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うん、これは死ぬな。
いつ死ぬとも知れぬ身だとは思っていたが、それが今日だったとは。
防砂林の木陰で一人仮眠をとっていたヨシュアは、気がつけば大きな白い獣たちに囲まれていた。
魔力をほとんど持たない身ながら、生き延びてきたヨシュアである。恵まれた体格、見よう見まねで身につけた武芸、海千山千の商人たちに揉まれた口八丁でヨシュアは仲間と協力してどんな困難も乗り越えてきた。
しかし、これはさすがにだめだろう。
目の前にも後ろにも、大きな狼のような獣。その数四頭。口八丁が通じる相手でない上に、今は自分一人。この防砂林には人も獣も魔物も出たことがないというのに。
追っ手は完璧に撒いたと思ったが、見つけられて魔物をけしかけられたのだろうか?
此の期に及んではどうにもならない。
あっさり諦めたヨシュアは目を閉じた。
うん、案外短い人生だった。ヨシュアに何かあった時のことは商隊で取り決めてあるから心配ない。その他、悔いはないわけではないが、まあどうでもいい。あ、いや、今月の家賃の支払いが明日だ。どうせなら世話になった家主に、今月分を払ってきちっと挨拶をしたかったな。
そんなことを考えながら薄っすらヨシュアは目を開ける。もしかしたら、さっき見たことは夢でなかったか、そんな期待を込めて。
しかし、目を閉じる前と状況は変わっていない。むしろ、さっきよりも近づいている狼たちである。
圧がすごい。
白い毛の壁のように迫る狼たちに、しかし、この辺に狼などいただろうか? とヨシュアは考える。狼にしても大きいし、魔狼の類も砂漠にはいないはず。とすれば、やはりこれは夢だろうか?
ヨシュアがそう考えたのも無理はない。目の前の狼(仮)たちは、ヨシュアが目を開けると嬉しそうに頭や首を擦り寄せてきたからだ。
──なんだか知らないが、とても凄く懐かれている。
ヨシュアは、暑い昼の日差しの中、だらだらと冷や汗をかきながらも、昔いた商隊が飼っていた犬を思い出し、白い獣の頭の後ろのあたりを懸命に撫でてやった。そうすると、狼(仮)たちは、ますますうれしそうにする。
わしゃわしゃもふもふと、代わる代わる撫でてやるヨシュアは、ああ、これはやっぱり夢だな、と思う。
というのも、この四頭からは獣らしい匂いが全くしなかったからだ。その上、ヨシュアと戯れる獣の向こう、どこかで見た美人が佇んでいるからだった。
抜けるように白い肌に紫水晶の瞳。豊かな黒髪がしなやかでまろやかな体にしなだれかかる。初めて見たのは北の都にいる時だった。あの時は黒髪に銀の髪飾りが映えて、綺麗だった、とヨシュアは思い出す。
──さすがは夢、都合がいい。
こんな砂漠の日の下で、被りものもしていないなんて。お陰でヨシュアには彼女の表情までよく見える。
なぜか彼女は目を大きく見開いている。これ以上なくびっくりしているようで、あの皇帝の行列で、しずしずと進んでいた女官からは想像もつかないほど、どうやら取り乱している。凛として女官然とした彼女もいいが、目を丸くしているのは可愛いな。
そう思うが、ヨシュアはやはりよくない、と思う。あの手の白い肌は、ヨシュアのものと違って、日に焼けたらきっと赤くなって酷く痛くなるだろう。
ヨシュアは自分の被りものを彼女に被せようとして、しかし自分の汗のにじんだものは嫌がるだろうと考え、まあ、でも夢だからいいか、と思い、でもやっぱりなあ、と考え直し、荷物の中から予備の日覆いの布を出す。そうして立ち上がって進み、シファにパサリと日覆いの布を被せた。
その時、ヨシュアの親指の腹が、わずかにシファの頬に触れた。その瞬間、ヨシュアはあれ? と気付く。
「え?」
触れたのは一瞬であった。滑らかで、柔らかい。きめ細やかで、と、感覚が言葉に変換される頃、ヨシュアは息が止まりそうになった。
夢でない。
いつ死ぬとも知れぬ身だとは思っていたが、それが今日だったとは。
防砂林の木陰で一人仮眠をとっていたヨシュアは、気がつけば大きな白い獣たちに囲まれていた。
魔力をほとんど持たない身ながら、生き延びてきたヨシュアである。恵まれた体格、見よう見まねで身につけた武芸、海千山千の商人たちに揉まれた口八丁でヨシュアは仲間と協力してどんな困難も乗り越えてきた。
しかし、これはさすがにだめだろう。
目の前にも後ろにも、大きな狼のような獣。その数四頭。口八丁が通じる相手でない上に、今は自分一人。この防砂林には人も獣も魔物も出たことがないというのに。
追っ手は完璧に撒いたと思ったが、見つけられて魔物をけしかけられたのだろうか?
