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第二章 過去との対峙編
97.その〝過去〟は、如何にして彼らの運命を変えたのか23
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その日の昼休み。ユウタロウたちの溜まり場と化してしまっている庭園の端――そこに聳え立つ大木の下に集まった、ユウタロウ一派と双子たち。
朝食の際、セッコウが零していた大事な話を聞く為、こうして彼らは一堂に会したのだ。
暖かい日差しと爽やかな葉が降り注ぐ中、開口一番にハヤテは尋ねる。
「それで?大事な話というのはなんなんだ?」
「あぁ。実は――」
「ちょっと待て」
セッコウの返答を突如遮ったのはユウタロウだ。出鼻をくじかれたセッコウは思わず、不満と胡乱でいっぱいの眼差しを彼に向けるが、ユウタロウが鋭い眼光で空を睨み据える姿を前に、陰鬱とした感情は消し飛んだ。
「……どうした?何か気になることでも……」
「クレハって、根性あるし将来有望だよなー」
「「?」」
ハヤテの問いを遮ったユウタロウは、とんでもない棒読みで突拍子もなくそんなことを言い出した。思わず、彼らが怪訝そうに首を傾げたその時、後ろからガサガサっという音が聞こえてきた。
木の枝と葉が擦れるような、慌ただしさの感じられるその音の方向を振り向くと、風も吹いていないというのに、葉が大量に舞い落ちている木が彼らの目に映る。
彼らが更に首を傾げる中、ユウタロウは追い打ちをかけるように口を開く。
「いやー。あれだけ見込みのある人間、そうそういないからなー。仲間にしたいんだけどなー。俺クレハのこと好きなんだけど、クレハはそうでもないのかなー?」
――ガサガサっ、ズドンっ!!
「「…………」」
落ちてきた。彼らが注目していたその木から、身体中ひっかき傷だらけのクレハが落下してきたのだ。その唐突さに、彼らは思わず目を点にしてしまう。
いつからその木の中に潜んでいたのか?
何故ここにいるのか?
疑問はいくつかあったが、たった一つだけ明確に理解できることもあった。それは、クレハが木から落下するよりも前に、ユウタロウは彼の存在を察知していたということ。でなければユウタロウが先刻、大根役者顔負けの棒読みでクレハのことを褒め称えることは無かったのだから。
今朝、ユウタロウが何気なくクレハに対する好意を零した際、どこからともなく響いた衝突音を聞いた時点で、ユウタロウは彼が近くに潜んでいることを確信していたのだ。気づいた上で、クレハを泳がせ、こうして言い逃れの出来ない状況に追い込んだのだろう。
「っ……」
「お前朝からずっと何してんだよ。ストーカーみてぇに隠れてコソコソ覗きやがって。用があんなら直接来いよ」
「も、申し訳ない……」
ユウタロウには全て筒抜けであったことを思い知らされたクレハは、羞恥心と居た堪れなさで、俯きがちに陳謝した。
クレハとは初対面のロクヤが興味津々といった表情で熱視線を送る中、チサトはユウタロウの後ろからひょっこりと顔を出して疑問を呈す。
「なぁに?この子」
「コイツがクレハ。俺が仲間にしたい奴」
「えぇー、この子が?ユウちゃんのことつけるようなストーカーのどこがいいのよ」
チサトの視点から見ると、クレハは大事な恋人にストーカー行為をした輩でしか無いので、彼女のクレハに対する第一印象は最悪だろう。にも拘らず、当のユウタロウはクレハを気に入っているのだから、これ程面白くない状況も無い。
一方のクレハは、不満げなジト目を向けてくるチサトを一瞬睨むと、身体についた砂を払いながら立ち上がった。
「……主君」
「しゅくん?」
「「主君?」」
ユウタロウを真っすぐ見上げ、その呼称を呟いたクレハ。思わず彼らは、キョトンと首を傾げてしまった。
「え、何その呼び方」
「主君は俺を気に入ってくれたのだろう?であるならば、俺は主君の下僕。主君の道具だ。主を主君と呼ぶのは当然のことだと思うが」
「お前ゼロか百しかねぇのか」
ユウタロウの記憶が正しければ、出会った当初、クレハは今にも噛みつかん勢いで物凄い罵声を浴びせてきたはず。その時とは似ても似つかないクレハの態度を前に、ユウタロウは思わずツッコみを入れてしまう。
対象によって接し方に差があり過ぎるクレハに当惑しつつ、ハヤテは先刻から抱いていた疑問をぶつけることにした。
「クレハ。聞いてもいいだろうか?」
「なんだ」
「どうして隠れて俺らの様子を眺めていたんだ?何か、クレハなりの考えがあったのだろうか?」
「それは……」
