1 / 8
0
しおりを挟む
冬枯れの空。
物言わぬ月。
見下ろすは無数の鉄の枝。
白いコートが翻り、傾いで、紅に染まる。
傾ぐ白い影と赤く染まる月。
目に見えて完全に動きを止めたかたち。
呼吸を失った、白いかたち。
人のそれ。
狩られた野ウサギの様にか細く息を吐く
絶命寸前の黒いいきもの。
人の形。
人のそれ。
ひと。
人間。
まごうかたなきひとのにんげんのかたち。
唇から零れるは臓器の損傷を示す赤黒い体液。
血液。
──────ごぼり。
口から吐き出る言葉だった筈のもの。
ことばのふりをした葉先。
ああもうそれが言の葉だったかどうかすら。
最期に見上げた空はヒビが入って割れている。
ぱき。
ぱき。
─────ぱきん。
今際の幻覚に黒いこどもは墜ちて。
暗く。
昏く。
銀のけものが。
[私の名前を呼んで]
ぎたりと嗤う。
[この名前が]
鼻先の吐息。
[あなたの力になるように]
──────────────────……………
色を喪いつつあった唇が微かに動く。
音なき声は震える。
冷たい粉雪のような波はかろうじて。
空気だけを大気のみを僅かに、そして微かに震わせて音波になる。
彼にただ、いきてほしかった。
唯一無二である筈の彼。
『生きて』さえいればと思った大切なひと。
最期に呼ぶのは彼の名前でなければならなかった筈なのに、違う名前を呼んだ。
「─────『レギンレイヴ』」
だからこれは、裏切りのおはなしだ。
物言わぬ月。
見下ろすは無数の鉄の枝。
白いコートが翻り、傾いで、紅に染まる。
傾ぐ白い影と赤く染まる月。
目に見えて完全に動きを止めたかたち。
呼吸を失った、白いかたち。
人のそれ。
狩られた野ウサギの様にか細く息を吐く
絶命寸前の黒いいきもの。
人の形。
人のそれ。
ひと。
人間。
まごうかたなきひとのにんげんのかたち。
唇から零れるは臓器の損傷を示す赤黒い体液。
血液。
──────ごぼり。
口から吐き出る言葉だった筈のもの。
ことばのふりをした葉先。
ああもうそれが言の葉だったかどうかすら。
最期に見上げた空はヒビが入って割れている。
ぱき。
ぱき。
─────ぱきん。
今際の幻覚に黒いこどもは墜ちて。
暗く。
昏く。
銀のけものが。
[私の名前を呼んで]
ぎたりと嗤う。
[この名前が]
鼻先の吐息。
[あなたの力になるように]
──────────────────……………
色を喪いつつあった唇が微かに動く。
音なき声は震える。
冷たい粉雪のような波はかろうじて。
空気だけを大気のみを僅かに、そして微かに震わせて音波になる。
彼にただ、いきてほしかった。
唯一無二である筈の彼。
『生きて』さえいればと思った大切なひと。
最期に呼ぶのは彼の名前でなければならなかった筈なのに、違う名前を呼んだ。
「─────『レギンレイヴ』」
だからこれは、裏切りのおはなしだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる