金髪巨乳妹の胸の谷間に手を突っ込むことで地球を救う話

七色春日

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-17-『進化』

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 誰もが寝静まる深夜。
 オペレーション『ホタルイカ』と名付けられた宇宙イカ退治の作戦が始まると東京湾に接触している銀星市の海域は厳戒態勢が敷かれた。

 海上保安庁が動員した船籍のみならず、援軍に海上自衛隊も出勤しているようだ。

 船舶の数は百近く、驚くべき数ともいる。

 海洋汚染のランクは最上位に引き上げられ、一般にはこの騒動は重油の流出事故として報じられている。

 テレビに流されているダミー映像は海面に流れるどす黒い原油を映し出している。

 情報統制はしっかりしているようだ。マスコミのヘリも夜間は飛行させない。

 各々の船舶は最小限に照明をしぼり、衝突防止の船首灯と船尾灯だけを欠かさないようにしているが、あちこちに放射光装置が海面を照らし始めた。

 照らす先はあらかじめポイントごとに設置した水雷だ。

 浮標のような爆弾はリモートで爆発し、つんざく轟音が響き始める。

 そして機関銃の一斉掃射が始まった。
 ダダダダダダダッとまるで容赦なく海上を弾丸で打ちぬいている。

 大王イカの子供たちは五十センチから一メートル程度まで成長しているが、浮上してしまっているので文字通り蜂の巣にされている。

 弾丸を惜しむことはなく、数千人規模での作戦は思い切りがいい。
 JGGという組織はどこまで巨大で決断力があるのだろうか。

「どれ、私も」

 船尾楼の舷側で俺たちと見学していた先輩は銃刀法に接触するだろう物騒なガンブレードをどこからか取り出した。

 ガンブレードはビームサービルだったのだろうか。突如として出現した緑色のゴルフボールサイズの光の弾が刀身の周りをぐるぐると回転している。

 照門が部分がガチャガチャと自動的に変化し、狙いを定める照準器が内部からせり出してきた。
 ピッピッと音を鳴らして勝手にポイントしている。

「せいっ!」

 スペースウェポンを動かすときに気合が必要かどうかはわからないが、ぴゅんぴゅんっとビームサーベルから棒状の光の玉が拡散した。

 光は帯線を描き、花火みたいに放射状に広がり、放物線を描きながら大王イカを的確に捉えている。
 ロックオン機能があり、機関銃の撃ち漏らしを上手に始末しているようだ。

「お兄ちゃん、私たちの出番なさそうだね」

「ああ……やっぱ国家権力には勝てないな。てか俺たち、もう帰っていいんじゃないかな? 予約したアニメとかドラマを消化したいんだけど」

「お兄ちゃん危機感ないよね」

「あんまり関わりたくないんだよな。JGGだか何だか知らないが、変な組織だと思わないか?」

 海風に流れていく金髪をかきあげ、クーナは手すりから半身を出しながら夜景にきらめく銃火をサングラス越しに見つめる。

 下方射撃とはいえ危ないので自室に居てもらいたかったが、頑として聞き入れなかった。

「でも、古い時代から組織はあったみたい。支部は世界中にあるけど、命令に従えばお金も物資もくれるから便利だよ」

「そして目的は世界平和とかか?」

「うん。変わってるよね」
「くーちゃん。JGGを信用しない方がいいぞ。やつらは世界平和ではなく地球平和が望みなのだから」

 エネルギー充填のためかガンブレードを腰元の鞘に戻した骸骨仮面の先輩が忠告してきた。

 変身しなくていいのに。

「どう違うんですか先輩?」

「厳密には彼らは人類が作った組織ではない。人間が進化する前の地球の先住民が作った組織だ。高度な文明を築きながらも人類が未だに惑星間交流ができない理由でもある」

「はっ? ね、ネアンデルタール人とかそんな感じですか?」

「違う……いや、このことは極秘事項だったか。まだ人類には話してはいけないのだった。忘れてくれ」

 話をふっ掛けといて忘れろはきつい。
 だがまあ、先輩のビューティーはすべてを許す。

「は、はあ……ややこしそうだし、忘れてくれといわれたら忘れますけど、クーナは何か知ってるか?」

「ああ、うん……私も正直<リトル・カーネル>に直接は会ったことないんだ。パパと旧知らしいから信用してるんだけどさ」

「そうなのか。まあ、雇い主なんてどうでもいいさ。会わなきゃ義理も情も湧かないし、お前の体質が片付くまで利用するだけだ」

「うん。でも、今回の宇宙イカ、ジャイアント・イカロンだっけ? ちゃんとケリがつくかなぁ。全然、物量足りてないよ」

「は? エレキテルパレードしてる遊園地みたいに派手にやってるだろ」
「足りないって。本気出して全軍集めるくらいして欲しいよ」

 夜なのに昼のように明るい景色。

 クーナは心配そうに海面に目を落としている。

 これだけ大規模の作戦なら何百、何千人という大人が表でも裏でも頑張っているはずだ。

 杞憂というものだろうし、これ以上の動員はさすがに難しいだろう。
 宇宙イカがどのくらいいるかわからないが、遠くないうちに全滅できるはず。
 そう――俺は思いたがっていたのかもしれない。


