神隠しは天狗の仕業といいます、が

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君が望まぬとも、我は君を望むだろう

日高の吾子

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 あれは今から六年前だった。
 天の使いという天狗となって我は長いが、同じような身の上の者から初めてとも言える誘いを受けたのである。

「吾子の元服式にお主も参加しないか?」

 我はそれは何だと尋ねた。
 親友、屋久島白谷雲水狭を守る日高上人という名の天狗は、交信用の水鏡の中で、美しい緑の瞳を誇らしそうに輝かせた。

「吾の大事な子供に祝福を与える栄誉だ。お主にもその素晴らしき機会を与えようといっておる。ないだろ?お主にはそんな機会など、絶対に。」

「失礼な奴だな。」

 日高が言いたいのは我が人間のように繁殖出来ないという当てこすりではなく、人間界での我が守る土地と彼の守る土地の状況の違いの当てこすりだ。
 白谷雲水狭も我が守る白神山地のようの人の立ち入りが禁止されている所もある世界遺産であるが、我の土地と違って彼の土地は観光客がひっきりなしに訪れるというエネルギーが活性化している場所でもあるからだ。

 活性化したエネルギーを人が浴びたらどうなるのか。
 新たな命を身に宿しやすくなるのだ。
 そして、そんな人間達が産んだ子供は、全て日高の氏子という子供となる。

「だが、珍しいな。子供はいっぱいいるはずだろう?そこまで肩入れする子供は初めてではないのか?」

「優斗が生まれた日はな、あの鳳凰野郎が泣いた日だ。生まれた赤子が徳の高い者である時に、鳳が朝日に向かって鳴いてお知らせするものやろ。」

「無理矢理に鳳鳴朝陽ほうめいちょうようを持って来たか。大体あの鳳凰は違う意味で泣いたと思うがな。だが、あの森羅万象界を騒がせたあの有名な日に生まれた子だったのか?それじゃあ、思い入れはかなりあるな。」

「ハハハハ。それでどうする?吾子に祝福できるという栄誉をお主にも授けて存じようぞ。」

 俺は日高の申し入れを受けていた。
 人間に祝福を与えるなどと、天の犬でしかない天狗が何を奢り勘違いしているのかと笑いながら、我は日高に感謝もしていた。我らは仙人となり長い命を与えられたがゆえに、家族も無く繋がりもない。自分が人の成長を祝える家族行事のようなものに参加できることは、永遠の孤独の中で光を得た様なものなのである。

 実際、我は光を得た。
 日高の地に出向いた我は、日高が優斗だけを特別に守ろうと考えた気持ちが分かった、のである。

 優斗はとても可愛らしい子供だった。
 健康的な色合いの肌は日高の土地の人間よりも色白で、我が地や日高の地の男の子がしないような少女のような短い髪で輪郭が飾られている。理知的に輝く黒い瞳には空に輝く星も見えるようであり、形の良い唇は色づき始めた桃のようだ。

 我はまず彼の外見に溜息を吐き、それから、彼が見守る幼女達が落とす菓子のゴミを拾い、ついでと関係ないゴミまで拾って自分のポケットに片付ける様に、なんて良い子だと自然と笑いが零れていた。

 十二歳の優斗の体つきは人間の年齢での平均身長であり大き目であったが、彼の骨格から彼はそれほど大きくはならず成人時にも華奢であろうと見当がついた。だが、彼が成長するであろう姿に貧相だと感じるどころか、我は武将義経や扇動者として処刑された天草四郎を思い出していた。だが、優斗に貧相と感じるどころか、我は武将義経や異国の神を奉じて処刑された天草四郎を思い出していた。

 美しき少年の姿だからこそ誰をも魅了し、庇護心や忠誠心を世界を動かすほどに集めてしまった、彼らの事を、だ。
 しかし、だからこそ彼らは若くして不幸に生を閉じたのだ。

 我は優斗を不幸から守る。

「我は君の吾子に完全なる庇護を与えよう。我が力が及ぶ範囲では、何者も彼を傷つける事は許されない。」

「ハハハ。吾と同じ祝福か!まあええやろ。吾は南だけやんな。」

 我らは十二歳の少年、両手に年の離れた少女の手を引き、それが苦行で仕方が無いと顔を歪めている彼を見つめた。

 彼を見つめるだけで、まぜ我は幸せな気持ちになるのだろう。
 天への感謝しか湧かないのだ。

 天狗と言わず、不老不死の者達は、寿命のある生き物たちのひたむきな生きる様を見つめるのはもともと好きなものだ。
 眺める事で気持が華やぎ、恐らく長く生きる者ならば必ず付き合わねばならない孤独、それをひと時でも忘れられるからだろう。

 だが、優斗に対してそれだけではない気持ちが湧くのは、彼が我の前を通りすがるだけのその他大勢ではなく、己が守れる大事な存在となったからであろうか。そうであれば尚更に、優斗が生きて動いていることに、我は全てを捧げてかねばならないだろう。

 ただし、眺めて楽しいのは、優斗が顔に浮かべている表情にもあるだろう。

「日高よ。あの子はどうしてあんなにも嫌々顔をしておるのだ?」

「吾を悦ばせようと小者達も思ったのか、鬼のように続々と昨夜のうちに優斗に挨拶に出向いたそうだからかな。人間特有のトラウマ、かな?吾の森はお主の所と違って虫の宝庫でもあるやん。」

「我の所は人が悲鳴を上げる虫がいないだけだ。ああ、わかった。ミヤマカラスアゲハやベニトンボならば誰もが喜びそうだが、優斗に挨拶に行った奴らは違う虫を選んだのだな。」

「優斗が宿に入ったのが夜だったからねえ。昼間だったら良かったのに。夜だからね、ヤスデや流し虫、それからワモンゴキブリの姿でご挨拶だったかな。ハハハ、優斗の鬼のように可愛い悲鳴が聞けたねえ。」

「最悪だな、お前は。」

「愛する者の全を手に入れたいと思うは、森羅万象、この世の理やな。」

「最悪だ。」

 本当に最悪だった。
 その後の我は、優斗を忘れられなくなった、のである。
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