【R-18】異世界でお姫さまと眠れ-チートマクラに人外転生-

七色春日

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-20-『VIT勇者さんの沼地行』

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 エリア《猛毒湿原》は、魔界の東南に広がる湿地帯である。

 原生林が密生する川辺には、葦(あし)の長い草がぼうぼうと生えている。土壌どじょうもぬかるんで歩きにくく、至るところに死を招く底なし沼が存在する。

 平時は魔界の住人も近寄らぬ忌み地であるが――その日、一人の人影が横切っていた。

「まったく、嫌になりますわ。
 これだから魔界はっ!」

 どぷりと膝まで泥の中に足を沈め、《猛毒湿原》を横切っているリシャーラはこの日、何度目かになる呪いの言葉を吐いた。

 泥土の冷たさは我慢できるが、鼻につく腐臭がたまらない。

 腐らせた魚のように生臭く、喉の粘膜がぴりぴりする。肺を通して血肉すら腐敗されるかと疑うほどだ。

 自慢の軽甲冑も泥まみれ、聖水に清められた輝きを失いかけていた。

「はあ、時間がありませんのに」

 ため息をつく。気分が落ち込んでいく。
 空からの陽光はなく、一帯は薄暗い。
 陰気な暗灰色の雲が、天上にひしめいているせいだろう。

 時折、雲間を走る稲光が大地を強烈に照らすが、耳をろうする轟音を伴って不快だった。

「喉が渇きましたわ。
 お水も尽きそうですし……」

 せせらぐ川の水は、黒色山脈から流出した鉱毒が混じっている。

 いくらは渇きを覚えても、飲むことなどできない。

(枯れてこうべを垂れた木に……
 水辺には迷い込んだ動物の死骸。
 薄気味悪くて、肺に悪そうなよどんだ空気も最悪ですわ……)

 リシャーラは目を閉じ、胸にぶら下げたペンダントを握った。

 気力が萎えそうなときにする仕草だった。

 強く、きつく――祈りを込めて握り締める。

 魔物たちの集団暴走スタンピートで滅んだ故郷を想った。失った家族を想った。妹の最期の笑顔を想った。

 荒ぶっていた心が、深い闇の底へ沈んでいく。

 目を開けた。何も怖くなくなった。自分には、もう失うモノなどないのだから。

「……さて、探索を続けますか」

 気を鎮め終えると、腰に巻いてあった聖水の瓶を引き抜き、コルク蓋を噛み取った。中身をいっきに煽る。

 清潔な水で胃袋を満たすと、いくぶんか気分がましになった。

 リシャーラの目的は、エリアボスの討伐である。

 エリアボスとは、魔物の中でも特に凶悪な個体を指す。

 概ね、賞金がかけられているものであり。

 魔界の外周に位置する国家群の思惑や、人々への害悪度によって金額の多寡(たか)は変わるが、人類の脅威となると|見做(みな)されたモンスターである。

 もっとも、リシャーラは賞金には大した興味はない。

 たが《猛毒湿原》のエリアボスだけは、どうしても倒す必要があった。

「……っと」

 突然、水辺の草木がざわめいた。

 距離は数メートル。何者かがいる。

 緊張したリシャーラは身構え、腰に差した細剣を抜き払った。白い刀身の切っ先が泥川の海面を滑る。愛剣のレイピアは細いが、突きの速度だけは自信がある。

「ぎぃ」

 のそりと顔を出したのは、水鬼だ。

 ゴブリンと同じく、禿げ頭で体毛のない魔物である。

 体長一メートルほどのずんぐりとした体躯であり、ボロ切れと変わりない黄色の腰布を穿き、錆びた小刀を握っていた。

 通常のゴブリンとは違い、潜水するのが特徴だ。
 沼地に近づいてくる獲物の足を奪い、身を沈めてから仕留める戦法を取る。

 雑食性で知能は低く、人や動物を捕食するために沼地を徘徊している。

(真正面から……?
 わたくしを、あなどっているんですの?)