尋ねられたクレハは一瞬言い淀むが、ほんの少し顔を上げると、ポツリポツリと自身の胸の内を話していった。
「俺は……主君のような人間に会ったことが無い。操志者の才を持たない俺みたいな人間の可能性を見出してくれて、教えを授けてくれて……。とても、嬉しかった」
「クレハ……」
「俺みたいな人間に関わっても、碌なことが無いというのに……。周りからどんな目を向けられても、凛としていて……主君は、俺が出会ったどんな人間よりも強く勇ましい。そんな主君の姿を前に、初めて……誰かに見惚れるという経験をしたんだ」
「は?」
〝見惚れる〟という単語に過剰反応し、怪訝な声を上げたのはチサトだ。もちろんクレハの感情は敬愛でしかなく、ユウタロウに恋愛感情など抱いていないのだが、疑わしい発言をした時点で、チサトの中でクレハは敵認定されてしまった。
そもそも。以前ロクヤを少女と間違えたチサトにとって性別の差など、微々たる問題でしか無いのだろう。
「俺は主君の強さに心の底から惚れ込み、一生主君に仕えたいと思った……だ、だが……」
「「?」」
「い、いざ話しかけようとすると……き、緊張してしまって……な、何と声を掛ければよいのか分からずっ……」
((乙女かっ))
頬を赤く染め、くっつけた人差し指と人差し指をモジモジとくねらせるクレハを目の当たりにした彼らは、心の中で異口同音にツッコんでしまう。
「はぁ……ったく、戦闘の時は強気だっていうのに、何でそう及び腰になるんだか。……まぁつまり、お前俺のこと大好きってことだよな?」
「っ!……そ、そうなる、か……」
「じゃ、お前一生俺のもんな。はい決まり、この話終わりな」
誰かに対して好意的な感情を抱いたことが無かったクレハは、当惑しながらも自らの感情と向き合い、しどろもどろに答えを出した。
利害が一致しているのなら、さっさと仲間にしてこの話を終わらせてしまおう。そう思い、ユウタロウが話を切り上げようとすると、血相を変えたチサトが声を荒げた。
「ちょっとユウちゃん!今この子ユウちゃんのこと大好きって認めたわよっ」
「あ?それが何だよ」
「何だよじゃないわよっ。私というものがありながら、なに他の子に好かれてるのよっ」
「はぁ?クレハは男だぞ」
お前は何をそんなに癇癪を起しているんだ?とでも言わんばかりの相好で、ユウタロウは怪訝そうに首を傾げた。それでも怯むことなく、チサトは己の主張を紡ぎ続ける。
「ユウちゃんそんなの気にしないじゃんっ!そういう偏見無いじゃん!」
「ねぇけど」
「ほら!」
相手が男だろうが女だろうが、大事なユウタロウに好意を抱く者には悋気してしまう。それが例え、チサトが胸に抱くものとは別の種類の好意だったとしても、彼女は不安を覚えずにはいられなかった。
チサトは、自分自身という存在に、何の自信も価値も見出せていないから。
そんなチサトの不安を払拭するように、ユウタロウはあっけらかんとした態度で口を開く。
「俺の女はお前一人なんだから気にする必要ねぇだろ」
「主君っ!」
「今度はお前かよ。何なんだよ」
「もしやそこのアバズレは主君の番なのかっ!?」
(番って……)
恋人を番と称するところからも、クレハの重い性格の片鱗が窺えられるので、ハヤテは苦笑いを浮かべてしまった。そんな中、初対面の少年にアバズレ呼ばわりされたチサトは頭に血が上ってしまい、顔を真っ赤にして怒声を上げる。
「はぁっ!?何なのよアバズレって!」
「主君っ!考え直した方がいいっ。世界にはもっと主君に相応しい女性がいるはずだっ」
「てめぇに俺の色恋について口出しされる謂れねぇんだけど」
「だがっ……」
初めてユウタロウの凍てつくような眼差しを浴びたクレハは、思わずビクッと肩を震わせるが、怯むことなく自らの主張を理解してもらおうと口を開いた。
だがその瞬間、想定外の方向から、耳を劈くような声が響き渡る。
「あのよぉぉ!!」
「「っ……」」
唐突すぎるその大声に、心臓を一瞬鷲掴みにされたような感覚に陥った彼らが振り向くと、そこには仁王立ちで青筋を立てているセッコウの姿があった。隣では、ササノが今にも死にそうな表情で、これ以上ないほどの苦笑いを浮かべている。
刹那、彼らは心の内で「あ……」と。合点がいったような声を漏らし、何とも言えない罪悪感に襲われる。元々今回彼らが集まったのは、セッコウの大事な話を聞くため。決して、ユウタロウたちの痴話喧嘩を見せつけられる為ではない。
今の今までお預けを食らわされてきたセッコウの苛立ちは相当の物だろう。そして、セッコウから放たれる不穏な雰囲気に唯一気づいていたササノの心労は、想像するのも憚れる程。彼の胃が案じられる。
「いつになったら俺は話を始めることが出来るんだ?あ?
