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天狗と家なき子
え?君達って
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俺が家主の腕の中の子供の台詞に唖然としていると、俺から反応が無い事に痺れを切らしたのか、家主の腕の中からその子供は飛び出した。ワサワサッという感じで、鳩かカラスが捕まえた腕から飛び立つようにして、だった。
彼の背中に生えている黒い羽は、本物?本物だった?
さらに硬直した俺に対し、翼付きの子供が俺の右手首を掴んだ。
「え。」
「あがってあがって。ゲームしようよ。ゲーム、ゲーム。おかしくなっちゃったのもあるの。ほら、いこういこう。」
「え、ちょっと。」
子供に逆らうなんてできなかった。
腰までの長い真っ赤な髪を後ろで一つ髷にしている子供は、その可愛らしすぎる顔立ちに女の子か男のか判別もつかないが、翼が無くとも異形のものであるのは確実だった。
俺の手を掴んで引っ張る子供は、五歳児ぐらいにしか見えなくとも俺と同じぐらい、いや、俺以上の力があるのだ。
「ちょ、ちょっとまって、君!」
「君じゃないよ!すぐりだよ!」
「え、えと、待って。すぐりちゃん。」
「ちゃんはいらないって。前も言った。オレはカラス天狗だもん。」
「え、鴉天狗?」
「そう!おとーさんは大天狗!」
「おとーさん、大天狗?だい、え?」
そこで俺は引っ張られるままとなり、上がりかまちに足を取られた。
転ぶ!
「すぐり。客人の靴がまだだ。」
俺は抱きとめられていた。
大きな体は大人が大事な子供を抱くような、いや、映画かドラマで俳優が女優にするような、ええと、えんだああああああああ、なんて歌声が聞こえそうなぐらいに、大男が俺をしっかりと守るように抱き留めていた。
いやいや、大天狗様が、だ。
真っ白く大きな羽と金髪で、大天狗と言うよりもミカエル様ですありがとうございます、な御仁に俺は抱きしめられている、とは。
いや、守護されまくっている感じ?
「あの、どうも大天狗様、です。」
大天狗様は俺に顔を向けてギロっと睨みつけた。
だが、すぐに顔を背けてぶっきらぼうに小声で何かを言い放った後、俺を解放するどころか子供にしてやるようにして、いや、騎士が姫に仕えるようにしてか?
なんと大天狗様は自分の膝に俺を座らせて、俺から靴を脱がせ始めたのである。
右足、左足、と丁寧に、俺に足首をくすぐられるゾワゾワ感触を与えながら。
ただし、俺がくすぐったさに笑いも出来なかったのは、全部彼のせいだ。
大天狗様は、どうしようもない事態に対して誰でも出すような溜息を吐きながら、俺から靴を脱がせるその行動をされているのだ。
そんなに俺の存在が迷惑ならさ、ひらのと呼べ、なんて言うなよ。
優しすぎる手つきで俺の足首に触れるなよ!
「あの。ご迷惑でしたら帰れるなら帰りますが、俺は。」
「ご迷惑などあるはずなかろう。」
ひょえ!
俺にぶっきらぼうで怖い声を返した男は、俺をそっと持ち上げて玄関の廊下に立たせた。ふわっと運ばれた感じがあった。彼の手は俺からすでに離れているのに、俺はまだなぜかフワフワ感じてもいたが、自分の足はちゃんと床の上に立っている、はずだ。
うん、これは彼がとても大事に扱ってくれたからだ、かな。
でもさ、すっごい迷惑そうな顔付ってのはやめて。俺だって傷つくよ?大体さ、そんなに嫌なら追い返せばいいじゃない。いや、追い返そうよ。
一般人でしかない俺は、今すぐにでも現実社会に帰りたいよ?
帰りたい?
そこで俺ははっと気が付いた。
俺はそこから逃げて来たんじゃないかって。
「ユウト、帰りたい?」
俺は自分の足元に来ていた子供に手を差し伸べた。
すぐりの真っ黒で大きな瞳には、俺の家族が浮かべている俺に窺うようなおどおどした脅えの色が全く見えなかったのある。
ただ寂しい、そんな色しか見えなかった。
俺はすぐりの手を握り、微笑んでいた。
「少しだけお邪魔してもいいかな。」
すぐりは五歳児でしかない無邪気な笑みを俺に向け、俺を空に飛ばす凧みたいにして家の奥へと引き摺って行くではないか!
