【R18】処刑されるはずが、目覚めたら敵国王子の推し活包囲網にとらわれていました

浅岸 久

文字の大きさ
42 / 61

王都への呼び出し(1)

しおりを挟む

 日々は過ぎていく。

 結論から言うと、前と同じ2週間くらいで、髪の色がうっすら元に戻ってきているのはわかった。
 色彩に関してはユスファが色として描きとめてくれていたから、間違いがないと思う。

 今はほんのりピンクがかったグレーの髪に、似た色彩の瞳の色。とにかく、祝福自体がなくなったわけではなかったことに心底安心した。
 一度〈命脈〉にも触れてみて、以前と同じように調整できることにほっとする。体調が整ってきているからか、魔力の調子もよくて、以前よりも余裕があった。

 ギヴァリオ・リュカスの不可解な動きもある。
 だから私はできるだけこまめに〈命脈〉に潜りつつ、日々を過ごしていたんだけど。

 ――辺境領で過ごしてから間もなく1カ月半が経とうとしていたころ、王都からの呼び出しがあった。
 私たちとしても、国境の心配があるから伸ばし伸ばしになっていたのだけれど、アーシュのお父様国王陛下がいいかげん挨拶に来い、と言っているわけで。正式に結婚を認めてもらうため、行かないわけにはいかなかった。

 どうにもきな臭いところもあるから、南のイッジレリア側だけでなく、リュカス領側にも十分警戒するように指示をして、ノルヴェン王国の王都リファミアスに向かった。

 ちなみに、ノルヴェンの初代王妃の名前がリファミアだったため、都市の由来は推して知るべし。辺境領の領都ライラスの意味も、ちょっと決める際フライングしすぎなのでは、という話はさておき。





 一面の雪景色だ。
 北へ向かうほどに、冬は深く、世界は凍えていく。

 見渡すかぎりの大雪原。それでも、国道が完全に閉ざされぬように、魔晶石を駆使してなんとか物流を確保しているのが伺える。
 砂漠のイッジレリアとは対称的な真冬の景色に、私はどこか寂しさを覚えてぼんやりと外を見ていた。

「変わったね……」
「ああ」

 私が知っているノルヴェンとは全然違う。
 私がこの国にいたころには、長い冬はもちろんあったが、きちんと春が訪れ、穏やかな陽気のしたで色とりどりの花々が風に揺れていた。
 王都リファミアスは雪と花の都とも言われていたのだ。

 それが、今はあまりに寂しい。


 外門をくぐると、多少の冷気は和らいだ。
 魔晶石をふんだんに使用し、人々が住める気候を保っているのだろう。
 それでも、人々の表情はどこか暗く、閉塞感のようなものを感じる。

 王城は王都の中心にある。
 この国で最も太い〈命脈〉が集まっている場所の上に建て、街――いや、国全体にその恩恵が行き渡るようにしてあるのだ。

 正面に見える尖塔。白い外壁と青い屋根が美しい、雪と花の都に相応しい城ではあるけれど。

「あれ?」

 南側の外門をくぐって城までは一本道のはずだ。なのに、馬車が横に逸れ、私は目を丸くした。

「俺たちは北の離宮に向かうことになっているからな」
「しばらくは離宮でお世話になるってこと?」

 なるほど、と思う。
 昔、人質としてこの国にやって来たとき、私は離宮でお世話になっていた。
 慣れ親しんだ場所だから、落ち着きそうだ。
 もちろん、ライラリーネではなくライラとして来ているから、初めての場所に向かったものとして反応しなくちゃいけないのだけれども。
 自分の演技力は大丈夫かな、と不安もあるけれども、腹を括るしかない。

 でも、改めて考えてみて、だ。王の呼び出しで王都へ来たと言うのに、離宮滞在とはどういうことだろうか。
 王城はとにかく広く、他の王子たちも王城に住んでいたはずだ。当然、アーシュの部屋もあるはずだし、諸外国からのお客さまも王城に宿泊していた記憶はある。

