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第五章 変化

03 帰り道です(王国からの)

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 ザイはまだ帝国の都に入れずにいる。いつもなら都だろうが宮だろうが、時に外国だろうが単身出入り自由なザイであるが、今回は正式な帝国の使者であるから、都に入る前に様々な儀式をこなさなければならない。

 その逗留中の仮宮に、宰相邸からザイヘ使いが来た。宰相夫妻不在のため、直接ザイの判断を仰ぐためだ。そこで初めてザイは父母の動向を知り、思わず天を仰ぐ。

「邸の皆さん、大変だったんだね」

 本当は「何か、すみません」と、なんとなく謝ってしまいそうなザイだったが、どうにかそれは避けた。使いは慌てて首を振る。

「いえいえ、今までにも何度かございましたことですし。あっ、いえ」
「何度かございましたか」

 それ僕知りませんが、と言うザイに、ザイ様のご幼少の頃とご不在の間のことです、と使いがこれまた済まなさそうに言う。

「そうだったんだ。それは、うん、今まで気遣ってくれてありがとうね」

 謝ればさらに首をブンブン振りそうだからそう言ってみたザイだったが、やはり使いは「いえいえ!」と首をブンブンふるのだった。

 ※

「第四王子様が、僕と?」
「はい。ザイ様のご都合が良ければ一度お話を、とおっしゃっておられます」
「そう……」

 詳細を聞いて、ザイは面食らう。

 ──なぜ僕と? 王国の様子をお尋ねになりたいのだろうか?

 しかし、とザイは思う。ザイが見たままの王国の様子を第四王子に伝えて良いものか? 

 王国は平和だった。浮かれているようにさえ見えた。
 国王は、今の第四王子の様子については一切尋ねてこなかった。王太子様があなた様のことをずいぶん心配しておられましたよ、とお伝えした所で、第四王子はきっと受け入れないだろう。

 それに、王妃のことを聞かれたりなどしたら。

 そう考えると、ザイは途端に落ち着かなくなる。あの夜のことは、ザイの前を通り過ぎてきた女性達との間に時折あったこと(の変型版)がまた一つ増えただけ、などと割り切る余裕は今のザイにはない。

 王妃のことがなくとも、今のザイの手持ちの情報で第四王子と話しても、益になることが全くない。

「うーん、そうだね、こちらの都合をお考えくださる殿下の御温情におすがりしたい。
 帰国したら僕はしばらく宮で仕事に追われるだろうから、それが落ち着いたら是非に、とお伝えして」
「畏まりました」

 第四王子は自分などずっと無視し続けるだろうと思っていたザイである。

 何か王子に変化があったのか?

 ザイは下がろうとしていた使いを呼び止めて尋ねる。

「ここのところ、殿下はどのようにお過ごしだった?」
「はい。庭を散策なされたり、ユキちゃんたちの『狩り』をご覧になったり」
「あ、もうその辺、殿下には大公開なんだ」
「はい。長のご滞在になりますし、隠し通すのは無理だとの閣下のご判断です。今では王子様におかれても、特に驚かれたご様子もなく」
「そっか」

 慣れちゃったのか王子。それきっとあんまり良くないけど。

「奥方様も『恐らく王子様は口外なさらないでしょう』と」
「……そっか」

 ──母さん、他所の王子様を脅す気満々かな? いや、それ以上のこと考えてたりするかな?

 以前、宰相を宥めるために宰相邸へ遣わされたザイは、今度は宰相夫人を鎮めるお役目が回って来そうだと遠い目をする。

「父さんがすぐ帰るだろうけど、僕も出来るだけ早く帰るようにするね」
「はい! そうして頂けますと大変有り難く存じます!」

 そんなに?

 ザイは驚くが、考え直す。

 異国の王子を、主人もその夫人もない状態で預かっているのは不安だし、主人夫妻の不仲を外部に知られないようにするのはやはりしんどいのだろう。

「うん、邸のみんなによろしくね」

 使いはホッとした顔をして帰って行った。

※────
・以前、宰相を宥めるために宰相邸へ遣わされたザイ
→第一章22話「護衛二日目の夜 聞き上手の最終決定を止める役」
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