婚約破棄?あなたが婚約していたのは私の妹でしょう?

やノゆ

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第2話・勘違い子息

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ーーー「お、お前と僕は婚約者だろう…っ?」

やっとの思いで紡いだ言葉は、そんな素朴な疑問であった。
YesかNoで答えられる、単純な問いかけである。

「…はあ?私に、婚約者などおりませんが」

答えは、Noであった。

そして、隣で言葉をなくす恋人を見て、少女は思った。
どうして、こんな微妙な空気になったのかーーー。

* * * * *

ーーー「ライーナ・アバースト伯爵令嬢。お前にはもううんざりだ。
婚約破棄させてもらおう。」

そんなことを言い放った麗しき恋人は、絶世と言う他ない美少女を、蔑んだ目で見ていた。
この氷華の精霊のような美しき少女よりも、自分が選ばれた。

その口に浮かぶ笑みを隠そうともせずに、むしろ鼻で笑う彼女は、さぞかしいい気分だっただろう。 

ーーー彼女が口を開くまでは。

パチリ、と彼女が瞬きをした。
音がなったのでは無いかと錯覚するほど、長く、多く生えた睫毛である。

思わず見惚れてしまいそうになる自分を制して、精一杯の負の感情を氷華の少女におくる。


ーーー弾けた柘榴のような唇が、開かれる。


「失礼ですが、どちら様かしら…?」

竪琴にでも合いそうな透き通った、美しい声だった。

こてんと猫のように首を傾げ、困ったように形のいい眉を下げて、不可解そうに黒曜石の瞳で見つめてくる彼女に、思わず言葉をなくした。

何を言っているのだ、この女は。

意味がわからないとでも言いたげなこの女に向かって叫んでやりたい気分であった。
意味がわからないのはこっちだ、と。

筋書きでは、この美少女に婚約破棄を叩きつけ、恥をかかせてやる予定だった。

それなのに、婚約していない?
どういう事なのか。

「……?あの、本当にどちら様でしょう…?」

「ぼ、僕のことを言ってるのか?…本気で?
お前の婚約者である、レイトン・ビーストアだろうがっ」

それを聞くと、ライーナは目をぱちくりとさせ、黒曜石の瞳でレイトンを見つめた。

じっとライーナに見つめられたレイトンは顔を赤らめ、一瞬婚約破棄を取消そうかと考えた。本気で。 

だが、次に放った言葉に頭が真っ白になった。




「…ビーストア家の伯爵子息は、私の妹の婚約者ですわ。」
















その場にいた、誰もが思った。
帰りたい、と。

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