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ラスボス戦1

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 NO世界で5日後

 現実世界では5分ほどで全マスコミに対する報道から黄燐による人類への宣告が行われ、それと同時にシュウ達がアイカを救出する為にPVを打ち、黄燐に従う旨を伝えた結果、世界は沈黙した。

 それによりアイカは大幅に弱体化したのが確認できた。
 現実の10秒はこちらでの5時間に相当する。
 流石に世界人口の7割分の効果があるようでそれなりに弱体化し計測できる範囲でかなり弱体化した。
 尤も仮にもっと侵攻が進んでいた場合、人類が沈黙しようと大した効果がなかっただろう。
 今回は早急な対策により功を奏したと言った感じだ。
 弱体化を確認したと同時にシュウ達を宇宙に上がった。
 そこにはまるでこちらを待っているように鎮座したアイカの姿があった。
 機体から放たれる紫色の靄は薄れ、禍々しさは緩和されていた。
 その影響か取り巻き、ヘルビースト達も消滅していた。



「さて……上手く行っているようですね」



 シュウは各種観測データを閲覧して状況を把握する。
 計測結果上ではアイカの力は50%ほど低下している。
 計算上なら攻撃を当てられないにしても相手の攻撃を十分に防げる程度には火力が低下しているはずなのだ。



「問題はどうやって当てるか……ですよね」



 カナの言葉にドレイクが続く。



「ハードモードからノーマルモードになったとは言えな……正直、それが浮かべば苦労しないわな。」



 それに今度はマナが続く。




「障壁に関してはゴーレムの技術流用で性能は格段に上がったから攻撃そのものは直撃以外は大丈夫だけど……当てる対策は何もでなかったわね」



 ここに来るまでに可能な限りの対策と月光の能力やギデオンクラスターのデータベース等にアクセスして様々な対策を模索した。
 だが、アイカに攻撃を当てる手段がない。

 機体スペックはほぼ互角と言っていいがアイカの方が圧倒的に経験と技量を持っている。
 そして、シュウ達に足りないのはまさにそれだ。
 数のこちらが優位ではある。
 戦争が数だとは言うがそれは同次元の者達同士での話だ。
 仮にこちらに数の優位があるとしてもアイカはそれを覆すほどに次元が高い。

 リリーシャにすら追従できないシュウ達が束になっても蟻と象くらいの差があるのだ。
 機体スペックが同じでも乗っているパイロットが違い過ぎるのでノーマルモードでもそもそも勝負にすらならない可能性すらあった。



「とは言え、やるしかありません。厳しい戦いになるでしょうが必ず勝つますよ」

「「「了解」」」



 こうして、戦闘区域に入った瞬間、戦闘が開始された。

 アイカは先手を取りズベン・エス・カマリを放った。
 太陽系内を全て射程に収める超広範囲攻撃が放たれる。
 こればかりはネェルアサルトであっても避けられない。
 質量を持った物体が光速に迫る事ができても光速に至る事は基本的に無い。
 いくら機体を加速させても質量ゼロで光を超える速度で発射されるズベン・エス・カマリを避ける事は実質、不可能だ。
多くのプレイヤーを苦しめた洗礼の光が宇宙を包み込み、その波がシュウ達を襲う。



「なんとか……耐えられるようですね」




 強化した“障壁”はアイカのズベン・エス・カマリを易々とはいかないがそれなりに防いでおり、機体へのダメージはない。

 アイカは即座に対応を変える。
 ネェルアサルトで肉迫するシュウ達から距離を取りズベン・エル・ゲヌビの発射態勢に入った。

 純白の銃口が発射された。
 シュウ達は一斉に散開し回避する。
 だが、その弾丸はドレイクとリオに直撃した。



「ギデオン4!ギデオン5!無事か!?」

「問題ないよ……」

「こっちも異常はない」



 ドレイク達は特に異常はないと分かる。
 だが、少し予定外でもあった。
 アイカがズベン・エル・ゲヌビを放つのは想定していた。
 その一撃はズベン・エス・カマリを超える。

