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daidroid

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世界と世界は邂逅する

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「復活って……この基地を?」

「あぁ、それが一番手っ取り早い。ここをオレ達の所有物にすればすべて丸く収まる。幸い、一から造るより再利用の方が早いしな。時にボイドセクターこの施設にヘリウム3生産工場はあるか?」

『あります。エンパシーや一部の機械種に使われる動力炉に使う用途で用意してあります。』

「なら、決まりだな。シュウに報告を入れて、この基地を改造する許可を貰うぞ」



 それからドレイク達は地上に出てシャトルの中でシュウに通信を送り事のあらましを説明した。



「なるほど……月面基地に……因果律決戦兵器ですか……」

「あぁ、このまま地上に持って行っても荒れるかも知れないからな。基地を改修してこちらの管理下に置くのが手っ取り早いと思ってな」

「それは確かにそうですね……良いでしょう。では、月面基地の改造をお願いします。わたしもしばらくしたらそのエンパシーと言うモノを調べる為に月に向かいます。」

「おぉ、任せておきな。それと少し話がある。」

「なんですか?」

「ルオに件についてだ。」



 2人きりの通信室の中でシュウの顔が微かに変わる。



「オレはルオを諜報員にした方が良いと思うぞ」

「……何故、ですか?」

「アイツと過ごして分かった。アイツはそう言った事に生き甲斐を感じているのさ。例え、危険な仕事だとしても……お前だって危険を承知で創造魔術を行使しているだろう?それと同じだ」



 それを言われるとシュウはグーの音も出なかった。
 自分は良いのに人をダメと言うような極めて、無慈悲な事を言うほどシュウは無慈悲ではない。
 現に自分の両親と言うモノがその権化だったのだ。
 だからこそ、尚の事この件に関しては強く反対できなかった。



「ですが、わたしは……ルオを危険な目には……」

「その気持ちは……分かる。いや、分からんかもな。オレは子供を持った経験がないからな。親になったお前の事は分からん。そこは本当にすまんと思っている。だがな、生き甲斐を封じられた人間と言うのは死んだようなモノだと思うぞ。仮に短い生涯だとしても本人が願う最良が良いんじゃないか?」

「……」



 シュウは何も言わなくなった。
 尤も過ぎて反論できないのだ。
 否定する事も出来たが、それはルオを想う気持ちではなく自分勝手なエゴで発してしまう言葉だと思ったからだ。



(帰ったらルオとしっかり話しておかないとなりませんね)



 少なくとも頭ごなしに否定する事だけはしないとシュウは固く決めた。



「……その件に関しても理解しました。」

「そうか、悪いな戯言に付き合わせて……」

「いえ、尤もな意見です。反論する気はありません。それでは月基地の改修はお願いします。」

「おお、任せておけ!それじゃな」



 こうして、ドレイクからの通信は切られた。



「子供の将来か……」



 シュウは感慨に耽る。
 自分は親には恵まれなかった。
 だからなのだろうか?理想に親になるとする自分がいるのだが、それに程遠い選択をドレイクに言われるまでしていたようでそれが何とも歯がゆく、難しく思えた。



「子育てと言うのは機体を造るより難しいですね」




 等と頭を抱えていたところにリディオから緊急連絡が入った。



「シュウ様。宜しいでしょうか?」

「えぇ、どうしました?」

「それが……エミルトシティから東に100km地点に空間の歪みを観測しました。そこからグリードらしき存在がいる事を確認しました。」

「グリードですか……それは対処しないとなりませんね。やれやれ、これでは月に行くのはしばらく延期ですかね」



 シュウはすぐさまマナ、カナに出撃を要請した。



 ◇◇◇



 そこは地獄だった。
 無数の化け物が跋扈する地獄だった。
 あの怪物が地上に跋扈する様になってから40年、人類は平穏から遠ざかった。
 この出来事を人は神の裁きとも揶揄している。
 40年前から人間同士の権力争いや各国家の腐敗に対する神の罰であると考える者もおり、世界にはこの40年、安息はない。
 中国 旧北京にあるスフィアと呼ばれる球体から彼らは無尽蔵に現れる。
 そこには多くの部隊がおり、スフィアを破壊しようと躍起になった。
 最終的に新型戦略級爆弾をスフィアの目の前に設置した事でスフィア破壊まで目前と思われた。



