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天狗と家なき子
太陽が昇ったら
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俺は自分の図太さに驚くばかりだ。
平埜に傷つけられたと涙を流していたくせに、気が付けば眩しい朝日に刺激されて瞼を開けているという有様だ。
泣いた後の数分後の記憶が無いって、凄いな。
あの後の俺はすぐに寝たのか。
確かに、残酷な子供だな。
「おはよう。吾がいとし子よ。鬼のように眠ってないで起きようか。久しぶりの吾であるぞ。」
「はい?」
俺の上に影どころかさらなる眩い光が落ちた。
それは平埜と同じぐらいの大男がしゃがんだ姿で、布団に横になってる俺を見下ろしてきたからだった。
真っ白の陰陽師のような衣装を纏われ、そして、和室の畳の上なのに、真っ黒のミリタリーブーツを履いたまま、というお姿の人がいる!
俺は水から上がったばかりの金魚か鯉の気持だ。
慌てて上体を起こしてみてもそれ以上動けず、ぱくぱくとしか口を動かせない。
俺の度肝を抜いた男は、平埜とすぐりが何度も口にしていた、彼に違いない。
太陽みたいに金色に輝く羽を部屋いっぱいに見えるぐらいに大きく広げ、その輝きによって俺に眩しい太陽の光を注いでいるのだ。
彼こそ屋久島の天狗様、白谷雲水狭日高上人様。
艶のあるマホガニーブラウン色の髪は、額と眉が出ている前髪の短いマッシュに見えるが、襟足は少々長く後ろで結んでいる。そこが雅と言うか、真っ白の陰陽師のような衣装によく似合っていた。
そしてそして、にこやかに俺を見つめる瞳は、あの苔むした森を想起させる、モスグリーとダークグリーンでできた宝石だ。
彼の尖った顎は中性的でもあるが、彼を女性的だなんて誰も言えないだろう。
侮ったら潰されそうな威圧感や存在感ばかりを、彼から感じられるのだ。
つまり、平埜と同じぐらいに怖い人だ。
神様だもんな。
俺はごくりと唾を飲んでいた。
「あれ?久しぶりなのにリアクション弱いな。もしもーし。」
日高さんはせっかくの神々しい威圧感を簡単に脱ぎ棄てられた。
でも、初対面みたいな人間の頬をツンツンつつくのは止めて欲しい。
「あの、すいません。俺は去年の記憶がありませんので。」
「ええ、うっそ。戻って来たら自動回復じゃないの?そうしとかなきゃ、吾らは客人に対して同じ説明を何度もくりかえさなきゃやん?それって、鬼のように面倒だって思わん?」
「えっと、俺もそう思いますけど、実際に前回の記憶が俺にはありませんので。あの、すぐりや平埜さんが言っていた、日高さん、でいらっしゃいますよね?」
日高さんは登場時のあの雰囲気台無しになるぐらいに、自分の金色の翼をヒヨコみたいに二度三度パタパタさせてから翼を閉じた。
それから俺への返答代わりに、にへらっと笑った。
返答代わりと言うか、なんか企んでいるみたいな表情だ。
「あの、恐れ入りますが俺には前回の記憶が無いので、少しだけでも教えて頂けますと嬉しいと言いますか。ええと、俺と日高さんのことについて。」
「うーん。吾らは、こいびと、かな。あいじん、でもいいかな。」
「え?」
「だってさ。君に記憶が無いってことは、いくらでも上書きしてもいいよってことやろ?吾は優斗を可愛がりたい。優斗は吾との関係をどうしたいのか、好きなのを選んでもいいよ。選択肢は鬼のようにある。」
「え、ええ?」
「神が人を惑わしてどうする!」
大きな怒号が俺が寝ていた部屋に響いた。
俺の部屋の襖がスパーンと開いて、怒り顔の平埜さんが立っていた。
俺は驚いただけで彼が怖いと感じなかったのは、彼が怒ってるのは日高に対してであり、彼が背中にすぐりを貼りつけた状態で朝ご飯が乗った大きな盆を持っている、そんなお姿であったからであろう。
ウグイス色の丹前に白い割烹着。
どこのオカンだという格好だ。
「日高!優斗の寝室に土足で入るとは!」
平埜に振り返っていた日高は俺に顔を戻すと、目玉をぐるっと回して見せた。
そして俺にだけ聞こえる音量で、むっつりかたぶつやろう、と呟いた。
「ひだか!」
「わお。鬼のような地獄耳は健在やん。」
「煩い。とにかく部屋から出ろ。優斗の部屋を泥まみれにするとは何ごとだ!」
日高は大きく溜息を吐くと、のっそりと立ち上がった。
それから体の向きを完全に戸口の平埜へと向けた。
線が細いように見えていた日高であったが、こうして平埜と並ぶと遜色なく大男であったと驚くばかりだ。また、日高が俺に背中を完全に見せて羽を少しだけ開いた立ち姿な事で、日高が俺の壁になってくれたような気がした。
俺を守っている?
「日高は君を手放そうとしないのだ。」
昨夜の平埜の台詞が頭の奥で再び響いた。
先程の日高の軽口は冗談どころか、本当に俺と日高は恋人とか、だった?
ええ?うそ!
混乱する俺の目の前で、日高が小馬鹿にしたような声を上げた。
「平埜さん、君んところは永久凍土すぎて忘れちゃったかな?吾が運びし土は優斗には産土やん。産土から離れることで人は病弱になる。吾は大事な優斗に産土を与えただけだ。」
「産土?あの、日高さん。俺は出生地は新潟ですよ。」
「いいや。君は吾の子だ。吾の地で生まれ、元服の年に吾の祝福を受けた。」
後ろ向きのまま日高は答え、そして彼は、そのまま平埜の方へと歩きだした。
戸口ですれ違う時に、日高はわざと平埜に肩をぶつけた。
「おい。味噌汁が零れるだろうが!」
「面倒ごとが好きなお主やろ?それぐらいでガタガタ言うな。」
「日高。」
「着換える。お主の服を借りるぞ。ここは鬼のように寒くてしょうもない。」
日高は廊下へと消えていき、その代わりに平埜の背から飛び降りたすぐりが部屋に入って来た。それで、俺の胸に甘えるように抱きついてきたではないか。
すぐりは大人天狗達の諍いはいつもの事であるかのように平気顔であったが、やはり好きな人達が喧嘩する姿を見るのは辛いものがあったのであろう。
俺は笑顔ですぐりを抱きしめたが、戸口に残る平埜に対しては氷対応にした。
偉い天狗様に対するには不敬だろうが、ちゃんと話して貰おうか、そう見える表情を平埜に向けたのである。
平埜は、あれ、嬉しそうに笑った?
なぜだ?
平埜に傷つけられたと涙を流していたくせに、気が付けば眩しい朝日に刺激されて瞼を開けているという有様だ。
泣いた後の数分後の記憶が無いって、凄いな。
あの後の俺はすぐに寝たのか。
確かに、残酷な子供だな。
「おはよう。吾がいとし子よ。鬼のように眠ってないで起きようか。久しぶりの吾であるぞ。」
「はい?」
俺の上に影どころかさらなる眩い光が落ちた。
それは平埜と同じぐらいの大男がしゃがんだ姿で、布団に横になってる俺を見下ろしてきたからだった。
真っ白の陰陽師のような衣装を纏われ、そして、和室の畳の上なのに、真っ黒のミリタリーブーツを履いたまま、というお姿の人がいる!
俺は水から上がったばかりの金魚か鯉の気持だ。
慌てて上体を起こしてみてもそれ以上動けず、ぱくぱくとしか口を動かせない。
俺の度肝を抜いた男は、平埜とすぐりが何度も口にしていた、彼に違いない。
太陽みたいに金色に輝く羽を部屋いっぱいに見えるぐらいに大きく広げ、その輝きによって俺に眩しい太陽の光を注いでいるのだ。
彼こそ屋久島の天狗様、白谷雲水狭日高上人様。
艶のあるマホガニーブラウン色の髪は、額と眉が出ている前髪の短いマッシュに見えるが、襟足は少々長く後ろで結んでいる。そこが雅と言うか、真っ白の陰陽師のような衣装によく似合っていた。
そしてそして、にこやかに俺を見つめる瞳は、あの苔むした森を想起させる、モスグリーとダークグリーンでできた宝石だ。
彼の尖った顎は中性的でもあるが、彼を女性的だなんて誰も言えないだろう。
侮ったら潰されそうな威圧感や存在感ばかりを、彼から感じられるのだ。
つまり、平埜と同じぐらいに怖い人だ。
神様だもんな。
俺はごくりと唾を飲んでいた。
「あれ?久しぶりなのにリアクション弱いな。もしもーし。」
日高さんはせっかくの神々しい威圧感を簡単に脱ぎ棄てられた。
でも、初対面みたいな人間の頬をツンツンつつくのは止めて欲しい。
「あの、すいません。俺は去年の記憶がありませんので。」
「ええ、うっそ。戻って来たら自動回復じゃないの?そうしとかなきゃ、吾らは客人に対して同じ説明を何度もくりかえさなきゃやん?それって、鬼のように面倒だって思わん?」
