食べたい2人の気散事

黒川

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15 外見だけは、イケメンの、俺。

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さて、外見的な事だけで言えば、イケてるメンズに属する俺だが、キャワワな女の子とお付き合いする事も無く、男に告白された。
性別は、まぁいいか。
要するに、タットさんに告白された。
ラブだってさ。

正直、気持ち悪いとか怖いとか、不の感情は無い。むしろ、知らない女子に告白される方が俺の場合は恐怖だから、それに比べれば嬉しい部類に入る。俺もタットさんともっと仲良くなりたいし。それがラブかどうかは置いといて。

「あぁー……なんだろうなぁー……」

誰に言うでもなく、リビングのソファに座り頭を揺らしながら独りごちていたら、風呂上がりパンイチの兄ちゃんが物理的な意味で俺に絡んできた。182センチの身長とバランスの取れた体は、男の俺が見てもカッコイイと思う。パンイチだけど。

「裕也、悩み事?」

「うーん……?悩み……?……うーん……」

ギューギューに抱き締めてくる兄ちゃんに、されるがまま、答えにならない返答をした。

「珍しいね、裕也がここまで曖昧な態度取るの。いつもだったらすぐに白黒ハッキリさせるのに」

確かに、いつもはアリかナシか、すぐ答えが出るのに、今回の事は良く分からない。
ここは年長者である兄ちゃんに相談すれば、何か良いアドバイスが貰えるかもしれない。

「兄ちゃんは男と付き合った事ある?告白された事があるのは知ってるけど」

「……ん?ん?その質問は、裕也が悩んでる事に関係する?」

俺の頭に顔を擦り付けてた兄ちゃんが、ガシッと肩を掴み、顔をのぞき込んできた。

「うん。男に告白された。最近友だちになったヤツに、ラブの意味で好きって言われて、俺も好きだし、もっと仲良くなりたいんだけど、今のところ友だちが言う気持ちとはちょっと違くてさ、どうしたもんかなー?って考えてた」

「そ……そうか。そっ……それで、裕也は俺の話を聞きたかったんだなっ?」

動揺が隠せてない兄ちゃんだけど、キチンと俺の話に向き合ってくれてる。コクっと頷くと、兄ちゃんは俺から離れ、隣に座り直し、ウンウン唸りだした。

「付き合った事は、ある」

ほう?

「でも、今は付き合ってない」

うん?

「普通の男女のお付き合いと一緒だよ。好きです付き合ってください。はい、喜んで。このやり取りをして、お付き合いして……あの時は何で別れたのかな?……性格の不一致かな?まぁ、そんな感じで、別れて下さい。はい、分かりました。で、バイバイ」

「その後は?その人とはまだ遊んだりする?」

俺としては、そこに至る感情的な部分を知りたかったんだが、兄ちゃんも身内にそういう話をするのは恥ずかしいのか、淡々と事実だけ教えてくれた。

「連絡先消しちゃったからね、今その人が何処で何をしてるか知らない。だから別れた後は遊んだりしてないよ。でも、それも人それぞれだよ。今まで付き合った人と、別れた後も交流する事だってあるし」

「それは友だちとして?」

「……うーん……友だちに戻る事もあれば、節目節目で連絡取り合うだけの人もいるし……SNSで繋がってるだけ、なんて事もあるね」

「ふぅん?」

恋愛経験ゼロ男子には良く分からない世界だった。

「で?裕也は、その友だちにどう答えるかで悩んでるって事?」

「うん」

「それは……確かに裕也でも悩むね」

兄ちゃんはフワっと笑って俺の頭を撫でてくれた。

「今まで俺に告って来たのって、顔も名前も良く分からない奴らばっかりだったから、ハッキリバッサリ断れたんだよ。今回は知り合って間も無くて、でも一緒に遊んでみたら凄く楽しくて心地よくて、もっと仲良くなりたい、一緒に遊びたい、って思ってた人にラブって言われたからさ…………悩むよなぁ……」

1度は離れた兄ちゃんと俺だが、今度は俺から兄ちゃんの肩に寄りかかった。因みに、兄ちゃんはパンイチのままだ。

「裕也は、告白されて嫌だったわけではないんだよね?」

「嫌じゃなかった」

「ラブって言われた今でも、その友だちと仲良くなりたい?」

「なりたい」

兄ちゃんは、寄りかかっている俺を再度ギュッと抱き締め、頭上にキスをしてくれた。

「それなら、そのまま裕也の気持ちを友だちに言えば良いと思うよ。それで、ラブじゃなくてもいいって言ってくれれば、そのまま友だちでいればいいし、ラブじゃないと嫌って言われたら、残念だけど、付き合い方を考え直せばいい。……って、俺は思うかな?」

デブだった頃の名残か、兄ちゃんは俺の腕やら頬やら身体全身揉みながらアドバイスをくれた。
まぁ、確かに1人ああでもないこうでもない悩むより、本人と話し合った方が良いか。
そう思ったら、何となく気持ちがスッキリした。

「そしたら、会って話してみる。ありがと、兄ちゃん。兄ちゃんに話聞いて貰えて良かったよ。俺一人じゃずっとグルグル悩んでるだけだった」

感謝の気持ちを込めて、スリっと頬を擦り合わせギュッと抱き着くと、兄ちゃんもスリスリと頬を合わせて抱き締め返してくれた。コレコレ、この安心感よ。

「少しでも、気持ちが晴れたなら俺も安心したよ。悩んでる裕也を見てると心配になっちゃうからね」

「うん、兄ちゃんが居る日で良かった」

兄ちゃんは、普段は職場近くのマンションに1人で生活をしてる。でも、両親が出張だデートだと夜に家を空ける日は、だいたい兄ちゃんか姉ちゃんが泊まりに来てくれる。
今日は、父さんも母さんもそれぞれの仕事で出張だったので、兄ちゃんが泊まりに来てくれてた。

「今日は一緒のベッドで寝るかい?」

一応、俺も成人1歩手前の男性なんだが、兄ちゃんは、まだまだポヨポヨムチムチコロコロしてた頃の俺を見てるかの様子で添い寝を提案してくれる。

「兄ちゃん、俺もう19歳。そんで今年20歳になる男だよ?もう一緒になんて寝られないよ」

そう言って、俺はソファから立ち上がった。

「知ってる。でも、俺にとってはいくつになっても可愛い弟なんだよ。ごめんね、子ども扱いして」

「んーん。兄ちゃんが俺の事を心配してくれてるの、知ってるから。ありがと。俺そろそろ寝る。兄ちゃんも、ちゃんとパジャマ着て寝るんだよ?」

パンイチのままの兄ちゃんは、ニコッと笑って「おやすみ」と、手を振ってくれた。
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