ぐみたんは覚えていない

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不可視未踏ソルフェジオ

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「はい」
鈴のような声が少年の耳に入った。
弾かれたように開かれた少年の目の前には、羽衣をまとった巫女服の少女がいる。空に浮かぶ冷たい月の光を思わせる銀蒼色の瞳はしかして星のように淡く煌めいていた。
少年の瞳は開かれていてもぼんやりと霞んでいて、煌めきを帯びた形しか視認してはいなかったが───。
「美少女!?だが小さい!!!」
目の前で三十センチ程の少女がふわふわと浮かんでいる事に驚愕して、ハッキリと視界と意識を覚醒させた。
「───、、、?──────?」
さりとて少年が己で確認できたのはそれだけで。
それ以外の何もかもが頭の中から抜け落ちていた。
「あ、ええ、と、、、?」
少年が周囲を見回すと、光る花に囲まれていて、それら一つ一つがまるで蛍のような光を空へと蒔いている。それが種か、花粉か、少年にはわからなかったけれど。
「(、、、自ら発光する花なんて見た事ねぇや)」
その花が空っぽの記憶の中にある、自分が知る知識、常識の範疇外の物である事だけは『理解わかって』いた。
「…ここは?」
浮かぶ少女に訪ねる。
「温度、湿度、共に私の中に存在する『ユグドラシル』データ内に該当する場所はありません」
「…『ユグドラシル』…?架空の『世界樹』とか言う…?」
「天空に存在し、世界樹の名の示す通り葉のように広がる島々を束ねているこの地の名前です」
淡々と少女は言った。
「…天空」
少年は空を見上げた。
天空、と言われても空は尚存在し、霧のような雲が絶え間なく蠢いては月と星を隠している。
暗いと言うよりも黒い空では夜も朝もわかりはしないが、と少年は思う。
「地球じゃないの?ここ」
覚えている単語を絞り出して声に出してみた。
「違います」
否定される。
世界樹、天空、と言われた時に理解はしていたけれど。
「お名前を伺っても宜しいでしょうか」
少女が淡々と訪ねる。
名前。
名前。
存在を確立するもの。
少年は。
「──────メグミ。『メグミ・ルヴェイド・グラン・アインスバルト・問間トウマ』」
そう言った。



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