宰相さんちの犬はちょっと大きい─契約編─

すみよし

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19 別方向にも捕まった

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 東に帰って三月も経たない頃、ヨシュアは再び西の宮に召されていた。

「ま、そういうわけでな? 誰を立てても角が立つ故に」

 正面にはにこやかな西の宮さま、右手に至極真面目なツラを揃えた重臣たち、左手には困惑顔の西の各商会の会頭たち。ずらりと居並ぶ全員の視線を受けても、ヨシュアの顔色は変わることはない。それに満足しながら、西の宮が続ける。

「そなたに任せることにした」

「恐れながらそれは東の宮さまからお断りをして頂いたはずでございます」

 憮然とヨシュアは申し上げる。それに西の宮が言う。

「その通り。そなたが私の願いも東のからの勧めまでも断った故な、仕方無くこの西の宮の名において命令するのだ。追って東の宮からも沙汰あるだろう」

 盛大に顔をしかめるヨシュアを笑って西の宮が続ける。

「さて、この決定に不服のある者は今この場で申し出よ」

 重臣らは動くこともなかった。会頭らは互いに顔を見合わせていたが、やがて一斉に頭を垂れ、それぞれに申し上げる。

「ございません」
「西の宮さまの仰せの通りに」
「私共はヨシュア殿を喜んでお迎え致します」

 こうしてヨシュアは西の商会の会頭たちのまとめ役、つまりは西の宮と商人たちの交渉その他諸々雑用係(名前はまだない)となった。

 ※

「ほほ、ヨシュアさんは宮さま方に見事に捕まりましたな」

 気の毒そうな顔をしつつも愉快そうな東の商会の会頭に笑われる。

「お前は何でも真面目にやりすぎるのよ。やれ、上つ方というのは、そういう者がお好きだ」

 適当に下手を打つのも、面倒ごとを避ける手よ。この俺のようにな! とこれはヨシュアとは別の商隊の隊長が酔っ払って言うのに周りがドッと笑う。

 ヨシュアの西行きを祝って、東の商人仲間たちが宴を催してくれた。

 ひとしきり笑ったあと、ヨシュアの商隊を商会ごと引き受けてくれた会頭がいう。

「まあ、多少の地ならしは、西の宮さまがされておるようだ。幾人か会頭が隠居したようだから」

 それを受けて別の会頭が言う。

「これで西がまとまってくれればこちらも助かるというもの。どうぞよしなに『相談役』殿」

 自分より歳も腕も財力も上の商人たちがおどけて自分を持ち上げるのに、ヨシュアは勘弁してくれと思う。

 それでも北の都の孤児だった自分が酒宴を開いて送り出して貰えるほどに東の地で受け入れられていたのだと思うと、感慨深いものがあるヨシュアだった。

 ※

「まあ、良かったんでないの? ほら、シファさんとも今より会えるだろ?」

「いやそれがさ、なんかシファさん今度は東に来るらしいよ。西の姫さまのお供で」

「うわあ。やっぱり縁ないんじゃ」

「いや、縁ないというよりは、これは何か大きな力が働いている……!」

「『何か大きな力』っつーか単に西の宮さまの『ご配慮』だろ。うつつ抜かすなよっていう」

「いや、そもそもハナから無理だから」

「ま、そうだけどさー、でも、俺たちにも気さくな人だったし、結構いけるんじゃないかとか思ったんだが」

「そうそう。でないとシロとか貸してくれないし。って、シロはさー、隊長の護衛続けてくれるの? 前ほどじゃなくても西行ったら狙われるんじゃ」

「それは大丈夫みたいよ? 契約解除の話はされてないし」

「商隊の護衛はもう必要ないからな。ヨシュアだけ守ってりゃいいしな」

 砂漠に交易路を開くと、魔物たちはすぐにいなくなった。人通りが多くなったので逃げていったのだろうとの噂であったが実のところは、違う。

 西の宮の姫の「演習」場所に、砂漠の交易路が選ばれた。一帯の魔物の分布も調べていたヨシュアたちを道案内に、姫とその教師であるシファが、シロたちと一緒に魔物達を一掃したのである。

 その後を東西の宮の兵が街道として整備した。戦が減った東の兵を遊ばせておくより良いと、街道は東の兵たちによって手厚い警備が行われるようになった。
 ヨシュアたちのような特別な技を持たずとも誰でも通れるようになったのである。

「姫さん、凄かったな。西の宮は安泰だよ」

「でも姫さまなんかよく引っ張り出せたなあ」

「ヨシュアがダメ元でシファさんに頼んだら通ったんだと」

「隊長の頼みだからか? やっぱ隊長、シファさんいけるんじゃね?」

「ヨシュアの頼みだからというよりはヨシュア以外にそんな頼み事するやつ居ねえし。つーかシファさんよりあの姫さんが乗り気だったみたいだし。しかもシファさん入れ替わりで東に来るんだろ?」

「うーん、隊長は遊ばれている……」

「おお! 俺も遊ばれたい!」

「魔物を掃討し、ヨシュアを手玉にとる元女官」

「強いな元女官」

「おそるべし元女官」

「そしてヨシュアの何と無謀なことよ」

 初めはコソコソと言い合っていたのが普通の音量の会話になり、しまいには笑いだしたのを受けてヨシュアが怒鳴る。

「みんなさっさっと寝ろ!」

「おお、相談役殿が荒れておられる!」
「お前こそうるせえ」
「大変だ、ご乱心!」
「速やかに眠らねば!」

 街道が整備されたとは言え、砂漠の日差しだけは変わらない。日が昇りきり、いつも通り天幕で仮眠をとるヨシュアの商隊の仲間達は笑いながら寝たふりをする。

 ヨシュアとはこれが最後の旅になるだろう。そう思うと彼らは寝付けなくなる。そうして天幕の中で長いこと子供のように騒いでいるのだった。

 それが見事に影響してヨシュアの隊は遅れに遅れ、最後の旅の売り上げは商隊史上最悪となった。


※─────
2019/05/20 改題しました。内容は変わっていません。
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