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12 冒険者は、共に気散じる。
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「……あっ……んんっ…………!…………ふぁっ…………ゃだぁぁぁ…………ゃめ……っはぁ……!はぁ……ぁんん…………!!!」
隣で悩ましげな声を上げてるのはタットさんだ。
勘違いしないで欲しい。
やってるのは筋トレだ。
いかがわしいアレとかソレじゃない。
そこまで声は大きくないから聞こえてるのは俺くらいだと思うが、それにしても声だけ聞いてたらナニしてるんですか!?と突っ込んでしまいたくなる声だ。
開始10分の準備運動を兼ねたストレッチまでは良かった。お互い軽く会話をしながら怪我をしないようにじっくりと筋肉を伸ばしていた。
問題はヒートが始まってからだ。
ちなみに、ヒート、もしくはヒットの正式名称は、High-Intensity Interval Training(ハイ・インテンシティ・インターバル・トレーニング)。その頭文字を取ってHIIT、ヒット、ヒートと呼ばれてる。
平たく言うと、「スッゲーしんどい筋トレ短時間全力+ちょっとの休憩の繰り返し」だ。
メニューによっては有酸素運動もあった気がするけど、俺もそこまで詳しくない。確実なところは、「ただひたすらにしんどい」そこだけ。けど、筋トレ効果はかなり高い。デブだった頃、これがこなせるようになったら、劇的に体重と体型が変わっていったのが面白かった。
ドランゴンズヒート30で実際にヒートメニューを行うのは15分だけ。残りは準備運動とクールダウンにあてている。けど15分と侮ることなかれ。終わる頃には息絶えだえの汗ダラダラだ。
そのヒート中の出来事に、俺は心を無にし、目にはチベットスナギツネを降臨させ、ひたすらにメニューをこなし続けた。
「あぁん…………っ!!…………ぁっはぁっ!!!…………っぐ!!…………はぁっ……はぁっ………………」
そこまで声がでかくなかったのが唯一の救いかも知れない。こんな公然猥褻おにーさんだとは思わなかった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「あははー!!!!きっつかったぁ!!!に、しても流石ゆん君だね。めっちゃ淡々とこなしてるの凄いよ。俺もうダメぇー。死ぬかと思ったよ」
ヒートが終わると、タットさんは額はしっとりと汗ばみ、頬を赤く染めながらニコニコとクールダウンを始めた。
俺もアプリのナビに従ってクールダウンをこなす。
俺の場合は、しっとりと言うより、毛穴という毛穴から汗が吹き出してる。
筋肉量が増えたせいか、代謝も上がって発汗量がかなり増えた。
と、なると気になるのはタットさんの汗の量だ。
CDフィットのガチ勢の割にはドラゴンズヒート30で猥褻物になってるし、大して汗もかいていない。
「あまりヒートはやらないですか?しんどそうでしたよね。特に声が……その……なんと言うか……」
「ヒートはこの下のレベルを普段はやってるんだ。ドラゴンズヒート20ね。あれはヒートは5セットしか無いから、なんとか頑張れるんだ。声……って……俺、なんか声おかしかった?あまり気にしたこと無かったんだけど……」
「……気にしてないなら、いいです……」
「そう?」
タットさんは、特に気にした様子もなくゆっくりと酷使した筋肉をほぐしていた。
俺は、同じようにクールダウンをしつつ、自分のカバンの中から保冷バックに包んでおいたシェイカーを取り出した。中にはホエイプロテイン飲料が入っている。少しばかり、アレンジをしてるので良く混ざるように振った。
「タットさんは、筋トレ後にプロテイン飲む人ですか?」
「いやぁ~……飲まない。飲んだ方が筋肉が育ちやすいっていうのは分かってるんだけどね……特別美味しいとは思えないし、コンビニとかで買えるプロテイン飲料ってタンパク質量とカロリーが伴ってなくない?特別に美味しいってワケでもなくて、タンパク質のコスパも、そこそこだったら俺は牛乳飲んでたい。とは言っても汗かいた後に飲みたいのは、お茶かスポドリだから結局タンパク質は摂ってないね」
あははー、笑顔で答えるタットさん。プロテイン飲料も美味しいか否かの基準なら、これはお眼鏡に叶うんじゃないかな?
