神隠しは天狗の仕業といいます、が

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天狗と家なき子

迷子の優斗君は天狗の迷い家(が)に その二

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「ここは日高の家ではない。」

 平埜の言葉を思いだしたことで、俺は記憶を失っていた自分が帰りたいと願ったのは、日高さんの家、だったのだろうかと考えた。そこで日高は何者なのかと彼らに尋ねたのだ。

 すると、すぐりは俺の質問に答えようと目を輝かせたが、すぐりが口を開く前にひらのさんが歯噛みした。
 ぎりって音が聞こえたぞ、怖いな。

「何か問題が?」

「あるわけはない。ただ、あいつのことは今夜ぐらいいいだろう。あいつも忙しい男だ。」

「あのね、日高はしらたにうんすいきょうを守る大天狗なの。おとーさんの大事なお友達でね、とってもたのしい天狗さんだよ。」

「そっか。」

 屋久島の白谷雲水狭かよ。
 俺は笑顔を変えないままであったが、内心では頭を抱えていた。
 大昔に家族旅行したあの森じゃないかって。

 あの森に行ったから、俺は天狗と縁づいてしまった?

 あれ、でも青森の白神山地なんか行った覚えも、両親が過去に行った記録も無いんじゃないか?どこで俺とひらのさん一家がブッキングした?
 もしかしたら日高さんとやらがそもそもの原因?
 じゃあ、やっぱり俺は日高さんと話しをせねば?

「俺達の名前だ。」

「え、ええ。」

 いつのまにやら俺の目の前に和紙が差し出されており、とっても読みやすい文字で、ひらのさんと日高さんの名前が書かれていた。
 ひらのさんたら、フリガナまで振ってある親切さよ。

  白神山地平埜坊しらかみさんちひらのぼう
  白谷雲水狭日高上人しらたにうんすいきょうひだかしょうにん

「あなたが坊で、日高さんが上人?」

「仙人になるまでの過程だな。修行僧は坊。陰陽師から仙人になった者は上人。」

「ひらのさんののって林の下に土と書いた漢字だったのですね。」

「そうだ。ここは林の下に土があるだけの世界だ。野原など存在しない。お前の世界とこっちの世界を表すような文字だ。」

「そうなんですか?」

「森羅万象界は全てだ。それは全てを作る土と同じ。そこに色々な木々が立っている。その中の一本がお前達の人間界である。」

「銀河の中の地球ってやつか。」

 彼は面白くなさそうな顔で、俺の台詞で俺が理解したとわかったという風に頷き、さらに言葉を続けた。

「我々はお前達の住まう人間界に干渉できるが、お前達からは出来はしない。それだけの話だ。だから記憶を消す。わかったか?」

「よくわかりました。」

 だが、実の俺にはどれもどうでも良かった。
 俺に敵みたいな睨みばかりをよこす平埜が、落ち込んでいる俺を励ますためにお菓子を作ったと聞かされた方が衝撃が大きく続いてもいたからである。

「それで、ええと、俺のためのこれ。あの凄く可愛いし美味しいです。」

 平埜は俺か顔を背け、人語どころか牛みたいな怖い声を出した。
 え?照れた?

「ユウトはケーキよりもあんこが好きって言ったから。でね、おとーさんはユウトの為にいいお砂糖をって、お山に甘い大根を植えて育ててもいるんだよ。」

 え?
 お山に?

「人が入らない場所にね、おっきな畑を作ったの。甘いダイコンさん。」

「あんたは!世界遺産の山にてんさい畑作っちゃったのかよ!」

「和三盆の原材料のサトウキビは屋久島だからな。サトウキビが育たない寒冷地ならば、砂糖大根を育てれば良いのだ。」

 平埜は背けていた顔を元に戻し、その顔を忌々しそう歪めてボソッと答えた。
 いや、山を守る天狗様だったらさ、世界遺産こそを守ろうよ。
 俺が唖然と見守る中、今度は押し黙ってしまった彼は、俺にお代わりも聞かずに俺の茶碗を取り上げて急須のお茶を注ぎ始めた。

 この人は、俺を持て成したいの?追い出したいの?
 俺は混乱のまま、ども、としか答えられなかった。
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