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その7
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夜が明けて、城の森は朝もやに包まれた。普段ならば、もう少し冬になってから朝もやが発生するわけなのだが、今年は例年よりも寒かったので、朝もやが出てしまったのだ。
そして、森を散歩するのが日課となっていたとある老人は、すっかり道に迷ってしまった。
「はて……私はいま、どこを歩いているのだろうか……?」
道しるべがなかったので、老人は自分の勘を信じて歩き続けた。だが、歩き続けると、余計に迷子になってしまい、自分がどこを歩いているのか、分からなくなってしまった。
彷徨い続けること、おおよそ一時間が経過した。老人は、自分の見える範囲に小さな小屋が立っていることに気が付いた。
「はて……あんなところに、小屋なんかあっただろうか……?」
小屋の前では、一人の男が倒れて寝込んでいた。老人は、何かあったのかと思って、男に近付いた。
「おい、お主……大丈夫か?」
老人が男に声をかけたが、反応はなかった。
「おい、このまま寝続けたら、寒さで死んでしまうぞ?」
男は相変わらず何も言わなかった。
「おい……って、なんだ、随分と酒臭いな。そうか、酒を飲みすぎて、寝込んでいるのか……」
老人は、そっとしておこうと思った。その時だった。小屋のドアが開き、中から女が出て来たのだ。
老人は驚きを隠せなかった。ここは、王族が管理する森の中である。そんなところに小屋があること自体不思議だったし、何よりも、その女性の顔に見覚えがあったのだ。
「ああ、どこかで見たような顔だなあ……」
老人は必死に思い出そうとしたが、やはり無理だった。少なくとも、どこかの令嬢であることは確かで……考えをめぐらせても、やはり分からなかった。
「あの……君は誰かね?」
小屋から出て来た女に質問をした。
「私ですか?私は囚人のマリアでございます。わけあって、この小屋に監禁されているのでございます」
「監禁?君はどこかの令嬢かね?」
「ええ、まあ、昔はそうだったのですが……」
「どこのお家かね?」
「はい……クラーギン公爵家でございます」
クラーギン、と聞いた瞬間、老人は驚いた。
「なんだって?クラーギンだって?すると、君はクラーギン家の令嬢さん、ということなのか?」
「ええ、かつてはそうでございましたが……」
「そうかそうか……はあ、君があのクラーギンの……孫なのか……」
老人が一人で納得しているので、マリアは、質問を試みた。
「あの……私の祖父をご存じなのでしょうか?」
すると、老人は昔を懐かしむスタイルに変身した。
「ご存じも何も、クラーギンは私の側近だったのだよ。あの時は色々と無茶を頼んだものだ……。懐かしいねえ……」
側近だった……その言葉を聞いて、マリアは、この老人がものすごく偉い人なのだと察した。
「あの……あなた様はひょっとして……」
「ああ、これは失礼。君の方から名乗らせておいて、自己紹介が未だだったね。私は先の皇帝フィロソフィアだ」
先の皇帝フィロソフィア……こう聞いて、マリアは畏まってしまった。
「とんだ失礼を致しました!!!なにとぞ、お許しくださいませ!!!」
マリアは一度、地面にひれ伏した。そして、マリアのすぐ近くで相変わらず陽気な看守をも、無理やり膝まづかせた。その際、勢い余って、看守の顔が石に当たってしまい、看守は相当に痛がった。
「おい、大丈夫か?」
フィロソフィアは看守に質問した。
「大丈夫もなにもありませんぜ、だんな。ていうか、お嬢さん。どうして膝まづかないとならねえんですか?」
「ちょっと……先の皇帝フィロソフィア様の御前ですよ!!!」
マリアがフィロソフィアの名前を口にしても、看守は相変わらずピンとこないようだった。
「先の皇帝フィロソフィア……?誰ですかい、いったい?」
すると、マリアは少し怒り気味に説明を入れた。
「知らないはずないでしょう。そんなバカな話があってたまりませんよ。私が知っているのに、あなたが知らないはずはないのよ。今の皇帝陛下のお父様にあたる方よ。先代の皇帝フィロソフィア様よ!」
