【R-18】異世界でお姫さまと眠れ-チートマクラに人外転生-

七色春日

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-13-『レッツゴー・リベンジ!』

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(おおおおっ……やべ……え……死……ぬ)

 かろうじて、壮一の意識は残っていた。

 床に落ち、ただの布きれ同然の状態に陥っていたが、肉の身体でないことが幸いしたのか、完全なる死はまだ訪れていなかった。

 無論、苦痛はあった。
 文字通り、身が裂かれるような痛みが襲われた。

 詰め物の消失は――内包していた羽毛が失われたときの喪失感は、壮一にとって流血と同じ感覚であった。

 全身の虚脱感がひどく。
 悪寒が気力を奪い、生へに執着をひきはがしていく。

「うぅ……マクラさんの残骸集め、
 わりと大変だよぉ」

 ネムエルの姿が、ぼんやりと視界に入る。

 彼女は裂けたマクラの口を開いて物入れ袋とし、散った羽毛を詰め込んでいた。

 修繕も視野に入れているようだ。
 移動する際には、手の平や膝裏で羽毛を押し潰さないように注意している。

 ネムエルがいずれ、縫製ほうせいしてくれるのを待つか。

 いや、間に合わない。
 徐々に近づいてくる死の予兆が消えない。
 意識が消えたときが最期となる。そんな確信があった。

(そ…うだ……ス……キル……
 『自己修復』だ……)

 それは新しく覚えたスキル。
 脆弱な繊維である身を補うためのもの。

 スキルが発現すると、壮一は複数の光の帯に包まれた。

 渦を巻く細い帯には、複雑な模様が刻まれていた。文字は発光し、対象を優しく照らした。効果時計の針を巻き戻すように、マクラは元通りの姿へと修復されていった。

「ふわーっ」

 口を○にしたネムエルは、目の前の光景に感嘆の声をあげた。

 壮一は再構成を終えると、両端の羽根をぶるぶると振った。

 戻った身体の調子を確かめるためだ。

「し、死ぬかと思ったけど……
 たっ、助かったか」

「よかった」

 うれし泣きするネムエルの細い腕が、冷や汗を流す壮一の身体に絡まった。

 ぎゅううううと、力強く抱きしめられる。

 露出したままの乳房が当たり、押し潰される壮一は束の間の幸運を味わった。

 髪の毛から香る石けんの匂いに興奮しつつも、先ほどの事件を思いだす。

「ネムエル……次から、
 強く引っ張るのはやめてな。
 俺も、ちぎれちまうからさ」

「うん。
 でも、シフルに持ってかれたら危ないと思って……」

「……そうだね。
 処刑されてたかもしれないか」

 今日の危機は去った。
 が、明日からはわからない。

 客観的に罪科を考えれば、無知なネムエルに付け込み、不埒ふらちな行為をしているのは間違いない。

 本来ならば、罰せられてしかるべきなのだろう。

 だが、最初こそ無理やりかもしれなかったが、先ほどの悶着からネムエルは同意していることがわかった。当人は意味は深く考えていないかもしれないが、逢瀬を嫌がっているわけではない。

(でも、念のため本人に聞いておこう……
〝特殊なマッサージ〟だなんて嘘をついてたんだから)

「ネムエル。
 あのさ、正直に言うと……
 シフルさんの言うとおり、
 俺のマッサージは女の人にとっては悪いことなんだ。
 本来なら愛し合う人たちがすることで……
 勝手にしちゃいけないことだったんだ。
 だから、君は俺を怒っていいし、
 嫌ってもいいんだ。
 ……そうする権利が君にある」

 壮一は気まずい思いを噛みしめながら、下を向いた。

 浮ついた気持ちで手をだしたことは事実であるし、誤魔化そうとしたのは更に度し難いことだった。

「うーん……。
 あのね。私のパパはね。
 人間さんに悪いことをたくさんしてたんだ。
 だけど、私は大好きだった……。
 それと同じようにマクラさんのことも、嫌いにならないよ
 私は別になんともないし」