失敗した、こいつは鴉天狗だった、ああ失敗したよ!
「う、わああああ。」
彼の背中に生えている黒い羽は、本物?本物だった?
さらに硬直した俺に対し、翼付きの子供が俺の右手首を掴んだ。
「え。」
「あがってあがって。ゲームしようよ。ゲーム、ゲーム。おかしくなっちゃったのもあるの。ほら、いこういこう。」
「え、ちょっと。」
子供に逆らうなんてできなかった。
腰までの長い真っ赤な髪を後ろで一つ髷にしている子供は、その可愛らしすぎる顔立ちに女の子か男のか判別もつかないが、翼が無くとも異形のものであるのは確実だった。
俺の手を掴んで引っ張る子供は、五歳児ぐらいにしか見えなくとも俺と同じぐらい、いや、俺以上の力があるのだ。
「ちょ、ちょっとまって、君!」
「君じゃないよ!すぐりだよ!」
「え、えと、待って。すぐりちゃん。」
「ちゃんはいらないって。前も言った。オレはカラス天狗だもん。」
「え、鴉天狗?」
「そう!おとーさんは大天狗!」
「おとーさん、大天狗?だい、え?」
そこで俺は引っ張られるままとなり、上がりかまちに足を取られた。
転ぶ!
「すぐり。客人の靴がまだだ。」
俺は抱きとめられていた。
大きな体は大人が大事な子供を抱くような、いや、映画かドラマで俳優が女優にするような、ええと、えんだああああああああ、なんて歌声が聞こえそうなぐらいに、大男が俺をしっかりと守るように抱き留めていた。
いやいや、大天狗様が、だ。
真っ白く大きな羽と金髪で、大天狗と言うよりもミカエル様ですありがとうございます、な御仁に俺は抱きしめられている、とは。
いや、守護されまくっている感じ?
「あの、どうも大天狗様、です。」
大天狗様は俺に顔を向けてギロっと睨みつけた。
だが、すぐに顔を背けてぶっきらぼうに小声で何かを言い放った後、俺を解放するどころか子供にしてやるようにして、いや、騎士が姫に仕えるようにしてか?
なんと大天狗様は自分の膝に俺を座らせて、俺から靴を脱がせ始めたのである。
右足、左足、と丁寧に、俺に足首をくすぐられるゾワゾワ感触を与えながら。
ただし、俺がくすぐったさに笑いも出来なかったのは、全部彼のせいだ。
大天狗様は、どうしようもない事態に対して誰でも出すような溜息を吐きながら、俺から靴を脱がせるその行動をされているのだ。
そんなに俺の存在が迷惑ならさ、ひらのと呼べ、なんて言うなよ。
優しすぎる手つきで俺の足首に触れるなよ!
「あの。ご迷惑でしたら帰れるなら帰りますが、俺は。」
「ご迷惑などあるはずなかろう。」
ひょえ!
俺にぶっきらぼうで怖い声を返した男は、俺をそっと持ち上げて玄関の廊下に立たせた。ふわっと運ばれた感じがあった。彼の手は俺からすでに離れているのに、俺はまだなぜかフワフワ感じてもいたが、自分の足はちゃんと床の上に立っている、はずだ。
うん、これは彼がとても大事に扱ってくれたからだ、かな。
でもさ、すっごい迷惑そうな顔付ってのはやめて。俺だって傷つくよ?大体さ、そんなに嫌なら追い返せばいいじゃない。いや、追い返そうよ。
一般人でしかない俺は、今すぐにでも現実社会に帰りたいよ?
帰りたい?
そこで俺ははっと気が付いた。
俺はそこから逃げて来たんじゃないかって。
「ユウト、帰りたい?」
俺は自分の足元に来ていた子供に手を差し伸べた。
すぐりの真っ黒で大きな瞳には、俺の家族が浮かべている俺に窺うようなおどおどした脅えの色が全く見えなかったのある。
ただ寂しい、そんな色しか見えなかった。
俺はすぐりの手を握り、微笑んでいた。
「少しだけお邪魔してもいいかな。」
すぐりは五歳児でしかない無邪気な笑みを俺に向け、俺を空に飛ばす凧みたいにして家の奥へと引き摺って行くではないか!
失敗した、こいつは鴉天狗だった、ああ失敗したよ!
「う、わああああ。」
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