2 / 5
2
しおりを挟む
今朝も奥様は愛人宅へ向かわれました。
セルシオ様から他に愛する女性の存在を告げられたのでしょう。結婚式の翌日からルイーゼ様は隠すことなく早朝から屋敷を出て行かれます。
相手はノエル=エルスター。エルスター家の長男で有名な白金の乙女シリーズの画家でした。二人は幼馴染でもあり、恋人同士だったようです。
キツく結い上げられたプラチナブロンドの髪と、意思の強さを感じるつり上がった眉と瞳。感情が現れることのない顔は美しいが、冷たく、精巧な陶器人形のような印象を与えるルイーゼ様。そんな女性との、家の繋がりの為だけの婚姻。
もともとルイーゼ様はセルシオ様の兄上、ルシエール様と婚約を結んでいました。しかしルシエール様は学友であった平民の女性と恋に落ち、妻にと望まれたのです。もちろん周囲からは反対され、女性にも危害がおよぶ可能性が出たルシエール様は駆け落ちを計画し、計画に気づいた大旦那様の命で監禁となったのですが……、兄弟大変仲が良く、セルシオ様が家督を継ぎ、婚約者も引き継ぐことでルシエール様を好きな人と一緒にさせてほしいと大旦那様に頭を下げられたのでした。
『私には好きな人はいないから、婚約者とは友好な関係を築けるだろう』
そうおっしゃったセルシオ様。
しかし一年前、セルシオ様は恋を知ったのです。ルシエール様同様、平民の少女に。
愛することを知ったセルシオ様が婚約者に会われても、好意を持つことはできず、友好な関係を築くことも出来ず、それでも家の為に義務として、婚姻を結んだのでした。
奥様があっさり愛人の元へ行ったことに私たちは安心してしまいました。奥様がセルシオ様の想い人に何かするようなことはなさそうだと、そう思うのと同時に、セルシオ様に愛されることのない奥様が別の方と愛を育まれることに……、安心していました。
セルシオ様も心置きなく彼女と会えるでしょう。
姿と名を偽り食堂で働くリーゼさんとの逢瀬は、週に四回、たった二時間ほど。
こちらが焦れるほど、清らかで緩やかな関係です。
彼女への贈り物も一輪の花やレースのリボンと、高価ではありませんがセルシオ様が自ら悩み選んだ物です。
涙を浮かべ、喜んでくれる少女に、こっそり覗き見る私たちも、いつしかこの方が奥様であればいいのに……と、思うようになりました。
気をきかせて食堂の店主も、セルシオ様が訪れるとリーゼさんを休憩に入らせ、共に食事をするようになりました。女将、グッジョブです。
セルシオ様が笑顔で食事をする姿に、屋敷で奥様との食器の音も立てない『無音の食事』との差に、セルシオ様の心を満たしてくれる少女に常に隣にいてほしいと、そう私たちは望むようになりました。
清らかな関係も一年と六ヶ月たったある夜、いつも通りお迎えにあがった私に、セルシオ様はおっしゃったのです。
「今夜は彼女と共に過ごすから、引き返してくれ」
出会って一年と半年! やっと進展する二人の仲に、いい加減焦れてた私たち使用人一同、拳握って頷き合ったのでした。
セルシオ様から他に愛する女性の存在を告げられたのでしょう。結婚式の翌日からルイーゼ様は隠すことなく早朝から屋敷を出て行かれます。
相手はノエル=エルスター。エルスター家の長男で有名な白金の乙女シリーズの画家でした。二人は幼馴染でもあり、恋人同士だったようです。
キツく結い上げられたプラチナブロンドの髪と、意思の強さを感じるつり上がった眉と瞳。感情が現れることのない顔は美しいが、冷たく、精巧な陶器人形のような印象を与えるルイーゼ様。そんな女性との、家の繋がりの為だけの婚姻。
もともとルイーゼ様はセルシオ様の兄上、ルシエール様と婚約を結んでいました。しかしルシエール様は学友であった平民の女性と恋に落ち、妻にと望まれたのです。もちろん周囲からは反対され、女性にも危害がおよぶ可能性が出たルシエール様は駆け落ちを計画し、計画に気づいた大旦那様の命で監禁となったのですが……、兄弟大変仲が良く、セルシオ様が家督を継ぎ、婚約者も引き継ぐことでルシエール様を好きな人と一緒にさせてほしいと大旦那様に頭を下げられたのでした。
『私には好きな人はいないから、婚約者とは友好な関係を築けるだろう』
そうおっしゃったセルシオ様。
しかし一年前、セルシオ様は恋を知ったのです。ルシエール様同様、平民の少女に。
愛することを知ったセルシオ様が婚約者に会われても、好意を持つことはできず、友好な関係を築くことも出来ず、それでも家の為に義務として、婚姻を結んだのでした。
奥様があっさり愛人の元へ行ったことに私たちは安心してしまいました。奥様がセルシオ様の想い人に何かするようなことはなさそうだと、そう思うのと同時に、セルシオ様に愛されることのない奥様が別の方と愛を育まれることに……、安心していました。
セルシオ様も心置きなく彼女と会えるでしょう。
姿と名を偽り食堂で働くリーゼさんとの逢瀬は、週に四回、たった二時間ほど。
こちらが焦れるほど、清らかで緩やかな関係です。
彼女への贈り物も一輪の花やレースのリボンと、高価ではありませんがセルシオ様が自ら悩み選んだ物です。
涙を浮かべ、喜んでくれる少女に、こっそり覗き見る私たちも、いつしかこの方が奥様であればいいのに……と、思うようになりました。
気をきかせて食堂の店主も、セルシオ様が訪れるとリーゼさんを休憩に入らせ、共に食事をするようになりました。女将、グッジョブです。
セルシオ様が笑顔で食事をする姿に、屋敷で奥様との食器の音も立てない『無音の食事』との差に、セルシオ様の心を満たしてくれる少女に常に隣にいてほしいと、そう私たちは望むようになりました。
清らかな関係も一年と六ヶ月たったある夜、いつも通りお迎えにあがった私に、セルシオ様はおっしゃったのです。
「今夜は彼女と共に過ごすから、引き返してくれ」
出会って一年と半年! やっと進展する二人の仲に、いい加減焦れてた私たち使用人一同、拳握って頷き合ったのでした。
509
あなたにおすすめの小説
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
「君を愛することはない」と言った夫と、夫を買ったつもりの妻の一夜
有沢楓花
恋愛
「これは政略結婚だろう。君がそうであるなら、俺が君を愛することはない」
初夜にそう言った夫・オリヴァーに、妻のアリアは返す。
「愛すること『は』ない、なら、何ならしてくださいます?」
お互い、相手がやけで自分と結婚したと思っていた夫婦の一夜。
※ふんわり設定です。
※この話は他サイトにも公開しています。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく
木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。
侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。
震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。
二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。
けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。
殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。
「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」
優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎泡雪 / 木風 雪乃
【完結】騙された侯爵令嬢は、政略結婚でも愛し愛されたかったのです
山葵
恋愛
政略結婚で結ばれた私達だったが、いつか愛し合う事が出来ると信じていた。
それなのに、彼には、ずっと好きな人が居たのだ。
私にはプレゼントさえ下さらなかったのに、その方には自分の瞳の宝石を贈っていたなんて…。
結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる