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第三章 森の中の医者
七色の森
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凄腕と噂の医者を探しに、森へと行くこととなったルディア達。
森はもちろん街の外にあるということで、バラデラを囲む城壁の近くまで彼女達は来ていた。
「すっげぇ、たっけぇ!」
何かを見上げるイーサン、彼の口からこぼれる声には称賛と一種の憧れが含まれていた。一体何が彼の心を動かしたのか。
それは城壁だ。高さ十メートル以上ものある石で積まれた城壁は、無限に横へと伸び、街全体を守護していた。大きいというだけで、男心をくすぐるが、それが街を守っているとなれば、さらにワクワクさせるのだろう。
「イーサン、流石に気を引き締めなさいよ。城壁から一歩出れば、魔物が襲ってくる可能性があるんだから」
一方で、ルディアは冷静そのものだ。
彼女は背中に直剣と短剣、そして腰にナイフを掛け、胸や肩、膝などの部分に鎧を装備している。今から戦いに行くかのように。
「わ、悪い悪い。やっぱこういうのって新鮮だからさ」
「今回は許されないわよ。わざわざ危ないところに自分から行くって言ったんだからね」
「うぐ……イゴキヲツケマス……」
この二人がこんなやり取りをおこなった理由。それは、イーサンの発言にあった。
森の中に医者いるという情報を得た彼女ら、しかし、森は薄暗く、見通しが悪く、さらには強力な魔物がいる可能性がある。
もし森の中で魔物と遭遇すれれば、危険な状況となり、イーサンは足手纏いになる。彼の身体能力は低く、多少動けると言ってもそれは彼の元いた世界での話だ。命が関わる危険な場所へは連れて行けない。
そう判断した他の二人ではあるのだが、頑固に彼は拒み、ついにはルディアが許してしまうという事になる。その時の彼女はこう言っていた。
「連れて行かないって無理やり置いて行っても、こう頑固だと跡をついてくるわ。だったら一緒に行動するのがかえって安全よ」
これには、カリューオンも納得せざるを得なかった。
というわけで、引き続き医者の捜索は三人で行うことになる。
「ところでさ、カリューオンはどこ行ったんだ? さっきから姿が見えないけど」
「彼女なら、移動用の馬車を用意してるらしいわ。
徒歩でとなると一時間ほどかかるし、馬車なら二十分ぐらいでつくから、移動がぐんと楽になるから助かるわ」
「なるほど、そりゃあ便利だな」
そんな会話をしているうちに、二人の横に一台の馬車が止まる。そしてその中から、
「待たせたな、二人とも」
カリューオンが顔を覗かせ、親指を立てる。
「なんだい、アンタらがカリューオンさんのお連れか!」
他にももう一人、馬の手綱を引く御者の男が前に座っていた。彼は大層立派な髭を蓄えており、体毛もそれ同士が絡まるほどもっさりしていた。
「ええっと、アナタが森へと連れて行ってくれるんですか?」
「おう、なんだ堅っ苦しいやつだな? 俺と話す時はもっと砕けて喋りな、少年!」
「は、はい……じゃなくて、分かった! おっちゃん! 今日はよろしく!」
「おうよ! あと俺はおっちゃんじゃなくて、メギドって名前だからな!」
「メギドか、俺はよし……じゃなくてイーサンだ! よろしく!」
「おう、イーサン! 良い名前だな!」
会って間もない二人だが、妙に気が合ったのかすぐに距離を縮め合う。まるでこの後に肩を組み合いそうなほどに。
「イーサン、その人と仲良くなるのは良いことだけど、早く乗りなさい」
「おっとそうだった。メギドのおっちゃん! 森までよろしく!」
そう言って、イーサンは馬車に後ろから乗り込む。その中には多少の荷物が入っていて、狭くなっているものの、それでも三人という人数ならば、余裕で乗り込めるスペースがあった。
「それじゃあメギド、よろしく頼む」
「よっしゃあ! それじゃ南西の森に出発だ!」
