神隠しは天狗の仕業といいます、が

蔵前

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君が望まぬとも、我は君を望むだろう

手放せない君

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 優斗を抱きかかえて自分の部屋に戻ってみれば、なんと片付けられていたはずの布団が敷き直されているではないか。

 それも自分が昨夜に使っていた布団ではない。

 新たに敷き直されていたものは、真っ赤な敷布団に花札のような絵柄が描かれた掛布団という、まるで江戸時代の春画のような派手派手しさのものである。

 我はその風景を目にし、迷い家からの自分への応援と受け取るどころか、春画の行為を優斗にしようとしている自分への意趣返しにしか思えなかった。
 お前は優斗の秘所にその凶器を突き立てたいのであろう?
 そう突きつけられているようにしか思えなかったのである。

 迷い家め。
 我は心の中で毒付いた。
 それでも体の奥底からの己の欲情を消すことなど出来やしない。
 我の腕の中にはずっと想い続けてきた愛すべき人がいるのだ。
 我は自分が為そうとしている行為を思い直すどころか、優斗の体をそっと布団に横たえた。

「平埜さん?」

 横たえられた優斗が不安そうな声を上げた。
 それはなぜかと我は現状を見返して、自分の視界が自分に突きつけた優斗が脅えているわけという情景を知った事で、我は自分を嘲るしかなくなった。

 我が自らの手から優斗をすんなりと手放せるわけなど無いのだ。

 気が付けば我は我の襟元を掴む彼の手を掴み、彼の手の甲に頬ずりをした上に舐めるようにして口づけていたのである。一瞬でも彼を手放したくはないという我の業の深さには、自分自身で呆れるばかりだ。
 それなのに、我は彼の手を解放などしなかった。
 意識をしたからこその接吻を優斗の手の甲に与えたのだ。

「ひら、平埜さん。」

 そんな我に優斗が再びあげた声は、脅えでも嫌悪感でも無かった。
 我の接吻によって呼び覚まされた何かがあると告白しているも同然の、普段よりも浮ついて掠れた声である。
 我は口づけていた優斗の手を裏返して、彼の手の平に唇を埋めた。
 はふっと、優斗の唇から吐息が漏れた。

「優斗。我も出したい。それは受け入れて貰えるだろうか。」

 優斗。君を愛している。そんな我を受け入れて貰えるだろうか。

 どうしてこちらの真実の言葉こそ言えないのか。
 拒絶される事が分かっているからか?
 何百年も生きている天狗が情けない。

「素敵な方ですよね。」

 優斗が憧れの目で日高をそう評した時の記憶が、我の頭の中に浮かんだ。
 続けて、優斗がすぐりに語っていた我を避けていた理由の言葉も。

「あんな高い洗濯機を買っちゃったんだよ。だから俺は余計な事を平埜さんに言わないようにって気を付けているのに。」

 我は日高と違う。
 我は優斗が心苦しくなるものを押し付ける事しか出来ない男だった。
 優斗の日高と我への評価は、きっと、いいや、確実に全く違うものであろう。
 我は先の言葉を急に取り消したくなった。

 違う。
 取り消すどころか先に進みたいが、我は自分を抑えるべきなのだ。
 優しい優斗に本気で嫌われる事が無いように。
 我は掴んでいた優斗の手を離した。

「忘れてくれ。我は自分で何とかす――。」
「受け入れます!」

「え?」

「も、勿論です。おれ、俺は、平埜さんの役に立ちたいもの。」

 優斗は両腕をあげ、我の頬を包み込むように彼の両手を当ててきた。
 我はその感触だけで天に昇るほどの高揚を得たが、その心のまま、自分が彼を愛していると告げる事など出来ないと奥歯を噛みしめた。

「平埜、さん。」

 歯噛みした事でさらに我が下半身が猛るとは!
 我は大昔の武士が切腹するような勢いで、己が着る浴衣を体から剥ぎ取った。

 浴衣の下は下履き以外は何も身に着けてない。
 日高と違ってしなやかさも無い頑強な肉体と、優斗を貫きたいと我を追い立てる凶器の存在を優斗の目に晒したのだ。いや、下半身に関しては優斗の瑞々しい腿の辺りをついて存在を知らしめたと言うべきか。

 そんな我の体を知って優斗は脅えたのか、慄いたのか、彼は目を丸くして全身を硬直させただけでなく、我に当てていた両手の指先を我の頬にめり込ませる勢いで力を込めた。

「不格好で怖いか?日高と違って我はケダモノのようだものな。」

「いいえ。あの、凄い筋肉だなって。あの、美しいです。あの、俺の体は貧弱でみすぼらしいから。」

「優斗にみすぼらしさなどあるものか!」

 我は怒りの声を上げ、優斗の浴衣を縛る帯を解いて抜き捨てた。
 彼に彼の素晴らしさを教え込むためにと!
 我の剣幕に慄いたのか優斗は我から手を剥がし、我は優斗から自由になったからこそ優斗の浴衣の打ち合わせを大きく開いた。
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