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第三章 森の中の医者
奥へ奥へと誘われ
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医者がいると言われている森の中、三人は戦闘に入っていた。とは言っても、エンプト戦やメティス戦ほど激しくはなく、ルディアやカリューオンにとっては肩慣らし程度のものだった。
「フゴッ!」
ツノが生えた紫色のイノシシ、それは姿を見せなくなったという魔物でもあった。
「はあ!」
その通常よりも大きいイノシシの魔物をルディアはツクモの宿った短剣……ではなく直径にて一刀両断にする。
「ウォォォ!」
だがしかし、攻撃後の隙をつくように、彼女の後ろから熊の魔物が襲い掛かる。その熊は全身から骨が突き出しており、周りを全て傷つけるような禍々しさを持ち合わせた見た目をしているが、
「ウゴッ……!」
突如として胸から手が生える。いや、背中から手が貫通し、その手は心臓を握っていた。
「背中がガラ空きだぞ?」
その手はカリューオンのものだった。
彼女が手を引き抜くと、熊は糸が切れたかのように倒れ、ドシンという重い音とともに動かなくなる。
「ありがと、カリュ」
「なに、私がやらなければ君がやっていただろう?」
二人の会話には余裕があり、それほど戦闘は苦では無かったことが読み取れる。
ただ、それに比べて少しばかり手間取っている者もいる。
「くっ……そこだ!」
ルディア達が戦っていたイノシシや熊とは、大きさも迫力もない小柄の鳥と戦っているイーサン。
彼は盾を使いながら、攻撃を防いでは攻撃。防いでは攻撃という堅実な戦い方をとっていた。その理由は、相手がいくら小柄とはいえ、空中に飛んでいる鳥だからだ。
無闇に振り回しても、相手が空中にいる限り、彼はその攻撃範囲に敵を入れることができない。だから、彼は地道な戦いを選ぶしかなかった。
「今だ……!」
けれども、彼の剣は鳥の体を貫き、勝利を掴み取る。きちんと頭を使ったからこその勝利だ。
「ふう……」
「お疲れ、イーサン。初めてにしては結構やるじゃない」
戦闘が終わったことを確認したルディアは、周りを少し警戒しながらも、イーサンに近寄る。
「まあな。一応ソフィからも褒められたし。なかなか筋があるって。
でもまあ、こういう戦い方を教えてくれたルディアのおかげかな。ソフィと戦ってた時はただの攻め一点だったし」
「ふぅん、アイツが褒めるってなかなか珍しい……そこ!」
話の途中、彼女は何かに感づいたと同時に、即座に矢を弓につがえ、そして狙いの間もなく、木の葉の影へと矢を放つ。
「フゲッ!?」
矢は何かに当たったようで、当てられたモノは一瞬の断末魔の後、木の枝から落ちて来る。
「やっぱり、もう一匹いたようね」
その木から落ちた何かは猿の魔物だった。頭は矢に打ち抜かれており、おそらくはさっきルディアが放った矢であろう。
「うお、すげぇな。弓の扱いもだけど、隠れてる相手を見つけ出すなんてな」
「魔力を探れば、ね。こいつらは魔力を垂れ流しにしてるから、分かりやすいの。
そうでなくても、よく見てれば草が揺れてたから、魔力を使わなくても探せるわ」
「ほへぇ、ドウサツリョクってやつだな。俺もやってみたいな」
「そう簡単にはできないわよ。それよりも今は医者を探すべきね」
そう言って、彼女ら三人は歩を進める。
「にしても、イーサン。先ほどの戦闘は上出来だった。ルディアの言う通り、初めてとは思えんぼど冷静だったな」
「そうかな? 結構緊張してたんだけど」
「いや、普通ならばもっと緊張して、動けなくなるなんていうのがザラだ。そうでなくとも、冷静さを欠いて武器を振り回すかの二択だ。
君はよくやっているよ」
「そ、そうかな?」