 “障壁”で受け止めると勿論、ダメージはなくてもエネルギーの減衰が激しくなる。
 なので、なるべく回避するように今回は月光のサポートをフルに使って回避していた。

 だが、どうやらアイカの射撃技術が月光の予想を大きく超えているようで今の状況から推移するとアイカの攻撃は回避できない。

 回避できないならこのまま“障壁”で防ぐ事になりエネルギーが減衰し次期に“障壁”が展開できなくなる。
 そうなれば、撃墜まで待ったはない。



(思ったよりシビアですね……これは想定よりも短期に済ませないとやられる……)



 シュウはすぐに判断を下した。



「総員!プランSに移行!とにかく、撃ちまくれ!」



 プランSと言うのは想定よりも短期で決着をつけないとならないと判断した時の対応マニュアルだ。
 今回の戦いではどの道、アイカに攻撃を与える有効打がない。
 なので、やる事は1つであり数の優位を活かした弾幕射撃しか残されていない。
 シュウのそれを合図に全員が銃口を向ける。



「撃て!」



 シュウの合図と共に黒雷や火炎の光線が飛翔しアイカに殺到する。
 空間を覆い尽くす程の弾幕……これだけの弾幕では普通は避ける事はできない。
 普通なら……。
 だが、相手は普通ではない。

 アイカはネェルアサルトの加速を維持しながら弾幕の合間を掻い潜りこちらに肉迫してきた。
 いつの間にか純白のライフルから純白の剣を携えたズベンエルハクラビの態勢に入っていた。

 アイカはまるで白い閃光にでもなったように弾幕の合間を縫い、まるで弾丸の速度、座標、到達時間を全て刹那の間に計算しそれに合わせて回避しているとしか思えないような軌道を見せ、被弾ゼロでシュウ達に間合いを詰める。
アイカの狙いはまず、ドレイクに向かった。




「まぁ……そうなるだろうな」



 ドレイクはネェルアサルトで後退しながらライフルを撃つ。
 アイカは恐らく、ドレイクの狙撃を一番警戒した。
 当たりはしなかったがドレイクが最もこの中で攻撃を当てる可能性が高かった。
接近戦主体のアイカにとってドレイクは早急に対応すべき相手なのは自明だった。
 ドレイクは後退しながらライフルで反撃する。
 だが、アイカは全てを見切り避ける。




「チッ!分が悪いか!」



 分かり切った事だった。
 ドレイクがどれだけ優れた狙撃があろうとアイカに当てる事はできない。
 アイカはほぼ全てを見渡すような目を備えている。
 ズベン・エス・カマリを放てると言う事は少なくとも太陽系内の全てを観測し敵と味方の識別を行うだけの認識力が無いと不可能だ。
 少なくともドレイクの最大射程ではアイカの目から逃れる事はできない。
 その時点で狙撃する地点等は把握され、アイカ程の相手なら狙撃するタイミングすら理解し弾道を予測して避けているだろう。
 今にもドレイクに肉迫しようとするアイカとの間にリリーシャが突貫した。



「やらせはしないぞ!アイカ!」



 リリーシャとアイカの剣が交差する。
 そこからは一瞬だった。
 まるで息を吐くように2人は語り出した。
 互いのネェルアサルトで戦域を駆ける。

 戦場のあちらこちらで火花が散り閃光が交錯する。
 アイカはリリーシャを標的に選んだ。
 ドレイクを仕留めたいがリリーシャが邪魔では仕留められないと言う戦術的な判断からだ。




「各機!リリーシャの援護を!」



 シュウはこれを好機と見た。
 リリーシャが相手ならいくらアイカとは言え、すぐに攻略するのは不可能だ。
 リリーシャ曰く、1分持つかどうかと言っていたがそれが弱体化する前の話だ。
 今ならもう少し持つはずだとシュウは考えた。
 リリーシャ相手ならアイカも多くのリソースを割くだろう。
 そうなれば回避率も低下すると見込んだ。

 シュウはイグニスビットすら展開し勝負に出た。
 更にガルガンチュアを取り出しアイカに向けて連射した。
 マナもカナも自機に搭載したイグニスビットを展開し砲撃を開始した。
 砲撃は更に苛烈なモノに変わった。

