食べたい2人の気散事

黒川

文字の大きさ
16 / 96

14 冒険者は、……?

しおりを挟む
気づけば日が暮れていた。完全に、と言うより夕焼け小焼けのオレンジ色の空だ。
ゲームは結構白熱した戦いだったと思う。
今回選んだゲームソフトは、ファミリー向けのカートゲームだ。コミカルな動きと、見た目は可愛いが、エグい攻撃を仕掛けるアイテムで相手を邪魔等をさせる事も出来るゲームソフト。俺たちは互いに小細工を仕掛けつつ、逃れつつ、嵌りつつ、ゲラゲラ笑いながら何度もプレイした。
勝敗は、五分五分と言いたいところだけど、僅差でタットさんの勝ち。
ちょっと悔しかったが、全く歯が立たなかったワケでは無いので次勝負する時まで、もう少しやり込んでおこうと思ってる。

「ゆん君もやり込んでるねー!こんなにドキドキした勝負は久しぶりだったよ」

「……完敗……ではないですが、結構自信があったソフトだったので悔しいです。もっとやり込んでくるので、また勝負してください」

「いーよー。てかネット繋いでるならオンライン対戦も出来るし、今度そっちで勝負する?」

確かにオンライン対戦も、お互いのパスコードを入力すれば特定の相手とだけ対戦できるシステムはある。けど、出来れば俺はタットさんとは、リアルで会って勝負したい気持ちの方が勝った。

「……うーん……タットさんとは会って勝負したいです。今度はうちに来るのでも良いですし」

俺がそう言うと、タットさんは口をポカンと開けて目をパチパチさせた。ん?と、首を傾げると、今度はギュッと目をつむり、唇を噛んで何かに耐えてる。

「ゆん君のお家にお呼ばれ嬉しいし首をかしげるゆん君可愛いし……」

どうも俺の様に悶えてるらしい。結構な早口で言われたけど、こっちも結構なオタク歴があるから、早口の聞き取りは得意だったりする。どっかのラノベなラブコメディだったら、聴き逃しそうな早口も小声も、俺は聞き逃さない強い意志を持ってる。

「ふはっ……」

タットさんのコロコロと変わる態度に思わず吹き出すと、今度は困った様に眉を下げた。本当にこの人は表情豊かだな。俺が感心して見ていると、そっと頬に手を添えられた。嫌悪感は無いので、スリっと俺も頬を押し付ける。

「本当はね、もう少しゆっくり仲良くなれたらいいな、嬉しいなって思ってたんだよ……でもね、ゆん君があまりにも可愛いからさ……」

スリスリと頬を撫でられていた手は耳に移動し、今度は耳を優しく撫でられた。これ、気持ちいいな……頬を撫でられた時と同じように、タットさんの手に耳を押し付ける。
目を閉じて撫でられる感触を堪能してると、後頭部にタットさんの手が周り、そのまま抱き寄せられた。少し骨張った肩に頬を当て、スンスンと匂いを嗅ぐ。公園で筋トレをした後に貸した汗ふきシートの残り香と、おそらくタットさん自身の匂いが混ざって、なんとも言えないドキドキする良い香りがした。

「タットさん、なんかいい匂いします……」

「そ?汗臭くない?」

「ないです」

「なら良かった……」

ただ、頭を抱き寄せられているだけなので体勢がキツイ。俺は身体をずらして全体的にタットさんに寄りかかるように体重を預けた。

「わぁ……」

タットさんは感嘆の声をあげながら、俺の身体全体を包み込むように両腕で抱え込んでくれた。これ、物凄く安心感がある。

これは……アレの安心感だ……ほら……アレアレ

「兄ちゃん……」

タットさんにスリスリと頬を擦り付けながら呟いた。

「まさかのお兄さんかーい!」

しっかりと抱き締められたまま、恐らく擬音を付けるなら「ズコー!」って聞こえて来そうな突っ込みだった。

「タットさん、匂いはドキドキするんですけど、抱き締められてると兄ちゃん味があって凄く安心感あります。身長も同じくらいだし、年上だからですかね?」

もう遠慮せずに体全体を擦り付けて密着感増し増しにする。180センチある成人男性に、170センチそこそこのギリギリ未成年が引っ付くのも、絵柄上どうかと思うが、兄ちゃんとのスキンシップもこれくらいなので俺の中では許容範囲内。

「思ってたんと違う……けど離せない……」

タットさんは、そう呟きながら俺が満足するまで抱き締めてくれていた。

結局、タットさんとの触れ合いはハグだけ。所々で頬を擦り付けたりもしたけど、俺の中では家族のスキンシップレベル。
終始タットさんは「解せない……解せないけど離せない……!」とブツブツ言いつつも俺を離すことは無かった。恐らく、俺の事が好きなんだろう。
帰り際にも「俺ね、ゆん君の事、好きなんだよ。兄弟的なのじゃなくてね!ラブ的な意味でね!」って必死に言われたので、まぁ、恐らくじゃないな。

決定的だコレ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。 想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。 悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。 ※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。 二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...