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34 冒険者は、食べられたい。
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「どうぞ……」
観念したように、タットさんが家に招き入れてくれた。
「おじゃまします」
「夕飯は、まかないで済ませているよね?何か飲む?夜のカフェインが大丈夫なら、珈琲かお茶か。あ、麦茶もあるか」
「そしたら麦茶をお願いします」
「おっけー」
俺は、勝手知ったるタットさんの家と言わんばかりにソファに座る。さっきから、ブブブブとスマホが頻繁に鳴っているので見てみると、兄ちゃんからだった。
どうやら、母さんが兄ちゃんに連絡したらしい。
『相手はだれ!?』『このまえ話してくれた子!?』『帰りたくなったら言って!すぐ迎えに行くから!』『嫌なことは嫌って言うんだよ!』等など。なんとも兄ちゃんらしい心配の連絡が入ってる。俺は、『りょ』と返してスマホをテーブルの上に置いた。
「なんか……随分とスマホ鳴ってたけど、大丈夫?」
カタンと、麦茶の入ったコップが置かれて、タットさんが隣に座ってきた。
「兄ちゃんからです。」
「あぁ~……ね、心配するよね。電話してあげた方が安心するんじゃない?」
コテっと、小首を傾げながら、俺に助言をくれるタットさん。少し考えて、確かに文字のやり取りだけより、一度声を聞かせた方が兄ちゃんも納得してくれそうだなと思った。
再度、スマホの画面を開いてビデオ通話を起動させる。
馴染みの呼出音が鳴り、スマホの画面には俺とタットさんが映ってる。
「え?ビデオなの!?」
「え?ビデオ通話ダメですか?……あ、兄ちゃーん。オレオレ。通話大丈夫?」
タットさんの答えを聞く前に、兄ちゃんが電話に出てしまった。既に家に居るみたいで、ラフな格好だ。良かった、パンイチじゃなくて。
『おまえかぁぁぁああ!!!!俺の裕也をたぶらかしたおとこはぁぁああ!!!』
第一声が非常に治安の悪い言葉だった。
近代稀に見る治安の悪さだ。あのいつもの穏やかな兄ちゃんじゃない。
タットさんがオロオロしている。
俺もビックリした。
「兄ちゃん違う。誑かされてない。むしろ俺がたぶらかした。俺がタットさんの家に行きたいってワガママ言ったんだよ」
『裕也……!』
ビックリはしたが、キチンと誤解は解かねばと話を進める。
「電話越しでゴメン。今度改めて紹介するからさ。古川健人さん。俺の好きな人」
「こんな形のご挨拶で申し訳ありません。古川と申します。あの……ご心配なのは承知してますが、あの……年上として、清く正しく、ご家族様に後ろめたさを感じるような事は一切無い一夜を過ごしますので……」
「え?何もしないの?」
てっきり、こう、恋人としてのなんやかんやが繰り広げられるのだとばかり思っていた俺としては、タットさんのセリフに落胆した。
『裕也!!』
「ゆん君!?」
2人の突っ込みが重なる。意外と仲が良いかも知れない。
『古川さん!初対面だし電話越しで申し訳ないですが、うちの裕也を止めてくださいね!?この子、思い立つと猪突猛進なところがありますので!』
「そこは十分理解してます。大丈夫です。裕也君の貞操は俺が守ります。どうか、ご安心ください」
スマホ越しで兄ちゃんとタットさんが結束してる。腑に落ちない。けど、まぁ、兄ちゃんの最初の治安の悪さが和らいだので良しとする。
やっぱり、電話して良かった。
2人の結束後、脇では、タットさんが兄ちゃんから尋問でも受けてるのか?と思うくらい矢次に色々と聞かれてる。
俺は、その話を聞きながらタットさんに寄りかかって手を握ったりと、ちょっかいを出して遊んでいた。