カリューオンからのお褒めの言葉に、どこか浮ついてしまうイーサン。
彼は本来戦うべき者ではないのだが、あの鳥は危険度が低い魔物であったため、練習相手として戦っていた。
「けど、カリューオンやルディアに比べたら、俺なんて弱い方だよ」
「それは当たり前だ。私もルディアも、今まで積み重ねてきた修練や経験がある。一朝一夕で超えられはしないさ。
それにルディアは天賦の才がある。あのイノシシの魔物だって本来ならば、普通の戦士数人がかりでも手こずる相手だからな」
「や、やめてよ。そんな手放しで褒められると、逆に恥ずかしいんだから」
「他にもだな……」
顔を真っ赤にするルディアであったが、カリューオンの褒めはまだ続く。子どもの頃から覚えが速いやら、全武器種が使えるやらと。
「良い加減にしてよ! まったく、アンタは悪い意味でも母親らしいわね」
「自身が手塩にかけて育てた子だ。自慢するのも当然だろ?」
口の減らない銀狼人ではあるが、ルディアは微妙な顔をしながらも、どこか悪くはないと思えるような気がした。
その様子を見ていたイーサンは置いてけぼりではあったが、ある事を言い放つ。
「二人とも、そうして見てるとなんか本当に親子みたいだな」
「そう? まあ、彼女から色々と教えてもらったことはあるけど、それでも親とは違うわ」
「ふぅん、俺にはそう見えるけどなぁー」
「ルディア、話も良いがそろそろ」
「そうね」
カリューオンが何かを促すと、ルディアはポケットから例のペンダントを使う。
彼女らはこの作業をもう三回ぐらい行なっている。しかし、結果はどれも進行方向と同じ方向にしか指さない。そして今回も。
「まだ先か。もう一時間は歩いたんじゃないか?」
「それほど、医者が奥まで進んだと言うことだろう」
「……それだけじゃないと思うわ」
「どういうことだ?」
「このペンダント、ほんの少し下を向いてる。地下洞窟か、あるいはダンジョンか……」
「なあ、それって同じじゃないのか?」
「違うな。地下洞窟は天然であり、ダンジョンは人工物だ」
「え、ダンジョンって人が作ったのか!?」
「それも違うわ。ダンジョンは魔族特有の魔法によって作られた建造物の一種よ。
その昔、一部の魔族は人間達を支配しようとして、その拠点としてダンジョン形成魔法が使われていたの。
魔力保有量が多い魔族だからこそできる魔術ね」
「それ、初耳なんだけど」
「そうだった? まあ、詳しくは後で話すわ」
雑談を交えながらも、彼女達は奥へ奥へと進んでいく。しかし、その途中で……
「む、二人とも止まれ」
カリューオンは何かに気づく。
「ど、どうしたんだ?」
「……ツタだ」
「へ?」
「ツタがそこら中にはびこっている。しかも、その量が異様に多い。こんな物がこの森に生えているととは、聞いたことがない」
イーサンは周りを見てみる。確かにカリューオンの言う通り、そこにはツタが生えていた。
そのツタは一つ一つが異様に大きく、木に巻きつき、物によっては木を折っているツタもある。それはまるで森そのものを侵食していくかのようだ。
しかもその模様、黄色い斑点がツタの不気味さを増している。森も薄暗くなっているからか、余計に
。
「……どうやら、医者はこの奥のようね」
ルディアの持つペンダント、それはツタの根本であろう、森の奥へと指している。
それに対して、イーサンは不安な顔をする。
「進まなきゃいけないってことか?」
「そうよ。この奥がどうなってるのか分からないけど、確認しないことには……」
その時、イーサンの視界がグラリと揺れる。
「え……?」
「ちょ……イ……ぶ……」
ルディアからの言葉は反響して聞こえ、何もかもがグチャグチャに混ざる。
感覚という感覚が混沌としていき、何が起こっているかすらも理解できなくなる。
「くっ……頭が……」
「イ……、イーサン!」