 水鬼は不意打ちを好むはずだ。
 しかし、このときに限ってどうしたことか、正面から現れた。

 反射的にリシャーラは背後に気を配った。

 知らずに誘い込まれた罠か。あるいは陽動だと思ったからだ。
 が、しばらくしても何も起こらない。

「ふん」

(正面対決とは、個体差なのかしら……まあ、いいですわ)

 相手の出方を窺うより、こちらから動いた方が早い。
 そう考えたリシャーラは、警戒しながらも一歩前へ進んだ。

 ――すると。

「……ギギギァアアッ!」

 水鬼は苦悶しながら鳴いた。
 瞬間、その矮躯は天高く舞いあがった。
 よく見れば、水鬼の胴体には細い縄が巻きついていた。

 その牽引けんいん力によって、強引に持ち上げられたのだ。

 飛翔がピークに達すると、縄は解かれた。

 水鬼は為すすべもなく空を浮遊し、やがて重力に従って下降線を描いた。

 その落下地点の沼地から、ぶくぶくと泡が立ち始める。

 ばしゃんっと水音が奏でられ――水中が弾けた。

 放射状に飛んだ水飛沫が消えると、巨影が現れる。それは泥水を巻き散らし、クジラに近い楕円形の黒い巨体を持っていた。

 クジラは大口が開けていた。

 水鬼はその口の中に収められ、無数の尖歯でバキバキと噛み砕かれた。

 口腔から湧き出た水鬼の鮮血が、ぷしゅうと沼地に飛び散る。

 リシャーラは思わず、大声で名を呼んだ。

「……グーロ!」

 それはエリア《猛毒湿原》のエリアボス。

 個体名はグーロ。

 その正体は、魔物化した超巨大ナマズだ。

 ギョロリとした黒目が、リシャーラを捉える。

 ぬめぬめとした魚体は、シロナガスクジラ並に大きい。体長は十五メートルを越えながらも、泥土を自在に泳ぐことで知られている。

 リシャーラの正面を、ゆらゆらとした白く細いものが動いていた。

 よく見ると、それは唇の上から生えている。水鬼を縛っていた正体はヒゲだ。二本の鋼線を思わせる強靭なヒゲが、獲物を捕らえたのだ。

「ほう、わしと知って逃げんのか」

 大音声の共通語で、グーロが話しかけてきた。

 人語を解する魔物は大陸では珍しくない。
 魔の高めた中級モンスターならば、流暢に人語を話す。

(落ちつきなさい。
 今のわたくしなら、対処できるはずですわ。
 名誉ある『異世界勇者』なのですから)

 教会から自分に与えられた称号を思いだす。リシャーラはカールした巻き髪を優雅にかき上げた。泥で汚れていたが、黄金色の髪がさらさらとなびく。

 広大な沼地をさまよい、三日間。
 ようやく目的の敵を発見したのだ。
 この好機を逃す手はない。

「ええ、あなたのお腹にある『浄夜刀』を頂きに参りましたもので」

「ほお……よくぞ、我が体内に隠したる秘剣の存在を知り得たものよ。
 だが、かようなものをなぜ求める?」

 グーロには、光物を集める習性があった。

 胃袋の下に宝物を溜める特殊な臓器が存在しており、嘔吐おうとによって出し入れを可能にしている。元々は収納用ではなく、鳥の砂肝すなぎも同じく、内臓で食物を砕くための器官であったが、魔物化したときに変質したのだ。

「しれたことでしょう。
 かつて、魔王と討伐した勇者が持っていた秘剣『浄夜刀』。
 その力により、邪悪なる魔王を倒すためです。
 あなたも、世界平和のために協力して頂けませんこと?」

「よいぞ」

 グーロの意外な答えに、リシャーラは戸惑った。
 戦闘は避けて通れないと思っていた。
 戦わずに解決するならば、それに越したことはないが――グーロは言葉をつづけた。