此の期に及んではどうにもならない。
あっさり諦めたヨシュアは目を閉じた。
うん、案外短い人生だった。ヨシュアに何かあった時のことは商隊で取り決めてあるから心配ない。その他、悔いはないわけではないが、まあどうでもいい。あ、いや、今月の家賃の支払いが明日だ。どうせなら世話になった家主に、今月分を払ってきちっと挨拶をしたかったな。
そんなことを考えながら薄っすらヨシュアは目を開ける。もしかしたら、さっき見たことは夢でなかったか、そんな期待を込めて。
しかし、目を閉じる前と状況は変わっていない。むしろ、さっきよりも近づいている狼たちである。
圧がすごい。
白い毛の壁のように迫る狼たちに、しかし、この辺に狼などいただろうか? とヨシュアは考える。狼にしても大きいし、魔狼の類も砂漠にはいないはず。とすれば、やはりこれは夢だろうか?
ヨシュアがそう考えたのも無理はない。目の前の狼(仮)たちは、ヨシュアが目を開けると嬉しそうに頭や首を擦り寄せてきたからだ。
──なんだか知らないが、とても凄く懐かれている。
ヨシュアは、暑い昼の日差しの中、だらだらと冷や汗をかきながらも、昔いた商隊が飼っていた犬を思い出し、白い獣の頭の後ろのあたりを懸命に撫でてやった。そうすると、狼(仮)たちは、ますますうれしそうにする。
わしゃわしゃもふもふと、代わる代わる撫でてやるヨシュアは、ああ、これはやっぱり夢だな、と思う。
というのも、この四頭からは獣らしい匂いが全くしなかったからだ。その上、ヨシュアと戯れる獣の向こう、どこかで見た美人が佇んでいるからだった。
抜けるように白い肌に紫水晶の瞳。豊かな黒髪がしなやかでまろやかな体にしなだれかかる。初めて見たのは北の都にいる時だった。あの時は黒髪に銀の髪飾りが映えて、綺麗だった、とヨシュアは思い出す。
──さすがは夢、都合がいい。
こんな砂漠の日の下で、被りものもしていないなんて。お陰でヨシュアには彼女の表情までよく見える。
なぜか彼女は目を大きく見開いている。これ以上なくびっくりしているようで、あの皇帝の行列で、しずしずと進んでいた女官からは想像もつかないほど、どうやら取り乱している。凛として女官然とした彼女もいいが、目を丸くしているのは可愛いな。
そう思うが、ヨシュアはやはりよくない、と思う。あの手の白い肌は、ヨシュアのものと違って、日に焼けたらきっと赤くなって酷く痛くなるだろう。
ヨシュアは自分の被りものを彼女に被せようとして、しかし自分の汗のにじんだものは嫌がるだろうと考え、まあ、でも夢だからいいか、と思い、でもやっぱりなあ、と考え直し、荷物の中から予備の日覆いの布を出す。そうして立ち上がって進み、シファにパサリと日覆いの布を被せた。
その時、ヨシュアの親指の腹が、わずかにシファの頬に触れた。その瞬間、ヨシュアはあれ? と気付く。
「え?」
触れたのは一瞬であった。滑らかで、柔らかい。きめ細やかで、と、感覚が言葉に変換される頃、ヨシュアは息が止まりそうになった。
夢でない。
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