「フィロソフィアフィロソフィアフィロソフィア……フィロソフィア様ですって!」
看守は、ようやくことの重大さに気がついたようだった。まさか、自分の目の前にいる人が先の皇帝であるなんて、普通信じることはできないだろう。しかしだから、それは事実だったのだ。
「とんだ御無礼をお許し下さいませ!」
マリアは看守の分まで謝った。これに対して、フィロソフィアは、
「まあまあ、私はすでに隠居しているんだから。そういう堅苦しい挨拶はいらないよ」
と言った。
「いいえ、そのような事はございません。誠に申し訳ございませんでした!」
マリアが何度も何度も平謝りするので、フィロソフィアはかえって恐縮してしまった。
マリアがようやく顔を上げると、フィロソフィアはにっこりとした顔でこちらを見ていた。これで、とりあえずは許してもらえた、と二人は思った。
「さてさて、それでは私の質問に答えてもらおうかな?」
フィロソフィアは言った。
「何なりと!」
マリアは相変わらずかしこまっていた。
「ええと、君はどうしてこの小屋に監禁されることになったのかな?」
「はい、それはですね……」
マリアは、すべての話を、フィロソフィアに伝えてしまおうと思った。そうすれば、何かしらこの問題に対する解決の糸口が見つかるのではないかと思った。いくら隠居しているとは言っても、バビンスキーから見れば、祖父にあたるわけだから、それが何かのきっかけになると信じていたのだ。
「もし、お嬢さん……」
マリアが、フィロソフィアに打ち明けようとしていたのを、看守は止めた。
「ちょっと、どうして話を遮るのよ?」
マリアがこのように尋ねると、看守は、
「フィロソフィア様に伝えますと、かえって問題がややこしくなってしまうのではないでしょうか。現に、皇帝陛下はこの件について何も知らないと聞きましたが……」
と、マリアに耳打ちした。
「確かに、あなたの言っていることも一理あるかもしれないわ。でもそうすると、私はこのまま一生を終えなければいけなくなるのかしら。せっかくのチャンスだと言うのに、一か八か勝負してみるのはどうかしら……」
マリアが迷っている間に、フィロソフィアは、
「一体どうしたんだ。話しにくい理由でもあるのかな?」
と、マリアのことを気にかけた。
「いいえ、決してそのようなことではありません!」
「だったら、遠慮せずに話してごらんなさいよ。見たところ、あなたのようなお嬢さんが何か罪を犯すとは考えられないんだ。だから、これはきっと何かの間違いじゃないかと私は思っているんだ……」
フィロソフィアにこう言われると、マリアは少し感動した。そして、自分がフィロソフィアを利用しようとしたことを恥じた。
「ありがとうございます。そのお気持ちだけで、なんとも救われた心地がいたしますわ!」
「それはよかった。さて……差し支えなければ、君にいま、何が起きているのか、話してくれないか。何も隠さないでいい。どうか、全てを明らかにしてくれ」
フィロソフィアに促されて、マリアは決心がついた。
「それでは、フィロソフィア様に説明いたします前に、ひとつだけ申し上げておかなくてはならないことがあります。よろしいでしょうか?」
「なんなりと申すが良い」
「ありがとうございます。実は、これから私が説明いたします内容には、フィロソフィア様のお孫様、すなわち、現第一王子でいらっしゃいますバビンスキー様が深く関わっているわけでございます」
「なに、バビンスキーが?」
「その通りでございます……」
マリアはこの時、1つの戸惑いが生じた。やはり自分の孫の問題であるとすれば、自分の話よりも、孫の話の方を優先して信じると考えた。
「お嬢さんよ、何もはばかることはないよ。孫とはいえ、何か問題があるとすれば、それを正すのが、我々親や年寄りの役割だと思う。だから、全て話してくれ……」
フィロソフィアは、孫の不始末を信じる覚悟があった。それは、ある意味で孫への愛情だった。
マリアは、フィロソフィアに全てを打ち明けることにした。さすがに、婚約破棄について話すと、
「君たちの世代で婚約破棄が話題になるとは……なかなか奇妙な話だな……」
