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胎動は始まっていた

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 アーリア サイバーテクノロジー社

 最近、会社はある問題を抱えていた。
 それに関して黄燐も頭を抱える。



「まだ、敵は見つからないのか?」



 それには百合が答える。



「はい。未だ進展はありません。何者かが人型兵器を使い、アーリアの名を騙り戦争を起こしている事以外なにも……」




 ここ最近、イラク周辺でイラク軍や駐在するアメリカ軍に対して攻撃を仕掛ける謎の人型兵器の情報が入っていた。
 その機体は戦車などを3次元的な機動戦闘で圧倒し戦闘機に変形しドッグファイトを繰り広げ既存の兵器を圧倒した挙句、「アーリア サイバーテクノロジー社の名の元に革命を!」などとほざいたらしい。

 これによりアーリア社の株価を低下した。
 株価が低下してもこの会社は成り立つがそれでも看過できない事もある。
 まず、アメリカなどに疑われている事だ。

 無論、会社の公式な会見では「テロリストが我々の名前を借りてテロ行為をしているのは誠に遺憾である」と返答した。
 表向きただのIT関連のゲーム会社が武装勢力を持つはずがないと言うのは周知である。
 しかし、NOと言うゲームは極めてリアルでありゲーム内でも全ての機体と武器に設計データが存在する。

 なので、アメリカは「設計図が有れば、人型兵器を理論的には作れる可能性がありアーリア社を調べる必要がある」とアメリカ政府は公言した。
 彼らとしては世界の警察と言う立場を利用してアーリア社の技術を接収する事が目的である事は言うまでもない。
 尤もアーリアにとってそのような俗物達の対応はそこまで難しくない。
 問題はそこではないのだ。



「やはり、SWNの増大は看過出来んな」




 アメリカとイラクのアーリアに対する疑いと言う名の負の感情がSWNとして発生しており更に無差別的なテロ行為の影響で多くのSWNが更に増大していた。
 その事の方が一番問題だった。



「百合……に関してはどうなっている?」

「現状はまだ、規定値です。しかし、このままのペースならいずれ限界が来ます。の要であるアイカ様にも僅かばかりの変調も見られます。」



 それを聴いた黄燐は項垂れる。
 今回の件はアイカのメンタルにも関係してくる。
 アイカ リスパルダーはただのNPCではないのだ。

 あの世界にとってはなくてはならない根幹的な人物でありあの世界の要とも言える人物だ。
 彼女にもしもの事が有れば、世界が終わる。
 誇張などではなく列記とした事実だ。



「微かな変調か……事、彼女に関しては微かでも容認は出来ないな……一番変調がない時間帯などはあるか?」

「ここ1週間のデータを見ますとリリーシャさんと言う方と模擬戦をしている時が一番安定しています。その時だけは封印のかなり安定領域に入っています。」

「異界から来た女騎士か……まさか、彼女と拮抗する実力者が現れるとはこちらとしては予想外だったが今となっては行幸か……ならば、出来る限りリリーシャと言う騎士と模擬戦をさせるようにシュウに相談しないとならないな」

「アイカ様について伝えるのですか?」

「伝えるとも。彼は十分に信用における働きをした。そろそろ、全てを知っても良い頃だろう。アイカの件やヘルビーストの正体なんかも教える時が来たのかも知れない」

「承知しました。そのように取り計います。」

「その件に関しては百合に一任する。わたしはアーリアの名を騙るテロリストの捜索に専念する。アイカの体調の変化などには気を配れ、特にリリーシャとの模擬戦に必要なモノがあるなら君の判断で揃えて良い。くれぐれも慎重に頼む」

「はい」



 百合が重苦しく返答をすると黄燐は立ち上がり部屋を出た。
 そして、百合は1人になった部屋で固く拳を握り決意する。



「アイカ様……今度はわたしがあなたを救って見せます!」




 百合の決意がメラメラと燃えていた。



 ◇◇◇



 一方、その頃



 シュウ達はリュヴィエール聖騎士団と共にエネミーの間引き作戦を展開していた。
 だが、今回は少しだけ装いが違った。



「なんだこれは?」

「アレ?ロックオンが狂って……」

「レーダーも変よ!」



 ドレイク、カナ、マナが不調を訴えるとともに戦域にいた機体の調子が狂い始めた。



「一体何が……」



 シュウも原因が分からなかった。
 だが、それに真っ先に答えたのはアイカだった。



「総員!直ちにコックピットから退避!機体は戦域から離脱させて!」



 アイカは有無を言わさずそのように指示した。
 何が起きたのか分かっていない者もいた。
 勿論、シュウとて分かっていなかった。
 だが、他でもないアイカが言う事なのでシュウもメンバーに対してアイカに指示を従うように促す。

