15 / 35
天狗と家なき子
残酷だ?
しおりを挟む
今、平埜は何て言ったんだ?
鴉天狗よりも寿命が延びた?
俺の腕の中のすぐりは平埜さんと同じ、不老不死、みたいなものじゃないの?
でもほんとは、鴉天狗は今の人間よりも寿命が短い存在?
俺は五歳児ぐらいの姿のすぐりを失う事を考えてしまい、体が冷えていくようだった。
打から、彼を必死に、さらに強く抱きしめていたのだ。
俺の脅えが通じたのか、平埜は右手を伸ばして俺が抱くすぐりの頭を撫でた。
この上なく愛しいもののようにして。
「鴉天狗は幻影だ。大天狗が呼び出す式神のようなものだ。」
「式って。すぐりは突然消えちゃうって、こと?」
「いいや。生まれた命は命だ。鴉天狗は自我が薄れれば、鴉へと姿を変える。その後はただの鴉として生を全うする。それだけの事だ。」
平埜がすぐりを大事に、それはもう甘すぎるぐらいに何でも言う事を聞いている理由を、俺は分かった気がした。
彼はすぐりの自我を保ち続けたいのだ。
鴉としてどこかに飛んで行ってしまわないように。
「もし、俺がこのままここにいたら、すぐりは消えない?」
「いつだって終わりはある。すぐりが消えたあと、君はどうするのだ?」
俺は顔を平埜に向けた。
硬い表情の彼は、ほんの少し前に馬鹿笑いしていた人には見えない。
あの笑いこそ、心にある脅えや鬱憤を拭いたかっただけのもの?
俺は気が付いたら、平埜の言葉をそのまま彼に返していた。
「すぐりが消えたら、あなたはどうするの?」
平埜はそっと微笑んだ。
それから彼は、どうするかな、とだけ言った。
瞼をそっと閉じてのその顔は、笑顔なのに俺の胸に大きなトゲを刺した。
俺はすぐりを抱いたまま、平埜の顔から眼を逸らさないまま、ゆっくりと体を彼へと向けた。
それで、俺達は完璧な親子で作る川の字となった。
大事子供を守るように親が寄り添う姿だ。
「優斗?」
俺はすぐりから左腕を外すと、その腕を平埜の体に回した。
彼はハッとした表情を作った。
「優斗?」
「すぐりは俺の事をお母さんだって言っている。今だけでも、お母さんとお父さんに囲まれているをすぐりに与えたい。あと、一人残されるあなたに、俺はあなたを慰めたいと思った事を覚えていて欲しいって。」
平埜は俺を見つめた。
眩しい太陽に目を眇めてしまうような、憧れを夢見る様な?
その表情は俺の胸を高鳴らせた。
切ないと痛めもした。
平埜は右腕を伸ばし、その指先で俺の頬を撫でた。
「君は残酷な子供だな。可哀想という感情だけでは世界は救えないんだよ?」
俺は左手で平埜の頬をパシッと叩いた。
それから、数分前みたいにして平埜から体を背けた。
眠ったままグルグル動かされるすぐりには申し訳ないが、俺は悔しくて、どうしてかわからないが、平埜にあっさりと否定された自分が情けなかった。
どうしてこんな風に感じるのか。
「すまない。君の記憶は消せても、我は自分の記憶を消すことは出来ないからな。」
「いいえ。俺が出過ぎただけです。」
「ちがう。君は優しいだけだ。君はとても優しいから、あの日高が君を手放そうとしないんだ。」
「え?」
俺は平埜に振り向いた。
平埜は既に立ち上がっていて、俺から背を向けた姿のそのまま、俺の部屋を出て行った。
「わかんないよ。記憶が無いからわかんない。日高と俺がどんなだったかなんて、俺は全く分かんないのに!」
どうして涙が出るのかもわからなかった。
俺には昨年の記憶なんて無いのに!
鴉天狗よりも寿命が延びた?
俺の腕の中のすぐりは平埜さんと同じ、不老不死、みたいなものじゃないの?
でもほんとは、鴉天狗は今の人間よりも寿命が短い存在?
俺は五歳児ぐらいの姿のすぐりを失う事を考えてしまい、体が冷えていくようだった。
打から、彼を必死に、さらに強く抱きしめていたのだ。
俺の脅えが通じたのか、平埜は右手を伸ばして俺が抱くすぐりの頭を撫でた。
この上なく愛しいもののようにして。
「鴉天狗は幻影だ。大天狗が呼び出す式神のようなものだ。」
「式って。すぐりは突然消えちゃうって、こと?」
「いいや。生まれた命は命だ。鴉天狗は自我が薄れれば、鴉へと姿を変える。その後はただの鴉として生を全うする。それだけの事だ。」
平埜がすぐりを大事に、それはもう甘すぎるぐらいに何でも言う事を聞いている理由を、俺は分かった気がした。
彼はすぐりの自我を保ち続けたいのだ。
鴉としてどこかに飛んで行ってしまわないように。
「もし、俺がこのままここにいたら、すぐりは消えない?」
「いつだって終わりはある。すぐりが消えたあと、君はどうするのだ?」
俺は顔を平埜に向けた。
硬い表情の彼は、ほんの少し前に馬鹿笑いしていた人には見えない。
あの笑いこそ、心にある脅えや鬱憤を拭いたかっただけのもの?
俺は気が付いたら、平埜の言葉をそのまま彼に返していた。
「すぐりが消えたら、あなたはどうするの?」
平埜はそっと微笑んだ。
それから彼は、どうするかな、とだけ言った。
瞼をそっと閉じてのその顔は、笑顔なのに俺の胸に大きなトゲを刺した。
俺はすぐりを抱いたまま、平埜の顔から眼を逸らさないまま、ゆっくりと体を彼へと向けた。
それで、俺達は完璧な親子で作る川の字となった。
大事子供を守るように親が寄り添う姿だ。
「優斗?」
俺はすぐりから左腕を外すと、その腕を平埜の体に回した。
彼はハッとした表情を作った。
「優斗?」
「すぐりは俺の事をお母さんだって言っている。今だけでも、お母さんとお父さんに囲まれているをすぐりに与えたい。あと、一人残されるあなたに、俺はあなたを慰めたいと思った事を覚えていて欲しいって。」
平埜は俺を見つめた。
眩しい太陽に目を眇めてしまうような、憧れを夢見る様な?
その表情は俺の胸を高鳴らせた。
切ないと痛めもした。
平埜は右腕を伸ばし、その指先で俺の頬を撫でた。
「君は残酷な子供だな。可哀想という感情だけでは世界は救えないんだよ?」
俺は左手で平埜の頬をパシッと叩いた。
それから、数分前みたいにして平埜から体を背けた。
眠ったままグルグル動かされるすぐりには申し訳ないが、俺は悔しくて、どうしてかわからないが、平埜にあっさりと否定された自分が情けなかった。
どうしてこんな風に感じるのか。
「すまない。君の記憶は消せても、我は自分の記憶を消すことは出来ないからな。」
「いいえ。俺が出過ぎただけです。」
「ちがう。君は優しいだけだ。君はとても優しいから、あの日高が君を手放そうとしないんだ。」
「え?」
俺は平埜に振り向いた。
平埜は既に立ち上がっていて、俺から背を向けた姿のそのまま、俺の部屋を出て行った。
「わかんないよ。記憶が無いからわかんない。日高と俺がどんなだったかなんて、俺は全く分かんないのに!」
どうして涙が出るのかもわからなかった。
俺には昨年の記憶なんて無いのに!
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ
BL
アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる