神隠しは天狗の仕業といいます、が

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天狗と家なき子

みんなで朝ご飯は不穏を呼ぶ

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 平埜が日高が汚したと責めた室内の泥だが、そんなものは日高が室外に出るや俺の目の前で見えない箒で勝手に掃き集められ、しゅんと音がするような感じで一瞬にして消えた。

 すごい。
 さすが迷い家という妖怪屋敷。

 全てが片付くと、ようやく朝ご飯の盆を抱えた平埜が部屋に入って来て、その盆を俺の部屋の座卓の上に置いた。彼が運んできた大きな盆に乗っていた、恐らく日高の分は無い俺達三人分の朝食は平埜によって次々に並べられ、いまや美味しそうな湯気を立てて俺に食べろと誘っている。

 凄いよ、料亭かよって感じの七品もある朝食だよ。
 焼き魚に出し巻き卵に煮物に茶わん蒸し、あと、白米の為の漬物と一口サイズの明太子が盛られた小皿?
 青森なのに?
 これは日高からの土産物なのかな?
 屋久島は鹿児島で博多じゃないのに?
 鹿児島だったら、サツマイモにさつま揚げとかじゃね?

 出身不明の明太子は俺を混乱させたが、とりあえず俺達三人分の七品は、俺の部屋の座卓を華やかにぎゅうぎゅうにしている。
 そこであの広い居間の大きな座卓を思い出し、どうしてあそこで食べないのか?そう一瞬だけ思った。一瞬だけですぐに思い直したのは、居間よりは狭い俺の部屋の方がなんだか家庭的だと俺が感じたからである。だから俺は平埜の好きなようにさせたのだ。
 すぐりが消える可能性、俺がそれを思い出してしまったからかもしれない。

 俺の腕の中で俺に必死にしがみ付いている、こんなに可愛くて寂しがり屋の子供が、単なる鴉になって一人で生きていかなきゃいけないなんて!

 それを考えただけで俺の胸こそ張り裂ける。

「ユウト?お腹空いていないの?ご飯食べないの?」

 俺は涙が出そうだ。
 五歳児に気を使わせてどうする。
 俺はすぐりに微笑み返しながら彼を俺の横に座らせ直し、俺はスプーンを掴むと茶碗蒸しを掬って一口食べた。

「うん美味しい。ご飯がどれも美味しそうで、俺はどこから食べようか迷っちゃった。すぐりはどれを作ってくれたのかな?」

「オレは今日はお運びだけだよ。おとーさんの背中で寝てた。」

 それはお運びした事にもならないんじゃないのか?
 そう思ったが、俺はすぐりの頭を偉いと褒めながら撫でた。
 そして、俺を伺う視線で睨んでいる男に対して、美味しいです、と口パクだけで感謝を伝えた。おや、平埜が唸った?

「今朝のこれは迷い家が作った。我も運んだだけにすぎん。」

「でも、すぐりと平埜さんに運んで貰ったから美味しいんじゃん、ねえ。」
「だよだよ!」

 俺とすぐりは顔を合わせて笑い声をあげ、俺はその楽しい気分のまま天井を見上げて大声もあげた。

「おいしいですよ、ありがとうです、迷い家さん。」

 ちゅ、とてかたた、ちゅちゅ、とてかたたた。

 天井からの返しは、複数の鼠が楽しそうに走り回っている物音だった。
 俺は昔話で鼠達が餅をついている話を思い出していた。
 鼠が飯を作っていたのか?
 俺の貧相な脳みそはハートフルなアニメ絵の鼠が衛生的に料理する場面を想像せずに、過去に飼ったハムスターが共食いしている映像を俺に思い出させた。
 あるいは、側溝の穴から這い出てきたドブネズミの姿とか。

 木の軋みという家鳴りの方が、実は感覚的に衛生的に思えて良かったな。

「ふふ。ユウトがご飯がおいしいって変な顔するのは、昨日のおとーさんと同じなんだね。おとーさんもユウトのご飯をうれしーしてた。うれしーしすぎてとっても変な顔だった。」

 俺は苦虫を噛み潰した顔で俺が作ったハンバーグを食べていた平埜を思い出し、あれは俺の料理を喜んでいたからこその顔だったのかと、吹き出した。
 彼は一口一口噛みしめて堪能してくれていた?

「ユウト?」

「いや。あはは。そっか、美味しかったんだ。でもさ、不味いご飯だったら、平埜さんはニコニコ顔をするのかな。」

「た、多分な。作ってくれた者に不味いと知らせられない。」

 平埜は真面目な顔を真っ赤にさせ、固い口調で俺とすぐりの会話に言葉を挟んで来た。その様子が面白いとツボに入った俺は、なんと天狗な彼を揶揄う気安い台詞を言っていた。

「あなたは優しいんだか、不器用なんだか。」

「単なる阿呆だと思うなあ。優斗よ。」

 平埜は一瞬で顔をいつもの無表情の固いものに変え、歌うような口調で言葉を吐いた男は俺の横に無理矢理に座って来た。驚いた事に日高は自分の分の食事セットを持って来ていたらしく、さらに座卓をぎゅうぎゅうにして自分の皿を並べた後、俺の横で当たり前のようにして飯を食べ始めるじゃないか。
 そして、平埜は日高の姿に対して、牛のような唸り声を上げた。

「いいやろ、ここは寒い。」

 日高は平埜の服を借りると言っていた通り、平埜のものらしい着物に着替えていたが、そこに平埜が昨日羽織っていたどてらを着込んでいるのだ。

「お前の服だって我が家にあるだろう。なぜわざわざそれにした?」

「お主の考えをお主の大事な着物に袖を通すことで知れるかなって思った。だって、おかしいやろ?吾らは客人に忘却の暗示をかけるが暗示だけだ。決して、記憶そのものを奪ったりなどしないぞ。」

 俺はぞくっとした。
 それは俺が平埜と言う天狗に記憶を奪われていた事実を知った事よりも、にこやかな日高が平埜に向ける威圧感が怖かったからだ。

 そして、日高より殺気を受けた平埜は、静かだった。
 動揺なんか何もしていなかった。
 彼は日高の殺気など流し、そのまま食事を黙々と続けるだけなのだ。

 俺は平埜に裏切られたような気持ちで、平埜を見つめるしかなかった。
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