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二七三話
しおりを挟む「あの、今日からお世話になります。イースと申します……」
「えっと、ミラ、です……」
なんて、コントめいたアトモスフィアが終わったところで、イースさんミラちゃん母娘をマレアに紹介することに。
一応、ここに来る道中、キャリッジホームの中でも説明はしておいたが、第一印象がインパクトがあり過ぎる登場だったせいか、イースさんもミラちゃんもやや……どころではないか、かなりの引き気味での自己紹介となっていた。
「初めましてっ! あたしはこの屋敷の侍女長を務めているマレアちゃん、一七歳ですっ♪ マレアちゃんって呼んでね♪」
そんな二人を前に、また、きゅる~ん、とか効果音が付きそうなポーズを決めて白昼堂々と嘘を吐く。
「は、はぁ……よろしく、お願い致します……」
ほれみろ、イースさんがドン引きしてんじゃねぇか。
てか、こいつ自己紹介する度にこれやんのか? ご苦労なこった……
しかし、マレアの下らん嘘を放置しておくわけにもいかん。なので……
「初っ端から嘘吐くんじやねぇーよ。お前二三だろうが……」
と、確りと真実を伝えておく。
「えっ!? 二三っ! 私と同じ位かと思ってた……」
そんな俺の指摘に、ミラちゃんが心底驚いたといった感じで声を上げた。
うん。分かる……こんな小学生みたいな見た目で二三とか言われたら、普通に驚くよな。
てか、これじゃ一七だって通らんと思うんだが……
「ぶぅー! いきなりのネタばらし禁止っ! でも、まぁ……ばらされてしまっては仕方がない。
うん、あたし、純粋な人間種じゆなくて、コビットっていう小柄な種族と人間のハーフなんだ。だから、こんな見た目だけど二〇は超えてるんだよね~」
と、マレアはやれやれとでも言いたげに肩を竦めながらそう自白する。
「この二人は俺が直接雇用していることになってはいるが、俺から直接指示が出せることも少ないから、マレア達の方で何かと気に掛けてくれると助かるよ」
と、そんなマレアの奇行を諫めたところで、話を進めることに。
実際、食事と掃除と洗濯以外で、俺が指示を出せることなんてないからな。細かいところは本職に任せるに限る。
「うむうむ。このスーパーな侍女であるマレアちゃんに、すべてまっかせなさぁ~」
なんて言いながら、マレアがない胸を誇らしげに張って見せた。
スーパーな侍女は、普通、平気で嘘を吐いたり、減給されたり、土下寝なんてしねぇーんだよなぁ……
と、ツッコミたい気持ちはあるが、ここでツッコんだらダメなんだろうな。
マレアのペースに飲まれると話が進まん、ということを、ちょっと理解して来た。
一々マレアの行動を気にしていたら、話の主導権を全部持っていかれてしまうのだ。
で、こちらのペースを乱される、と。
ならば、ある程度は気にせず聞き流すのが、おそらくマレア対策としては正解なのだと思っている。
「そうだ。取り合えず手持ちの絨毯を食堂に積んでおくから、それは侍女達の方で好きに使ってくれ。
中央棟の二階以降は今のところ使う予定もないから、東棟優先って感じで作業を進めてくれていいから」
「マジでぇ!! やっりぃ~! スグミくん、大好きっ! ねぇ? 一晩くらいなら抱かれても……いいよ?」
なんてマレアが体をクネクネさせながら近寄って来たものだから、その頭部を鷲掴みにしてそれ以上の接近を阻止する。
「あの、お金払うんでそれ以上近づかないでくれます?」
「流石にそれはちょっと酷くないかな? かな!?」
そんなマレアを軽く|(物理的に)突き飛ばし、距離を取らせる。
見かけ同様、マレアの体重は非常に軽いので、ひ弱な俺の力でもなんとかなるものだな。
「ほれ、バカ話もここまで。さっさと中に入るぞ」
「ほ~い」
と、マレア共々、ぞろぞろ引き連れて屋敷の中へ。
まずは宣言通り、クラフトボックスで制作していた絨毯を取り出し食堂に一時保管。
ちなみに、クラフトボックスは俺の部屋に置きっぱにされており、二四時間体制で絨毯の制作を続けせていた。
素材さえ切らさないようにしておけば、後は勝手にクラフトボックスが全自動で作ってくれるからな。マジ便利。
そしてそれは、現在進行形で続ている。まだまだ数は足りていないので、クラフトボックスにはこれからも頑張ってもらう所存である。
絨毯の仮置きが終わったら、そっちはマレアに任せて俺達は本題であるイースさんミラちゃん母娘の引っ越し作業だ。
何せ、彼女達の荷物は全部俺が持っているので、俺がいないと始まらないのだ。
というわけで、イースさんミラちゃん母娘の部屋へ。
「ここが……私達の部屋……」
「そっ! 凄いでしょ!