と、絶妙なリアクションを返したが、決して、マリアの話を疑いはしなかった。マリアが嘘をついているとは思わなかったのだ。
「なるほど。君の話を聞いて、おおよそわかったよ。私のしつけが悪かったのかもしれないね。この件については、私からも謝らなければいけないと思っている。本当にすまない」
フィロソフィアに謝ってもらうと、マリアはまたもや恐縮せずにはいられなかった。
「フィロソフィア様。どうか、あなた様が罪を感じることのないようにお願い申し上げます。あなた様が悪いのでは決してございません。これも何かの時代の間違いと言うものでございます。ですから、時が経てば自然に収まる問題なのでございます!」
フィロソフィアは、マリアの態度にますます感動したようだった。そして、今後、なんとかして苦境にあるマリアを助けられる方法なないかと考えるようになっていった。
「お嬢さんの主張は受け入れることにしよう。だが…… 1つ問題があってだな。私はやはり隠居の身であるわけだから、直接口出しする事はなかなか難しいと思うんだ。だから、すぐにこの問題を解決することはできないと思うけれど、必ず君が有利になるような方向へ進めてみたいと思うから、もう少し待ってくれないだろうか?」
フィロソフィアの提案を聞いて、マリアは思わず涙が出てきそうだった。
「さて、そのためには色々と調査をしてみる必要がありそうだな。私はひとまず家に帰ることにしよう。朝もやがだんだん晴れてきたね。ああ、迎えの人間が探しにくるだろうな……」
フィロソフィアは丁重に別れの挨拶をして、城に帰っていった。
「なかなか素敵なご老人でございましたね……」
「ええ、本当に……」
マリアはフィロソフィアの姿が見えなくなるまで、深々と頭を下げた。これほどまでに、人に対して感謝の念を抱いたことはなかった。
フィロソフィアは、城に戻ると、すぐさま親しみのある侍従を呼び出した。そして、秘密裏に、バビンスキーとマリアの交わした婚約、そして、婚約破棄に至った顛末について調べるように要請したのだった。
「この世界に不正があってはならないからな。あのお嬢さん、中々いい目をしておったぞ。ああいう人に出会ったのは、随分久しぶりのことだ……」
フィロソフィアはこのときの出会いを忘れないように、マリアについてのメモを残した。
そして、森を散歩するのが日課となっていたとある老人は、すっかり道に迷ってしまった。
「はて……私はいま、どこを歩いているのだろうか……?」
道しるべがなかったので、老人は自分の勘を信じて歩き続けた。だが、歩き続けると、余計に迷子になってしまい、自分がどこを歩いているのか、分からなくなってしまった。
彷徨い続けること、おおよそ一時間が経過した。老人は、自分の見える範囲に小さな小屋が立っていることに気が付いた。
「はて……あんなところに、小屋なんかあっただろうか……?」
小屋の前では、一人の男が倒れて寝込んでいた。老人は、何かあったのかと思って、男に近付いた。
「おい、お主……大丈夫か?」
老人が男に声をかけたが、反応はなかった。
「おい、このまま寝続けたら、寒さで死んでしまうぞ?」
男は相変わらず何も言わなかった。
「おい……って、なんだ、随分と酒臭いな。そうか、酒を飲みすぎて、寝込んでいるのか……」
老人は、そっとしておこうと思った。その時だった。小屋のドアが開き、中から女が出て来たのだ。
老人は驚きを隠せなかった。ここは、王族が管理する森の中である。そんなところに小屋があること自体不思議だったし、何よりも、その女性の顔に見覚えがあったのだ。
「ああ、どこかで見たような顔だなあ……」
老人は必死に思い出そうとしたが、やはり無理だった。少なくとも、どこかの令嬢であることは確かで……考えをめぐらせても、やはり分からなかった。
「あの……君は誰かね?」
小屋から出て来た女に質問をした。
「私ですか?私は囚人のマリアでございます。わけあって、この小屋に監禁されているのでございます」
「監禁?君はどこかの令嬢かね?」
「ええ、まあ、昔はそうだったのですが……」
「どこのお家かね?」
「はい……クラーギン公爵家でございます」
クラーギン、と聞いた瞬間、老人は驚いた。
