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前日譚、そして
前日譚8.こんな平凡顔のオタクですが、なにか?
しおりを挟む「な、なるほど……」
……で、召喚石は徹底的に壊されたと。
粉々にされたうえ、その塵すらも全部消し去られたと。
あー……なるほどねー……。
王さま、さすが……存在がバグってるだけあるね。チートだね。
ええと、つまりわたしは?
上芝結衣は、この世界に召喚されて、戻れなくなったってことだね。うん……。
いや、めちゃくちゃ警戒してたところ申し訳ないんだけどさ。別に、向こうの世界に対抗するような魔法使いはいなかったと思うな……あははは……。はぁ……。
寝物語にするにはちょっと重たすぎる話を聞かされて、若干頬が引きつるのは仕方がないことだと思う。
いやー……それにしてもすごいことになっちゃったね。
ええと?
この黎明のイルスフィア――【黎イル】の世界に召喚されてから、もう何日経ったんだっけ?
ぐちゃぐちゃになるまで3人のバグウィルに愛されつづけたわたしは、ようやく少しは性欲が落ち着いたらしい3人に抱き込まれながら、スケールが大きすぎるこれまでのことを聞いたのだった。
背中側に首領が。
正面、腰のあたりを抱き込むようにして、わたしのお腹に顔を埋めるようにして騎士ウィルが。でもって、そんなウィルの後ろ側から、身体をずらして、わたしの顔に頬を寄せるように抱き込んでくるのが、王さまで。
例の無駄に広いベッドの上で、抱き込まれたまま聞く話ではないと思うんだけどさ……あはは……。
召喚されたその時は、事情もそこそこにぼかされ、流されてたもんね。
なんとなく、「あれ? もしかしてこれ、黎イルの世界に転移してない?」みたいな。漫画とかアニメとか? 小説で読んだあの展開なんじゃ? みたいなね? 夢みたいなことだって思ってたけどね。
……全然夢じゃなかった。
現実。
超。現。実。
疑いようもない、現実をつきつけられてわたしは――鳩が豆鉄砲を喰らったような、間抜けな顔をすることしかできなかった。
いや、実際こんなものよ?
スケールすごすぎて、はあ? って感じ。
わたしは、いわく〈器〉だった導手の身体に入りこんで? それとも一体化して? 覚醒して?
――うーん、表現は悩むけど、とにかく、導手そのものになったらしく?
そのあとはえろえろな夢女逆ハードリーム(♥乱舞つき)にご案内ですよ。いやまって、現実っ! ……現実!? 現実???
以前から導手とわたし自身がダブって見えてたとか、わけのわからない事実を知らされて。でも、バグウェルたちは、そんなダブって見えてたわたしの存在を好いてくれてて?
サービス終了直前、こうしてわたしをこの世界に引き込んで、召喚石を破壊……もう、どう足掻いても元の世界には戻れなくしてくれたと。
「……」
ええと……召喚石は……別に破壊する必要なかったんじゃないかなって思うんですけど……もう戻れない……マジですか。
お父さーん、お母さーん!
あと、お仕事は!? ってか、アパート解約してないんだけど!?
……とか、いろいろ考えたんだけどね、それは大丈夫なんだって。
召喚石の力はね? 正確には、別の時空からその人格そのものを複製することらしいって。
だから、目の前のウィルも、王さまも、本来彼の居るべき世界? 時空? には、ちゃんと存在は在り続けているはず……ってことらしく。
あっ。もちろん、理論上は、なんだけど。
わたしはわたしで、元の世界できちんと社会人してるわたしは存在し続けているはずだって教えられた。
向こうは何も変わらない。
お父さん、お母さんを悲しませたりはしていない。
なら……いいか。
んっ? いいのか?
ええとーよくない気はしないでもないけど?
……あんまり、いま、実感ないっていうか、よくわかってないのかもしれない。この事態が。
「あまりぼんやりするな、主」
「んっ……」
ちぅって、王さまが顔を寄せてくる。
わわわっ。
えっちしてるときはワケがわからなくて、流されるままだったんだけどさ。こうして意識がはっきりしてるときにキスされると、非常に……ええ、非常にドキドキしますよ。
ってか。わたしで、いいの? ほんとに?
こんな平凡顔のオタクだよ?
全然釣りあわないって思うんだけどっ。いやっ。あの、嬉しいんだけど、さすがにこの状況、目が回りそうっていうかっ。
「…………そんなに帰りたいのか?」
えっ!?
あ、そういう風に見えちゃった!?
って、帰りたいか問う王さまの言葉聞いただけで、首領もウィルも、わたしを抱きしめる腕に力込めるのってさあ……やっぱ、離れたくないって、思ってくれてるからだよね?
わー……!
わーーーー…………っ!!
あ、い、されて、る……っ!?
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