カリューオンが全員座った事を確認すると、メギドに出発の合図を送る。そして彼もそれを聞くと手元の手綱で、馬に進むよう合図を送る。
ルディアら三人を乗せた馬車は城壁の門を潜り抜け、広大な草原の中走っていく。
「いよいよ、出発か! なんかワクワクするな!」
「アンタ、いつでもワクワクしてるわね……」
「まあ、そう言ってやるな。彼にとっては色んなものが初めてなのだからな。
……そうだ、イーサン。森へ行く前にこれを装備していくんだ」
そう言って、カリューオンは馬車にもともと積まれてあった木箱からある物を取り出す。
「それは?」
「鎖かたびらだ。一般の物より少し軽く、脆いかもしれないが、君にならぴったりだろう。普通の鎧よりも動きやすいから、そう言った意味でもな」
「へぇー、ありがとな!」
「気にするな。万が一のことを考えただけだ。それにこれは余り物だからな。
あと、これも一応背負っておけ」
カリューオンが取り出したのは直径五十センチほどの円形の盾だった。
「盾を? なんで背負うんだ?」
「背中からの奇襲を防ぐためだ。私やルディアならともかく、君は素人だろう? 不意打ちに反応出来なければ、死んでしまうからな。
あとは、この鉢巻を頭に……それと各関節に……」
「お、おい……!」
荷物からはさらに、防具類の物が出てくる。彼女はそれを全部出すつもりなのだろうか、イーサンに次々と手渡してくる。
「カリュ、あんまり装備させすぎると、動けなくなるわよ」
「大丈夫だ。全て軽素材でできてる。とは言っても、私も全部は装備させる気はないさ。
イーサン、ちょっと着てみてくれ」
「分かった」
そう言って、彼は何故か服を脱ぎ出す。
「ちょっと! 何やってんのよ!」
「え? 鎖かたびらを着るために……」
「バカ! それは服の上から装備するものよ!」
「そうなのか!?」
「はあ……リルの事を思い出すわ……」
イーサンの無知っぷりに、頭を抱えしかないルディア。そのあと、それぞれの装備の仕方を彼に教えながら、代わりに防具を装備させていく。
「で、どうだ?」
「うーん、やっぱ全部装備すると重いな」
「ふむ、ならやはり関節の装備を抜いて……」
重要度の低い物を順番にカリューオンは外していくが、そのさまはまるで子供の世話をする親のようだ。
その事を感じていたのか御者のメギドも後ろを見て発言する。
「カリューオンさん、アンタなんかそうしてると、母親みたいだな」
「そうか?」
「ああ、俺もお袋を思い出すよ。どこかに出かけるだけで、あれは持ったか、これを持ってけなんてな。今思えば懐かしい思い出だ」
「確かに、カリュにはそういうところあるわね」
「むう……まあ、いつもメティス様に仕えているからな。そう言った部分はあるかもしれん」
「あいつは、自分でそういうのやりそうにないものね」
「ああ、そうだ! あのお方は自身の事を全く気にしていなんだ! いつもいつもこの前も……食べれれれば何でも良いと……」
カリューオンの逆鱗に触れたのか、そこから普段ためこんでいたであろう不満が爆発する。
「……カリューオンってこういう事、言わないって思ってたから意外だな」
「誰にでもこういうのはあるのよ」
それについていけない二人は小声で話す。
「はぁ……全く、あの人は面倒くさい」
「……アンタ、割と似合わないこと言うのね」
と、その途中で放った言葉でルディアはさらに、苦笑いまですることとなる。
「私だってこういう事は思う。むしろ、周りが評価しすぎなんだ」
「へぇ、今日はカリューオンさんの意外な一面を見ちまったな。
そういえばだけどよ、あの森について妙な噂を聞いだんだ」
メギドのその言葉で、和やかな空気はすこし不穏な方向へと風向く。
「なんだ、その噂ってのは?」
「最近あそこに住む魔物が少なくなってるみたいでよ」
「そんなことが妙? 別に魔物がいなくなるのは良いことじゃないのか?」
「ところがどっこい、そうはいかねぇんだよ。何せ、森から帰ってくる人が減ってるらしいからな。
アンタらも気をつけた方が良いぜ」
「ああ、生きて帰ってくるよ」