「如月大尉!爆破設置完了しました!」

「ご苦労だった。安倍少尉。すまないな。わたしが不甲斐ないばかりに……。」



 短い黒髪に姉貴分を思わせる堂々とした雰囲気の女性士官の如月は部下の短い黒髪のあどけなさが残る女性士官である阿部に申し訳なさそうに答える。



「いえ、そのような事はありません!東連国民の為ならこの命が惜しいとは思いません!」



 安倍は真っ直ぐな視線で如月に答える。
 それが如月には眩しかった。



「本当に……お前は強いな。きっと、結婚すれば良い嫁になっただろうな……」

「なっ!大尉!こんな時に何を!」

「いや、こんな時だからさ。正直、わたしはお前の事を高く買っていた。恐らく、的場中尉の次の大隊長になれるとしたらお前なのではないかと考える事がよくあった。」

「わ、わたしはそんな大層な者ではありませんよ」

「謙遜し過ぎだ……おっと、もう時間か。全く、レディの会話に水を刺すとは本当に弁えない下等生物どもめ……」



 彼女らの前にはスフィアを破壊させまいと迫るグリードの大群が見えた。
 悠長に喋る暇は無かった。



「安倍少尉、続きはあの世で話そう。準備はいいか!」

「いつでも!」

「では……くたばれ!下等生物が!」



 如月は爆破装置を押した。
 それにより爆発物が臨界的に達し空間を歪めた。
 だが、突如としてその目論見は外れる事になる。
 スフィアは破壊される事はなくスフィアの背後にできた巨大な時空の穴にスフィアが吸い込まれた。
 その穴に向かって如月達の機体も落ちていく。



「大尉!これは一体!」

「分からない!一体何が!」



 2人は次元の狭間に吸い込まれた。
 そして、眩い光が差し込めたと思いその先にある景色を見て唖然とした。



「な、何だここは……」

「何で……わたし達北京の市街地にいたはずなのに……」



 そこに広がるのは地球では失われてしまった緑豊かな草原と小鳥の囀りが響く、雄大な大地が広がっていた。
 そして、そんな彼女達の頭上に何かが過ぎ去る影があり思わず上を向く。



「アレは……」

「ド、ドラゴン!」



 頭上を通り過ぎたそれはこちらに反転し如月達の目の前に着陸した。
 それは赤い鱗に覆われたドラゴンだった。
 物語の世界にしかいない架空の生物がこちらに向けて咆哮を奏でスフィアから現れるスフィアクリーチャーが彼女を板挟みにした。




「くそ!よく分からんが向こうはやるらしいな!」

「こうなったらトコトンまで付き合いますよ。大尉!」



 2人は銃口を前面のドラゴンと後方からのクリーチャーに向けた。
 とは、言え残弾の心許ない。



「ハンター1フォックス1!」

「ハンター6フォックス2!」



 如月は前面にいるドラゴンに安倍は後方からのスフィアクリーチャーに弾丸を発射した。
 スフィアクリーチャーは幸い小型の人型だった為に数は多いが弾丸は効果を示した。
 しかし、ドラゴンに対しては弾丸が殆ど貫通しなかった。



「何!弾丸が効かないだと!」



 スフィアクリーチャーの中には弾丸が正面から効かない存在もいるがそれは全身が甲殻に覆われているからだ。
 ここまで柔軟に動く生物の鱗が硬いとなると最早、異常としか言いようがない。



「なら、これでも喰らえ!」



 如月はマシンガンの下部に付けていたグレネードランチャーを残りの残弾3発分を撃ち込んだ。
 この弾頭を使えば、堅牢な甲殻を持つスフィアクリーチャーの甲殻すら破壊する事ができる。
 だが、頭部に着弾し煙が上がるそこからは煙を払い炯々にこちらを睨むドラゴンの姿だった。



「なんだと!グレネード弾すら効かないだと!」



 そして、ドラゴンは返礼と言わんばかりに口から炎が溢れ出た。
 何か来ると感じた如月は阿部に「散開」を指示した。
 すると、轟音と共に大地を抉るような熱線が放たれ、目の前にいたスフィアクリーチャー達が一掃されてしまった。



「う、うそ……」

「何という破壊力なんだ……」



 スフィアクリーチャーも人智を超えた怪物だが、目の前のドラゴンはそれ以上だった。
 単体において、火力、機動性、装甲値どれをとっても高水準に纏まっており一種の生物兵器の完成系と言える権化だった。
 幸いと言うべきか今の一撃でスフィアクリーチャーは全滅しスフィアから後続が出て来る気配はない。
 スフィアは定期的にクリーチャーを産み出しその際に淡く発光するがその予兆がないと言う事は今のところ、スフィアクリーチャーの脅威は去った。
 だが、もう1つの脅威は以前、そのままだ。



「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」



 ドラゴンが咆哮を上げて敵意を2人に向ける。



「阿部。弾残はあるか?」

「もう、ありません」

「わたしもだ……残るは長刀だけだ。だが……」



 あの装甲の前に長刀が意味を為すとは思えない。
 スフィアクリーチャーの甲殻種と呼ばれるダンゴムシの姿をした怪物の甲殻にすらダメージが通らないのに全身甲殻のような生物に効くとは思えない。