 ◇◆◇


「ええ、はい。申し訳ありません先生。うちのミーナのことでいつもご迷惑をおかけしております。はい。公休を頂けたのは父が外国籍でNASAに所属している関係でございまして……いえ、できれば内密にお願い致します。公務への協力は些細なもので、とても口に出せるほど立派なものではなく。では、そのように」

 スマートフォンを耳元から離した。

 ベッドの上ですやすや眠るミーナとクーナはなんだかんだでくっついて一緒に眠るほど仲がいい。
 俺の高校からミーナの中学までJGGの根回しが済んでいるようで、作戦の終了まで休みを取ることになっていた。

 正面の部屋で休んでいた先輩が蒼白な顔で「いえ、先生。確かに元気ですけど、決してサボりじゃないんですぅ」と必死で弁解しているのが気になるが、口下手な彼女とは別組織なのでフォローのしようがない。

 作戦が始まってから昼間は銃弾と爆薬の補給活動が主であり。

 深夜に騒がしい銃撃が始まってから、もう二千匹以上のイカロンはしとめられた。
 あとどのくらいいるのか――情報では一回の産卵で数千だというが。

 数は正確に数えるのは難しい。銃弾で粉々にしてしまっているし、段々と光に集まってくるイカロンたちの数が減ってきたので、終着と見ていいだろう。

 一匹残らず、というのが難しい気がしたが作戦はあと数週間は続けられるという。
 生息数を激減させるには充分だろう。

「ひっ、緋村か……おはよう」

「おはようございます。先輩、出席日数は足りてるんですから気にしなくてもいいんじゃないですか?」
「だ、だが、サボりはよくない。学校はきちんと通うものだ!」

「まあそうですけど、事情があるときはサボっちまえばいいんですよ。こういう事情なんだから仕方ないですよ」

「……んん、まあ、そろそろ作戦も終わりだろうしな。三日目か」

 三日目――ミーナが最初に告げていた時間が迫っている。
 ロンサムの子供たちが自分の子供を産めるようになる時期。
 今夜が正念場だ。

「緋村。どうなると思う?」
「作戦は成功してるはずでは……俺にできることはないですよ」

「かもな。だが、東京湾で食いつくされた海洋生物はそう簡単には回復すまい。滅びた種もあるかもな」
「それでも怪物が増え続けることを防いだんです。皆が力を合わせたおかげですね」
「ああ、そうだな……できれば、こんなことになる前にロンサムを移送しておきたかった。いや、手を下すことを望まなかった私のせいでもあるか」

「生きているものを都合が悪くなったら殺す、っていうのは俺もあまり好きじゃなかったですよ。先輩のせいじゃありません」
「そういってもらえると救われる。そろそろ朝食にしよう。艦長が未成年かつ部外者の我々を追い出したがっているが、任務はもう終わりだ」

「ですね」


 三日目の夜ともなると空気が弛緩してきているのがわかる。

 赤光に釣られて海面に浮上してくるイカの数は減少してきているし、数時間前の会議では弾薬の節約が訴えられた。

 捕獲して検体にし、今後の研究のために役立てるという話も出てきている。

 俺も最初は不謹慎ながらも艦に積まれた機関銃の放火にワクワクしていたが、今ではただの騒音マシンにしか見えない。

 夜海のあちこちに照らされていた大型の放射光装置の数も減っている気がする。労力を惜しみだしたのがはっきりわかる。

「お兄ちゃん。眠そうだね」

 口許に手をやってあくびをごまかしていると。
 そびえる船楼の鉄板に手を置き、船揺れをこらえているクーナが不満げに唇を尖らせて腕組みした。

「もうイカ退治は終わりだろ」
「お兄ちゃんも皆も、ツッキーも勘違いしてるよ」
「勘違い?」

「イカロンは他の惑星から来たの。宇宙船でね。もちろん、このイカには惑星間航行を可能にする知能はなさそうだから、きちんとしたパイロットや技術者はどこかにいるんだろうけど、それでも地球のイカと致命的な違いがあるの」