生きて帰る。それは当たり前なのだが、ルディアには別の懸念があった。
森に入って帰る人が減っている。彼女らの追っている医者もその森に入っている。ならば、その医者は……
「……今考えても無駄か。居場所はこれが教えてくれるから、まずは見つけることね」
淫魔に渡されたペンダント、これが本当に探知に使えるのかどうかも怪しいが、今はこれしかないのだ。
そしてなんだかんだで、三人は二十分ほど馬車に揺られ、目的地である森の前に到着する。
「ここが、目的の森なのか?」
「ええ、通称七色の森。本当に七色に光るわけじゃないけど、場所によって特徴が変わるからそう呼ばれてるらしいわ」
そう言われて、イーサンは森を見渡す。しかし、いくら見ても緑ばかりで、やはり七色ではないようだ。
「けど、この森共通の特徴が奥に進むほど、魔物が凶暴であること……なんだけど」
「最近は魔物がいないことが気になってる、か?」
「まあね。慎重に行った方が良いと思うわ。
特にイーサン、貴方はね」
「わ、分かってるよ。安全第一、ルディア達と一緒に行動、逃げろと言われたらすぐ逃げる、だろ?」
「よろしい。
じゃあ、これを使うわよ」
ルディアはポケットの中からペンダントを取り出す。
「使い方は、地面に垂直になるよう垂らして、魔力を通すと……」
口にした使用方法通りにペンダントを使うと、それは淡く緑に光り、森のある一方向へと指す。
「おお、これまるでアレみたいだな。ええと……ええ……なんだっけ」
「さあ? 私は知らないわよ」
「残念ながら私もだ」
イーサンのいうアレ、正解はペンデュラムであるが、誰も知る由はないし、そもそも今は関係ないことなので、流される。
「カリューオンさん、俺はちょっくらここからを適当に回ってるから、合図を出してくれりゃここへ戻ってくる」
「ああ、しかし大丈夫か?」
「安心してくださいよ。その辺の賊や魔物だったら、こいつらで逃げきれるからな」
「そうか、無理はするなよ」
「アンタらもな」
ここまで送ってくれたメギドはどうやら一時離脱のようで、帰りまでは別行動となってしまう。
「私たちもいくわよ」
そして、三人も森の中へと入っていく。医者が居ると言われているこの七色の森へ。
森はもちろん街の外にあるということで、バラデラを囲む城壁の近くまで彼女達は来ていた。
「すっげぇ、たっけぇ!」
何かを見上げるイーサン、彼の口からこぼれる声には称賛と一種の憧れが含まれていた。一体何が彼の心を動かしたのか。
それは城壁だ。高さ十メートル以上ものある石で積まれた城壁は、無限に横へと伸び、街全体を守護していた。大きいというだけで、男心をくすぐるが、それが街を守っているとなれば、さらにワクワクさせるのだろう。
「イーサン、流石に気を引き締めなさいよ。城壁から一歩出れば、魔物が襲ってくる可能性があるんだから」
一方で、ルディアは冷静そのものだ。
彼女は背中に直剣と短剣、そして腰にナイフを掛け、胸や肩、膝などの部分に鎧を装備している。今から戦いに行くかのように。
「わ、悪い悪い。やっぱこういうのって新鮮だからさ」
「今回は許されないわよ。わざわざ危ないところに自分から行くって言ったんだからね」
「うぐ……イゴキヲツケマス……」
この二人がこんなやり取りをおこなった理由。それは、イーサンの発言にあった。
森の中に医者いるという情報を得た彼女ら、しかし、森は薄暗く、見通しが悪く、さらには強力な魔物がいる可能性がある。
もし森の中で魔物と遭遇すれれば、危険な状況となり、イーサンは足手纏いになる。彼の身体能力は低く、多少動けると言ってもそれは彼の元いた世界での話だ。命が関わる危険な場所へは連れて行けない。
そう判断した他の二人ではあるのだが、頑固に彼は拒み、ついにはルディアが許してしまうという事になる。その時の彼女はこう言っていた。
「連れて行かないって無理やり置いて行っても、こう頑固だと跡をついてくるわ。だったら一緒に行動するのがかえって安全よ」
これには、カリューオンも納得せざるを得なかった。
