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第四章 王国へ
22 祝福を
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謝罪に訪れたのは王太子であったのに、王妃の方が小さくなってしまっている。
「今朝のことはお忘れになってください……」
そう言う王妃は顔を覆って項垂れていて、王太子は今朝以上に王妃に申し訳なく思ってしまう。
しかし、あのまま何もしないというわけにはいかず、弟に書かせた謝罪の文を携えて、王妃の宮を訪ねた王太子である。
その謝罪をどうにか受け入れた王妃は、しばらく思案しているようであったが、ふ、と息を吐いていう。
「二の殿下は、わたくしの無学をご指摘下さったに過ぎません。お陰でわたくしも新たな気付きを得ることができました」
新たな気付きとは何か、などと王太子は考えない。それを考え出したら、女官だらけのこんな場所にはもう居られない。王太子は慌てて申し上げる。
「いいえ、ただ弟が思い詰めただけのこと、私共の至らなさのせいでございます。しかし、左様に仰って頂くなど、ありがたいことでございます」
正直に言って、弟を不問としてくれるのは有難い。弟はこの王妃の言葉を聞けばまた酷い顔になるだろうが。
王妃としても蒸し返して欲しくはなさそうなので、この一件はこれで手打ちとなるだろう。
もちろん、根本的な解決からは程遠い。
だが、根本的な解決を図るとなると……。
王太子はその先を今は打ち明けるべきではないと判断する。それでなくとも今日は早々に引き上げる方が良いだろう。
故郷を離れるということは、辛いことだろう。
ザイと帝国大使を交えて話した夜、あんなに明るく笑う王妃を見たのはいつぶりだろうか。
そのザイとの語らいに難癖をつけた第二王子に対する女官らの怒りを思えば、王太子は改めて背中を寒くする。
なによりも、王妃だってあのまま楽しい思いに浸っていたかっただろうに。王太子は、やはり王妃にすまなく思うのだった。
そんな王太子に、王妃が言う。
「あの、お話は変わりますが、一のお姉様はいかがですか?」
考えに沈んでいた王太子はハッと顔をあげる。やはりこの神子はよく見ていらっしゃる。
「はい。お察しのことかと恐れ入りますが、少々体調を崩しました。緊張のせいでしょう。先程医師の診察が終わり、安静を命じられました。今は落ち着いております」
「左様でございましたか。私にできることがありましたら、どうか仰ってください」
王妃は本当は見舞いに行きたいが、それをすれば王太子妃の体調不良の噂が立つ。
「お心遣い、感謝致します」
王太子妃の体調を気遣うのは、王族の中では、王太子の他にはこの神子しかいない。将来の国王を宿したかもしれない身となった今でもだ。それに思うところのある王太子は、我知らず拳を握り込んでしまう。
「王妃様のそのお心遣いこそ、妻の、私の力になります」
そして、わずかに面を伏せ、王太子は帝国の神子様に申し上げる。
「王妃様。我が国と、我が妃、我が子にどうかご加護を」
使い古された神子へのことば。
だが、今は、このことばだけで十分だ。それでもこの神子は察するだろう。先日、王妃が出した遷都の話題を笑い話で済ました王太子の変化に。
王太子の予想は当たっていた。王太子が面を上げれば、先程まで恥ずかしさで消え入りそうだった王妃の様子は何処へやら、そこには目を強く輝かせた帝国の神子がいる。
やがて、王妃の顔がほころぶ。
「はい。幾久しく栄えあれと」
返るは型通りの神子の祝福。
幾度となく聞いたそれは、今までにない熱を持って王太子に降り注ぐ。
王妃の宮を辞した王太子はその夜、各所への文を一思いに書き上げた。
「今朝のことはお忘れになってください……」
そう言う王妃は顔を覆って項垂れていて、王太子は今朝以上に王妃に申し訳なく思ってしまう。
しかし、あのまま何もしないというわけにはいかず、弟に書かせた謝罪の文を携えて、王妃の宮を訪ねた王太子である。
その謝罪をどうにか受け入れた王妃は、しばらく思案しているようであったが、ふ、と息を吐いていう。
「二の殿下は、わたくしの無学をご指摘下さったに過ぎません。お陰でわたくしも新たな気付きを得ることができました」
新たな気付きとは何か、などと王太子は考えない。それを考え出したら、女官だらけのこんな場所にはもう居られない。王太子は慌てて申し上げる。
「いいえ、ただ弟が思い詰めただけのこと、私共の至らなさのせいでございます。しかし、左様に仰って頂くなど、ありがたいことでございます」
正直に言って、弟を不問としてくれるのは有難い。弟はこの王妃の言葉を聞けばまた酷い顔になるだろうが。
王妃としても蒸し返して欲しくはなさそうなので、この一件はこれで手打ちとなるだろう。
もちろん、根本的な解決からは程遠い。
だが、根本的な解決を図るとなると……。
王太子はその先を今は打ち明けるべきではないと判断する。それでなくとも今日は早々に引き上げる方が良いだろう。
故郷を離れるということは、辛いことだろう。
ザイと帝国大使を交えて話した夜、あんなに明るく笑う王妃を見たのはいつぶりだろうか。
そのザイとの語らいに難癖をつけた第二王子に対する女官らの怒りを思えば、王太子は改めて背中を寒くする。
なによりも、王妃だってあのまま楽しい思いに浸っていたかっただろうに。王太子は、やはり王妃にすまなく思うのだった。
そんな王太子に、王妃が言う。
「あの、お話は変わりますが、一のお姉様はいかがですか?」
考えに沈んでいた王太子はハッと顔をあげる。やはりこの神子はよく見ていらっしゃる。
「はい。お察しのことかと恐れ入りますが、少々体調を崩しました。緊張のせいでしょう。先程医師の診察が終わり、安静を命じられました。今は落ち着いております」
「左様でございましたか。私にできることがありましたら、どうか仰ってください」
王妃は本当は見舞いに行きたいが、それをすれば王太子妃の体調不良の噂が立つ。
「お心遣い、感謝致します」
王太子妃の体調を気遣うのは、王族の中では、王太子の他にはこの神子しかいない。将来の国王を宿したかもしれない身となった今でもだ。それに思うところのある王太子は、我知らず拳を握り込んでしまう。
「王妃様のそのお心遣いこそ、妻の、私の力になります」
そして、わずかに面を伏せ、王太子は帝国の神子様に申し上げる。
「王妃様。我が国と、我が妃、我が子にどうかご加護を」
使い古された神子へのことば。
だが、今は、このことばだけで十分だ。それでもこの神子は察するだろう。先日、王妃が出した遷都の話題を笑い話で済ました王太子の変化に。
王太子の予想は当たっていた。王太子が面を上げれば、先程まで恥ずかしさで消え入りそうだった王妃の様子は何処へやら、そこには目を強く輝かせた帝国の神子がいる。
やがて、王妃の顔がほころぶ。
「はい。幾久しく栄えあれと」
返るは型通りの神子の祝福。
幾度となく聞いたそれは、今までにない熱を持って王太子に降り注ぐ。
王妃の宮を辞した王太子はその夜、各所への文を一思いに書き上げた。
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