だが、ルディアの必死の呼びかけに、やっと彼の意識は明確化する。
「はっ……! ご、ごめんルディア……急に目眩みたいなのがして……」
「そう、なら、良かった……」
「え、ま……!」
イーサンを心配していたルディア、だがしかし、彼女は突如、短剣での刺突を彼へと繰り出す。
「くっ……」
イーサンはその攻撃をなんとか避けるものの、その行動に驚愕や戸惑いがあった。
「どうしたんだよ、ルディア! 急に攻撃してくるなんて!」
「ふっ!」
「うおっと!?」
ルディアの攻撃の次は、カリューオンの攻撃であった。それも彼は間一髪で避けるが、頭の中は混乱で埋め尽くされる。
「い、一体なんだって言うんだ……」
何故か敵として立つルディアとカリューオン、その目をよく見れば、光を失っているようにも見える。
「くそ、一体何がどうなってるんだ……!」
しかし、彼はそれに気づけても、彼女らの状態を理解することはできなかった。だから、彼は逃げるしかないと判断し、入り口の方面へと走る。
けれども、
「な、なんだよこれ……」
彼は絶望の淵に陥る。
目の前に、ツタの壁が高くそびえ立っていたからだ。
「こんなの、来たときにはなかったのに……くそ!」
後ろからはルディアたちが追ってくる。迷ってなんかいられない彼は、とにかく逃げる。壁沿いに走り、出口がないかと探す。
十分、二十分と時間は過ぎていき、ついに彼はスタミナが切れて、ついにはへたり込んでしまう。
「も、もうダメだ……」
息は上がり、これ以上走ると体が悲鳴をあげそうなくらい、疲労が溜まっていた。だが、運良くなのか、ルディア達からは一旦逃げ切ることはできた。
「……追ってはいない。けど、ここかどこかも分からない。
はぁ……一人ぼっちか」
しかも、いつのまにか日の光が差し込まないぐらい奥まで入ってしまったようだ。その暗い森の中で彼は孤独となってしまう。つい数十分前までは、太陽の下で陽気に笑っていたのに。
「失った……また俺は……」
そして、心すらも森と同様に暗くなってしまう。
「……暁、お前はどこに行ったんだよ……」
かつて失った友人、それを彼の口はぽつりとこぼす。
心細い彼にとって、今の状況は友人を失ったときと似ているのだろうか。
「フゴッ!」
ツノが生えた紫色のイノシシ、それは姿を見せなくなったという魔物でもあった。
「はあ!」
その通常よりも大きいイノシシの魔物をルディアはツクモの宿った短剣……ではなく直径にて一刀両断にする。
「ウォォォ!」
だがしかし、攻撃後の隙をつくように、彼女の後ろから熊の魔物が襲い掛かる。その熊は全身から骨が突き出しており、周りを全て傷つけるような禍々しさを持ち合わせた見た目をしているが、
「ウゴッ……!」
突如として胸から手が生える。いや、背中から手が貫通し、その手は心臓を握っていた。
「背中がガラ空きだぞ?」
その手はカリューオンのものだった。
彼女が手を引き抜くと、熊は糸が切れたかのように倒れ、ドシンという重い音とともに動かなくなる。
「ありがと、カリュ」
「なに、私がやらなければ君がやっていただろう?」
二人の会話には余裕があり、それほど戦闘は苦では無かったことが読み取れる。
ただ、それに比べて少しばかり手間取っている者もいる。
「くっ……そこだ!」
ルディア達が戦っていたイノシシや熊とは、大きさも迫力もない小柄の鳥と戦っているイーサン。
彼は盾を使いながら、攻撃を防いでは攻撃。防いでは攻撃という堅実な戦い方をとっていた。その理由は、相手がいくら小柄とはいえ、空中に飛んでいる鳥だからだ。
無闇に振り回しても、相手が空中にいる限り、彼はその攻撃範囲に敵を入れることができない。だから、彼は地道な戦いを選ぶしかなかった。
「今だ……!」
けれども、彼の剣は鳥の体を貫き、勝利を掴み取る。きちんと頭を使ったからこその勝利だ。
「ふう……」