というわけで、引き続き医者の捜索は三人で行うことになる。
「ところでさ、カリューオンはどこ行ったんだ? さっきから姿が見えないけど」
「彼女なら、移動用の馬車を用意してるらしいわ。
徒歩でとなると一時間ほどかかるし、馬車なら二十分ぐらいでつくから、移動がぐんと楽になるから助かるわ」
「なるほど、そりゃあ便利だな」
そんな会話をしているうちに、二人の横に一台の馬車が止まる。そしてその中から、
「待たせたな、二人とも」
カリューオンが顔を覗かせ、親指を立てる。
「なんだい、アンタらがカリューオンさんのお連れか!」
他にももう一人、馬の手綱を引く御者の男が前に座っていた。彼は大層立派な髭を蓄えており、体毛もそれ同士が絡まるほどもっさりしていた。
「ええっと、アナタが森へと連れて行ってくれるんですか?」
「おう、なんだ堅っ苦しいやつだな? 俺と話す時はもっと砕けて喋りな、少年!」
「は、はい……じゃなくて、分かった! おっちゃん! 今日はよろしく!」
「おうよ! あと俺はおっちゃんじゃなくて、メギドって名前だからな!」
「メギドか、俺はよし……じゃなくてイーサンだ! よろしく!」
「おう、イーサン! 良い名前だな!」
会って間もない二人だが、妙に気が合ったのかすぐに距離を縮め合う。まるでこの後に肩を組み合いそうなほどに。
「イーサン、その人と仲良くなるのは良いことだけど、早く乗りなさい」
「おっとそうだった。メギドのおっちゃん! 森までよろしく!」
そう言って、イーサンは馬車に後ろから乗り込む。その中には多少の荷物が入っていて、狭くなっているものの、それでも三人という人数ならば、余裕で乗り込めるスペースがあった。
「それじゃあメギド、よろしく頼む」
「よっしゃあ! それじゃ南西の森に出発だ!」
カリューオンが全員座った事を確認すると、メギドに出発の合図を送る。そして彼もそれを聞くと手元の手綱で、馬に進むよう合図を送る。
ルディアら三人を乗せた馬車は城壁の門を潜り抜け、広大な草原の中走っていく。
「いよいよ、出発か! なんかワクワクするな!」
「アンタ、いつでもワクワクしてるわね……」
「まあ、そう言ってやるな。彼にとっては色んなものが初めてなのだからな。
……そうだ、イーサン。森へ行く前にこれを装備していくんだ」
そう言って、カリューオンは馬車にもともと積まれてあった木箱からある物を取り出す。
「それは?」
「鎖かたびらだ。一般の物より少し軽く、脆いかもしれないが、君にならぴったりだろう。普通の鎧よりも動きやすいから、そう言った意味でもな」
「へぇー、ありがとな!」
「気にするな。万が一のことを考えただけだ。それにこれは余り物だからな。
あと、これも一応背負っておけ」
カリューオンが取り出したのは直径五十センチほどの円形の盾だった。
「盾を? なんで背負うんだ?」
「背中からの奇襲を防ぐためだ。私やルディアならともかく、君は素人だろう? 不意打ちに反応出来なければ、死んでしまうからな。
あとは、この鉢巻を頭に……それと各関節に……」
「お、おい……!」
荷物からはさらに、防具類の物が出てくる。彼女はそれを全部出すつもりなのだろうか、イーサンに次々と手渡してくる。
「カリュ、あんまり装備させすぎると、動けなくなるわよ」
「大丈夫だ。全て軽素材でできてる。とは言っても、私も全部は装備させる気はないさ。
イーサン、ちょっと着てみてくれ」
「分かった」
そう言って、彼は何故か服を脱ぎ出す。
「ちょっと! 何やってんのよ!」
「え? 鎖かたびらを着るために……」
「バカ! それは服の上から装備するものよ!」
「そうなのか!?」
「はあ……リルの事を思い出すわ……」
イーサンの無知っぷりに、頭を抱えしかないルディア。そのあと、それぞれの装備の仕方を彼に教えながら、代わりに防具を装備させていく。
「で、どうだ?」
「うーん、やっぱ全部装備すると重いな」
「ふむ、ならやはり関節の装備を抜いて……」
重要度の低い物を順番にカリューオンは外していくが、そのさまはまるで子供の世話をする親のようだ。