こっちの扉がお庭に、こっちの扉は厨房に続ているんだよ!」
今日初めて見る自分の部屋に、言葉無く立ち尽くすイースさんに、そんなことをミラちゃんが得意気に語る。
そんな二人を他所に、俺は亜空間倉庫に収納していた荷物が詰まったドデカい木箱を、部屋の中央辺りにドカンと取り出した。
大きさ的には、大人が余裕で座って入れそうなくらいのサイズだが、逆にいえば、二人合わせてもその程度の荷物しかないともいえた。
元々、あまり物を持っていなかったうえ、持って来た物もその殆どが、服とか身の回りの雑貨関係ばかりだったからな。
まぁ、こんなものといってしまうば、こんなものなのかもな。
ちなみに、この木箱は俺のお手製である。ただし、特に変わった機能などはまったくない。ただの箱だ。
「ほら、部屋の説明ばっかりしてないで、さっさと片付け始めないと何時まで経っても終わらんぞ?」
「は~いっ! ほらっ! お母さん始めよっ!」
「え、ええ……」
未だに戸惑うイースさんの手を引いて、ようやっとミラちゃんが部屋の片づけを開始する。
「手伝うわ」
「うん、ありがとうセっちゃん!」
で、その様子を見て、ここまで着いて来ていたセレスが片付けの手伝いを申し出た。
なんでイースさんミラちゃん母娘の引っ越しにセレスが着いて来ていたのかと思ったら、どうやらこのためだったみたいだな。
「それじゃあ、俺はここに居るから、何か必要なものがあったりしたら言ってくれ」
荷物の量も量だし、そもそも女性の引っ越しだ。
これ以上の人手はむしろ過剰なうえ、男の俺には見られたくないものもあるだろうと、俺は部屋の隅っこで待機することにした。
この間に、マレア達の方の手伝いに行ってもよかったのだが、荷解きが終わったら、このバカデカい木箱を片付けないといけないし、もしかしたら何か必要な物が出てくるかもしれないので、一応、御用聞きとして残ることを選んだのだ。
「うん、分かったっ!」
俺の言葉に、ミラちゃんが元気に返事をすると、三人はテキパキと作業を開始したのだった。
そうして荷解きを始めて少々。
俺の前を、荷物をまとめて運んでいるイースさんが忙し気に通り過ぎた時。
積んでいた荷物の一つが滑り落ち、コロンと俺の足元に転がって来たのだった。
形状からすると、細長い木箱? の様なものなのだが……イースさんはそれに気づいてはいない様子で、スタスタと先へと行ってしまった。
「ん? イースさん、何か落としたぞ?」
と、俺はイースさんに声をかけつつ、落とした物を拾い上げる。
どうやら、落ちた衝撃で蓋が僅かに開いてしまった様で、中身がちらっと垣間見えた。
その中身は……
「……? 糸?」
箱の中に丁寧に収められていたのは、茶色掛かった糸の様なものだった。
にしては、随分と短い気もするが……
量としては、多くもないが少なくもない。そんな感じの物が、一束にしてまとめられていたのだ。
なんぞこれ?
「あっ、すいません。今は手が離せませんので、そのままにしておいて頂ければ……っ!!」
俺の声に振り返り、何かを言いかけていたイースさんだったが、俺が手にしている物に目が留まった瞬間、その言葉は突然立ち消え、そして、見る見るうちにその表情が青ざめたそれへと終わって行ったのだった。
なんだなんだ? なんか俺、マズイことしたか?
と、その真意を確認する間もなく、イースさんは手にしていた荷物をすべて投げだし、その場に崩れ落ちる様に跪いてしまったのだ。
そして……
「申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません……」
「ちょっ、えっ、なに!?」
と、額を床に押し付けながら、その言葉を呪詛の様に繰り返すばかりだった。
だからなんなんだっ! 突然こういうことをするのは、マジで止めて欲しいっすっ!
ただただ、俺が状況について行けず、一人オロオロとしていると、そんな俺を見かねたのか、セレスが近づいて来てくれた。
「スグミ、その箱、ちょっと見せて」
と、言われるがまま、俺は手にしていた箱をセレスへと渡す。
「……なるほど。そういうこと……」
木箱の中身を確認したセレスが一人。納得した様にそう呟いた。
「すまんが、俺にも分かるように説明してくれると非常に助かるなんだが……?」
「ええ。これは人毛よ」
「人毛?」
つまり、人の髪の毛ってことか? 確かに、ただの糸にしては質感が全然違っていたが……だが、それがなんだっていうのか?
「そして、おそらくこの人毛は亡くなった旦那さんの物……ではないですか?」
そう、セレスは未だに跪くイースさんへと語りかけた。
「……は、はい……その通りで……ございます……」
見るからに体を震わせながら、イースさんがそれを肯定する。
状況を理解しているのか、その様子を見ていたミラちゃんまでもが、普段の明るさなどなりを潜め、顏を真っ青にしている始末だった。
「スグミは知らないだろうから説明すると、この国では死者の体の一部を家の中に持ち込むことは、死期を呼び込むとして忌避すべき行為だと考えられているの。
それがたとえ、身内だとしても……ね。ましてや、それが他人の家ともなれば、それはもう禁忌だとさえいえる行為なのよ。
仮に、貴族相手に同じことをした場合、不敬罪で死刑ものよ」
セレスがそう説明すると、イースさんの肩が一際大きくビクンっと震えたのが見えた。
なるほど。この国にはそういう風習がある、ということは理解した。
とはいえ、だ。
「ふぅ~ん、そうなんだ」
というのが、俺の正直な感想だった。というか、それ以外に言うことなんて特にないからな。
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