみつけたの。あなたは日本政府への報告もされないままに、米軍の医療施設に運ばれ、治療を施されたのち、元々あなたが生活していた路上へと、なにごともなかったかのように還された。一切の記憶を抹消されて。
そう、記憶も隠蔽されたの。
その時、あなたの脳の手術をしたのがイカれたベトナム帰りの軍医でね。キャリアも腕も一流なんだけどとにかくイカれてて。そもそもシラフでいたことがなくて。まあ、いつもキメてるような人なわけね。
で、その日もキメながら趣味の遺伝子採取をするためのサンプル探しをしているうち、彼は見つけるの。
国際養蜂家会議のボスが麻薬カルテルのすべてと交換を望んだという噂のあの骨を。
都市伝説としては耳にしたことのあるあの骨が、まさか本当に存在するとは思わなかった彼は、驚きながらも、もちろんその骨から遺伝子を採取した。彼は興奮した。だってキリストの遺伝子かもしれない。なのに、なのにその遺伝子を、あろうことかその時完全にキマってた彼は、面白半分で日本の少年の脳細胞に埋め込んじゃったの。彼の記憶を抹消する脳手術の際に。
で、そのあと、イカれた医師は何を思ったのか骨を全部食べちゃったんだって。砕いて。なんでかわかんないけど。
まあ当然、数日後には骨がないことが発覚して、秘密裏に大騒ぎ。彼はすぐに軍法会議にかけられて、そこではじめて、遺伝子を採取したこと、その遺伝子を少年の脳細胞に埋め込んだことがわかったの。
つまり、少年の頭の中に骨の遺伝子が生きていて、その遺伝子を脳に持つ少年は、いわば国際養蜂協会連合の麻薬カルテルと同等の価値がある、ってゆうことになったわけ。
ところがその時点ですでに少年は路上に還してしまったあとだったから、さらに秘密裡に大騒ぎ。
それからというもの米軍は最重要秘密事項として超秘密裡に少年を探さなきゃいけなくなりました、ってゆうのが、まあ、今から28時間前までのお話。
なぜなら28時間前、その最重要秘密事項は、あまりにもあっけない形で世界中のすべてのインターネットユーザーに知られることになったから。
流出。実は米軍はあの時の少年であったあなたに、数年かけてやっとたどり着いていたの。そして慎重にあなたをマークしていた。でもね、あなたをマークしていた米軍の捜査員が持っていた極秘データが、何故か中国のアダルトサイトを通じて世界中に流出してしまったの。簡単に。あっという間に。
あなたの名前、顔写真、極秘にされていたすべての経緯とデータ。ベラクルス占領時の話から、骨と麻薬カルテルの取引、アメリカ軍機によるコンビニ爆破、イカれた医師の軍法会議のことまでね。すべて。すべてが28時間前に流出したの。
日本政府も、各国も、その諜報機関も、あたしも、もちろん国際養蜂協会連合も、そこで、はじめてあなたのことを知ることになるの。
つまり、あなたはそんな訳で、あなたのせいでも何でもないんだけど、国際養蜂協会連合をはじめ、各国の諜報機関、組織、団体、個人、まあ、世界中から? 狙われる存在になっちゃったんだよ、ダーリン。
女の話を聞きながら、とても自分のこととは思えなかった。
「まるで一本の小説みたいだ」とオレが言うと、
ふん、と鼻で笑ってから、
「筋が面白いだけの小説なんてくだらなくない?」と言って女は突然、膝にのせているオレの顔を両手で鷲掴んでキスをした。
やがて唇を離すと、オレの顔をつかんだまま言った。
「それに、そんなのどうでもいいことよ」
鳥たちのさえずりが聞こえた。あたりがすこしずつ明るくなっていた。
「だって今、ここに、あなたはいて、目の前にあたしがいる。それだけのことじゃない? それ以外、要る?」
女はオレの顔を上からのぞきこんで言った。
「でも遅かれ早かれオレはどこかの誰かに捕まえられちゃうんだろ?」と言うと、女は軽く微笑んで、
「ばかね。あなたは誰にも捕まらない」とささやいた。
「なんで?」
「あたしが捕まえたからよ」
オレの頭のなかでにゅるにゅる動くものがなんなのか、オレにはわからない。そいつがオレに何を与え、オレの何を奪い、どこへ連れてゆくのか、オレには見当もつかないし、女のいうとおり、たしかにどうでもいい。
今、オレの目に映るものがオレにとって世界のすべてで、オレのすべてだ。
「あっ!朝日!」と女が言った。
ダムの放水口側から見える山と山との間から、朝日が昇りだしていた。しんとした朝の空気に陽の光がまぶしく差し込み、それは幻想的な光景に見えた。
女はオレをゆっくりと起こしてから、朝日に向かって立ち上がり、突然着ているものを脱ぎだしていった。すべて。靴も靴下も脱いでほんとうに全裸になった女は、朝日に向かって大きく両手を広げ、
「気持ちいー!」と大きな声で言った。
オレの場所から見える女は逆光になって、それは、まるで女の体自体が輝きを放っているようにオレには見えた。全裸の女はそんなことには気づきもせず、全身で朝日を浴びながら、
「んー、生きてるってかんじ!」と言ってから、振り返り、
「しよ」
と言った。
朝の光と風を頬に受けながらオレは、今、生きていることを、思った。
それが、すべてだった。
了
政府によって完全に隠蔽されているから、はじめて聞くことになると思うんだけど、数年前のある夜、日本のとある田園地帯の国道沿いに立つコンビニが在日米軍の戦闘機によって誤爆されたの。
ひたすら田畑が広がるような車通りもほとんどない場所のコンビニだったから、そもそも当時、誰もコンビニの爆破になんか気づいてなかったし、情報統制によって新聞にもコンビニのガス爆発事故として、それは小さくとりあげられただけだった。