 迸る弾丸、爆ぜる火炎が宇宙空間を埋め尽くす。
 これだけの弾幕を放ちながらリリーシャに当てないように連携ができるギデオンクラスターの練度はかなりのモノではあったがアイカには当たる気配すらない。

 リリーシャと斬り合いながらこちらの事を視野に入れて回避している。
 だが、手を休める訳にはいかない。
 攻めきれないが向こうも攻め切れていいないのだ。
 もし、この砲撃がなければ、リリーシャが撃墜されていても可笑しくない。
 シュウだから分かるのだ。
 今のリリーシャではアイカには勝てない。
 だが、その状況を援護射撃する事で何とか拮抗した状態に持って行っているのだ。
 ただ、このままではシュウ達がじり貧だった。
 今は上手く援護出来ているがアレだけの光速戦闘と超人であるリリーシャに動きを合わせるのはかなり技術が要求され、精神が摩耗する。
 このまま、何か決め手を出さなければこちらが疲労しいずれ、押し返される。
 アイカほどの相手なら相手の僅かのミスすら見逃さず、平気でチャンスに変えかねない。



「不味いな……指先の感覚が……」



 それは思わぬ疲労と切迫する戦いに中で起きた。
 ドレイクが思わず弱音を吐く。
 それほどまでに限界に近かった。



「くっ……これは……」



 火炎魔術“ファイアジャベリン”で援護していたリオも苦悶の表情を浮かべていた。
 リオは因果魔術の扱いに長けてはいるがそれ以外の能力は平凡だ。
 アカシックタブレットを使った敵の弱点をつく戦術も敵に数%でも勝てる“原因”があってこそ初めて起動する。
 だが、アイカ相手にはその可能性がゼロに等しい。
 正確にはゼロではないが相手がラスボス級のアイカだからだろう。
 アイカもこの戦闘の水面下で因果魔術を行使しリオの因果魔術をレジストしていた。
 ほぼ互角の因果力同士がぶつかれば、後は忍耐勝負、精神力の削り合いとなるがそうなるとリオが俄然不利だ。
 況して、未だかつてない強敵との戦いで精神の疲労感が強く、そこから神力の励起等が低下する。

 よって、リオの神力は既に底を尽きかけていた。
 このままでは後方火力支援能力が低下し、ギリギリ拮抗した状態が崩れ、そこから各個撃破されるのは目に見えていた。



「くそ……目が……」



 ラッシュも限界に近かった。
 彼の格闘センスも今回の戦いではリリーシャの脚を引っ張るだけなのでレーザーキャノンで応戦していた。
 しかし、レーザーキャノンは連射よりも単発火力を重視しており撃ちまくればガンガン神力が減る。
 況して、ラッシュも実戦でここまでレーザーキャノンを連射した事はない。
 普段は拳1つで戦いを切り開いていた。

 今回の戦闘はあまりにもラッシュには不馴れな事を一番強いている。
 その所為か、知らず知らずの内に精神的な疲労が溜まり、元々神力特化のシュウとは違い、神力が底が見え始めており体力があるとは言え、ラッシュの限界も近かった。



「不味いですね……このままでは……」



 流石のシュウも焦った。
 今のところ打開策がない。
 本当に思い浮かばないのだ。
 リオ達が限界を迎える前に決着をつけないと負ける。
 そろそろ、決勝点が限界を迎えつつあった。
 これは過ぎれば確実に勝利はない。

 切迫する時間……命を掠めると見えない死神の刃にシュウも限界が近かった。
 邪神相手でもここまで死を間近に感じた事がない。
 邪神の底は見えた事が多かったがアイカの底は全く見えない。
 アイカはまだ、手札を残しているのだ。
 それを使われるとこの均衡は一気に瓦解するとシュウの本能が警らする。
 そして、悪い予感は的中した。
 アイカはまるでこちらの疲労すら予測したようにリリーシャとの斬り合いの最中に宇宙空間に火炎魔術を展開した。

 それは上級魔術“フレイムスフィア”と言う魔術だ。
 だが、それは普通の魔術ではなかった。
 それはNOの惑星の遥か上空に無数に展開され、その1つ1つが太陽を彷彿とさせる熱量を持っていた。

