神隠しは天狗の仕業といいます、が

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君が望まぬとも、我は君を望むだろう

我には君への誓いがあるというのに

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 優斗は我によって浴衣をはだけさせられた。
 しかし彼は我と違って肌着を下に着ていたので、素肌を晒すという事にはならなかった。が、我を呆気に取らせることに彼は成功していた。

 彼が身に着けていた肌着が、これはまた優斗らしい悪戯心に満ちたものだったのである。

 下履きと肌着を組み合わせて着る事で、彼がすぐりに買って与えた変な服の色違いのお揃いに見えるというものだ。
 しかし、すぐりの服が厚手素材の布地であるのとは違い、優斗の下着は綿よりも薄くてしなやかな不思議な素材である。さらに肌着が細身の造りであるからか、彼の若く瑞々しい肉体を浮き彫りにさせ、我が知らなかった布地の素材は単なる灰色を銀色と想像させる色合いで我の目に映るのだ。

 そんな肌着姿の彼の姿を目にした事で、我の頭の中は川でぴちぴち跳ねる若鮎でいっぱいとなった。
 洗面室で浴衣を完全にはだけさせなくて良かったと笑い出しながら、自分の性衝動を一先ず抑え込んだ憎らしい彼の趣味に仕返しをすることにした。

「きゃっ。」

 肌着の上から優斗の左乳首のあたりを鼻先で擦ってみただけであるが、優斗は可愛い悲鳴を上げるや魚のように撥ねたのだ。
 感じてる!
 すると、抑えられていたはずの性衝動が我の理性に打ち勝ってしまった。
 いいや、我がいい気になっただけだ。
 優斗を感じさせたぞ、と。

 我は優斗の耳元に唇を寄せると、彼の耳に唇で撫でるようにして囁いた。
 もっと彼から性の感覚を引き出せるように、と望みながら。

「君はしなやかで美しい。まるで若鮎のようだよ。」

 しかし、優斗は我からの賞賛に喜ぶどころか不貞腐れた様な顔を作った。
 その上、我が掴む彼の浴衣の布地を奪い返そうと掴んで来たのである。

「どうした?急に不機嫌となって。」

「どうせ俺はお子様ですよ。平埜さんに比べると色黒かも、だし。若鮎も可愛いお菓子だから褒めてくれているのかもですが、男にお菓子みたいってのは。」

 我は吹き出していた。
 なんて可愛いと、ああ、我は優斗抱きしめていた。
 まるで恋人にするようにして、まるで添い寝の続きのようにして、我は笑いながら彼を抱き締めて布団に転がっていたのだ。

「平埜さん!」

「ハハハ。我が言った若鮎は、漁が解禁されたばかりの瑞々しい若い鮎のことだ。頭から尻尾までむしゃむしゃと食べてしまえる、美しき魚の事だ。ハハハ。川魚に例えられるのも嫌かな?」

「そ、それならいいです。俺も鮎は大好きだし。」

 我の胸に抱きしめられ、我の腕の中で我を見上げる優斗の表情は、いいと言っていながらいいとは思っていないような微妙なものだった。
 さっきよりはマシだけど、そんな文字が見えそうだ。

「ハハハ。鮎をカワセミに変えようか。ハハハ、その嫌そうな顔。そんな風に頬を膨らませると、その不思議な肌着と相まって、まるで信長が愛したという浄厳院じょうごんいんの阿弥陀如来像のようだぞ。」

「い、いいです。もう!あなたも日高さんも俺を揶揄ってばかりです。」

 我の高揚した気分は一瞬でぺちゃんこに潰れた。
 いいや。
 潰れたのは上機嫌であり、我の中の性衝動はさらに燃え立った。
 嫉妬という炎を受けて。

「あいつは君になんと言ったんだ?」

 あいつは君に何をしたんだ?
 こうして君を抱き締めたのか?
 我は優斗をさらに引き寄せて抱きしめる腕に力を込めた。

「あいつは君をこうして抱いて、我のように揶揄ったのか?」

 我が囁くと、優斗は彼を抱く我の腕に自分の腕を絡めてきた。我はそれだけで胸がじんと熱くなったが、彼自身はその気安い行為は特に思い入れも無い無意識な行動でしかないであろう。まるで赤ん坊が大人の指を握り返すような、そんな単なる反射的行為でしかないはずなのだ。
 そう、我に向けた表情が、なんだかほんの少し我に甘える様にみえるのも、それこそ我の願望が作り上げた幻であろう。

 いいや。
 日高の言葉によって優斗が傷ついていたとしたら?

「ゆうと?日高は君に何と言ったのだ?」

「すぐりと俺がヤクシマザルの親子にしか見えないって。ひょいひょい人里に行って困った事になる所も一緒だって。ひどいです。」

「――それはあいつなりに君を叱ったんだな。」

「わかってます。俺の判断で平埜さんと日高さん達にご迷惑をかけた事は。でも。」

「でも?」

「すぐりにあげた俺のゲーム機を喜んでいるのは日高さんこそですよ?」

 俺は思わず馬鹿笑いをしてしまった。
 そんな俺の素振りを受けた優斗は頬を真っ赤に染めると、彼にしては思いっきり不貞腐れた顔を作った。
 我が優斗を見い出したあの日を思い出させる表情だった。

「君は表情が豊かだな。日高の森で顔をくしゃくしゃにしていた君は本当に可愛らしかった。」

「え?あの、日高さんが弥彦様に俺の親だって言ってくれたのって、あの、俺が十二歳の時に屋久島に行ったからですか?でも、そこにあなたもいた?」

 我は優斗の顔を目元から頬にかけて右手の指先でなぞった。
 彼が浮かべる訝しさを表す皺を伸ばすような気軽な仕草であったが、我にはこれ以上ない恋人のような親密な素振りであると分かっていた。
 きっと明日からは出来はしない今だけの振る舞いなのだという事も。

「平埜さん。」

「君はもともと日高の加護のあるあの地にて生まれた子だ。彼は元服した君を祝いたいそれだけで、君達一家を屋久島に呼び寄せたのだ。親友である我もな。」

「では、平埜さんも俺の親みたいな気持ちですね。親だから、俺の恥ずかしいこんな悩みを解消しようなんて。」

「だとしたら最低な親だな。」

 我の声には自嘲こそが強くなっていた。
 そうだ、我は誓ったではないか。
 我が守護する地においては、我は優斗を何者からも守り慈しむと。
 その我が彼を汚そうとしている一番の悪鬼となってるとは、と。
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