「なんだって?クラーギンだって?すると、君はクラーギン家の令嬢さん、ということなのか?」
「ええ、かつてはそうでございましたが……」
「そうかそうか……はあ、君があのクラーギンの……孫なのか……」
老人が一人で納得しているので、マリアは、質問を試みた。
「あの……私の祖父をご存じなのでしょうか?」
すると、老人は昔を懐かしむスタイルに変身した。
「ご存じも何も、クラーギンは私の側近だったのだよ。あの時は色々と無茶を頼んだものだ……。懐かしいねえ……」
側近だった……その言葉を聞いて、マリアは、この老人がものすごく偉い人なのだと察した。
「あの……あなた様はひょっとして……」
「ああ、これは失礼。君の方から名乗らせておいて、自己紹介が未だだったね。私は先の皇帝フィロソフィアだ」
先の皇帝フィロソフィア……こう聞いて、マリアは畏まってしまった。
「とんだ失礼を致しました!!!なにとぞ、お許しくださいませ!!!」
マリアは一度、地面にひれ伏した。そして、マリアのすぐ近くで相変わらず陽気な看守をも、無理やり膝まづかせた。その際、勢い余って、看守の顔が石に当たってしまい、看守は相当に痛がった。
「おい、大丈夫か?」
フィロソフィアは看守に質問した。
「大丈夫もなにもありませんぜ、だんな。ていうか、お嬢さん。どうして膝まづかないとならねえんですか?」
「ちょっと……先の皇帝フィロソフィア様の御前ですよ!!!」
マリアがフィロソフィアの名前を口にしても、看守は相変わらずピンとこないようだった。
「先の皇帝フィロソフィア……?誰ですかい、いったい?」
すると、マリアは少し怒り気味に説明を入れた。
「知らないはずないでしょう。そんなバカな話があってたまりませんよ。私が知っているのに、あなたが知らないはずはないのよ。今の皇帝陛下のお父様にあたる方よ。先代の皇帝フィロソフィア様よ!」
「フィロソフィアフィロソフィアフィロソフィア……フィロソフィア様ですって!」
看守は、ようやくことの重大さに気がついたようだった。まさか、自分の目の前にいる人が先の皇帝であるなんて、普通信じることはできないだろう。しかしだから、それは事実だったのだ。
「とんだ御無礼をお許し下さいませ!」
マリアは看守の分まで謝った。これに対して、フィロソフィアは、
「まあまあ、私はすでに隠居しているんだから。そういう堅苦しい挨拶はいらないよ」
と言った。
「いいえ、そのような事はございません。誠に申し訳ございませんでした!」
マリアが何度も何度も平謝りするので、フィロソフィアはかえって恐縮してしまった。
マリアがようやく顔を上げると、フィロソフィアはにっこりとした顔でこちらを見ていた。これで、とりあえずは許してもらえた、と二人は思った。
「さてさて、それでは私の質問に答えてもらおうかな?」
フィロソフィアは言った。
「何なりと!」
マリアは相変わらずかしこまっていた。
「ええと、君はどうしてこの小屋に監禁されることになったのかな?」
「はい、それはですね……」
マリアは、すべての話を、フィロソフィアに伝えてしまおうと思った。そうすれば、何かしらこの問題に対する解決の糸口が見つかるのではないかと思った。いくら隠居しているとは言っても、バビンスキーから見れば、祖父にあたるわけだから、それが何かのきっかけになると信じていたのだ。
「もし、お嬢さん……」
マリアが、フィロソフィアに打ち明けようとしていたのを、看守は止めた。
「ちょっと、どうして話を遮るのよ?」
マリアがこのように尋ねると、看守は、
「フィロソフィア様に伝えますと、かえって問題がややこしくなってしまうのではないでしょうか。現に、皇帝陛下はこの件について何も知らないと聞きましたが……」
と、マリアに耳打ちした。
「確かに、あなたの言っていることも一理あるかもしれないわ。でもそうすると、私はこのまま一生を終えなければいけなくなるのかしら。せっかくのチャンスだと言うのに、一か八か勝負してみるのはどうかしら……」
マリアが迷っている間に、フィロソフィアは、
「一体どうしたんだ。話しにくい理由でもあるのかな?」
と、マリアのことを気にかけた。
