神隠しは天狗の仕業といいます、が

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天狗と家なき子

君は吾の子大事な吾子

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「だって、ユウトをこっちに連れてきたのはオレだもの。」

 俺にすまないと思い続けていたらしく、すぐりは罪人そのものみたいにがっくりと頭を下げている。
 確かにこの世界に連れて来られて最初は戸惑ったけれど、家に帰りたくなかったと町を彷徨っていたのは俺なんだよ?君は助けてくれたんだ。俺はそんな気持ちを込めてすぐりの頭を撫でた。

「まあ、そうだけど、さ。でも俺は家出してたところだったし。逆に助かったって感じだって。」

「前のときも!なの。だって、ユウトが死んじゃいそうだったから。」

「え?」

「でも、ちゃんとユウトのお願いの通りにしたよ。ユウトが思い出の場所に行きたいって言ったから、オレ、日高の森にちゃんとユウトを連れて行った。」

「前の時は俺が死にそうだった?」

 すぐりはこくんと頷いた。
 それから俺に顔を上げた彼は、昨年の俺が日高の家でなく平埜の家にて過ごすことになった本当の理由を告白した。

「でも、でも、ニンゲンカイで死んじゃうんだったら、オレの家でオレのお母さんになってもいいよねって思った。だから、オレは日高の森からすぐにオレの家に移動したの。ユウトは日高の森で死にたいって言ったのに。だから、ごめんなさい。なの。」

 平埜が俺から記憶を奪った理由はこれか?
 そうだ、こんな事を聞いて、こんな憐れな子供を俺が見捨てられる訳はない。
 俺はすぐりを抱きしめた。

「いい、から。俺は生きていられる方が好きだし。ぜんぜん君は悪くないから。」

「ごめんなさい。」
「いいから。」

 そして彼に囁いた。
 やっぱ明太子貰うぞ、って。
 俺の腕の中ですぐりはくすくす笑い出し、俺はあと二日で別れねばならないこの哀れな子供を想って、さらにさらに強く抱きしめた。
 そのせいで俺は自分が寝ていた布団を振り返るような姿勢となり、俺の視界の中に俺とすぐりが寝ていた布団が入り込んだ。

 シロタロウが布団の中で転がっている。

 俺が人間界に帰る時にすぐりに買ってやった抱きぬいぐるみ、と、すぐりが言っていた奴だ。

「帰ったじゃないの。そうだよ、俺は記憶ある昨年も自宅に戻る選択してるじゃないの。俺の記憶消す意味無いでしょう。どういうことだよ、おい、平埜!」

 平埜は俺から視線を背け、日高は、ざまあ、と平埜に言って笑い出した。

「笑うところじゃないでしょうよ!」

「ハハハ、そうやな。吾は平埜に奪われた君の記憶は返してやれない。が、大事な君が命を失う理由となった事ならば吾は教えてあげられる。優斗は知りたいかな?もしかしたら、君が君でいられなくなるやもしれんが。」

「俺は俺でしかなれないと思いますよ。って、わあ。」

 俺は日高の腕の中にいた。
 俺の腕の中にはすぐりがいたままであるが、長い腕の持ち主である日高は俺達を丸ごと自分の懐に入れてしまった。
 でもって、俺の頭は彼に頬ずりされた?

「日高、さん。」

「吾の子だ。吾の世界で生まれ、吾の世界から奪われた大事な子。元服した君を祝いたいがために吾は君を呼んだ。覚えているかな。始終不貞腐れた顔をした君なのに、それでも吾が森に圧倒され、吾が森に心を捧げたあの日の事を。」

 俺にとって家族というと屋久島の家族旅行を思い浮かべるのは、そこに日高が介入していたからという事か。
 アウトドアを好まない両親が計画したあの日の旅行こそ、日高が俺を呼んだからだったのか。

「あの日の旅行は家族の思い出。素晴らしき一生の思い出になりました。だから、死にそうな俺は、きっとあの森を思い浮かべたのでしょうね。」

「君の家族が偽物だって知ったから、君は過去に逃げようとしたんやろね。吾の森に君は一瞬しか戻って来なかったけれど、あの日に戻って幸せなまま死にたいと願った君の幼気な心は森に残っていた。」

 え?

 俺は恐る恐ると言う風に顔をあげた。
 日高は俺の頬に手を当て、俺の額に口づけた。

 俺の頭の中に、ぶわっと緑の風景が広がった。

 俺が十二歳という年齢だった時の風景ではなく、十八歳の俺が地面に転がりながら見上げたあの日の風景だ。

 父だと思っていた人に、彼が運転する車にて轢かれた俺が、最期に見たいと望んだ風景だった。
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