「お前がわしの嫁になるならな」

「嫁? 種族が違うのに、正気ですか?」

「おおとも」

 グーロは鷹揚にうなずいた。
 顎と胴の境目は曖昧であり、実際には巨体が身震いしただけだが、瞳がすぅっと細まった。

 ぬめつける視線に、下卑な色が帯びる。

「わしは頭の悪そうな巨乳美女が大好きでな。
 お主は実にわし好みだ。その煽情的なほど短いスカートといい、おっぱいの形をした胴鎧といい、高飛車な態度といい、すべてにおいて合格点だ。
 わしの赤ちゃんを産むための腰回りも、なかなかふとましい安産型。
 少し目つきがきついのが気になるが、寛大かんだいな心で許そう」

「……は?」

(きっ、ききき気持ち悪ぅううううっ!
 魚類の分際で、色欲に染まりまくってますわッ!)

 リシャーラはゾワッと嫌悪感を抱いた。

 ぶつぶつと、二の腕に鳥肌を立つ。

 しかし、空気の読めないグーロは意に介さず、夢見るような語りを続けた。

「沼地の主となって五百年。わしも歳を取った。
 昔の理想は清楚系の美少女と結ばれることであったが、お前のようなビッチ系のギャルも歓迎できるようになった。
 恐らく、精神的に成長したのだろう。
 ああ、心配は無用だぞ。わしの一物はデカい。それに未使用だ。お前が例えユルマンでも、充分に満足できるだろう。
 むしろ一度でもセックスをしたら、お前はわしから離れられなくなるはずだ」

 童貞の癖に自信だけは一丁前にあるグーロは、きらんと目を光らせた。
 どや、とでも言いたげにニヒルなドヤ顔をさらす。

 そんなグーロの無防備な額に――ズブッと剣が突き刺さった。

「ぐおおおおおおおおおっ!?」

「黙りなさい」

 剣を突き立てるリシャーラの表情から、一切の感情は消えていた。

 沼の王は、交渉する価値などない汚物だった。

 それがわかっていれば、あとはどうでもいい。

「ぬっ、ぉおおおおっ! 
 こっ、このわしに逆らうかっ! 
 下等な人間から、
 わしのお嫁さんになれるビック・チャンスを逃すというのかっ!」

くに死んでくださいませ」

 剣の柄を回転させる。
 額の奥へと剣先をねじり込んでいく。
 傷口から、生ぬるい血液が噴出した。

 苦痛に悶えたグーロは巨体を振りかぶると、勢いをつけて横転させた。リシャーラをすり潰しにかかったのだ。

「っ!」

 重量感のある肉壁が迫りくる。
 リシャーラは剣を抜き、素早く後方へと飛んだ。

「ゆっ、許さんぞ!
 お、お前は性奴隷にしてやる!
 そして、わしにちょっと優しくされるだけで、簡単に惚れてしまうのだっ!
 ゆくゆくは可愛い奴隷ちゃんとなり、ご主人さま至上主義者となるのだ!」

 ザバンッと、グーロは頭から土中に潜水した。

 地中からゴゴゴッと重苦しい地響きがし始める。リシャーラは襲撃に備えて目線を配った。靴裏を通して震動が伝わってくる。位置は正確につかめないが、鈍重そうなグーロが高速で泳いでいるのが肌身でわかった。

「なんですのっ!?」

 パァンッと、左手から風船を割ったような破裂音がした。

 驚くべきことに、間欠泉に似た細い噴水が湧き出てきたのだ。
 それも一つではない。
 水柱は三つ、四つと増えていく。

「これは……!」

 リシャーラは驚愕した。

 降り注いできた汚水は、川の水ではない。

 黒く濁っている。岩を溶かしたような臭いがする。髪の毛にくっついた液体を指ですくい取ると、べたべたとしたタール状の液体だった。

 それは――地下に眠っていた原油であった。

 あっという間に辺りは土砂降りの豪雨となった。粘りつく液体を全身に浴びせられ、リシャーラは両肩を重くなるのを実感した。沼地を移動するのはたださえ困難なのにますます、身動きが封じられてしまう。

「うっ」

 視界もまた、劇的に濁ってきた。

 油の噴水は空気中で細かく分化し、周囲に黒霧が発生させた。それが漆黒の体色を持つグーロのための迷彩となっている。

 リシャーラは地の利を生かす戦法に、瞠目どうもくした。

(ナマズの分際で、頭を使うではありませんか!)