言っとくがな、俺の大事な話はてめぇらのくっだらねぇ痴話げんかの五千億倍重要なんだが」
「「ご、ごめん……」」
それ以外言うことが無く、彼らは口を揃えて謝罪の言葉を口にした。
物凄い剣幕でネチネチと苦言を呈すセッコウは当に鬼そのもので、流石のユウタロウもこれに反論する気概は持ち合わせていなかった。
********
セッコウの怒りが収まったところで、早速彼は本題の話を語り始めた。さっさと話してしまわないと昼休みの時間が無くなってしまうので、彼が話し出すまでの流れは非常にスムーズであった。
「俺、最近秘密の部屋を見つけてよ」
「秘密の部屋?」
突拍子もないその単語に、ユウタロウは首を傾げて尋ねた。
「あぁ。屋敷の中に、何のためにあるのかよく分からねぇ部屋がいくつかあるだろ?」
「あー、確かにあるな……でもそれって、確か過去の資料とかを保管している部屋で、どこも厳重に鍵がかけられてなかったか?」
セッコウの問いかけでその存在を思い出したユウタロウだが、新たな疑問が生まれてしまう。セッコウの口振りから、その秘密の部屋の内の一つに侵入したことは容易に想像できるが、彼はどのようにしてそれを成したげたのか?という疑問である。
「それがよ、一つだけ入れる部屋があったんだよ。元々鍵がついてない部屋だったみたいで、すんなり入れたぞ」
「ほーん。それで?その部屋がどうしたんだよ」
「その部屋の中に保管されてた資料を読み漁っていたら、長年の謎が漸く解けてな」
「長年の謎……?まさかっ……」
何かを悟ったハヤテは、答えを求めるように見開いた目で訴えかけた。説明などしなくとも、セッコウにはハヤテの疑問が手に取るように分かった。
「あぁ。俺が何で亜人として生まれてきたのか……その理由が分かったんだ」
「「っ!!」」
刹那、彼ら全員が息を呑み、その場の空気が一変した。特に、クレハやスザクはそもそも、セッコウが亜人である事実を知らされていないので、衝撃を受けているというよりも、何が何だか理解できず困惑している様子である。
そしてその後、セッコウは自らが知り得た情報を彼らに話した。
初代勇者の中に亜人がいたこと。恐らく自身は、その亜人の先祖返りであること。当主を始めとした重鎮らがこの事実を知っているのかは定かでは無いが、おいそれと口外できるような話題では無いということ。
話を聞き終えると、皆沈思黙考してしまい、重苦しい沈黙が流れていたが、不意に口を開いたハヤテによって、それは壊される。
「……それにしても、本当にその資料が保管されていた部屋、鍵の一つもかかっていなかったのか?」
「あぁ。結界とかも特に張ってなかったぞ」
キョトンと首を傾げながらセッコウが答えると、ハヤテは口元に手を当てて深く考え込んでしまう。
「……そんな重大な内容が記された資料を保管している部屋に、一切、何の対策も講じていなかった?……本当に?」
「「……」」
不安と疑念に揺れた表情で、ハヤテは呟いた。ハヤテの意見は当に的を射ており、彼らは思わず口を噤んでしまう。
亜人は一族が悪魔や愛し子の次に忌み嫌う種族であり、そんな亜人が初代勇者の中にいたという話は、今の今まで聞いたことが無い。
にも拘らず、そのパンドラの箱は、開けようという意思さえあれば、簡単に開くことが出来た。そんな偶然、本当にあるのだろうか?と、ハヤテは半信半疑になってしまう。
同時に、妙な胸騒ぎと何とも言えない居心地の悪さに襲われた彼らは、質量も分からない不安を持て余すのだった。
朝食の際、セッコウが零していた大事な話を聞く為、こうして彼らは一堂に会したのだ。
暖かい日差しと爽やかな葉が降り注ぐ中、開口一番にハヤテは尋ねる。
「それで?大事な話というのはなんなんだ?」
「あぁ。実は――」
「ちょっと待て」
セッコウの返答を突如遮ったのはユウタロウだ。出鼻をくじかれたセッコウは思わず、不満と胡乱でいっぱいの眼差しを彼に向けるが、ユウタロウが鋭い眼光で空を睨み据える姿を前に、陰鬱とした感情は消し飛んだ。
「……どうした?何か気になることでも……」
「クレハって、根性あるし将来有望だよなー」