電話越しでは、俺らの姿を見て、兄ちゃんがかなり焦っているし、タットさんはタットさんで「安心してください!」と一所懸命に兄ちゃんを宥めている。兄ちゃんも画面越しではあるけれど、タットさんがどう言う人か見れたから安心してくれるだろう。ことある事に『くれぐれも!くれぐれも!』と、タットさんにお願いをしている。
「あ、じゃぁね、兄ちゃん。もう切るよ?兄ちゃんも明日仕事でしょ?今日もお仕事おつかれさま。またさ、うちに帰ってきてよ。色々話もしたいし、予定が合ったらタットさんにも会って欲しい」
『え?あぁ、勿論だよ、裕也。絶対に会おうね。兄ちゃん、近々家に帰るから。古川さん?古川さんもいずれ、お会いしましょう。優しそうな方で安心しました。うちの裕也をよろしくお願いします』
「こんな形のご挨拶で失礼しました。責任を持って裕也君をお預かりいたします」
なんかもう保護者同士の会話だ。このまま挨拶合戦になって収集つかなくなりそうだったので「じゃね」と兄ちゃんに手を振って強制的にスマホのビデオ通話を切った。
ひと仕事終えた感満載で、俺が伸びをしていると、
「ゆん君……ビデオ通話なんて、俺、心の準備が出来てなかったんだけど……?」
と、タットさんが色々とゲッソリしていた。
「すみません。俺、浮かれてました。兄ちゃんにタットさんの事、紹介したくて。あんな第一声が来るとは思いませんでした」
「それは、気にしないで。ゆん君の事、とても大事に思っているなら当然だと思うよ。心配になるでしょ」
慰める様に、キュッと抱き締めて、俺の頭を撫でてくれる。俺も遠慮なくスリスリと全身を擦り付けた。
「まぁ……信用はして貰えた……と、思ってるから結果オーライかな。後は、ゆん君と平和に1晩過ごすだけだね。それが一番難しそうだけど」
タットさんの体に擦り付けていた頬を上げて、顔を覗いたら、チュッと唇にキスをされた。
「手を出したくて堪らないんだよ……?」
そう言ったタットさんの表情は、とても大人で、男の人の顔をしてた。
……初めて見る表情だった。
観念したように、タットさんが家に招き入れてくれた。
「おじゃまします」
「夕飯は、まかないで済ませているよね?何か飲む?夜のカフェインが大丈夫なら、珈琲かお茶か。あ、麦茶もあるか」
「そしたら麦茶をお願いします」
「おっけー」
俺は、勝手知ったるタットさんの家と言わんばかりにソファに座る。さっきから、ブブブブとスマホが頻繁に鳴っているので見てみると、兄ちゃんからだった。
どうやら、母さんが兄ちゃんに連絡したらしい。
『相手はだれ!?』『このまえ話してくれた子!?』『帰りたくなったら言って!すぐ迎えに行くから!』『嫌なことは嫌って言うんだよ!』等など。なんとも兄ちゃんらしい心配の連絡が入ってる。俺は、『りょ』と返してスマホをテーブルの上に置いた。
「なんか……随分とスマホ鳴ってたけど、大丈夫?」
カタンと、麦茶の入ったコップが置かれて、タットさんが隣に座ってきた。
「兄ちゃんからです。」
「あぁ~……ね、心配するよね。電話してあげた方が安心するんじゃない?」
コテっと、小首を傾げながら、俺に助言をくれるタットさん。少し考えて、確かに文字のやり取りだけより、一度声を聞かせた方が兄ちゃんも納得してくれそうだなと思った。
再度、スマホの画面を開いてビデオ通話を起動させる。
馴染みの呼出音が鳴り、スマホの画面には俺とタットさんが映ってる。
「え?ビデオなの!?」
「え?ビデオ通話ダメですか?……あ、兄ちゃーん。オレオレ。通話大丈夫?」
タットさんの答えを聞く前に、兄ちゃんが電話に出てしまった。既に家に居るみたいで、ラフな格好だ。良かった、パンイチじゃなくて。
『おまえかぁぁぁああ!!!!俺の裕也をたぶらかしたおとこはぁぁああ!!!』
第一声が非常に治安の悪い言葉だった。
近代稀に見る治安の悪さだ。あのいつもの穏やかな兄ちゃんじゃない。
タットさんがオロオロしている。
俺もビックリした。
「兄ちゃん違う。誑かされてない。むしろ俺がたぶらかした。俺がタットさんの家に行きたいってワガママ言ったんだよ」
『裕也……!』
ビックリはしたが、キチンと誤解は解かねばと話を進める。
「電話越しでゴメン。今度改めて紹介するからさ。古川健人さん。俺の好きな人」
「こんな形のご挨拶で申し訳ありません。古川と申します。あの……ご心配なのは承知してますが、あの……年上として、清く正しく、ご家族様に後ろめたさを感じるような事は一切無い一夜を過ごしますので……」
「え?何もしないの?」
てっきり、こう、恋人としてのなんやかんやが繰り広げられるのだとばかり思っていた俺としては、タットさんのセリフに落胆した。
『裕也!!』
「ゆん君!?」
2人の突っ込みが重なる。意外と仲が良いかも知れない。
『古川さん!初対面だし電話越しで申し訳ないですが、うちの裕也を止めてくださいね!?この子、思い立つと猪突猛進なところがありますので!』
「そこは十分理解してます。大丈夫です。裕也君の貞操は俺が守ります。どうか、ご安心ください」
スマホ越しで兄ちゃんとタットさんが結束してる。腑に落ちない。けど、まぁ、兄ちゃんの最初の治安の悪さが和らいだので良しとする。
やっぱり、電話して良かった。
2人の結束後、脇では、タットさんが兄ちゃんから尋問でも受けてるのか?と思うくらい矢次に色々と聞かれてる。
俺は、その話を聞きながらタットさんに寄りかかって手を握ったりと、ちょっかいを出して遊んでいた。
電話越しでは、俺らの姿を見て、兄ちゃんがかなり焦っているし、タットさんはタットさんで「安心してください!」と一所懸命に兄ちゃんを宥めている。兄ちゃんも画面越しではあるけれど、タットさんがどう言う人か見れたから安心してくれるだろう。ことある事に『くれぐれも!くれぐれも!』と、タットさんにお願いをしている。
「あ、じゃぁね、兄ちゃん。もう切るよ?兄ちゃんも明日仕事でしょ?今日もお仕事おつかれさま。またさ、うちに帰ってきてよ。色々話もしたいし、予定が合ったらタットさんにも会って欲しい」
『え?あぁ、勿論だよ、裕也。絶対に会おうね。兄ちゃん、近々家に帰るから。古川さん?古川さんもいずれ、お会いしましょう。優しそうな方で安心しました。うちの裕也をよろしくお願いします』
「こんな形のご挨拶で失礼しました。責任を持って裕也君をお預かりいたします」
なんかもう保護者同士の会話だ。このまま挨拶合戦になって収集つかなくなりそうだったので「じゃね」と兄ちゃんに手を振って強制的にスマホのビデオ通話を切った。
ひと仕事終えた感満載で、俺が伸びをしていると、
「ゆん君……ビデオ通話なんて、俺、心の準備が出来てなかったんだけど……?」
と、タットさんが色々とゲッソリしていた。
「すみません。俺、浮かれてました。兄ちゃんにタットさんの事、紹介したくて。あんな第一声が来るとは思いませんでした」
「それは、気にしないで。ゆん君の事、とても大事に思っているなら当然だと思うよ。心配になるでしょ」
慰める様に、キュッと抱き締めて、俺の頭を撫でてくれる。俺も遠慮なくスリスリと全身を擦り付けた。
「まぁ……信用はして貰えた……と、思ってるから結果オーライかな。後は、ゆん君と平和に1晩過ごすだけだね。それが一番難しそうだけど」
タットさんの体に擦り付けていた頬を上げて、顔を覗いたら、チュッと唇にキスをされた。
「手を出したくて堪らないんだよ……?」
そう言ったタットさんの表情は、とても大人で、男の人の顔をしてた。
……初めて見る表情だった。
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