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前に進むには……もう、復讐しかない

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 シュウは現と夢幻の間を彷徨っていた。
 夢とも現実とも言えない感覚だった。
 最後に覚えているのは終焉の女神を倒した事で莫大なエネルギーが自分に還元されたところまでだ。
 それにより自分は意識を失った……今の状態は肉体と魂が分離し俯瞰して全てを見ているかのようだった。



「一体、何が起きた?」



 それに答える声があった。



「どうやら、急激にあなたの力が増大したようですよ」

「その影響でわしらとの繋がりがかなり強まっておる」



 そこには普段、脳内で会話しているシュウジと魔王タダーノンがいた。
 だが、感覚的に言えば、かなりクリアに彼らの存在を知覚し寧ろ、3人で1つになったような親近感を覚えた。



「どうやら、あなたに入った経験値はかなり膨大だったようですよ。あなた以外気絶した者はいません」

「それはまた……ただでさえ、寝ている場合ではないと言うのに……」

「そう焦る事もない。ここでの時間経過はかなり緩やかじゃからな。お前さんが起きた時には数分も経っておらんよ」

「まぁ……それならまだ、良いか」



 どうやら、魔王の話ではそこまで慌てる必要もないと分かって安堵した。
 それに対してシュウジは不敵に笑っていた。



「ですが、この状況だからこそ、面白い事もできますよ」

「面白い事?」

「あなたは莫大な経験値を得た事で気絶した。それは一種の仮死状態に等しい。それにより肉体と魂は一時的に分離され、あなたと言う存在は一時的に高次の存在に至っている。そして、今のあなたはわたしや魔王との繋がりがかなり濃い。今なら、魔王の理の魔眼すらも使えるでしょう」

「何が言いたいのです?」

「分かりませんか?今なら……いえ、今だからこそ知れるのですよ?これまでの事件の首謀者や9年前にあなたの中にわたしと言う因子を仕込み、あなたから全てを奪った犯人……その全てを知る事ができる」



 それを聴いた時にシュウの心臓は高鳴った。
 それは自分が望んでいた答えだ。
 今のシュウを構成するのはシュウジや9年前の環境等によってだ。
 シュウは今の自分を決して嫌ってはいない。
 しかし、だからと言って、9年前に自分にあそこまでの仕打ちを行った元凶……シュウジと言う因子を白井修也に注ぎ、全てを狂わせた犯人を許す事もできなかった。

 あれ以来、シュウは満たされないのだ。
 いくら『努力』してもそれを肯定できない。
 カナはその『努力』を認めている。
 それは素直に嬉しい。
 だが、それでもシュウ自身はそれを素直に認められず、前に進めていない。
 カナ達は前に進んでいるのに自分はおいて行かれるように孤立していく。
 そんな焦燥感を日頃抱いていた。
 時間が経てばそれも解決するかと思った。
 復讐紛いの事をしても意味がないのではないかと自分に言い聞かせた。

 だが、このチャンスを見せられるとその考えも変わった。
 どんなに言い訳してもシュウが前に進むにはもう、復讐するしかない。
 この感情を克服し前に進むには全てを完結させなければならない。
 トラウマを克服するには元凶に復讐しないとならない。
 ただ、復讐するのではダメだ。

 相手は“理不尽”とも言える一方的にシュウに服従を迫り、不法を強要した。
 シュウの意志に反する事だ。
 それにより自分は失った。
 大切な気持ちを失い、心は常に虚空のままだった。

 カナやマナ、アイカ等の『努力』と言う輝きを見せられれば自分は本当に大切な感情を失っている。
 それが無いと死んでいると言えるほどに……そんな大切な感情を奪った元凶には“死”等生ぬるい。
 最大限の恥辱と屈辱、恐怖と絶望を与えて自らに与えた傷の何千倍もの報復をしなければもうシュウの気持ちは収まらないとシュウ自身がシュウジの言葉で理解した。



「そうですね……もう目を逸らすのは無理ですね。なら、このチャンスを最大に活かす。2人とも手伝ってくれますか?」

「良いでしょう。もとよりそのつもりです」

「ワシも一度は復讐鬼に堕ちた身だ。お前の復讐を止める権利などない。寧ろ、お前さんはワシの復讐に協力するんじゃ。ワシも協力くらいしてやる」

「その気持ちに感謝します」



 シュウは躊躇いを捨てた。
 そして、そっと目を閉じた。
 今なら理の魔眼について分かる。
 目に力が宿っている。
 受動的に常時発動する事もできる。
 だが、今回はそれだとダメだ。
 能動的に目に神力を籠めて発動し全てを見つめる。
 神力を籠めたと同時に一気に目をカッと開く。
 すると、全てが見えた。
 世界が見えた、因果律が見えた。
 世界の原因と結果の帰結が見えた。
 誰がどのように干渉し誰がこれまでの事件に裏にいたのか……何が原因で時空トンネルが発生したのかアイカが“存在”に喰われた原因の一端は何だったのか……そして、自分が復讐すべき相手は誰なのか……その全てを把握した。
 その結果、面白い事が分かった。



「どうやら……タダーノンの復讐相手とわたしの復讐相手は同じようですね」

「じゃな。まさか……こんなに近く、奴がいたとはな。別個体である可能性も疑ったがな」

「ですが……確定ですね。我々の復讐相手はアイカに憑りついた“存在”と……その眷属ですね」




 シュウは全てを知った。
 自分が復讐すべき相手は自分の身近にいたのだ。
 運命すら感じた。
 このゲームに出会わなければ恐らく、永遠に交わる事がなかった線が繋がった。
 人生と言うクソゲーから離脱しようと考えた時から自分はこの瞬間を渇望していたのではないかと思える程にシュウは歓喜した。
 そして、不敵に恍惚な笑みを浮かべていた。



「ふふふ……楽しみですね」



 こうして、シュウの復讐が始まった。
 前に進むには……もう、復讐しかないのだ。
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