「いいえ、決してそのようなことではありません!」
「だったら、遠慮せずに話してごらんなさいよ。見たところ、あなたのようなお嬢さんが何か罪を犯すとは考えられないんだ。だから、これはきっと何かの間違いじゃないかと私は思っているんだ……」
フィロソフィアにこう言われると、マリアは少し感動した。そして、自分がフィロソフィアを利用しようとしたことを恥じた。
「ありがとうございます。そのお気持ちだけで、なんとも救われた心地がいたしますわ!」
「それはよかった。さて……差し支えなければ、君にいま、何が起きているのか、話してくれないか。何も隠さないでいい。どうか、全てを明らかにしてくれ」
フィロソフィアに促されて、マリアは決心がついた。
「それでは、フィロソフィア様に説明いたします前に、ひとつだけ申し上げておかなくてはならないことがあります。よろしいでしょうか?」
「なんなりと申すが良い」
「ありがとうございます。実は、これから私が説明いたします内容には、フィロソフィア様のお孫様、すなわち、現第一王子でいらっしゃいますバビンスキー様が深く関わっているわけでございます」
「なに、バビンスキーが?」
「その通りでございます……」
マリアはこの時、1つの戸惑いが生じた。やはり自分の孫の問題であるとすれば、自分の話よりも、孫の話の方を優先して信じると考えた。
「お嬢さんよ、何もはばかることはないよ。孫とはいえ、何か問題があるとすれば、それを正すのが、我々親や年寄りの役割だと思う。だから、全て話してくれ……」
フィロソフィアは、孫の不始末を信じる覚悟があった。それは、ある意味で孫への愛情だった。
マリアは、フィロソフィアに全てを打ち明けることにした。さすがに、婚約破棄について話すと、
「君たちの世代で婚約破棄が話題になるとは……なかなか奇妙な話だな……」
と、絶妙なリアクションを返したが、決して、マリアの話を疑いはしなかった。マリアが嘘をついているとは思わなかったのだ。
「なるほど。君の話を聞いて、おおよそわかったよ。私のしつけが悪かったのかもしれないね。この件については、私からも謝らなければいけないと思っている。本当にすまない」
フィロソフィアに謝ってもらうと、マリアはまたもや恐縮せずにはいられなかった。
「フィロソフィア様。どうか、あなた様が罪を感じることのないようにお願い申し上げます。あなた様が悪いのでは決してございません。これも何かの時代の間違いと言うものでございます。ですから、時が経てば自然に収まる問題なのでございます!」
フィロソフィアは、マリアの態度にますます感動したようだった。そして、今後、なんとかして苦境にあるマリアを助けられる方法なないかと考えるようになっていった。
「お嬢さんの主張は受け入れることにしよう。だが…… 1つ問題があってだな。私はやはり隠居の身であるわけだから、直接口出しする事はなかなか難しいと思うんだ。だから、すぐにこの問題を解決することはできないと思うけれど、必ず君が有利になるような方向へ進めてみたいと思うから、もう少し待ってくれないだろうか?」
フィロソフィアの提案を聞いて、マリアは思わず涙が出てきそうだった。
「さて、そのためには色々と調査をしてみる必要がありそうだな。私はひとまず家に帰ることにしよう。朝もやがだんだん晴れてきたね。ああ、迎えの人間が探しにくるだろうな……」
フィロソフィアは丁重に別れの挨拶をして、城に帰っていった。
「なかなか素敵なご老人でございましたね……」
「ええ、本当に……」
マリアはフィロソフィアの姿が見えなくなるまで、深々と頭を下げた。これほどまでに、人に対して感謝の念を抱いたことはなかった。
フィロソフィアは、城に戻ると、すぐさま親しみのある侍従を呼び出した。そして、秘密裏に、バビンスキーとマリアの交わした婚約、そして、婚約破棄に至った顛末について調べるように要請したのだった。
「この世界に不正があってはならないからな。あのお嬢さん、中々いい目をしておったぞ。ああいう人に出会ったのは、随分久しぶりのことだ……」
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