 それがまだ、10個とかならまだ救いだっただろう。
 だが、そんな低次元な話ではなかった。
 その数、月光の観測上『7777777個のフレイムスフィアを確認!』との事だった。
 その照準は経験則で分かった。
 全てドレイクに照準を合わせた。



(狂っている……)



 シュウは率直に思った。
 恐らく、アイカ……もしかするとアイカに憑りついた女神はドレイクを確実に始末するにはこのくらいは必要と判断したのだろうが……シュウからしても頭がぶっ飛んでいると思った。

 力の次元が違い過ぎた。
 シュウは今まで邪神と呼ばれる神を倒した。

 紛い物であろうと神格を倒した。
 そこに僅かばかりの自信を持っていたと思う。
 だが、終焉の女神は違った。

 今まで戦った邪神などこの女神に比べれば、ゴミ、もしくは塵に等しいのだ。
 人間が息を吹き、塵を払うようにアイカにとってもそのような感じなのだ。
 決して、舐めている訳ではない。
 だが、それだけ隔絶とした差があった。

 シュウはそもそもの原則は誤っていた。
 シュウの想定では邪神を理不尽仕様にした程度の強さだと考えて作戦を立てていた節があったが理不尽とかそう言う次元ではない。

 そもそも、人間がどうこうして勝てる相手ですらないのだ。
 寧ろ、敵対した奴は馬鹿なんじゃないかと思えるほどだ。
 まさか、太陽×7777777倍の力など誰が想像するだろうか……しかも、それだけの力を行使してもアイカはリリーシャと平然と斬り合っていた。

 神力減衰による疲労等一切感じさせない。
 つまり、これだけの事をしてアイカにとってほんの力の一端に過ぎないのだ。
 それこそ、雀の涙程度の神力消費である可能性すらある。

 その圧倒的な力の前に流石のシュウですら茫然と立ち尽くし、メンバー全てが抵抗は無意味と悟ったように砲撃を止めていた。



「これが……神の力……」



 そのシュウの言葉を合図にしたように頭上から一気にフレイムスフィアが光速に迫る速度でドレイクに投下された。
 だが、この期に及んでドレイクを狙おうとそれ以外を狙おうと関係ない。
 圧倒的な火力を前に全員巻き込まれ、焼き滅ぼされてしまう。

 シュウは自然と全てを受け入れていた。
 悔いもなければ、後悔もない。
 やるだけの事はやり出し尽くした。
 ある種の達成感に浸り、死を恐れる事もなかった。
 恐れる暇すらない程に圧倒的だったのだ。
 この宣告を覆す術などない。

 世界を滅ぼすなど生易しいと思える程の絶対的な力が彼らの目の前に迫る。

 だが、それでもシュウは……シュウ達は諦めなかった。
 無意識だった。
 意識は最早、反撃する気すら失せているのにシュウは咄嗟に動いていた。
 そして、彼のギリギリの意志と本能が彼の理解すら超えてある命令を発した。



「願いの石を出せ!」



 シュウは咄嗟に叫ぶように命令した。
 それを聴いたリオとラッシュとドレイクは咄嗟に動いた。
 訓練された兵士のように上官の命令をこの状況でも遂行する為に手が動いた。

 そして、掌に願いの石を乗せ、太陽の方に突き出した。
 そこから刹那だった。
 願いの石はまるで太陽に反応するようにその無数の太陽を全て喰らい尽くし石の中に取り込んだ。
 その時、シュウは直感した。



「そうか……願いの石は極限の意志……励起した神力を糧に……」



 シュウは察した。
 願いの石をかつて使用した彼だから分かった。
 願いの石は極限の精神状態になるとそれをトリガーにエクストラスキルを授ける。
 しかし、厳密には違った。
 極限の精神状態は必須ではあるが本当はその状態により励起した膨大の神力こそ必須だったのだ。
 そして、その条件は今、満たされていた。

 極限の戦闘状態に追い込まれ、無数の太陽の莫大なエネルギーと言う条件は願いの石の発動条件を満たした。
 これにより願いの石は作動しドレイク、ラッシュ、リオにエクストラスキルを与えた。
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