「「?」」
ハヤテの問いを遮ったユウタロウは、とんでもない棒読みで突拍子もなくそんなことを言い出した。思わず、彼らが怪訝そうに首を傾げたその時、後ろからガサガサっという音が聞こえてきた。
木の枝と葉が擦れるような、慌ただしさの感じられるその音の方向を振り向くと、風も吹いていないというのに、葉が大量に舞い落ちている木が彼らの目に映る。
彼らが更に首を傾げる中、ユウタロウは追い打ちをかけるように口を開く。
「いやー。あれだけ見込みのある人間、そうそういないからなー。仲間にしたいんだけどなー。俺クレハのこと好きなんだけど、クレハはそうでもないのかなー?」
――ガサガサっ、ズドンっ!!
「「…………」」
落ちてきた。彼らが注目していたその木から、身体中ひっかき傷だらけのクレハが落下してきたのだ。その唐突さに、彼らは思わず目を点にしてしまう。
いつからその木の中に潜んでいたのか?
何故ここにいるのか?
疑問はいくつかあったが、たった一つだけ明確に理解できることもあった。それは、クレハが木から落下するよりも前に、ユウタロウは彼の存在を察知していたということ。でなければユウタロウが先刻、大根役者顔負けの棒読みでクレハのことを褒め称えることは無かったのだから。
今朝、ユウタロウが何気なくクレハに対する好意を零した際、どこからともなく響いた衝突音を聞いた時点で、ユウタロウは彼が近くに潜んでいることを確信していたのだ。気づいた上で、クレハを泳がせ、こうして言い逃れの出来ない状況に追い込んだのだろう。
「っ……」
「お前朝からずっと何してんだよ。ストーカーみてぇに隠れてコソコソ覗きやがって。用があんなら直接来いよ」
「も、申し訳ない……」
ユウタロウには全て筒抜けであったことを思い知らされたクレハは、羞恥心と居た堪れなさで、俯きがちに陳謝した。
クレハとは初対面のロクヤが興味津々といった表情で熱視線を送る中、チサトはユウタロウの後ろからひょっこりと顔を出して疑問を呈す。
「なぁに?この子」
「コイツがクレハ。俺が仲間にしたい奴」
「えぇー、この子が?ユウちゃんのことつけるようなストーカーのどこがいいのよ」
チサトの視点から見ると、クレハは大事な恋人にストーカー行為をした輩でしか無いので、彼女のクレハに対する第一印象は最悪だろう。にも拘らず、当のユウタロウはクレハを気に入っているのだから、これ程面白くない状況も無い。
一方のクレハは、不満げなジト目を向けてくるチサトを一瞬睨むと、身体についた砂を払いながら立ち上がった。
「……主君」
「しゅくん?」
「「主君?」」
ユウタロウを真っすぐ見上げ、その呼称を呟いたクレハ。思わず彼らは、キョトンと首を傾げてしまった。
「え、何その呼び方」
「主君は俺を気に入ってくれたのだろう?であるならば、俺は主君の下僕。主君の道具だ。主を主君と呼ぶのは当然のことだと思うが」
「お前ゼロか百しかねぇのか」
ユウタロウの記憶が正しければ、出会った当初、クレハは今にも噛みつかん勢いで物凄い罵声を浴びせてきたはず。その時とは似ても似つかないクレハの態度を前に、ユウタロウは思わずツッコみを入れてしまう。
対象によって接し方に差があり過ぎるクレハに当惑しつつ、ハヤテは先刻から抱いていた疑問をぶつけることにした。
「クレハ。聞いてもいいだろうか?」
「なんだ」
「どうして隠れて俺らの様子を眺めていたんだ?何か、クレハなりの考えがあったのだろうか?」
「それは……」
尋ねられたクレハは一瞬言い淀むが、ほんの少し顔を上げると、ポツリポツリと自身の胸の内を話していった。
「俺は……主君のような人間に会ったことが無い。操志者の才を持たない俺みたいな人間の可能性を見出してくれて、教えを授けてくれて……。とても、嬉しかった」
「クレハ……」
「俺みたいな人間に関わっても、碌なことが無いというのに……。周りからどんな目を向けられても、凛としていて……主君は、俺が出会ったどんな人間よりも強く勇ましい。そんな主君の姿を前に、初めて……誰かに見惚れるという経験をしたんだ」
「は?」