「お疲れ、イーサン。初めてにしては結構やるじゃない」
戦闘が終わったことを確認したルディアは、周りを少し警戒しながらも、イーサンに近寄る。
「まあな。一応ソフィからも褒められたし。なかなか筋があるって。
でもまあ、こういう戦い方を教えてくれたルディアのおかげかな。ソフィと戦ってた時はただの攻め一点だったし」
「ふぅん、アイツが褒めるってなかなか珍しい……そこ!」
話の途中、彼女は何かに感づいたと同時に、即座に矢を弓につがえ、そして狙いの間もなく、木の葉の影へと矢を放つ。
「フゲッ!?」
矢は何かに当たったようで、当てられたモノは一瞬の断末魔の後、木の枝から落ちて来る。
「やっぱり、もう一匹いたようね」
その木から落ちた何かは猿の魔物だった。頭は矢に打ち抜かれており、おそらくはさっきルディアが放った矢であろう。
「うお、すげぇな。弓の扱いもだけど、隠れてる相手を見つけ出すなんてな」
「魔力を探れば、ね。こいつらは魔力を垂れ流しにしてるから、分かりやすいの。
そうでなくても、よく見てれば草が揺れてたから、魔力を使わなくても探せるわ」
「ほへぇ、ドウサツリョクってやつだな。俺もやってみたいな」
「そう簡単にはできないわよ。それよりも今は医者を探すべきね」
そう言って、彼女ら三人は歩を進める。
「にしても、イーサン。先ほどの戦闘は上出来だった。ルディアの言う通り、初めてとは思えんぼど冷静だったな」
「そうかな? 結構緊張してたんだけど」
「いや、普通ならばもっと緊張して、動けなくなるなんていうのがザラだ。そうでなくとも、冷静さを欠いて武器を振り回すかの二択だ。
君はよくやっているよ」
「そ、そうかな?」
カリューオンからのお褒めの言葉に、どこか浮ついてしまうイーサン。
彼は本来戦うべき者ではないのだが、あの鳥は危険度が低い魔物であったため、練習相手として戦っていた。
「けど、カリューオンやルディアに比べたら、俺なんて弱い方だよ」
「それは当たり前だ。私もルディアも、今まで積み重ねてきた修練や経験がある。一朝一夕で超えられはしないさ。
それにルディアは天賦の才がある。あのイノシシの魔物だって本来ならば、普通の戦士数人がかりでも手こずる相手だからな」
「や、やめてよ。そんな手放しで褒められると、逆に恥ずかしいんだから」
「他にもだな……」
顔を真っ赤にするルディアであったが、カリューオンの褒めはまだ続く。子どもの頃から覚えが速いやら、全武器種が使えるやらと。
「良い加減にしてよ! まったく、アンタは悪い意味でも母親らしいわね」
「自身が手塩にかけて育てた子だ。自慢するのも当然だろ?」
口の減らない銀狼人ではあるが、ルディアは微妙な顔をしながらも、どこか悪くはないと思えるような気がした。
その様子を見ていたイーサンは置いてけぼりではあったが、ある事を言い放つ。
「二人とも、そうして見てるとなんか本当に親子みたいだな」
「そう? まあ、彼女から色々と教えてもらったことはあるけど、それでも親とは違うわ」
「ふぅん、俺にはそう見えるけどなぁー」
「ルディア、話も良いがそろそろ」
「そうね」
カリューオンが何かを促すと、ルディアはポケットから例のペンダントを使う。
彼女らはこの作業をもう三回ぐらい行なっている。しかし、結果はどれも進行方向と同じ方向にしか指さない。そして今回も。
「まだ先か。もう一時間は歩いたんじゃないか?」
「それほど、医者が奥まで進んだと言うことだろう」
「……それだけじゃないと思うわ」
「どういうことだ?」
「このペンダント、ほんの少し下を向いてる。地下洞窟か、あるいはダンジョンか……」
「なあ、それって同じじゃないのか?」
「違うな。地下洞窟は天然であり、ダンジョンは人工物だ」
「え、ダンジョンって人が作ったのか!?」
「それも違うわ。ダンジョンは魔族特有の魔法によって作られた建造物の一種よ。
