地下アイドルを推してたワープアコミュ障陰キャな僕だけど気付いたら執着系ハイスペイケメンに僕が推されて(性的にも)磨かれました?

黒川

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第一章:本編

7-マチナカ サガリ は、連れ帰る。

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「ここ」

と、俺の住んでいるマンションに案内すると、キリは「ふぁぁ」とため息をついていた。
……あのボロアパートに住んでる身としては立派に見えるのだろう。実際割と良い物件だしな。
ついでに、芸能人なのか聞かれたけど否定しておく。オートロックマンション=芸能人てどんだけ貧相な発想してんだか。今どき一般人だって普通に住んでるってのに、

「えー?普通じゃないよ。だって僕のアパートなんて隣のテレビの音が聞こえるくらい薄い壁の部屋だよ?」

キリ自身と比較すればそうなるのか。俺は以前特定したキリのボロアパートを思い出して、

「まぁ、そりゃぁな」

と笑い、すぐさま後悔した。

「なんか、僕の住んでるところ知ってるっぽい言い方だね?」

油断した。
キリの生活圏周辺を調べてたなんてバレたら。

「ぐっ……ぁ……キリ、だいたいラキに貢いでいつも金欠じゃん。そりゃオートロックマンションなんて住めねーよなって……」

苦しい言い訳をすると、

「あぁ、確かに!」

キリは納得したと笑ってくれた。
よし、誤魔化せた。SNSでも実際の会話でもそうだが、良く言えば素直、悪く言えば頭の弱いタイプで良かった。
俺はホッと胸をなで下ろして、自分の部屋の階まで進み、彼を招き入れた。

「ここ」

思い立ってキリの帰宅に合わせて会いに行ったからリビングはいつもの散らかったままの状態だった。
少しでもいいから片付けておけば良かったと後悔したが、キリはリビングに入るなり、

「わぁっ!散らかってる!男の子の部屋って感じだねっ!」

特に引くことは無く、どちらかと言うと楽しそうだった。

「お?掃除屋さん気になる?俺、今から飯作るからキリはその辺片付けててくんない?適当でいいから」

リビングには幸い見られて困るものは無いし、図々しいと思いつつも頼んでみると、

「僕のやり方でいい?」

職業病が疼くのか、前髪で隠れている目がキラキラしていた。

「大歓迎。ずっと片付かなくて困ってたんだよ」

実際の所は困ってはいなかったが、キリのキラキラをもっと見たくて頼るような言動をとる。

「そっか。じゃぁ、マチ君の手料理ご馳走になる事だし、お礼は体で返さなくちゃね!あ、触っちゃダメなものとかあるかな?」

……体で返す……と、言う言葉に反応してしまい、思わず顔が熱くなる。
童貞かっ!
いや、キリみたいな性とは縁がありません然とした風貌がそんな事を言うと、意外性と言うか、ギャップと言うか……うん、いいよな。

「……なんもねーよ。大丈夫」

なんとか声を絞り出して答える。

「ん、おっけー。じゃ……『ワタシのカラダ……捧げます♡♡んっふっふっふーー♪』キラッキラッキー!!ラッキラキーー!!!」

……!!!!!
あろう事かラキの「ご乱心シリーズ」「ナニモカモ」を歌い始めやがった!!!!
しかも意外とこいつ歌上手いな!!


▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪


ラキの「ご乱心シリーズ」
彼女は中学生まではシンガーソングライターを目指し、小さなライブハウスで活動をしていた。
なのでアイドルになった今も彼女の楽曲は自身で作詞作曲をしている。
割と己の感性で良い曲を作り出すのだが、たまに彼女は「どうしてそうなった?」と的な謎な曲も作り出す。

それが「ご乱心シリーズ」だ。

自分がそう発信してるのではなく、ファンの間で言われているシリーズ。
今、キリが歌ってる「ナニモカモ」も乱心のひとつで、ラキが「王道アイドルソングを作る」と宣言し、昔から今のアイドルソングを研究し、ラキなりの王道コード進行と王道歌詞で作り上げた楽曲だ。非常に……ファンの間では物議を醸している曲だが、中毒性も有り1部のファンからは人気のある曲だ。

それを楽しそうに歌いながら片付けを始めるキリも、なかなかのメンタルだ。歌詞がえげつないと言うか、アレなので聴く分には良いが、あまり歌いたくない部類に入ると思うのだが……

キッチンで料理をしながら機嫌良く歌うキリを見てると、こっちも思わず楽しくなってしまった。

「『アナタのココロが欲しいの♬.*゚』」

「『ラッキー!!』」

合いの手まで入れてしまう。

「『なにもかもさらけ出して』」

「『フッフー!!』」

これはこれで面白いな……
キリの意外な一面と言うか、オタクなんてこんなもんか、と納得もしつつ。
俺もつい調子に乗ってキリが歌うメロディの3度上でハモり始めた。
下ハモはそれなりに聴き込まないと出来ないのだが、上はアドリブで行ける。どーでもいー俺の特技だ。
あー、気持ちいいな。キリの声は意外に優しく澄んでいて綺麗だ。それに合わせて歌うと、心地よいハーモニーが生まれる。
うん、きもちいい。

気がついたらキリはテレビのリモコンをマイクに見立ててクルクルと踊り回っていた。

「『マチくーん!!だいすきだよっ!!』」

「『おーれーもー!!!』」

思わずライブの乗りで応えてしまう。

あ?大好き……あぁ、歌のセリフだ。
セリフをキリがアレンジしただけだ。
俺はそれに乗っただけ。
そうは言っても二人きりの空間で「大好き」「俺も」のやり取りをした事実を反芻し、脈拍が上がる。

「ひゃーっ!楽しいっ!あ!片付けっ!してるよ!してるからね?ほら、見て!床が見えてるよ!」

そんな俺の感情とは裏腹に、キリは満足そうに片付けの成果を訴えてきた。

ちがう、そうじゃねーよ。

気づけば俺は、両手で顔を抑えて天を仰いでいた。






あーこれ、尊死した時の仕草じゃん……
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