「えっと、俺もそう思いますけど、実際に前回の記憶が俺にはありませんので。あの、すぐりや平埜さんが言っていた、日高さん、でいらっしゃいますよね?」
日高さんは登場時のあの雰囲気台無しになるぐらいに、自分の金色の翼をヒヨコみたいに二度三度パタパタさせてから翼を閉じた。
それから俺への返答代わりに、にへらっと笑った。
返答代わりと言うか、なんか企んでいるみたいな表情だ。
「あの、恐れ入りますが俺には前回の記憶が無いので、少しだけでも教えて頂けますと嬉しいと言いますか。ええと、俺と日高さんのことについて。」
「うーん。吾らは、こいびと、かな。あいじん、でもいいかな。」
「え?」
「だってさ。君に記憶が無いってことは、いくらでも上書きしてもいいよってことやろ?吾は優斗を可愛がりたい。優斗は吾との関係をどうしたいのか、好きなのを選んでもいいよ。選択肢は鬼のようにある。」
「え、ええ?」
「神が人を惑わしてどうする!」
大きな怒号が俺が寝ていた部屋に響いた。
俺の部屋の襖がスパーンと開いて、怒り顔の平埜さんが立っていた。
俺は驚いただけで彼が怖いと感じなかったのは、彼が怒ってるのは日高に対してであり、彼が背中にすぐりを貼りつけた状態で朝ご飯が乗った大きな盆を持っている、そんなお姿であったからであろう。
ウグイス色の丹前に白い割烹着。
どこのオカンだという格好だ。
「日高!優斗の寝室に土足で入るとは!」
平埜に振り返っていた日高は俺に顔を戻すと、目玉をぐるっと回して見せた。
そして俺にだけ聞こえる音量で、むっつりかたぶつやろう、と呟いた。
「ひだか!」
「わお。鬼のような地獄耳は健在やん。」
「煩い。とにかく部屋から出ろ。優斗の部屋を泥まみれにするとは何ごとだ!」
日高は大きく溜息を吐くと、のっそりと立ち上がった。
それから体の向きを完全に戸口の平埜へと向けた。
線が細いように見えていた日高であったが、こうして平埜と並ぶと遜色なく大男であったと驚くばかりだ。また、日高が俺に背中を完全に見せて羽を少しだけ開いた立ち姿な事で、日高が俺の壁になってくれたような気がした。
俺を守っている?
「日高は君を手放そうとしないのだ。」
昨夜の平埜の台詞が頭の奥で再び響いた。
先程の日高の軽口は冗談どころか、本当に俺と日高は恋人とか、だった?
ええ?うそ!
混乱する俺の目の前で、日高が小馬鹿にしたような声を上げた。
「平埜さん、君んところは永久凍土すぎて忘れちゃったかな?吾が運びし土は優斗には産土やん。産土から離れることで人は病弱になる。吾は大事な優斗に産土を与えただけだ。」
「産土?あの、日高さん。俺は出生地は新潟ですよ。」
「いいや。君は吾の子だ。吾の地で生まれ、元服の年に吾の祝福を受けた。」
後ろ向きのまま日高は答え、そして彼は、そのまま平埜の方へと歩きだした。
戸口ですれ違う時に、日高はわざと平埜に肩をぶつけた。
「おい。味噌汁が零れるだろうが!」
「面倒ごとが好きなお主やろ?それぐらいでガタガタ言うな。」
「日高。」
「着換える。お主の服を借りるぞ。ここは鬼のように寒くてしょうもない。」
日高は廊下へと消えていき、その代わりに平埜の背から飛び降りたすぐりが部屋に入って来た。それで、俺の胸に甘えるように抱きついてきたではないか。
すぐりは大人天狗達の諍いはいつもの事であるかのように平気顔であったが、やはり好きな人達が喧嘩する姿を見るのは辛いものがあったのであろう。
俺は笑顔ですぐりを抱きしめたが、戸口に残る平埜に対しては氷対応にした。
偉い天狗様に対するには不敬だろうが、ちゃんと話して貰おうか、そう見える表情を平埜に向けたのである。
平埜は、あれ、嬉しそうに笑った?
なぜだ?
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