そう思って、俺は自分のシェイカーを差し出した。
「俺のコレ、飲んでみます?俺は好きなんですよ。規定の半量しか入れてないのでタンパク質量はコンビニで買うのと同じくらいの量ですが、味は保証しますよ。イチゴチョコ味です」
「イチゴチョコ?お店に売ってるの?」
「店頭販売ではなく、ネット通販のやつです。正確には、『すっきりイチゴ味』のプロテインに純ココアを混ぜたやつです」
「ふーん?……」
いぶかしげにシェイカーを受け取ると、カポッと蓋を開け、タットさんはコクっと中身を飲み込んだ。
すると、タットさんの目が『カッ!!』と見開いた。
「凄く……上品な……月面着陸した宇宙船11号と同じ名前のチョコ菓子の味がする……」
「アポロですね、人連れて初めて月面着陸した宇宙船は」
「そうそれ」
タットさんは、ゴクゴクと勢いよくプロテインを飲み干し、最後にペロっと口の周りについてたプロテイン飲料を舐めとった。
……うん、なんか卑猥物を見てる気分になるな。
「あー……、ごめん。全部飲んじゃった」
「気にしないでください。想定の範囲内なので」
俺はカバンから、プロテイン粉末とパックの無脂肪乳を取り出し、タットさんからシェイカーを受け取ると、もう1杯作り始めた。
「ゆん君って用意周到だねぇ。汗ふきシートとか着替えとか、汗かいた服を入れる袋とかもきちんと用意してるしさ」
「まぁ、やる事最初から分かっていれば準備はしますよ。今日はタットさんとCDフィットするって決まってましたし」
「そっかぁ……なんか、俺の方が年上なのになぁ……」
「ご飯屋さんではタットさんは頼りになるオニーサンでしたよ?俺は、美味しいご飯屋さんは良く知らないですから」
「そーかなぁー?」と、あまり納得していなさそうにタットさんが不満顔していると「ピロロリン♪」とスマホから軽快な音が流れた。ドラゴンズヒートが終了した合図音だ。俺たち2人は、それぞれスマホを手にし、操作を始めた。
今回プレイしたワークアウトに応じて、経験値が貰えるので、どのキャラクターに付与するかを選択するんだ。俺は、現在強化中の使役モンスターに経験値を付与し、タットさんは主人公に付与していた。
隣で悩ましげな声を上げてるのはタットさんだ。
勘違いしないで欲しい。
やってるのは筋トレだ。
いかがわしいアレとかソレじゃない。
そこまで声は大きくないから聞こえてるのは俺くらいだと思うが、それにしても声だけ聞いてたらナニしてるんですか!?と突っ込んでしまいたくなる声だ。
開始10分の準備運動を兼ねたストレッチまでは良かった。お互い軽く会話をしながら怪我をしないようにじっくりと筋肉を伸ばしていた。
問題はヒートが始まってからだ。
ちなみに、ヒート、もしくはヒットの正式名称は、High-Intensity Interval Training(ハイ・インテンシティ・インターバル・トレーニング)。その頭文字を取ってHIIT、ヒット、ヒートと呼ばれてる。
平たく言うと、「スッゲーしんどい筋トレ短時間全力+ちょっとの休憩の繰り返し」だ。
メニューによっては有酸素運動もあった気がするけど、俺もそこまで詳しくない。確実なところは、「ただひたすらにしんどい」そこだけ。けど、筋トレ効果はかなり高い。デブだった頃、これがこなせるようになったら、劇的に体重と体型が変わっていったのが面白かった。
ドランゴンズヒート30で実際にヒートメニューを行うのは15分だけ。残りは準備運動とクールダウンにあてている。けど15分と侮ることなかれ。終わる頃には息絶えだえの汗ダラダラだ。
そのヒート中の出来事に、俺は心を無にし、目にはチベットスナギツネを降臨させ、ひたすらにメニューをこなし続けた。
「あぁん…………っ!!…………ぁっはぁっ!!!…………っぐ!!…………はぁっ……はぁっ………………」
そこまで声がでかくなかったのが唯一の救いかも知れない。こんな公然猥褻おにーさんだとは思わなかった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「あははー!!!!きっつかったぁ!!!に、しても流石ゆん君だね。めっちゃ淡々とこなしてるの凄いよ。俺もうダメぇー。死ぬかと思ったよ」
