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天狗と家なき子
お風呂はみんなで一緒に
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「早く湯を選ばれよ。我はまだする事があるから気兼ねなく入れ。」
平埜がそう言うや、彼の子供が騒ぎ始めた。
「うーそー。おとーさん、うーそーつーきー。ないもんしごと。こんやのもりはしずかでいいこだもーん。オレ三人で入りたいーのにー。」
幼児はぴょんぴょんゴムボールみたいに上下に刎ねて父親に抗議を始めた。そしてその父親は、顔を真っ赤にして初めて聞く安っぽい声を上げた。
「す、すぐり!」
「はいるー。みんなでおふろはいるー。前みたいに背中を洗いっこするー。」
「あれは!」
「まえはいっつも一緒だったー。」
「今日の優斗は初対面なみたいなものだろうが!」
普通のお父さんが困った時に出す声で平埜がすぐりに言った言葉の内容で、俺はようやく、あっ、と気が付いた。
平埜さんは、いつも俺を慮ってくれてるって。
そう、彼が自分を慮ってくれていたと、俺は今さらに気が付いたのである。
寒椿の可愛らしい和菓子がその証拠じゃないか。
そう、いつも俺を大事にしようとしてくれていたようじゃないか?
俺は平埜が自分に向けるあの目線だけで、平埜が自分を嫌っていると思い込んでいた。お前は俺が気に喰わないはずだ、お終い、そんな思考回路だけだった。
いいや、そうじゃない。
すぐりぐらいに俺をちやほやしろと言わないけれど、常に俺とは一線を引こうとしているような素振りがムカつくというか、そこに傷ついていた、というか。
え?
俺は傷ついていた?
「どしたの?ユウト?」
「い、いいや。なんでもない。」
何でも無くは無いぞ。
俺は急に平埜に仕返しをしたい気持ちになっていた。
すぐりの言葉だけで考えれば、昨年はそれなりに俺達は上手くやってたようじゃないか。なのに、俺の存在が迷惑だったしか俺に思わせない、にらみ目線や嫌々とした振舞いしか平埜がしないだなんて。
彼のその行為が、俺がすんなり人間界に戻るためという思惑からであろうが、俺はなんだか許せないのだ。
許せないどころか、感謝するべきだって頭ではわかっているのに。
「ユウト?」
「すぐり。みんなで背中の洗いっこはいいよね。前の時は、やっぱり俺がすぐりを洗ってあげていたのかな?」
すぐりは俺を見上げて、物凄く嬉しそうな顔で頭を上下させた。
それから、俺が一瞬で平埜さんごめんなさい、と言ってしまいそうなセリフをすぐりが吐いて来るとは!
「ユウトの背中はお父さんだよ!」
「うひっ。」
数分前の自分の思考回路を殴ってやりたい。
そう思いながら平埜を見返せば、え、物凄く切なそうな視線で俺を見ていた?
目が合った俺達、俺は驚いて固まったが、平埜は直ぐに顔を背けた。
そして、何度も聞いている低いだけのそっけない声を出した。
「今日は濁りがきつい硫黄泉にする。」
「あざっす。」
ほんと、その選択ありがとうございました、だった。
俺の体は一体どうした事か、だったのだ。
風呂場で大事なものを性的におったててしまうなんて!
いや、これは俺だけのせいじゃない。
そうだ、平埜が悪いんだ。
あいつの手が悪いんだ。
平埜がそう言うや、彼の子供が騒ぎ始めた。
「うーそー。おとーさん、うーそーつーきー。ないもんしごと。こんやのもりはしずかでいいこだもーん。オレ三人で入りたいーのにー。」
幼児はぴょんぴょんゴムボールみたいに上下に刎ねて父親に抗議を始めた。そしてその父親は、顔を真っ赤にして初めて聞く安っぽい声を上げた。
「す、すぐり!」
「はいるー。みんなでおふろはいるー。前みたいに背中を洗いっこするー。」
「あれは!」
「まえはいっつも一緒だったー。」
「今日の優斗は初対面なみたいなものだろうが!」
普通のお父さんが困った時に出す声で平埜がすぐりに言った言葉の内容で、俺はようやく、あっ、と気が付いた。
平埜さんは、いつも俺を慮ってくれてるって。
そう、彼が自分を慮ってくれていたと、俺は今さらに気が付いたのである。
寒椿の可愛らしい和菓子がその証拠じゃないか。
そう、いつも俺を大事にしようとしてくれていたようじゃないか?
俺は平埜が自分に向けるあの目線だけで、平埜が自分を嫌っていると思い込んでいた。お前は俺が気に喰わないはずだ、お終い、そんな思考回路だけだった。
いいや、そうじゃない。
すぐりぐらいに俺をちやほやしろと言わないけれど、常に俺とは一線を引こうとしているような素振りがムカつくというか、そこに傷ついていた、というか。
え?
俺は傷ついていた?
「どしたの?ユウト?」
「い、いいや。なんでもない。」
何でも無くは無いぞ。
俺は急に平埜に仕返しをしたい気持ちになっていた。
すぐりの言葉だけで考えれば、昨年はそれなりに俺達は上手くやってたようじゃないか。なのに、俺の存在が迷惑だったしか俺に思わせない、にらみ目線や嫌々とした振舞いしか平埜がしないだなんて。
彼のその行為が、俺がすんなり人間界に戻るためという思惑からであろうが、俺はなんだか許せないのだ。
許せないどころか、感謝するべきだって頭ではわかっているのに。
「ユウト?」
「すぐり。みんなで背中の洗いっこはいいよね。前の時は、やっぱり俺がすぐりを洗ってあげていたのかな?」
すぐりは俺を見上げて、物凄く嬉しそうな顔で頭を上下させた。
それから、俺が一瞬で平埜さんごめんなさい、と言ってしまいそうなセリフをすぐりが吐いて来るとは!
「ユウトの背中はお父さんだよ!」
「うひっ。」
数分前の自分の思考回路を殴ってやりたい。
そう思いながら平埜を見返せば、え、物凄く切なそうな視線で俺を見ていた?
目が合った俺達、俺は驚いて固まったが、平埜は直ぐに顔を背けた。
そして、何度も聞いている低いだけのそっけない声を出した。
「今日は濁りがきつい硫黄泉にする。」
「あざっす。」
ほんと、その選択ありがとうございました、だった。
俺の体は一体どうした事か、だったのだ。
風呂場で大事なものを性的におったててしまうなんて!
いや、これは俺だけのせいじゃない。
そうだ、平埜が悪いんだ。
あいつの手が悪いんだ。
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