7 / 35
天狗と家なき子
平埜さんと買い物と小判
しおりを挟む
俺はしばらく平埜(ひらの)さんちの客人になることが決まった。
期間はたった三日だ。
すぐりが俺の滞在が短すぎるとぶんむくれたが、仕方がない。
前回は三週間ほどの平埜さんち滞在だったらしいが、実際の俺は、十二月の末に行方不明になって、大学入試願書受付期間が終わる二月の半ばに戻って来たという記録になっている。
つまり二十一日に対して六十六日ほど消息不明になっていたと考えると、一日に対して三日と少しは消費してしまうという計算となるのだ。
三日滞在でも、十日近くの日数ぐらい人間界で俺が行方不明となる。
昨年の俺の不在があんなにも堪えている家族には、十日でもかなりの心の負担になるだろう。それなのに、俺は家にすぐにでも帰りたいと言い張れなかった。
俺こそが家を出たがっていたからだからか。
「ねえ、平埜さん。昨年の俺もやっぱり家出をしたがっていたのかな?当時の記憶ってか、俺が行方不明の期間どころか、行方不明になる一週間前の記憶も無いんだよ。いつも過ぎて覚えていないのかも、だけど。」
平埜は、知らん、とだけぶっきらぼうに答えた。
彼は俺には興味がない人だからな。
俺は流しに出されている汚れた皿に再び向かい合った。
すぐりの機嫌を直すために俺は、彼(男の子だった)にハンバーグを作ってやると約束し、その通りにしてやったのだ。
そのための人間界への食料品買い出しに、すぐりだけでなく平埜こそ付いてくると思わなかった、という一幕もあったが。
驚きだよ。
すぐりに俺が去年買ってあげた衣服があるのは驚かなかったが、まっさか、平埜さんまで人間界の今時代のお洋服を持っていたなんて知らなかったよ。
まあ、昭和ぐらいに購入されたのものだったから、それほど仰け反るぐらいの驚きではなかった。が、金髪碧眼の長身のモデル男は、時代遅れの古着だろうが、何を着ても様になるんだなあ、と俺は惚れ惚れしてしまった、と思い出す。
ベージュ色のチノパンに少々派手なアイビールック系のセーターを重ね、そこにまんま軍仕様っぽく見えるモッズコートを羽織った姿は、普通にアメリカから来た素敵な観光客様でしか見えなかったのである。
特撮物のスーツを模したトレーナーセットを着たすぐりと手を繋ぐ、どこから見てももっさり田舎学生風の俺とは天と地、油と水、そのぐらい平埜と俺は相いれないものになっていた。
なのに、平埜の中身は大天狗様でしかないのはどういうことだ。
なん百年も生きて人間界に通じているならば、少しは常識を持とうよ!
彼は、田舎町特有の駐車場の方が敷地が広いというスーパーに辿り着くや、俺に向かって小判を一枚差し出して来たのである。
俺には見慣れすぎる、普通の小判よりも小型の小判だ。
「我らの買い物に優斗の金は使うな。金ならばこれを使え。」
人前で小判なんか出すなよ、この常識無し!
俺は慌てながら小判を掴む平埜の腕を掴むと、急いでスーパーの中に入り、入り口付近でもひと目のつかない所に引っ張りこんだ。俺に抵抗するどころか、メチャクチャ素直に平埜がなすがままだったのには驚いたが。
「優斗?」
「小判を人前で出さないでください。それと、小判はスーパーで使えません。」
平埜が俺に差し出すのは、俺が昨年持っていたのと同じ小判だった。
警察や他の誰にもなぜか気付かれず取り上げられなかったのに、いつも俺の持ち物のどこかに潜んでいて、質屋など換金できる場所では使用も鑑定も可だったという、呪いの品だ。今回の逃避行に当たり換金したから、天狗さん家への切符みたいな役割を果たしたのだろうか。
そして俺は軽々しく小判を出すなと言うだけの注意だったのに、平埜は俺が彼からの小判を拒んだと思い込んだようだ。まあ、その通りだったかも、だけど。
「では。今日の買い物は無しだな。」
「ううう。ハンバグ。ハンバグ。」
俺の足元の幼児が泣きかけ、俺は溜息を吐きながら平埜の手首から手を離して彼に手を差し出し直した。
「それはもちろんいただきますよ。スーパーで使えないから俺の金を使いますけどね。前回みたいにこの小判で賄える分しか使いませんから安心してください。」
「わかった。これは大した金じゃないからな、大したものが買えんぞ。」
「あざっす。」
俺の手には俺が手放したものと同じ金貨が乗っていた。
俺が質屋で鑑定してもらったところ、この小判は万延小判金というもので、時代が新しいことや金品位がかなり低いことから、二万から四万位が相場の小判だと聞いている。
実際に俺は質屋にて四万円で買い取って貰っていた。
でもね、スーパーで四万も買い物しないよ、平埜さん。
期間はたった三日だ。