でも、当時、誤爆の事実を確認した米軍はすぐさま証拠となりそうなすべてを回収、隠蔽するために特殊部隊をそのコンビニに送ったのね。そして、がれきの中から一体の男性の死体と、大けがをして気を失っている17歳のあなたをみつけたの。あなたは日本政府への報告もされないままに、米軍の医療施設に運ばれ、治療を施されたのち、元々あなたが生活していた路上へと、なにごともなかったかのように還された。一切の記憶を抹消されて。
そう、記憶も隠蔽されたの。
その時、あなたの脳の手術をしたのがイカれたベトナム帰りの軍医でね。キャリアも腕も一流なんだけどとにかくイカれてて。そもそもシラフでいたことがなくて。まあ、いつもキメてるような人なわけね。
で、その日もキメながら趣味の遺伝子採取をするためのサンプル探しをしているうち、彼は見つけるの。
国際養蜂家会議のボスが麻薬カルテルのすべてと交換を望んだという噂のあの骨を。
都市伝説としては耳にしたことのあるあの骨が、まさか本当に存在するとは思わなかった彼は、驚きながらも、もちろんその骨から遺伝子を採取した。彼は興奮した。だってキリストの遺伝子かもしれない。なのに、なのにその遺伝子を、あろうことかその時完全にキマってた彼は、面白半分で日本の少年の脳細胞に埋め込んじゃったの。彼の記憶を抹消する脳手術の際に。
で、そのあと、イカれた医師は何を思ったのか骨を全部食べちゃったんだって。砕いて。なんでかわかんないけど。
まあ当然、数日後には骨がないことが発覚して、秘密裏に大騒ぎ。彼はすぐに軍法会議にかけられて、そこではじめて、遺伝子を採取したこと、その遺伝子を少年の脳細胞に埋め込んだことがわかったの。
つまり、少年の頭の中に骨の遺伝子が生きていて、その遺伝子を脳に持つ少年は、いわば国際養蜂協会連合の麻薬カルテルと同等の価値がある、ってゆうことになったわけ。
ところがその時点ですでに少年は路上に還してしまったあとだったから、さらに秘密裡に大騒ぎ。
それからというもの米軍は最重要秘密事項として超秘密裡に少年を探さなきゃいけなくなりました、ってゆうのが、まあ、今から28時間前までのお話。
なぜなら28時間前、その最重要秘密事項は、あまりにもあっけない形で世界中のすべてのインターネットユーザーに知られることになったから。
流出。実は米軍はあの時の少年であったあなたに、数年かけてやっとたどり着いていたの。そして慎重にあなたをマークしていた。でもね、あなたをマークしていた米軍の捜査員が持っていた極秘データが、何故か中国のアダルトサイトを通じて世界中に流出してしまったの。簡単に。あっという間に。
あなたの名前、顔写真、極秘にされていたすべての経緯とデータ。ベラクルス占領時の話から、骨と麻薬カルテルの取引、アメリカ軍機によるコンビニ爆破、イカれた医師の軍法会議のことまでね。すべて。すべてが28時間前に流出したの。
日本政府も、各国も、その諜報機関も、あたしも、もちろん国際養蜂協会連合も、そこで、はじめてあなたのことを知ることになるの。
つまり、あなたはそんな訳で、あなたのせいでも何でもないんだけど、国際養蜂協会連合をはじめ、各国の諜報機関、組織、団体、個人、まあ、世界中から? 狙われる存在になっちゃったんだよ、ダーリン。
女の話を聞きながら、とても自分のこととは思えなかった。
「まるで一本の小説みたいだ」とオレが言うと、
ふん、と鼻で笑ってから、
「筋が面白いだけの小説なんてくだらなくない?」と言って女は突然、膝にのせているオレの顔を両手で鷲掴んでキスをした。
やがて唇を離すと、オレの顔をつかんだまま言った。
「それに、そんなのどうでもいいことよ」
鳥たちのさえずりが聞こえた。あたりがすこしずつ明るくなっていた。
「だって今、ここに、あなたはいて、目の前にあたしがいる。それだけのことじゃない? それ以外、要る?」
女はオレの顔を上からのぞきこんで言った。
「でも遅かれ早かれオレはどこかの誰かに捕まえられちゃうんだろ?」と言うと、女は軽く微笑んで、
「ばかね。あなたは誰にも捕まらない」とささやいた。
「なんで?」
「あたしが捕まえたからよ」
オレの頭のなかでにゅるにゅる動くものがなんなのか、オレにはわからない。そいつがオレに何を与え、オレの何を奪い、どこへ連れてゆくのか、オレには見当もつかないし、女のいうとおり、たしかにどうでもいい。
今、オレの目に映るものがオレにとって世界のすべてで、オレのすべてだ。
「あっ!朝日!」と女が言った。
ダムの放水口側から見える山と山との間から、朝日が昇りだしていた。しんとした朝の空気に陽の光がまぶしく差し込み、それは幻想的な光景に見えた。
女はオレをゆっくりと起こしてから、朝日に向かって立ち上がり、突然着ているものを脱ぎだしていった。すべて。靴も靴下も脱いでほんとうに全裸になった女は、朝日に向かって大きく両手を広げ、
「気持ちいー!」と大きな声で言った。
オレの場所から見える女は逆光になって、それは、まるで女の体自体が輝きを放っているようにオレには見えた。全裸の女はそんなことには気づきもせず、全身で朝日を浴びながら、
「んー、生きてるってかんじ!」と言ってから、振り返り、
「しよ」
と言った。
朝の光と風を頬に受けながらオレは、今、生きていることを、思った。
それが、すべてだった。
了
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