〝見惚れる〟という単語に過剰反応し、怪訝な声を上げたのはチサトだ。もちろんクレハの感情は敬愛でしかなく、ユウタロウに恋愛感情など抱いていないのだが、疑わしい発言をした時点で、チサトの中でクレハは敵認定されてしまった。
そもそも。以前ロクヤを少女と間違えたチサトにとって性別の差など、微々たる問題でしか無いのだろう。
「俺は主君の強さに心の底から惚れ込み、一生主君に仕えたいと思った……だ、だが……」
「「?」」
「い、いざ話しかけようとすると……き、緊張してしまって……な、何と声を掛ければよいのか分からずっ……」
((乙女かっ))
頬を赤く染め、くっつけた人差し指と人差し指をモジモジとくねらせるクレハを目の当たりにした彼らは、心の中で異口同音にツッコんでしまう。
「はぁ……ったく、戦闘の時は強気だっていうのに、何でそう及び腰になるんだか。……まぁつまり、お前俺のこと大好きってことだよな?」
「っ!……そ、そうなる、か……」
「じゃ、お前一生俺のもんな。はい決まり、この話終わりな」
誰かに対して好意的な感情を抱いたことが無かったクレハは、当惑しながらも自らの感情と向き合い、しどろもどろに答えを出した。
利害が一致しているのなら、さっさと仲間にしてこの話を終わらせてしまおう。そう思い、ユウタロウが話を切り上げようとすると、血相を変えたチサトが声を荒げた。
「ちょっとユウちゃん!今この子ユウちゃんのこと大好きって認めたわよっ」
「あ?それが何だよ」
「何だよじゃないわよっ。私というものがありながら、なに他の子に好かれてるのよっ」
「はぁ?クレハは男だぞ」
お前は何をそんなに癇癪を起しているんだ?とでも言わんばかりの相好で、ユウタロウは怪訝そうに首を傾げた。それでも怯むことなく、チサトは己の主張を紡ぎ続ける。
「ユウちゃんそんなの気にしないじゃんっ!そういう偏見無いじゃん!」
「ねぇけど」
「ほら!」
相手が男だろうが女だろうが、大事なユウタロウに好意を抱く者には悋気してしまう。それが例え、チサトが胸に抱くものとは別の種類の好意だったとしても、彼女は不安を覚えずにはいられなかった。
チサトは、自分自身という存在に、何の自信も価値も見出せていないから。
そんなチサトの不安を払拭するように、ユウタロウはあっけらかんとした態度で口を開く。
「俺の女はお前一人なんだから気にする必要ねぇだろ」
「主君っ!」
「今度はお前かよ。何なんだよ」
「もしやそこのアバズレは主君の番なのかっ!?」
(番って……)
恋人を番と称するところからも、クレハの重い性格の片鱗が窺えられるので、ハヤテは苦笑いを浮かべてしまった。そんな中、初対面の少年にアバズレ呼ばわりされたチサトは頭に血が上ってしまい、顔を真っ赤にして怒声を上げる。
「はぁっ!?何なのよアバズレって!」
「主君っ!考え直した方がいいっ。世界にはもっと主君に相応しい女性がいるはずだっ」
「てめぇに俺の色恋について口出しされる謂れねぇんだけど」
「だがっ……」
初めてユウタロウの凍てつくような眼差しを浴びたクレハは、思わずビクッと肩を震わせるが、怯むことなく自らの主張を理解してもらおうと口を開いた。
だがその瞬間、想定外の方向から、耳を劈くような声が響き渡る。
「あのよぉぉ!!」
「「っ……」」
唐突すぎるその大声に、心臓を一瞬鷲掴みにされたような感覚に陥った彼らが振り向くと、そこには仁王立ちで青筋を立てているセッコウの姿があった。隣では、ササノが今にも死にそうな表情で、これ以上ないほどの苦笑いを浮かべている。
刹那、彼らは心の内で「あ……」と。合点がいったような声を漏らし、何とも言えない罪悪感に襲われる。元々今回彼らが集まったのは、セッコウの大事な話を聞くため。決して、ユウタロウたちの痴話喧嘩を見せつけられる為ではない。
今の今までお預けを食らわされてきたセッコウの苛立ちは相当の物だろう。そして、セッコウから放たれる不穏な雰囲気に唯一気づいていたササノの心労は、想像するのも憚れる程。彼の胃が案じられる。
「いつになったら俺は話を始めることが出来るんだ?あ?
