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グリードとスフィアクリーチャー

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 案内されたのは基地と言うより城だった。
 それもかなり豪勢な城であり内部にはレッドカーペットが敷かれている。
 そして、食堂に着くと如月達の世界ではまず、お目にかかれない天然の肉のステーキが出て来た。



「作法等は気にせず、遠慮なく食べて下さい。お口に合えばいいのですが……」



 あくまで紳士的に接するシュウに多少は警戒しつつもゆっくりとナイフで肉を斬りフォークで口の中に肉を運び、咀嚼する。
 すると、溢れる肉汁と油から滲み出る豊潤な香り臭みもなく油もしつこくないと言うまさに高級品の食材だった。



「お、美味しい」

「こ、これはさぞ高級なのではないか?よろしいのか?こんなモノを出して……」

「えぇ、高級である事は認めますが、何分我が組織は金が余っておりますから、客に対してこのくらいの礼はしますよ」



 高級な牛肉を食べ終えた後、シュウは改めて挨拶した。



「では、改めてわたしはシュウと言います。このギデオンクラスターのギルドマスターをしています。」



 そして、後ろにいるマナとカナも答えた。



「同じくマナよ。ギデオンクラスターのサブギルドマスターをしています。」

「同じくカナです。整備主任をしています」



 それに対しては如月達が答える。



「如月元子大尉だ。」

「阿部晴美少尉です。」



 彼女らは立ち上がり敬礼で応対した。
 これでも肉と言う相手の尽くされた礼に対するせめてもの返礼だ。



「手厚い保護をして下さった事に感謝する」



 如月が答えるとシュウも答える。



「お気になさらず、この世界は特殊な世界でしてね。あなた達のような異界からの客人がどのような影響を与えるのか計り知れなかったから保護したまでです」

「特殊……と言うのは?」

「それに関してはこの世界では他言無用に願うが実は……」



 シュウはこの世界が一般的にはゲームとして知られる異世界である事、GCの目的等を話した。
 だが、彼女らにはコンピューターゲームと言う概念がなかったので説明は難航した。



「つまり、この世界は世界そのものがゲームであり多くの者がゲームと思い込んでいる現実と言う訳か?」

「そうなります」

「そして、GCとはゲームを運営する会社側の組織でありその目的は人類を破滅させるグリードや邪神の討伐を請け負う軍属と言う事か?」

「軍属とは少し違いますが概ねその通りです」

「そして、そのグリードと言うのは我々の言うところはスフィアクリーチャーであると……」

「そうですね。あなた達の話を照らし合わせるとそのような結論に至ります。」

「そして、あなた方の持つ情報ではグリードとは人間の悪害感情から発せられるSWN粒子の具現作用により実体化した存在……だったか?」

「そうなります」

「つまり、グリードの侵攻を許しているのは我々、人類の悪徳に問題があるからと言う事か?」

「客観的に言えば、その通りです」



 如月の世界ではグリードについて何も判明していない。
 判明しているのは倒せば、自然と消え、人間に対して敵意を抱いていると言う事だ。
 現にグリードは動物には攻撃しない。
 人類だけを標的にしている事からも明らかであり人間が人間を憎悪する感情から来るのであれば理屈として間違っていない気はした。
 だが、だとすると耳が痛い話だった。



「我々、人類の不始末が自分の首を絞めていたとはな……」

「耳が痛いですね」



 これには如月だけではなく阿部も同意した。
 だが、千載一遇のチャンスでもあった。
 この邂逅でグリードの解明は大きく進歩したと言えるのだ。
 このチャンスを活かす手はなかった。




「シュウ殿。そのグリードに関して何か対策はないか?」

「対策……ですか。そうですね。現在、我々の世界は数多の世界のSWNを吸収しておりグリードを発生させないようにしています。その上でそちらの世界にグリードが発生しているとなると“総意志”が関与しているかの知れません。」

「総意志?」

「総意志とは、人類の進むべき道の方向性を定める人間の事です。その人物の行う行動や方針が世界の命運を左右すると言う役付けです。ですが、それは邪神により選ばれたいわば、人類を破滅させる道を先導する存在です。その“総意志”があなた方の世界を先導しているならあなた方の世界にグリードが多くて当たり前になります。」

「つまり、その総意志を排除すればなんとかなると?」

「理論的には……ただ、総意志とは複数人存在する場合もありまた、各時代毎に様々な場所に存在します。1人排除したとして、それで終わりとはなりません」

「一筋縄では行かないか……だが、帰還後にユウキ ウヅコ准将には報告した方が良いな」

「ユウキ ウヅコ……」



 シュウは微かに眉を細めた。



「どうかしましたか?」

「いえ、何でもありません。それよりこちらからも確認した。あのスフィアと言う球体は定期的にグリードを排出するのですよね?」

「あぁ、その通りだ」

「その総数は何体ですか?」

「おおよそ、一度に最低でも10万前後でそれが数度行われる事もある。」

「10万ですか……多いですね」



 シュウの第1の懸念としてはこの世界にもグリードが頻発しそれによりNPC達が被害を受け負の感情を放出する可能性がある事を一番懸念していた。

 10万前後でそれが数度、最悪100万規模となると馬鹿にできない数だ。
 グランゲートなら十分に殲滅できるだろうがそれはエミルトシティの防衛を考慮に入れない場合だ。
 防衛に回る事を前提にすればかなり難易度が上がる。
 マナとカナを合わせてもとても1人では対応できない。
 だからと言って、アイカ達に出動を要請する訳には行かない。
 他国からの国防に担う彼らを軽々に動かす訳にはいかないからだ。
 アイカ達を動かすにはノワールと近隣のエネミーを封殺しないとならない。
 そんな事は現実的ではない。
 従って、今回も全プレイヤーに力を借りる事にした。



「マナ、如月大尉達を交えてイベントの計画を行います。すぐに会議室の準備をして下さい。」

「分かったわ」



 そう言ってマナは部屋を出た。



「そのイベント……とはなんだ。祭りか?」

「そのようなモノであります。しかし、ただの祭りではありません。我々、NOプレイヤーの戦いの流儀とでも思って下さい」



 その時のシュウはどんなイベントにするか考えるのに恍惚な笑みを浮かべて笑っていた。
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