その事を感じていたのか御者のメギドも後ろを見て発言する。
「カリューオンさん、アンタなんかそうしてると、母親みたいだな」
「そうか?」
「ああ、俺もお袋を思い出すよ。どこかに出かけるだけで、あれは持ったか、これを持ってけなんてな。今思えば懐かしい思い出だ」
「確かに、カリュにはそういうところあるわね」
「むう……まあ、いつもメティス様に仕えているからな。そう言った部分はあるかもしれん」
「あいつは、自分でそういうのやりそうにないものね」
「ああ、そうだ! あのお方は自身の事を全く気にしていなんだ! いつもいつもこの前も……食べれれれば何でも良いと……」
カリューオンの逆鱗に触れたのか、そこから普段ためこんでいたであろう不満が爆発する。
「……カリューオンってこういう事、言わないって思ってたから意外だな」
「誰にでもこういうのはあるのよ」
それについていけない二人は小声で話す。
「はぁ……全く、あの人は面倒くさい」
「……アンタ、割と似合わないこと言うのね」
と、その途中で放った言葉でルディアはさらに、苦笑いまですることとなる。
「私だってこういう事は思う。むしろ、周りが評価しすぎなんだ」
「へぇ、今日はカリューオンさんの意外な一面を見ちまったな。
そういえばだけどよ、あの森について妙な噂を聞いだんだ」
メギドのその言葉で、和やかな空気はすこし不穏な方向へと風向く。
「なんだ、その噂ってのは?」
「最近あそこに住む魔物が少なくなってるみたいでよ」
「そんなことが妙? 別に魔物がいなくなるのは良いことじゃないのか?」
「ところがどっこい、そうはいかねぇんだよ。何せ、森から帰ってくる人が減ってるらしいからな。
アンタらも気をつけた方が良いぜ」
「ああ、生きて帰ってくるよ」
生きて帰る。それは当たり前なのだが、ルディアには別の懸念があった。
森に入って帰る人が減っている。彼女らの追っている医者もその森に入っている。ならば、その医者は……
「……今考えても無駄か。居場所はこれが教えてくれるから、まずは見つけることね」
淫魔に渡されたペンダント、これが本当に探知に使えるのかどうかも怪しいが、今はこれしかないのだ。
そしてなんだかんだで、三人は二十分ほど馬車に揺られ、目的地である森の前に到着する。
「ここが、目的の森なのか?」
「ええ、通称七色の森。本当に七色に光るわけじゃないけど、場所によって特徴が変わるからそう呼ばれてるらしいわ」
そう言われて、イーサンは森を見渡す。しかし、いくら見ても緑ばかりで、やはり七色ではないようだ。
「けど、この森共通の特徴が奥に進むほど、魔物が凶暴であること……なんだけど」
「最近は魔物がいないことが気になってる、か?」
「まあね。慎重に行った方が良いと思うわ。
特にイーサン、貴方はね」
「わ、分かってるよ。安全第一、ルディア達と一緒に行動、逃げろと言われたらすぐ逃げる、だろ?」
「よろしい。
じゃあ、これを使うわよ」
ルディアはポケットの中からペンダントを取り出す。
「使い方は、地面に垂直になるよう垂らして、魔力を通すと……」
口にした使用方法通りにペンダントを使うと、それは淡く緑に光り、森のある一方向へと指す。
「おお、これまるでアレみたいだな。ええと……ええ……なんだっけ」
「さあ? 私は知らないわよ」
「残念ながら私もだ」
イーサンのいうアレ、正解はペンデュラムであるが、誰も知る由はないし、そもそも今は関係ないことなので、流される。
「カリューオンさん、俺はちょっくらここからを適当に回ってるから、合図を出してくれりゃここへ戻ってくる」
「ああ、しかし大丈夫か?」
「安心してくださいよ。その辺の賊や魔物だったら、こいつらで逃げきれるからな」
「そうか、無理はするなよ」
「アンタらもな」
ここまで送ってくれたメギドはどうやら一時離脱のようで、帰りまでは別行動となってしまう。
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