 常闇の中で輝く薄氷色の瞳には焦燥の色があった。

 どうにもならないことに対して、無力な自分に対して、憤っているような色合い。

「なんだよ、それ」

 ざぶんっ、と音がして停船していた『あきかぜ』の船体が急な高波で揺れた。
 よろけ、波しぶきが身体を濡らしてくる。

 今までにない揺れ方。

 夜の海で何かが起こっている。
 約百メートル先の機銃掃射をしていた船が不自然に傾いていた。

 目を凝らすとはっきりとわかった。
 転覆し、沈没しかけているのだ。
 片桐さんの下にバタバタと保安官が走っていくのが見えた。
 汗まみれの平静を失った顔。窮状を告げる報告だと遠目でもわかる。
 怒鳴り声が舷側に佇んでいる俺にもはっきり聞こえた。

「艦長っ! ソナーを見てくださいっ!」

 叫び声と同時に足元がぐらりと揺れた。
 反射的に手すりを握った。
 真っ黒な海面を覗き込むと下に何かがいるのが知覚できた。
 放散されていた赤い光明の上にはもう大きなイカの姿はなく、一匹もいない。
 ――やつらは船底に集まっているのだ。






「学習……した?」






「やっぱりもう、手遅れかな」
 俺は嘆くクーナの顔を見たあと、全力でミーナと先輩の救出に向かった。
 船内にいるまま転覆すれば溺死する。
 一刻も早く――助けにいかないと。



◇◆◇




『日本政府に委託した作戦は失敗したようだな。エージェント<ゴールデン・グルメ>。エージェント<サイテー・シスコン>』

 浮遊する立体映像の向こう側には動揺は見られない。

 口ぶりがさほど残念そうでもなく、報告を受けた<リトル・カーネル>は予想通りといった口ぶりだ。
 救命ボードに乗り込み、なんとか波止場に戻った俺たちは公民館を間借りしてできた作戦会議室から一歩離れたところで休んでいた。

 大人たちの会議は白熱していたが、具体的な立案はされていなかった。

 充分に敵を倒したと誇る者もいれば、日和見に様子を見ようと発言する者もいた。

 船舶の三分の一程度が哀れにも沈没し、新聞記者が嗅ぎつけてきたこともあり、これ以上の責任は誰も取れないということで撤収する可能性が高い。

 公民館の横にベンチがあったので、資材を片付けたりしている兵隊さんたちを見ながら俺とクーナは並んで座っていた。

 ミーナと先輩は砂場の横で何かしら話し合っている。
 次の対策案を練っているようではあるが、まだ具体的なものにはなっていない。

「<リトル・カーネル>我々の次に取るべき行動を教えてください」

『君らはよくやってくれた。感謝している。少ないが、次の活動資金を口座に振り込んでおいた。増殖するジャイアント・イカロンは我々の方で処理しよう』

「待てよ。処理ってどうやるんだ?」

『ロンサムの子供たちが更の子供を産むセカンド・ステージは想定している。最終ステージに達すれば海洋生物の絶滅期となり、地球規模の大災害となるだろう。それらは絶対に防がねばならん』

「いかがなさるんですか?」

『宇宙にいる我々の同盟者に協力を頼んだ。東京湾に巨大隕石を落とし、一帯を煮沸消毒する。対応を誤った日本政府には責任を取ってもらう形になるな』

「ちょ、ま……冗談だろ」

『この飛来する隕石の映像を見て頂こう。我々が本気だとわかるはずだ。既に作戦は完了した。国民には避難勧告が出される。余波で関東地方は崩壊するだろうが、すべての地球上の生き物のためだ。犠牲は最小限に抑えねばならん』

 立体映像が増えて二つとなり、別の画面が映し出された。

 真っ暗な宇宙に飛ぶ隕石――丁寧にも隅にLIVEと書かれている。

「<リトル・カーネル>これはあまりにも……性急では?」

『<ゴールデン・グルメ>、我々も心を痛めている。諸君らは数年ほど北海道でジンギスカンでもつついてきたまえ。復興作業が落ちついた頃に戻ってくればいい。新しい住居も用意するし、生活費や編入手続きなどは済ませておこう』

「ふざけんなっ! そんな簡単に決めるんじゃねーよっ! 人死だって出ちまうだろうが!」

『すべては我らが母なる地球のためだ。それに人間だけが死ぬわけではない。動植物も死ぬ。つまり、公平な犠牲だ。荷造りを急ぎたまえ。残念ながら、時間はそうないぞ』


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