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本編

29 対戦します?

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 「というのはまあ冗談で、無属性魔法とやらはどんなものかと見に来たのだよ。魔法を消滅させる他にも何か出来るのだろう?あぁ、全ての手の内を見せるのは親であっても嫌かもしれないし、一部でいいから見せてくれないかい?」


 父上はお願い~っと言った感じで頼んでくる。
 国王だから見せろと命令しても良いのにお願いをしてくるところがまあ父上の良いところなのかもしれない。
 今の父上は威厳も何もないが。


 「トルーデ様のお父様って、トルーデ様にそっくりなのですね」

 「そうかなあ・・・まあ顔は似てるかもだけど」

 「ふふ、顔もですけど雰囲気も似てらっしゃいますよ。では私からいきますね」

 ユディは柔らかく微笑むと、鍛錬場の中央へと歩き出す。
 中央付近にたどり着くとユディは詠唱する事なく炎の柱を出現させる。
 すると間も無くしてどこからともなく水を出現させ炎を消化させ、地から植物を生やし水を吸い上げ最後には風の刃で切り裂く。

 呆気にとられる私達の方を向き、してやったりといった表情を浮かべると優雅なカーテシーを行う。


 「いかが、でしょうか・・・?」

 
 誰も言葉を発さないので心配になって来たのか、ユディが感想を求める。


 「よ、予想外だよユーディット嬢。これは一体どういう事なんだい?」


 正直私にも訳がわからない。
 あれ?無属性魔法を使うって事だったよね?今のって火・水・地・風魔法のそれよね?
 でもユディは無属性以外の属性魔法は使えないし・・・


 「私、固有魔法に『星術』というものを持っているんです」


 なるほど固有魔法・・・だから詠唱が無かったのか。


 「星術も無属性魔法を使用出来なかった時には使用出来なかったのです。単純にMPが足りないからとも思ったのですが、無属性魔法の使用条件であるエーテルを利用すれば使用することのできる、無属性に紐づけられた固有魔法では無いのかと考えましたの」

 「だがその魔法を使ったとして、どうして普通魔法を使用することができたんだい?」


 父上が率直に疑問に思った事を問う。


 「星術というものを調べてみたのですが、似たものに占星術などがありまして、ほら、星座など4つの属性に当てはめられるではありませんか。なので星術とエーテルを利用して、マナで生み出される普通属性の現象を再現、顕現してみたのです」


 さも簡単に言っちゃってるけどこれどうなの?そんな簡単に再現出来ちゃうの!?
 カリーン先生に顔を向けるとブンブンと激しく首を振る。

 私達は何かとんでもないものを目覚めさせ解き放ってしまったのではないだろうか。


 「いやあ、なかなか凄いものを見せてもらった!それでトルーデはどうなんだい?」

 「あの・・・その事なんですけど・・・コツというか中々掴めなくて・・・やっとの事で無効化を覚えたので・・・まだデキマセン・・・」


 気まずいなんとも言えない空気が流れる。
 

 「はっはっは、グスタフ、どうだ!ウチの娘はすごいだろう!」


 静まり返る空気の中、ユーディットのお父さんが突然高笑いをし、娘を賞賛し始める。
 この人親バカだ。超怖い顔してるいかにもいかつい親父って感じなのに親バカだ。


 「はー???トルーデは今から伸びるんですー!それにまだそっちのユーディット嬢の1つ下だし、他の属性魔法も使えて無属性も使えるウチの娘の方がすごいですー!」

 「ユディは今まで魔法が殆ど使えない状態だったのにあんなに見事な魔法を披露したんだぞ!」

 「トルーデの戦いを見てただろう?あの見事な動きに攻撃を!お前の所のユーディット 嬢でもあれは真似できまい!」


 父上お願いだから張り合わないでくれ。恥ずかしくなってくるじゃんか。
 ユディのお父さんも気づいて!ユディが熟れたトマトのように真っ赤な顔をして俯いてるから!
 今にも泣きそうな顔になってるから!

 恥ずかしがる私達に気づくことなく父親親バカ達はいかにウチの娘が凄いかという事を言い争っている。
 そういえばあの2人は幼馴染だったらしいな・・・


 「あの2人のことは放っておきましょう。それにまだ・・ということは今は練習中なのでしょうトルーデ?」


 そう、まだ運用できるほどのものではないのでできないと言ったのだ。
 中々鋭いな母上。


 「それよりもトルーデ、カリーン。あの子は一体誰なのです!カリーンに纏めてもらったイグナやトルーデと同年代の可愛い娘リストにあの子は居なかったと記憶していますよ!」


 カリーン先生はなんてものを母上に渡しているんだ。そして可愛い娘リストとは一体なんなんだ。


 「大変申し訳ありません王妃。私も最近知り合い、近年稀に見るほどの美少女だとは思いましたが、実は王子殿下のご友人で、その、子女リストには当てはまらなかったので見落としてしまっておりました」

 「というと?」

 「あの超絶美少女はでございます」

 「・・・・・・・・・・・・・・」


 可愛いもの好きの母上が黙り込んでしまった。
 まだこの世界には男の娘という概念は無いはずだし、流石の母上でも・・・


 「・・・それであの子の実家は?」

 「ベッカー公爵家でございます」

 「もちろんあの格好は彼が好きでやっているのよね」

 「左様でございます」

 「あれほどの逸材、逃すわけには行かないわ。そうと決まれば分からせに行くわよカリーン。あぁそうだトルーデ、今度の貴女のお披露目のパーティには貴女のお友達をなんとしてでも連れてくるのよ?絶対よ?ウフフ、可愛らしい私の娘とパーティにあまり出席してくださらなかった美しい白百合姫、そして期待の新人の超絶美少女(男)!これは楽しみね・・・」


 お母様はカリーン先生を引き連れ鍛錬場からそそくさと立ち去っていった。

 お披露目だとか色々聞きづてならない言葉が聞こえてきたんだけど。
 それに分からせに行くとか言ってた気がするんだけど何をする気なんだ母上、王妃がそんなんで大丈夫かこの国・・・


 「ウチの娘の方が・・・!」

 「いやウチの娘が・・・!」

 「やめてくださいお父様・・・」


 「イグナはこの後ヒマだろ?オレの父ちゃんが稽古つけてくれるらしいから行くぞ!」

 「俺は・・・何も知らないまま相手を自分より劣ったものだと決めつけ罵っていたのか・・・なんて俺はダメなやつなんだブツブツ・・・」

 「大丈夫ですよイグナ、イグナにも良い所はありますよ、多分」


 こっちはこっちでカオスと化している。
 誰か助けてくれ・・・

 あっ、騎士団長が兄貴を抱えて出て行った。それに続いてライムントとエルンストも付いて行く。

 この機会に乗じて私は羞恥に耐えられず顔を覆うユディの元へ駆け寄る。
 親バカ達はもう放置だ放置!


 「ユディ、兄上達ももう出て行っちゃったし私達も出て行こう!」

 
 そう言ってユディの手を引き出口へと誘導し、鍛錬場を後にした。
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