その昔、一部の魔族は人間達を支配しようとして、その拠点としてダンジョン形成魔法が使われていたの。
魔力保有量が多い魔族だからこそできる魔術ね」
「それ、初耳なんだけど」
「そうだった? まあ、詳しくは後で話すわ」
雑談を交えながらも、彼女達は奥へ奥へと進んでいく。しかし、その途中で……
「む、二人とも止まれ」
カリューオンは何かに気づく。
「ど、どうしたんだ?」
「……ツタだ」
「へ?」
「ツタがそこら中にはびこっている。しかも、その量が異様に多い。こんな物がこの森に生えているととは、聞いたことがない」
イーサンは周りを見てみる。確かにカリューオンの言う通り、そこにはツタが生えていた。
そのツタは一つ一つが異様に大きく、木に巻きつき、物によっては木を折っているツタもある。それはまるで森そのものを侵食していくかのようだ。
しかもその模様、黄色い斑点がツタの不気味さを増している。森も薄暗くなっているからか、余計に
。
「……どうやら、医者はこの奥のようね」
ルディアの持つペンダント、それはツタの根本であろう、森の奥へと指している。
それに対して、イーサンは不安な顔をする。
「進まなきゃいけないってことか?」
「そうよ。この奥がどうなってるのか分からないけど、確認しないことには……」
その時、イーサンの視界がグラリと揺れる。
「え……?」
「ちょ……イ……ぶ……」
ルディアからの言葉は反響して聞こえ、何もかもがグチャグチャに混ざる。
感覚という感覚が混沌としていき、何が起こっているかすらも理解できなくなる。
「くっ……頭が……」
「イ……、イーサン!」
だが、ルディアの必死の呼びかけに、やっと彼の意識は明確化する。
「はっ……! ご、ごめんルディア……急に目眩みたいなのがして……」
「そう、なら、良かった……」
「え、ま……!」
イーサンを心配していたルディア、だがしかし、彼女は突如、短剣での刺突を彼へと繰り出す。
「くっ……」
イーサンはその攻撃をなんとか避けるものの、その行動に驚愕や戸惑いがあった。
「どうしたんだよ、ルディア! 急に攻撃してくるなんて!」
「ふっ!」
「うおっと!?」
ルディアの攻撃の次は、カリューオンの攻撃であった。それも彼は間一髪で避けるが、頭の中は混乱で埋め尽くされる。
「い、一体なんだって言うんだ……」
何故か敵として立つルディアとカリューオン、その目をよく見れば、光を失っているようにも見える。
「くそ、一体何がどうなってるんだ……!」
しかし、彼はそれに気づけても、彼女らの状態を理解することはできなかった。だから、彼は逃げるしかないと判断し、入り口の方面へと走る。
けれども、
「な、なんだよこれ……」
彼は絶望の淵に陥る。
目の前に、ツタの壁が高くそびえ立っていたからだ。
「こんなの、来たときにはなかったのに……くそ!」
後ろからはルディアたちが追ってくる。迷ってなんかいられない彼は、とにかく逃げる。壁沿いに走り、出口がないかと探す。
十分、二十分と時間は過ぎていき、ついに彼はスタミナが切れて、ついにはへたり込んでしまう。
「も、もうダメだ……」
息は上がり、これ以上走ると体が悲鳴をあげそうなくらい、疲労が溜まっていた。だが、運良くなのか、ルディア達からは一旦逃げ切ることはできた。
「……追ってはいない。けど、ここかどこかも分からない。
はぁ……一人ぼっちか」
しかも、いつのまにか日の光が差し込まないぐらい奥まで入ってしまったようだ。その暗い森の中で彼は孤独となってしまう。つい数十分前までは、太陽の下で陽気に笑っていたのに。
「失った……また俺は……」
そして、心すらも森と同様に暗くなってしまう。
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