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君が望まぬとも、我は君を望むだろう

良い人の仮面を捨てたのならば

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 優斗は初めて見る我の笑みに目を丸くした。
 この笑みは敗退する敵に向けてきたものだ。
 我は追い払って来た異国の神の使いの後ろ姿を思い浮かべながら、喉を鳴らして笑い声を立てた。

「平埜さん?」

「笑えるなって思い出したんだよ。皆が勘違いするからな」

「あの、本当にすいません」

「君が謝ることなど無い。いつもの笑い話さ。ミカエルよりも我の方が天使に見えるんだろう、人間には。もとが人間だった我ら天狗と最初から森羅万象界の生物である天使は違う。人間が描いてきた絵の方が奴らの真実に近いが、自分達の守護者が人型に羽があると想像する方が人間には好ましいのだろうな」

「え、って、その」

「ああ。ミカエルの信者こそ君の言う通りに我をミカエルと信じるのだ。そこで我は彼らの祈りを自分に向けさせてだな、ミカエルから信者の信仰心というパワーを奪う戦法も取って来た」

「え、凄い。え、それでミカエルと何度戦って来たんですか!」

 優斗の体から緊張の硬さが消え、その代わりに好奇心まる出しの瞳をして我の体に自分から寄り添ってきた。我はしてやったと思いながら、優斗の肩甲骨に触れた後、彼の背骨を撫で下ろした。
 彼は再び身をよじり、我は彼の左胸にあった手をも彼の後ろ側に回すと、彼を自分に引き寄せ抱え込み、彼の首筋に吸いついた。

 人間が想像して脅えているらしい吸血鬼がするようにして、我は優斗の首筋にかぶりついたのである。そして優斗は、我に両腕を回してしがみ付いてきた。

 彼はそうするしかなかっただろう。
 首筋の刺激によって彼の下半身にも性感の信号が走るはずだが、それを待ち受けていたかのように我の両手が彼の尻を抱え込んだのだ。

「ひらの、さん」

「そのお話は後でいくらでも、だ。我には性急に何とかしなければいけない問題が出来ている」

「えっと、それは」

「我は出したい」

 我の囁きに優斗は顔を真っ赤にした。
 そしてどうして我たちが抱き合って布団にいるのか思い出したという風に、大きく息を吸って我にしがみ付く腕に力を込めた。

「えっと。では俺があなたのものを撫でれば」

「それはありがたいが、我の体は肉体と肉体の繋ぎ合いの快楽を知っている。だからね、我の体は手だけではいけそうもないんだよ」

「ええと、では?」

 優斗の尻に添えられた両手のうちの一つ、右手は優斗の尻のしたを撫でながら優斗の股の内側へと動かした。指先が足の付け根に辿り着くと、優斗はびくっと体を震わせた。
 今度の震えは性感を教えるものではなく、脅えで体を硬くしただけだ。

「ええと」

「男と男はどこで繋がるんだろうな」

「ええと」

 優斗は再び我に脅えた。
 そうであろう。
 我は優斗のまたぐらに指を差しいれて、自分の凶器をここにこそ差し込みたいと彼に思い知らせたからだ。
 優斗は答えられない状態で、大きく息だけ吐いた。

「我の物を君の両足で挟んでくれるか?」

「でも、中に入れないとって」

「君の太ももに挟まれるんだ。君の中だと勘違いさせるさ」

 優斗は良いも悪いも言わなかった。
 言えなかったのだ。
 言えるはずなど無いだろう。
 彼は我に恩返しを望んでいる。
 そんな彼だが体の中に我を受け入れる事など出来やしない。

 では?

 そうだ。
 我が望んだように我のものを股で挟むという行為を受け入れるしかないのだ。

 我は彼を転がして我から後ろ向きにさせると、一気に彼の下履きを引き下ろし、そうして彼のまたぐらに自分の猛り狂っているものを差し込んだ。
 なんて自分は浅ましいと思いながら。

 愛して守りたいと望む存在に我は何をしているのか。

 けれども我の良心を抑え込んだのは、我に腰を掴まれた後背位で股の間を摺られる事になった優斗が悲鳴を上げる代わりに喘ぎ声を上げたからであろう。

 肛門と睾丸を繋いでいる会陰部と言う何もない場所は、何も無いどころか性感を強く感じる場所であるのだ。
 我の亀頭はそこを擦ってこの上ない刺激を彼に与えている。

 一度も自慰をした事など無い彼だ。
 そして、十数分前に絶頂を味合わされてもいた彼だ。

 彼は我との行為によって感じると喘いでいいるのだ。
 ほら、彼は我の道具を離したくは無いと内腿にさらに力を込めたではないか。

 我が彼に快楽の味を教えてやっている、その証拠だ。
 我はその事実に縋りつき、自分の腰を浅ましい獣のように動かした。
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