【本編】元皇女が出戻りしたら、僕が婚約者候補になるそうです

すみよし

文字の大きさ
114 / 119
第四章 王国へ

22 祝福を

しおりを挟む
 謝罪に訪れたのは王太子であったのに、王妃の方が小さくなってしまっている。

「今朝のことはお忘れになってください……」

 そう言う王妃は顔を覆って項垂れていて、王太子は今朝以上に王妃に申し訳なく思ってしまう。

 しかし、あのまま何もしないというわけにはいかず、弟に書かせた謝罪の文を携えて、王妃の宮を訪ねた王太子である。

 その謝罪をどうにか受け入れた王妃は、しばらく思案しているようであったが、ふ、と息を吐いていう。

「二の殿下は、わたくしの無学をご指摘下さったに過ぎません。お陰でわたくしも新たな気付きを得ることができました」

 新たな気付きとは何か、などと王太子は考えない。それを考え出したら、女官だらけのこんな場所にはもう居られない。王太子は慌てて申し上げる。

「いいえ、ただ弟が思い詰めただけのこと、私共の至らなさのせいでございます。しかし、左様に仰って頂くなど、ありがたいことでございます」

 正直に言って、弟を不問としてくれるのは有難い。弟はこの王妃の言葉を聞けばまた酷い顔になるだろうが。

 王妃としても蒸し返して欲しくはなさそうなので、この一件はこれで手打ちとなるだろう。

 もちろん、根本的な解決からは程遠い。

 だが、根本的な解決を図るとなると……。

 王太子はその先を今は打ち明けるべきではないと判断する。それでなくとも今日は早々に引き上げる方が良いだろう。

 故郷を離れるということは、辛いことだろう。

 ザイと帝国大使を交えて話した夜、あんなに明るく笑う王妃を見たのはいつぶりだろうか。

 そのザイとの語らいに難癖をつけた第二王子に対する女官らの怒りを思えば、王太子は改めて背中を寒くする。

 なによりも、王妃だってあのまま楽しい思いに浸っていたかっただろうに。王太子は、やはり王妃にすまなく思うのだった。

 そんな王太子に、王妃が言う。

「あの、お話は変わりますが、一のお姉様はいかがですか?」

 考えに沈んでいた王太子はハッと顔をあげる。やはりこの神子はよく見ていらっしゃる。

「はい。お察しのことかと恐れ入りますが、少々体調を崩しました。緊張のせいでしょう。先程医師の診察が終わり、安静を命じられました。今は落ち着いております」

「左様でございましたか。私にできることがありましたら、どうか仰ってください」

 王妃は本当は見舞いに行きたいが、それをすれば王太子妃の体調不良の噂が立つ。

「お心遣い、感謝致します」

 王太子妃の体調を気遣うのは、王族の中では、王太子の他にはこの神子しかいない。将来の国王を宿したかもしれない身となった今でもだ。それに思うところのある王太子は、我知らず拳を握り込んでしまう。

「王妃様のそのお心遣いこそ、妻の、私の力になります」

 そして、わずかに面を伏せ、王太子は帝国の神子様に申し上げる。

「王妃様。我が国と、我が妃、我が子にどうかご加護を」

 使い古された神子へのことば。

 だが、今は、このことばだけで十分だ。それでもこの神子は察するだろう。先日、王妃が出した遷都の話題を笑い話で済ました王太子の変化に。

 王太子の予想は当たっていた。王太子が面を上げれば、先程まで恥ずかしさで消え入りそうだった王妃の様子は何処へやら、そこには目を強く輝かせた帝国の神子がいる。

 やがて、王妃の顔がほころぶ。

「はい。幾久しく栄えあれと」

 返るは型通りの神子の祝福。

 幾度となく聞いたそれは、今までにない熱を持って王太子に降り注ぐ。

 王妃の宮を辞した王太子はその夜、各所への文を一思いに書き上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました

かしおり
恋愛
「アメリア・ヴァルディア。君との婚約は、ここで破棄する」 王太子ロウェルの冷酷な言葉と共に、彼は“平民出身の聖女”ノエルの手を取った。 だが侯爵令嬢アメリアは、悲しむどころか—— 「では、実家に帰らせていただきますね」 そう言い残し、静かにその場を後にした。 向かった先は、聖獣たちが棲まう辺境の地。 かつて彼女が命を救った聖獣“ヴィル”が待つ、誰も知らぬ聖域だった。 魔物の侵攻、暴走する偽聖女、崩壊寸前の王都—— そして頼る者すらいなくなった王太子が頭を垂れたとき、 アメリアは静かに告げる。 「もう遅いわ。今さら後悔しても……ヴィルが許してくれないもの」 聖獣たちと共に、新たな居場所で幸せに生きようとする彼女に、 世界の運命すら引き寄せられていく—— ざまぁもふもふ癒し満載! 婚約破棄から始まる、爽快&優しい異世界スローライフファンタジー!

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...