神隠しは天狗の仕業といいます、が

蔵前

文字の大きさ
13 / 35
天狗と家なき子

いいのか?

しおりを挟む
「ただいまです!オレ自分の枕持ってきた!」

「お帰り、すぐり。みんなでほうじ茶を飲んだら眠ろうか?」

 俺が腕を広げると、すぐりは枕を抱いたそのまま俺の胸に飛び込んで来た。
 すぐりが持って来た枕とは、シロクマの形をした彼サイズの抱き枕だった。

「わお。二人分の重量。凄いクマさんをお持ちで。」

「大きなシロタロウだったら寂しくないでしょって、ユウトが買ってくれたんだよ、お別れの日に。でもオレやっぱ、ユウトがいないとやだ。ユウトはオレのお母さんだもの。」

「そっか。」

「ユウトはずっとずっとがいいのに!」

 すぐりはなんて健気なんだろう。
 俺は彼のその幼気さに悲しくなって、ぎゅうとさらに強く抱きしめていた。
 そうだよな。
 すぐりは鴉天狗でも外見通りにまだ生まれて五年目の子だそうだし、人間の子供だって五歳はまだまだ母親が恋しい年頃なんだもんな。

 どうして俺にお母さん認定するのかは不明だけどさ。
 派手外見な天狗から見れば、日本人顔は女も男も同じに見えるのかな?
 すぐりのお母さんについて平埜さんに聞いてもいいのかな?

 俺は自然と視線を平埜に動かしていた。
 彼は丁度俺とすぐりの前にほうじ茶の入った小ぶりの湯のみを二つ差し出してて、俺とすぐりの姿に、亡き妻?別れた妻?を思い出したような、そんな風に俺が思ってしまう視線を向けていた。
 切なそうな、っていうの?

「君と一緒に寝ても、君は本当に構わないのか?」

 静かな声は俺への気遣いと言うよりは、そうだ、多分、別れる時のすぐりの気持を考えて欲しいという父親の気持に違いない。
 俺は心を鬼にしてすぐりを一人寝させるべきなのかな。

「へいきー。ユウト真ん中にすればいいよ。オレとおとーさんがはしっこ。そしたら、ユウトが狭いってオレもおとーさんをお布団の外に蹴り出せるもん。あ、あのね、オレ達は蹴られてもへいきーだよ、ユウト。」

 俺は再び平埜を見返していた。
 一緒に寝て構わないって、平埜さんも俺と一緒に寝る気だったのよ、と。
 あ、真っ赤になって俺から顔を背けた。
 それで、なんだか彼にそぐわない笑いをし始めた。
 失敗しちゃった人があげる自嘲ってやつ?

「平埜さん?」

「そうだな。君はすぐりと寝る。そうだ。それしか考えていなかった。」

「天狗にしか出来ない寝物語を聞かせてくれるなら、ええ、一緒に寝るのもいいですよ。いろいろ面白いお話が聞けそうだもの。」

 俺はどうしてこんなことを言ってしまったのか。
 いいや、分かっている。
 俺は平埜が浮かべるだろう表情が見たかったのかもしれない。
 はにかんだ、表情?
 あるいは、切なさと幸せを一緒に噛みしめているような、表情?
 そのどちらも彼の顔から見つけられなかったけれど。

 彼はそもそもいつものように顔を背けて俺から顔を隠してるままだ。そして見つめていると、我は、と、確実に辞退するであろう声音を出した。

「ユウト。昔話は日高に頼もうよ。日高はいちまんねんとにせんねん生きているって言ってた。」

「日高知らんがそれは確実に嘘だな。」
「あれがそんなはずはない。」

 俺と平埜は同時に答えていて、それで、同時に互いの顔を見合っていた。
 俺達は当り前のように微笑み合って、だが、それは一種だけだった。
 凍り付き顔を強張らせたのは平埜だった。
 そして彼は、ふいっと目線も顔も横向けた。
 あなたは俺にすぐりの母を重ねてしまったのかな?

「平埜さん。あなたも一緒だよ。俺達の大事なすぐりは、みんなでをご所望であらせられる。」

「君は全く望んでいないというのに?」

「望んでいますよ。あなたに面白い話をして欲しいと思ってる。」

「我に面白い話などできん。我は日高とは違う。」

「それは聞いて見ないと。何ごとも試す事は必要でしょう?」

「人がいう、毒を喰らわば皿まで。そうなっても知らんぞ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

処理中です...