 この場で戦うのは不利。

 悟ったリシャーラは流れる川の方を見た。

 あそこなら泥水をぬぐえる。いや、駄目だ。不快感を消すのを優先して水場に飛び込んでも、グーロにとって更に有利なフィールドにいくだけになる。

 続いて、百メートル先にある杉林の方に顔を向けた。

 あそこは乾いた大地だ。

 身軽さを得意とする自分が、対等に戦える場所であり、避難先にもなる。
 距離はあるが、走れば辿りつけないことはない。

「《後転飛翔撃》」

 くるりと、踵を返したところを狙われた。

 足もとから姿を現したグーロは、巨大な尾びれを翻した。リシャーラは背中をしたたか打たれ、茂みの中に吹っ飛ばされた。

 泥だらけの身体が回転し、草汁にまみれていく。
 衝撃が脳みそをくらくらさせ、四方を覆う草の壁で視界が狭まった。

「ぐっ」

「ふふ、降参するか? 今のは効いただろう」

 どこからか、嘲笑する声が聞こえた。
 地響きのような旋回音は続いている。移動しながらも、グーロは獲物をなぶる隙を窺っている。

「……お断りですわ。
 泥臭いナマズなどに、わたくしが負けるはずがありませんもの」

「ほう、豪気なことよ。
 その意気やよし。
 わしが調教するときも、ちゃんと『くっ、殺せ』と言うのだぞ」

「なんだかわかりませんけど、
 わたくし、あなたを絶対に殺すと決めましたわ」

 リシャーラは靴を草地につけ、務めて冷静に考えた。陸地までいかずとも、倒れた葦は足場になりそうだ。

 機動力で劣る分、地中を潜航するグーロを追うのは難しい。

 攻撃に合わせて反撃するのも手だが、どこから来るのか予想がつかない。

 逆転の芽があるとすれば、相手の油断を突くことだ。

(スケベ心のせいか、手加減してますわね……
 どうやってカウンターを取ってやりましょうか……んっ?)

 右足に違和感があった。
 足首に何かが、巻きついている。
 そうだ。グーロには操作可能のヒゲがあった。

 リシャーラは外そうと身を起こしたが、巻き上げられる方が速かった。

「うきゃああああああ!」

 少し前に目撃した水鬼と同様に、空へと飛ばされる。

 リシャーラは浮遊しながらも、身体をひねって真下に顔を向けた。下に大口を開けたグーロがいると想定したからだ。
 違った。奴は背中を向けている。

「なっ!」

 墜落地点は、細長い背びれだ。
 ナマズ科の多くの種は、尾びれや背びれに毒針を備えている。

 有名なのでは、ゴンズイやアメリカナマズだ。自己防衛のための代物だが、丈夫で抜けにくく、釣り人も手を焼く代物だ。

 グーロの背びれは波状に連なっており、槍ぶすまを連想させた。

 空中では、回避行動など取れない。

 リシャーラは目を見開き、覚悟を決めて背びれへと落ちた。
 ぐしゃりと、凄惨な打突音が沼地に虚しく響く。

「……ふふふ、
 わしの毒針は獲物を行動不能にする麻痺毒よ。
 初めてがマグロ女なのはちと残念だが、生きているなら可愛がってやる」

 勝利を確信したグーロは、余裕しゃくしゃくで浮上したまま動きをとめる。
 しかし、一陣の疾風が吹き、石油の濃霧が消えていくと、生きて膝をついているリシャーラの姿がそこにあった。
 肉体に一切のダメージはなく。
 眼光は生気に満ちていて鋭いままだ。