 フッと影が差した。
 見上げると、頭上に手。
 よしよしと、頭を撫でられる。

 人間年齢なら二十四歳の壮一は気恥ずかしくてたまらなかったが、我慢した。

 ネムエルは抜けているところがあるが、根は善良なのだ。

 やはり、一緒に居たい――ネムエルが嫌というまでは。

「ていうか、
 マクラさんとするのは……
 気持ちいいから、好き。
 、素敵かな。
 そのニュアンスだけで楽しい気分になる。
 だめって言われても、しようね」

 ネムエルはふにゃりと頬をゆるませ、唇をゆがませて愉悦していた。

 やや邪悪な色を感じる微笑。

 小心者の壮一はおののいたが、落ち着いた方向に進んだと無理やり噛み砕く。ネムエルと寝るのは最高のひとときだ。快楽に溺れながらも、永遠に一緒に居たいと思える。

(さて……シフルちゃんのことはどうする。
 しばらく俺は身を隠すか?
 ほとぼりが冷めるまで……だめだ。
 問題を先送りするだけだ。
 ならいっそ、逃げるってのはどうだ?
 でも、ネムエルは魔王だ……連れて行くと絶対に追われるし、
 今の俺に生活力なんてない……)

「どうしたのマクラさん?」

 腕組みして熟考する壮一を不審に思ったか、座り込むネムエルが声をかけてきた。

 稚気を帯びた黄金瞳が闇の中で光っている。目の前の可愛らしい娘と一緒に居るためには、試練を乗り越えなければならない。

(そうだ。
 一つだけすべてを解決する方法がある)

「ネムエル、心配しないでくれ。
 俺はシフルちゃんを倒す!
 そして、君とずっと一緒にいる!」

「えっ……?
 無理だよ。普通に殺されると思うよ」

「いいや、俺は勝つ!
 勝ってみせるともっ!
 根性だけならあるからな!
 よぉおおおおおっしっ! ステータス・オープンだ!」


 名前:魔王さまのマクラ
 等級:伝説級
 分類:寝具系モンスター
 レベル:8
 能力:【睡眠魔法】
 保有スキル
『自我覚醒』『急速乾燥』『保温効果』『思念操作』『自浄作用』『安眠念波』『人魔の術』『自己修復』『熟睡念波』


 気合を入れて呼びだしたウィンドウ。

 ネムエルにもその存在がわかるのか、文字を目で追っていた。

 他者でも見られるのは意外な事実だが、気にしている暇はない。

(……う、うーん、
 相変わらず俺、ろくなスキルないな)

 当たり前のことながら、闘争用のスキルなどない。唯一使えそうなのは、『安眠念波』の上位互換と思わしき『熟睡念波』か。

 眠らせてしまえば、どんな生物も無防備にはできるが。

「ええっと。
 よくわかんないけど、
 このレベルだと、シフルには勝てないと思うよ。
 五秒くらいで死ぬと思う」

「真正面からはいかないさ。
 当然、寝込みを襲う予定だよ」

「う、うーん……そっかぁ。
 でもでも、心配だよ。
 シフルは魔界でも指折りの実力者なんだよ。
 四魔将って呼ばれてるんだよ。
 マクラさん、冷凍マクラにされちゃうよ」

「アイスノンにされるのは困るな……
 だけど、戦いってのは何も殴り合いだけで成立するものじゃない。
 心配しなくていいさ。
 俺にはとっておきの秘策があるんだ」

「秘策ってどんな感じなの?」

「正々堂々、弱味を握ることだ」

 壮一の真顔でのクズ発言に対して、ネムエルはなんともいえない微妙な顔つきになった。

 苦肉の策ではあるが、戦いでは勝てない。
 話し合いも通じそうにない。

 ならばこそ、からめ手でいくしかないのだ。
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