 コックピットから降りたシュウは黒杖と黒い外套を着て降りた。
 一応、これがシュウのとっての歩兵火器だからだ。
 カナとマナは炎竜甲冑 レッドエンペラーに手持ち式イグニス バスター ライフルと手持ち式イグニス バズーカを装備しラッシュとドレイクは軽鎧 グラジオラスと外套 グラジオラスにグラジオラスのナックルガードと長銃を装備しリオは因果神軽鎧 ギジリアと言う黒い軽鎧を装備しアカシックタブレットと両腰にはハンドガンを持っていた。
 リリーシャは普段通りの軽鎧を着ていた。



「総員傾注!」



 アイカが大声を挙げた。




「恐らく、これは“ガン”種の仕業だと思われます!」



 それを聴いた騎士団の間でひそひそと話し始めた。
 ギデオンクラスターのメンバーすら聞き覚えのない名前に首を傾げていた。
 なので、知っているシュウがさり気なくアイカをフォローするように補足した。



「ガン種とはネクシルのセンサー等をジャミングするエネミーであり“全長2m以上の敵性体の攻撃”を無効にする概念を持ったエネミーでしたか?」

「その通りです」



 ガン種はこのゲームが始まった当初から存在だけは語られたエネミーだ。
 存在はしていたが出現頻度が少なく、シュウもこれまで遭遇した事は無かった。
 プレイヤーが偶にガン種について無知である為に突然、ロックオンができないままエネミーの大群に蹂躙される被害が出た程度の情報があっただけだ。



「この近くにガン種がいるはずです。それを歩兵戦力で速やかに討伐しなければ、今後の間引き作戦に支障ができると判断しました。よって、我々はこれよりガン種を捜索しこれを討伐します。」



 確かにこのままガン種の野放しにそれがこの近くでネクシルを使った戦闘が難しくなる。
 聴くところによるとガン種は他のエネミーとは違い、他のエネミーに寄生する特性があり寄生したエネミーをまるで癌が蝕むように侵食し支配下に置き、より凶暴で神力を励起させる事で神力系のステータスが著しく上げるエネミーと聴いている。

 侵食が初期段階ならまだ、対応できる。
 だが、段階が進めば進むほど本来のエネミーとはかけ離れた戦闘力を発揮するらしくシュウが見た情報によると末期状態まで放っておいたゴブリン1匹が目にも止まらぬスピードが駆け抜け、歩兵中隊規模の戦力を全滅させたと言う情報があったくらいだ。
 アイカとしても発見次第、即処理したいと言うのが本音なのだろう。
 普段の彼女なら敵の情報をできる限り集めてから作戦を練るはずだが、今回は勢いで押し切ろうとしている。

 それだけガン種が危険な事を彼女は長年の経験で知っていると言う事だろう。
 こう言う時、彼女のような戦闘慣れした古参がいる事がシュウにとっては大いに助かる。
 シュウだけならこれがガン種の仕業だとすぐに気づかずとりあえず撤退を選んでいたかも知れないからだ。
 それを考えるとゾッとする。



「神力感知が使える者は周辺を索敵して!神力が高い個体を発見次第報告を!」




 騎士団の中で神力感知が使える者達が目を閉じ意識を集中させて辺りを探る。
 シュウ、カナ、マナもそれに加わる。
 彼らもかつてレッドドラゴンを討伐しそのスキルを取得したので使える。
 普段はレーダーの補助的な感じでこのスキルを使っていたがこのように集中して使うのは初めてだった。
 だが、敵は予想よりも早く見つかった。



「遠いですね……ここから北に50km地点に2体います。これは……ドラゴンですか?」



 距離が離れすぎてどのくらい大きいか分からないが少なくとも10m前後のオニキスドラゴンより大きいのは間違いない。



「50km地点ですか……他の者達も同じですか!」



 アイカが聴くと騎士達は首肯した。
 すると、アイカが考え込む。



「半径50kmを効果範囲に収めるガン種……これは強敵になりますね」



 その言葉から半径50kmを効果範囲にするガン種はかなり上級である事が分かった。
 ガン種の脅威度は乗っ取った魔物の強さで変わる。
 ゴブリンは一番被害が少なく、シュウの集めた情報の中ではオニキスドラゴンのガン種が最も強大だったと記録している。
 しかし、この魔物はそれを明らかに超えておりしかも、2匹いる。
 かなりの鬼畜ゲーになる可能性が否めないので今の内から覚悟を決めた方が良いようだ。



「これより我々は徒歩で北に進軍します。感知ができる者は常に敵の位置を把握しながら進軍を!それ以外の者は感知者を護衛しながら進みます。総員、続きなさい」




 アイカが先頭を歩き、その後に全員が付いて行く。
 シュウもアイカの後ろを見ながら前進していく。
 その時のアイカの後ろ姿は微かではあったが逞しく、大きな背中に見える反面、どこか暗い影を落としているように見えた。

 もしかすると、この時から胎動は始まっていたのかも知れないとシュウは後々、思う事になる。
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