すぐりが俺の滞在が短すぎるとぶんむくれたが、仕方がない。
前回は三週間ほどの平埜さんち滞在だったらしいが、実際の俺は、十二月の末に行方不明になって、大学入試願書受付期間が終わる二月の半ばに戻って来たという記録になっている。
つまり二十一日に対して六十六日ほど消息不明になっていたと考えると、一日に対して三日と少しは消費してしまうという計算となるのだ。
三日滞在でも、十日近くの日数ぐらい人間界で俺が行方不明となる。
昨年の俺の不在があんなにも堪えている家族には、十日でもかなりの心の負担になるだろう。それなのに、俺は家にすぐにでも帰りたいと言い張れなかった。
俺こそが家を出たがっていたからだからか。
「ねえ、平埜さん。昨年の俺もやっぱり家出をしたがっていたのかな?当時の記憶ってか、俺が行方不明の期間どころか、行方不明になる一週間前の記憶も無いんだよ。いつも過ぎて覚えていないのかも、だけど。」
平埜は、知らん、とだけぶっきらぼうに答えた。
彼は俺には興味がない人だからな。
俺は流しに出されている汚れた皿に再び向かい合った。
すぐりの機嫌を直すために俺は、彼(男の子だった)にハンバーグを作ってやると約束し、その通りにしてやったのだ。
そのための人間界への食料品買い出しに、すぐりだけでなく平埜こそ付いてくると思わなかった、という一幕もあったが。
驚きだよ。
すぐりに俺が去年買ってあげた衣服があるのは驚かなかったが、まっさか、平埜さんまで人間界の今時代のお洋服を持っていたなんて知らなかったよ。
まあ、昭和ぐらいに購入されたのものだったから、それほど仰け反るぐらいの驚きではなかった。が、金髪碧眼の長身のモデル男は、時代遅れの古着だろうが、何を着ても様になるんだなあ、と俺は惚れ惚れしてしまった、と思い出す。
ベージュ色のチノパンに少々派手なアイビールック系のセーターを重ね、そこにまんま軍仕様っぽく見えるモッズコートを羽織った姿は、普通にアメリカから来た素敵な観光客様でしか見えなかったのである。
特撮物のスーツを模したトレーナーセットを着たすぐりと手を繋ぐ、どこから見てももっさり田舎学生風の俺とは天と地、油と水、そのぐらい平埜と俺は相いれないものになっていた。
なのに、平埜の中身は大天狗様でしかないのはどういうことだ。
なん百年も生きて人間界に通じているならば、少しは常識を持とうよ!
彼は、田舎町特有の駐車場の方が敷地が広いというスーパーに辿り着くや、俺に向かって小判を一枚差し出して来たのである。
俺には見慣れすぎる、普通の小判よりも小型の小判だ。
「我らの買い物に優斗の金は使うな。金ならばこれを使え。」
人前で小判なんか出すなよ、この常識無し!
俺は慌てながら小判を掴む平埜の腕を掴むと、急いでスーパーの中に入り、入り口付近でもひと目のつかない所に引っ張りこんだ。俺に抵抗するどころか、メチャクチャ素直に平埜がなすがままだったのには驚いたが。
「優斗?」
「小判を人前で出さないでください。それと、小判はスーパーで使えません。」
平埜が俺に差し出すのは、俺が昨年持っていたのと同じ小判だった。
警察や他の誰にもなぜか気付かれず取り上げられなかったのに、いつも俺の持ち物のどこかに潜んでいて、質屋など換金できる場所では使用も鑑定も可だったという、呪いの品だ。今回の逃避行に当たり換金したから、天狗さん家への切符みたいな役割を果たしたのだろうか。
そして俺は軽々しく小判を出すなと言うだけの注意だったのに、平埜は俺が彼からの小判を拒んだと思い込んだようだ。まあ、その通りだったかも、だけど。
「では。今日の買い物は無しだな。」
「ううう。ハンバグ。ハンバグ。」
俺の足元の幼児が泣きかけ、俺は溜息を吐きながら平埜の手首から手を離して彼に手を差し出し直した。
「それはもちろんいただきますよ。スーパーで使えないから俺の金を使いますけどね。前回みたいにこの小判で賄える分しか使いませんから安心してください。」
「わかった。これは大した金じゃないからな、大したものが買えんぞ。」
「あざっす。」
俺の手には俺が手放したものと同じ金貨が乗っていた。
俺が質屋で鑑定してもらったところ、この小判は万延小判金というもので、時代が新しいことや金品位がかなり低いことから、二万から四万位が相場の小判だと聞いている。
実際に俺は質屋にて四万円で買い取って貰っていた。
でもね、スーパーで四万も買い物しないよ、平埜さん。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ
BL
アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる