食べたい2人の気散事

黒川

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【閑話】語る俺。湯浅ユネという人。

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湯浅ゆあさユネ』

これが、ブックカフェ イロトリの店主、ユネさんのフルネームだ。と言っても本名では無い。
コンカフェスタッフ時代のステージネームを今も使い続けている。
芸名みたいなものだ。
ユネさんは、イロトリを始める前は、秋葉原にあるコンセプトカフェ「CANDY STAGE」略して「キャンステ」で、カフェスタッフ兼パフォーマーとして働いていたらしい。「らしい」と言うのは、俺はその時代のユネさんを知らないからだ。

姉ちゃんが、ユネさんの大ファンだった。ファンを拗らせ過ぎて、自分もキャンステのカフェスタッフ兼パフォーマーになってしまった。少しだけバイト時代が被ってたらしく、そこで姉ちゃんはユネさんにだいぶ気に入られた。
姉ちゃんは、天にも登る気持ちだったと教えてくれた。

ユネさんは、伝説のスタッフだった。と、良く姉ちゃんが当時のユネさんの事を嬉しそうに語ってくれる。ユネさんは超人気スタッフで売上は常に上位。個人イベントを開催すれば、予約は即満員。ユネさんに憧れてキャンステのスタッフになりたがる子も沢山居たのだそうな。姉ちゃんもその1人だな。
コンセプトカフェのいち店員でありながら、卒業公演は、お台場にある有名なライブハウスで行った。チケットは発売30分でソールドアウトさせたのだと。
卒業に合わせたグッズも、ネット通販発売3時間で完売。追加を望む声が多すぎて、卒業後も、しばらく入荷し続けていた、と言うのも有名な話らしい。

「おかげでカフェの開店資金も余裕ができたのよね」

と、ユネさんは当時の事を聞くとケラケラ笑いながら教えてくれた。

卒業公演後、ユネさんは自分のカフェをひらくためにキャンステを引退。「ブックカフェ イロトリ」がオープンすると、姉ちゃんはイロトリに俺を連れて通うようになった。
ユネさんは、身長170センチで女性の平均身長より高め。黒髪ストレートを、顔にかからないように髪飾りでまとめている。
邪魔にならないくらいの後れ毛がサイドに流れているのも大人っぽい。大人っぽいと言うか、大人。
自虐的に自分の事を「ババア」と呼ぶ事があるけど、そんな事は一切ない。
俺が小学生だった時に出会った頃と何も変わってない。

「そんな事無いわよ。白髪は出てくるし、目元のシミもシワも気になるし……」

確かに見た目は少しは変わったかも知れないが、俺にとっては誤差の範囲だ。
ユネさんが自分をババアと呼ぶと、俺はいつも否定する。ババアが悪いと言うわけでは無いのだが、俺にとってはいつまで経っても、ユネさんは、綺麗なおねーさんだ。
それを否定して欲しくないと思う気持ちの方が強い。

「ユネさんはいつだって綺麗なおねーさんじゃないですか」

「そう?嬉しいわ」

ニコっと笑うユネさんはとても綺麗だ。見た目の美醜と言うより、雰囲気。もちろん、見た目も綺麗だと思うけど、仕草や態度、言葉の選び方、相手への気遣いとか、生き様、そんなユネさんの人柄が全身に溢れてる感じが綺麗だなって俺は思ってる。

ユネさんは、デブだった頃の俺も可愛がってくれた。アプリゲームを通じてじょじょに痩せた時も態度は変わってない。
「ずいぶんと痩せたわねぇー」
と、しみじみと言われたが、それだけ。
「だって、痩せてイケメンになったって、中身はゆう君のままでしょ?真面目で素直で、末っ子なのに子どもの面倒見が良くて……家族にいっぱい愛情貰って大きくなりましたー♡って顔は、今も変わってないわよ」
俺の小さい頃を知ってる分、ユネさんの言葉は嬉しい。少し気恥しいが、家族から愛情をたくさん貰っていた自覚はあるので、否定はしない。
どんな姿でも、態度の変わらないユネさん。
好きな事を仕事にしてイキイキとしているユネさん。
店主として、1人の女性として、俺は尊敬をしている。
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