ヒートが終わると、タットさんは額はしっとりと汗ばみ、頬を赤く染めながらニコニコとクールダウンを始めた。
俺もアプリのナビに従ってクールダウンをこなす。
俺の場合は、しっとりと言うより、毛穴という毛穴から汗が吹き出してる。
筋肉量が増えたせいか、代謝も上がって発汗量がかなり増えた。
と、なると気になるのはタットさんの汗の量だ。
CDフィットのガチ勢の割にはドラゴンズヒート30で猥褻物になってるし、大して汗もかいていない。
「あまりヒートはやらないですか?しんどそうでしたよね。特に声が……その……なんと言うか……」
「ヒートはこの下のレベルを普段はやってるんだ。ドラゴンズヒート20ね。あれはヒートは5セットしか無いから、なんとか頑張れるんだ。声……って……俺、なんか声おかしかった?あまり気にしたこと無かったんだけど……」
「……気にしてないなら、いいです……」
「そう?」
タットさんは、特に気にした様子もなくゆっくりと酷使した筋肉をほぐしていた。
俺は、同じようにクールダウンをしつつ、自分のカバンの中から保冷バックに包んでおいたシェイカーを取り出した。中にはホエイプロテイン飲料が入っている。少しばかり、アレンジをしてるので良く混ざるように振った。
「タットさんは、筋トレ後にプロテイン飲む人ですか?」
「いやぁ~……飲まない。飲んだ方が筋肉が育ちやすいっていうのは分かってるんだけどね……特別美味しいとは思えないし、コンビニとかで買えるプロテイン飲料ってタンパク質量とカロリーが伴ってなくない?特別に美味しいってワケでもなくて、タンパク質のコスパも、そこそこだったら俺は牛乳飲んでたい。とは言っても汗かいた後に飲みたいのは、お茶かスポドリだから結局タンパク質は摂ってないね」
あははー、笑顔で答えるタットさん。プロテイン飲料も美味しいか否かの基準なら、これはお眼鏡に叶うんじゃないかな?
そう思って、俺は自分のシェイカーを差し出した。
「俺のコレ、飲んでみます?俺は好きなんですよ。規定の半量しか入れてないのでタンパク質量はコンビニで買うのと同じくらいの量ですが、味は保証しますよ。イチゴチョコ味です」
「イチゴチョコ?お店に売ってるの?」
「店頭販売ではなく、ネット通販のやつです。正確には、『すっきりイチゴ味』のプロテインに純ココアを混ぜたやつです」
「ふーん?……」
いぶかしげにシェイカーを受け取ると、カポッと蓋を開け、タットさんはコクっと中身を飲み込んだ。
すると、タットさんの目が『カッ!!』と見開いた。
「凄く……上品な……月面着陸した宇宙船11号と同じ名前のチョコ菓子の味がする……」
「アポロですね、人連れて初めて月面着陸した宇宙船は」
「そうそれ」
タットさんは、ゴクゴクと勢いよくプロテインを飲み干し、最後にペロっと口の周りについてたプロテイン飲料を舐めとった。
……うん、なんか卑猥物を見てる気分になるな。
「あー……、ごめん。全部飲んじゃった」
「気にしないでください。想定の範囲内なので」
俺はカバンから、プロテイン粉末とパックの無脂肪乳を取り出し、タットさんからシェイカーを受け取ると、もう1杯作り始めた。
「ゆん君って用意周到だねぇ。汗ふきシートとか着替えとか、汗かいた服を入れる袋とかもきちんと用意してるしさ」
「まぁ、やる事最初から分かっていれば準備はしますよ。今日はタットさんとCDフィットするって決まってましたし」
「そっかぁ……なんか、俺の方が年上なのになぁ……」
「ご飯屋さんではタットさんは頼りになるオニーサンでしたよ?俺は、美味しいご飯屋さんは良く知らないですから」
「そーかなぁー?」と、あまり納得していなさそうにタットさんが不満顔していると「ピロロリン♪」とスマホから軽快な音が流れた。ドラゴンズヒートが終了した合図音だ。俺たち2人は、それぞれスマホを手にし、操作を始めた。
今回プレイしたワークアウトに応じて、経験値が貰えるので、どのキャラクターに付与するかを選択するんだ。俺は、現在強化中の使役モンスターに経験値を付与し、タットさんは主人公に付与していた。
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