言っとくがな、俺の大事な話はてめぇらのくっだらねぇ痴話げんかの五千億倍重要なんだが」
「「ご、ごめん……」」
それ以外言うことが無く、彼らは口を揃えて謝罪の言葉を口にした。
物凄い剣幕でネチネチと苦言を呈すセッコウは当に鬼そのもので、流石のユウタロウもこれに反論する気概は持ち合わせていなかった。
********
セッコウの怒りが収まったところで、早速彼は本題の話を語り始めた。さっさと話してしまわないと昼休みの時間が無くなってしまうので、彼が話し出すまでの流れは非常にスムーズであった。
「俺、最近秘密の部屋を見つけてよ」
「秘密の部屋?」
突拍子もないその単語に、ユウタロウは首を傾げて尋ねた。
「あぁ。屋敷の中に、何のためにあるのかよく分からねぇ部屋がいくつかあるだろ?」
「あー、確かにあるな……でもそれって、確か過去の資料とかを保管している部屋で、どこも厳重に鍵がかけられてなかったか?」
セッコウの問いかけでその存在を思い出したユウタロウだが、新たな疑問が生まれてしまう。セッコウの口振りから、その秘密の部屋の内の一つに侵入したことは容易に想像できるが、彼はどのようにしてそれを成したげたのか?という疑問である。
「それがよ、一つだけ入れる部屋があったんだよ。元々鍵がついてない部屋だったみたいで、すんなり入れたぞ」
「ほーん。それで?その部屋がどうしたんだよ」
「その部屋の中に保管されてた資料を読み漁っていたら、長年の謎が漸く解けてな」
「長年の謎……?まさかっ……」
何かを悟ったハヤテは、答えを求めるように見開いた目で訴えかけた。説明などしなくとも、セッコウにはハヤテの疑問が手に取るように分かった。
「あぁ。俺が何で亜人として生まれてきたのか……その理由が分かったんだ」
「「っ!!」」
刹那、彼ら全員が息を呑み、その場の空気が一変した。特に、クレハやスザクはそもそも、セッコウが亜人である事実を知らされていないので、衝撃を受けているというよりも、何が何だか理解できず困惑している様子である。
そしてその後、セッコウは自らが知り得た情報を彼らに話した。
初代勇者の中に亜人がいたこと。恐らく自身は、その亜人の先祖返りであること。当主を始めとした重鎮らがこの事実を知っているのかは定かでは無いが、おいそれと口外できるような話題では無いということ。
話を聞き終えると、皆沈思黙考してしまい、重苦しい沈黙が流れていたが、不意に口を開いたハヤテによって、それは壊される。
「……それにしても、本当にその資料が保管されていた部屋、鍵の一つもかかっていなかったのか?」
「あぁ。結界とかも特に張ってなかったぞ」
キョトンと首を傾げながらセッコウが答えると、ハヤテは口元に手を当てて深く考え込んでしまう。
「……そんな重大な内容が記された資料を保管している部屋に、一切、何の対策も講じていなかった?……本当に?」
「「……」」
不安と疑念に揺れた表情で、ハヤテは呟いた。ハヤテの意見は当に的を射ており、彼らは思わず口を噤んでしまう。
亜人は一族が悪魔や愛し子の次に忌み嫌う種族であり、そんな亜人が初代勇者の中にいたという話は、今の今まで聞いたことが無い。
にも拘らず、そのパンドラの箱は、開けようという意思さえあれば、簡単に開くことが出来た。そんな偶然、本当にあるのだろうか?と、ハヤテは半信半疑になってしまう。
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