「目を狙えば、なんとかなりますかね……」

「目か……分が悪いがそれしかないか」



 最早、阿倍の提案に賭けるしかなかった。
 ドラゴンは翼を羽ばたかせ、低空飛行しながらこちらに肉迫してきた。
 2人はマウントハンガーから取り出した長刀を抜刀し構えた。
 だが、その直後異変が起きた。




 ダダダダダダダダダダダ



 凄まじい轟音が鳴り響いたと思うとドラゴンの真上から何かがドラゴンの全身の肢体を貫き、ドラゴンを絶命させた。



「一体、何が……」

「大尉!アレを!」



 阿部が上空を指差すとそこには蒼黒い装甲に背後に六芒を模った装置を背負った巨大なマシンガンらしき物を装備した機体が悠然と上空にいた。



「アレは……」

「AP……なの?」



 彼女らがAPと呼ぶ兵器にしてはあまりに禍々しく少し恣意的なデザインとしている気もした。
 まるで魔王とか魔神を彷彿させるようなそんなデザインだった。

 すると、その背後から遅れて到着するようにクリムゾンレッドとライトオレンジが現れた。
 だが、その姿も異形の姿だった。
 特にクリムゾンレッドの機体は漆黒の翼を生やしておりその姿はまるで堕天使のようだった。



「翼を生やした……AP?」

「どの機体も見た事がない規格ばかりだな」



 そんな風に観察していると向こうから通信が入った。
 如月は応じない場合、即射殺される可能性が頭に過り通信に応答した。



「こちら、こちらアーカイブ傭兵団 ゴスペル方面軍のギデオン クラスターのシュウです。そちらの所属とここで何をしていたのか話して下さい」



 シュウの意図としてはこの2人が後方にあるグリードの固有周波数の神力を出しているグリードに関係ありそうな球体物を使って、グリード出現に関与しているのではないかと疑い、対話的に装いつつ、いつでも攻撃できるように準備していた。

 対してあくまで対話的な“シュウ”と言う男に対して如月は現状何も分からない中で情報を得る為に身元を明かすのが適切だと判断した。



「こちらは東連合 日本方面 新潟基地 第24連隊第36機動大隊 カシマ大隊所属の如月 元子大尉だ。ここでの目的に関しては特にはない。信じられないだろうが、突然見知らぬ地に飛ばされて困惑している。」

「見知らぬ地……ですか……」



 シュウは彼女らの背後のある球体とその更に背後にある時空のねじれからある結論に達した。



「恐らくですが、ここはあなた達が住んでいた世界は別の世界……異世界であると示唆します」

「異世界……だと?」

「あなた方自身、先ほどのレッドドラゴンを初めて見たはずです。更に言えば我々のネクシルとて初見なのではないですか?」

「ネクシル……そのAPの名か?」

「AP……そうですね。APです」



 一応、シュウもギデオン クラスターのデータベースを覗き、元々ネクシルがAPと言うカテゴリーの兵器である事は知っている。
 その意味では共通した認識だったので態々その認識を是正する必要はないと判断してAPだと肯定した。



「わたしのAPの観測では後ろにある空間の歪みがあなた方の世界に繋がっていると推測されます」

「何!なら、帰還できるのか!」

「ですが、今はやめておいた方がいいでしょう。何分、かなり不安定な状態が続いています。今は確実には帰れません」

「今は?」

「こちらの解析によれば、この時空のねじれはいずれねじれたまま安定化します。つまり、時間が経過すれば安全に帰れる可能性が高くなります。」

「本当か!」

「えぇ、ただし確約はできません。あなた達の世界に繋がっているとは推測されるのでこのままいけば接続は可能でしょう。ですが、何かの行き違いを起きる可能性もある。とはいえ、今そこに飛び込んで元の世界に帰れる可能性は0.1%と言っておきます。ちなみにこのまま安定化すれば80%です。どちらを選ぶかはあなた達に委ねますが、時間経過を選択するなら我々としてはあなた方を保護しないとなりませんので出来れば従って欲しいモノです。」



 この相手が嘘をついているとは思えない。
 初対面に嘘を吐くメリットもない。
 仮に彼の推論が正しい場合、今この中に入っても帰れない可能性も方が遥かに高い。
 当面の期間の目途が立たず、時間が経てば帰還率が上がりこの異世界で当面の間の後ろ立てを得られるなら選択肢は1つしかない。



「分かった。そちらに保護を要請する。」

「了解。要請に従い、あなた方を保護します。それでは我々の基地に案内しますのでついて来て下さい」



 こうして、如月元子と阿部晴美は異世界を股にかける騒乱の台風の目に巻き込まれる事になる。
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