神隠しは天狗の仕業といいます、が

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天狗と家なき子

残酷だ?

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 今、平埜は何て言ったんだ?
 鴉天狗よりも寿命が延びた?
 俺の腕の中のすぐりは平埜さんと同じ、不老不死、みたいなものじゃないの?

 でもほんとは、鴉天狗は今の人間よりも寿命が短い存在?

 俺は五歳児ぐらいの姿のすぐりを失う事を考えてしまい、体が冷えていくようだった。
 打から、彼を必死に、さらに強く抱きしめていたのだ。
 俺の脅えが通じたのか、平埜は右手を伸ばして俺が抱くすぐりの頭を撫でた。
 この上なく愛しいもののようにして。

「鴉天狗は幻影だ。大天狗が呼び出す式神のようなものだ。」

「式って。すぐりは突然消えちゃうって、こと?」

「いいや。生まれた命は命だ。鴉天狗は自我が薄れれば、鴉へと姿を変える。その後はただの鴉として生を全うする。それだけの事だ。」

 平埜がすぐりを大事に、それはもう甘すぎるぐらいに何でも言う事を聞いている理由を、俺は分かった気がした。
 彼はすぐりの自我を保ち続けたいのだ。
 鴉としてどこかに飛んで行ってしまわないように。

「もし、俺がこのままここにいたら、すぐりは消えない?」

「いつだって終わりはある。すぐりが消えたあと、君はどうするのだ?」

 俺は顔を平埜に向けた。
 硬い表情の彼は、ほんの少し前に馬鹿笑いしていた人には見えない。
 あの笑いこそ、心にある脅えや鬱憤を拭いたかっただけのもの?
 俺は気が付いたら、平埜の言葉をそのまま彼に返していた。

「すぐりが消えたら、あなたはどうするの?」

 平埜はそっと微笑んだ。
 それから彼は、どうするかな、とだけ言った。
 瞼をそっと閉じてのその顔は、笑顔なのに俺の胸に大きなトゲを刺した。

 俺はすぐりを抱いたまま、平埜の顔から眼を逸らさないまま、ゆっくりと体を彼へと向けた。
 それで、俺達は完璧な親子で作る川の字となった。
 大事子供を守るように親が寄り添う姿だ。

「優斗?」

 俺はすぐりから左腕を外すと、その腕を平埜の体に回した。
 彼はハッとした表情を作った。

「優斗?」

「すぐりは俺の事をお母さんだって言っている。今だけでも、お母さんとお父さんに囲まれているをすぐりに与えたい。あと、一人残されるあなたに、俺はあなたを慰めたいと思った事を覚えていて欲しいって。」

 平埜は俺を見つめた。
 眩しい太陽に目を眇めてしまうような、憧れを夢見る様な?
 その表情は俺の胸を高鳴らせた。
 切ないと痛めもした。
 平埜は右腕を伸ばし、その指先で俺の頬を撫でた。

「君は残酷な子供だな。可哀想という感情だけでは世界は救えないんだよ?」

 俺は左手で平埜の頬をパシッと叩いた。
 それから、数分前みたいにして平埜から体を背けた。

 眠ったままグルグル動かされるすぐりには申し訳ないが、俺は悔しくて、どうしてかわからないが、平埜にあっさりと否定された自分が情けなかった。
 どうしてこんな風に感じるのか。

「すまない。君の記憶は消せても、我は自分の記憶を消すことは出来ないからな。」

「いいえ。俺が出過ぎただけです。」

「ちがう。君は優しいだけだ。君はとても優しいから、あの日高が君を手放そうとしないんだ。」

「え?」

 俺は平埜に振り向いた。
 平埜は既に立ち上がっていて、俺から背を向けた姿のそのまま、俺の部屋を出て行った。

「わかんないよ。記憶が無いからわかんない。日高と俺がどんなだったかなんて、俺は全く分かんないのに!」

 どうして涙が出るのかもわからなかった。
 俺には昨年の記憶なんて無いのに!
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