「なんだとっ!?」

「残念ですが、わたくしには特異な能力がありますの。
『絶対防御』と申しまして。すべての危害を振り払う効果があります。
 この魔の沼地を平気で歩けているのも、そういう理由ですわ」

 言い分は正しく、リシャーラの身は汚れているものの、肌には傷一つなかった。

 打撲痕だぼくこんも、小さな擦り傷さえもない。

 グーロの背びれだった魚殻は、落下の際の衝撃で粉砕されていた。砕けた音は背びれの破壊音だったのだ。

「ぬぅううううっ!」

 そして――グーロの背には、リシャーラの細剣が根もとまで突き刺さっていた。

 形勢は逆転した。

 リシャーラは足場も手に入れたし、攻撃しやすい絶好の位置でもある。
 小さな唇からペッと唾を吐き、リシャーラは剣柄を握った。
 そのまま横側に身を滑らすだけで、グーロの腹を一直線に裂くことにする。

「覚悟なさいっ!」

「うおおおおおおおっ!
 やめっ、やめてくれっ!
 そうだ! わしがしもべになろう!
 そういう展開も、ありっちゃ、ありだしぃいいいいいいいいっ!」

 リシャーラは命乞いを無視して、身を滑らせた。

 硬いウロコがべりべりと剥がれ、黒皮と白い脂肪層が裂けていく。

 皮下組織が空気に触れ、破れた動脈から赤黒い血液が流出する。

 リシャーラが着地すると、グーロの横腹には血の縦線が刻まれていた。

「ぐぉおおおおっ……ぉ、ぉ、ぉ……」

 反撃を危惧したリシャーラは着地と同時に振りかえっていたが、敵は苦痛に耐えかね、白目を剥いて気絶していた。好機を逃さず、リシャーラは死に体のグーロに踊りかかる。
 
「せいっ、やっ!」

 ピンク色の臓物が、湯気とともに裂いた身からあふれた。

 そこからはなます切りだった。魔物の強靭な生命力を持ってしても、致命傷は間違いない。ひとしきり刻み終えると、リシャーラはソーセージのような胃腸を引っ張った。目的の物を手に入れるためだ。

「ううっ、べたべたですわ」

 胆汁の放つ腐臭に顔をしかめながら、臓腑をかきわける。すると、肉の裂け目から黄金の光が見え隠れした。それは溜めこまれた金貨だった。思わずリシャーラは口笛を吹いたが、目的の『浄夜刀』を見つけると、目つきはキッと険しくなった。

「これですわね……!」

 モノを確かめるため、鞘から引き抜く。

 直径の刀身は水に濡れたように黒光りした。

 魔王殺しの勇者が好んだ東方の秘剣。

 一切のくすみはなく、美しい光沢に見惚れてしまう。

 柄の中央に魔石が埋め込まれ、彫金の装飾は控えめで品がある。
 握りは自分のためにあつらえたように、しっくりくる。

「ついに手に入れましたわ……先代魔王バクスイを倒した『浄夜刀』。
 手がかりを探し求め、ありかを突きとめ……苦節、三年。
 ようやく、わたくしの努力が実りました。
 これで、諸悪の根源である魔王ネムエルを打倒できますわ」

 返り血を浴びたリシャーラは秘剣を掲げ、碧眼をギラギラと輝かせた。

 持っていけるだけの金貨を腰の布袋に入れ、水草をかき分けながら帰路につく。

 背中の向こう側ではグーロの死体が、徐々に沼地に沈んでいった。

 場がひっそりとすると、闘争をこっそり覗き見ていた水鬼たちが現れ、我先へと沈む死体に群がった。

 数匹の奇声が混じり合う。
 死肉を食い漁り、金目のものを奪い合っているのだ。
 一条の落雷が枯れた樹木に落ちたとき、リシャーラの姿はそこにはなかった。

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