「やっぱり私が平民だから、王城に真っ直ぐ通せないってことなのかな?」

 だとしたら、少し申し訳ない気持ちになるけれど。

「そうではない。俺は、離宮に居を構えているから」
「え?」

 思いがけない言葉に、私は息を飲む。

「そうだったの? えっ? いつから?」

 私が人質だったときもそうだったのだろうか。
 いや、でもさすがに――と思ったところで、アーシュが目を細める。

「10歳になる頃にはすでに」
「まだ子供じゃない!」

 全然知らなかった。
 あまりにギョッとして身を乗り出してしまうも、アーシュが転ばないように支えてくれる。
 それから、ごく自然に彼の膝の上に座らされ、後ろからぎゅうと抱きしめられた。
 ちょっとだけ、寂しがりな子供のような顔をして。

「でも、そんな。アーシュ、ご家族とはみんな、仲良かったし」
「そうだな。もったいないくらい、気に掛けてもらっていた」

 彼のお母さまこそ、亡くなっていることは知っているけれど、不仲などの話は聞いたことがない。

 アーシュはずっと、私が彼の兄弟に取られないか心配していたけれども、どちらかといえば、周囲の貴族たちの意見を気に掛けていたのだ。
 後継者が大勢いれば、自然と貴族に派閥はできるもの。
 ノルヴェンはすでに長兄が立太子しているけれど、それでも、各王子ごとに勢力は分かれている。
 自分の派閥の力を高めるため、周囲の貴族たちが先回りして動く可能性が高かったのだ。

(えっと、ノルヴェン王家には今、国王陛下と正妃陛下の他、側妃はもうひとりいらっしゃったわよね。もともとはアーシュのお母さまがご正妃だったけれど、お亡くなりになって、側妃のひとりが正妃になったと――)

 現在の王妃陛下のお子である王太子殿下に、アーシュ、それからもうひとりの側妃のお子である第三王子が続き、同じく王妃陛下のお子である第一王女の四人兄弟だ。
 正妃と側妃も互いの責務を全うする真面目な性格らしく、この難しい局面の中、よく国を支えていると聞いていた。
 兄弟内で権力争いを繰り広げるイッジレリアの王家と異なり、ノルヴェン王家は皆同じ方向を向いているのだなって羨ましく思ったものだ。

 だから、余計になんで?とも思う。
 アーシュは本人こそ他者を突き放すような言動をすることも多かったが、ご家族は彼を愛していた。
 アーシュも王位継承権を持たないためか、他の兄弟たちに対して一歩引いたようなところもあったが、別々に暮らしていたとは思わなかった。

「陛下もすぐに会いに来てくれるそうだ。だから、離宮で一緒に陛下を待ってくれるか?」
「もちろん、だけど」

 しかも、国王陛下が会いに来る?
 挨拶に王城に伺うわけではなく。
 なぜ?と頭がはてなでいっぱいになる。

「――俺は、王城に足を踏み入れる資格がないから」
「は?」

 それだけ言って、アーシュは口を噤んでしまった。
 いや、ここで寡黙な性格発揮するのやめよう?と思うけれど、思い詰めるような彼の表情を見るとなにも言えなくなってしまう。
 だから私は、言葉の代わりに彼をぎゅーっと抱きしめ返した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

捨てられ王女は黒騎士様の激重執愛に囚われる

浅岸 久
恋愛
旧題:愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜 初夜、夫となったはずの人が抱いていたのは、別の女だった――。 弱小国家の王女セレスティナは特別な加護を授かってはいるが、ハズレ神と言われる半神のもの。 それでも熱烈に求婚され、期待に胸を膨らませながら隣国の王太子のもとへ嫁いだはずだったのに。 「出来損ないの半神の加護持ちなどいらん。汚らわしい」と罵られ、2年もの間、まるで罪人のように魔力を搾取され続けた。 生きているか死んでいるかもわからない日々ののち捨てられ、心身ともにボロボロになったセレスティナに待っていたのは、世界でも有数の大国フォルヴィオン帝国の英雄、黒騎士リカルドとの再婚話。 しかも相手は半神の自分とは違い、最強神と名高い神の加護持ちだ。 どうせまた捨てられる。 諦めながら嫁ぎ先に向かうも、リカルドの様子がおかしくて――?

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

処理中です...