婚約破棄された令嬢は第二の人生を謳歌して狭い自由を手に入れる

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その8

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バビンスキーがもはや、チャーリーの夫としてうまく機能していないことは明白だった。つまり、自分の立場を守るために一番必要なのは、前婚約者であるマリアを宥めることが一番大事なことであり、チャーリーと一緒に語らい合う余裕なんてなかったのだ。

「バビンスキー様……今日もお勤めご苦労様でございます……」

バビンスキーが帰ってくると、チャーリーはいつもにこやかに出迎える。だが、バビンスキーは無言だった。時には、

「ありがとう」

と一言発することもあったが、ほとんど話をすることなんてなかった。

「さあさあ、料理の準備はできておりますから……一緒にいかがですか?」

チャーリーが確認のために質問をすると、バビンスキーは時折不機嫌になって、

「それくらい、一人で食べたらどうなんだ?赤ん坊じゃあるまいし、私と一緒に食べる必要なんてないだろう?」

と言い返した。すると、チャーリーは、

「申し訳ございません……」

と、平謝りするしかなかった。

このように、二人の夫婦関係は、どんどんどんどん冷え切っていった。その原因の大半がバビンスキーにあることは、もはや、疑いの余地がなかった。

バビンスキーは一人で全てを抱え込み、一人で全てを解決しようと試みた。この難題を人目にさらしてしまうと、自分が第一王子でいられなくなる可能性まで考慮したためだった。

「バビンスキー様!一つばかり、報告がございます!!!」

バビンスキーの侍従たちが、のこのことやって来た。

「何事だ、騒々しいな」

「それが、非常に困った事態になってしまったのです!!!なんでも、情報筋によりますと、フィロソフィア様が、バビンスキー様周囲の捜査を行っているとのことでございます」

フィロソフィアと聞いて、バビンスキーは飛び起きた。

「何だって?おじい様が私を調査しているだと?それは一体、どうしてなんだ?」

「詳しくは分かりません。しかしながら、フィロソフィア様の側近たちが、バビンスキ様に関して調査をしていることは、どうも事実のようでございます!!!いや、困った問題ですな!!!」

この時、バビンスキーは確信した。つまり、フィロソフィアとマリアが接触した可能性があるということを。そして、フィロソフィアが何かしかけてくるのではないか……そんな疑念が浮上してきたので、バビンスキーはすぐさまマリアの元に向かうことにした。

「バビンスキー様。今日もお仕事ですか?」

チャーリーは、なんとかしてバビンスキーに好かれようと、気遣う姿勢を見せ続けた。しかしながら、バビンスキーは全くといっていいほど、見向きもしなかった。

「ああ、そうだろうな!!!」

バビンスキーが不可解に苛立ちを隠しきれないのを見て、チャーリーは、再び悲しくなったのだった。

一方、監禁小屋の改造を試みていたマリアは、看守と共に、話し合いを始めていた。

「ねえ、この小屋のサイズ、もう少し大きくできないものかしら?」

マリアが尋ねると、看守は、

「なかなか難しいのではないでしょうか?」

と答えた。

「あらかじめ大きさが決まっているわけでございますから……どうしても大きな部屋にしたいのであれば、最初から作り直すより仕方がないと思いますけどね?」

「最初から作り直す……そうね、その方が早いかもね。ねえ、そしたらさ、あなたも手伝って下さらないかしら?」

「私ですか?私は生憎、生まれつき手先が不器用なものですから、こういう大工仕事は向かないのでございますよ!!!」

「あら、そうなの?」

マリアががっかりしていると、看守は何かひらめいたようだった。

「そうです、そんだったら、今度、私の知り合いに大工がいますから、そいつらを連れて来ましょうか?」

「あら、いいのかしら?」

「ええ、構いませんよ。みんな、近頃暇してるでしょうから。ちょうどいい肩慣らしでしょうや!!!」

看守にそう言われて、マリアも喜んだ。

「ありがとう。それじゃ、今度はこの小屋を大幅にリフォームしちゃいましょう!!!」


なんて、呑気なやり取りをしている間に、バビンスキーが急いでやって来た。

「おおおいいい!!!!マリア、どうしてお前はいつもいつも、こうやって自由気ままに生活しているんだ?」

マリアは、どうしてバビンスキーが来たのか、分からなかった。

「自由気ままって……あなた、正気ですか?監禁小屋に閉じ込められる生活のどこが、自由気ままだと言うんですか!!!」

「………………それはそうだが、現にこうして外に出ているじゃないか!!!」

バビンスキーが怒り出すと、マリアはまた怖い顔になって、小屋からナイフを持ち出した。それを見た瞬間、バビンスキーは、

「分かった分かった!!!数回の外出は認めることにしよう!!!」

と言った。

「あら、スミマセンね。なんか、こっちの方から脅迫したみたいで!!!」

「事実上の脅迫だろう……」

「???バビンスキー様?なにか、おっしゃいましたか???」

「いいえ、何も言ってないぞ!!!全て、君が思う通りにしていいからな、ハハハハ…………」

バビンスキーはもはや、勝ち目がなかった。


「ええと、話を戻しまして、今日はどうしていらっしゃったのですか?」

「どうしてもこうしても、罪人の監視に決まっているだろうが」

「ですが、看守はきちんといるじゃありませんか?見え透いた嘘は止めて、本当のことを話してください!!!」

「ああ、分かったよ。それでだな……ええと、この前、近くに老人が一人来なかったか?」

老人、と聞いて、マリアはすぐさまピンときた。それは、フィロソフィアのことだった。

ここで、マリアは少し迷った。フィロソフィアに会ったことを正直に伝えるのが得策なのか、それとも、伝えずにしらばっくれるのが得策なのか……どちらを選択しても、メリット、デメリットがついて回りそうだった。

「で、どっちなんだ?」

バビンスキーは、すぐに返事をしないマリアに対して、苛立ちを覚えた。

「はて……そのような人は……」

「ええ、確かに来ましたよ」

マリアが答えを出す前に、看守が答えを出してしまった。

「なに、それは本当か?」

「ええ、私も、そして、マリア様もご覧になったわけでございますから、間違いありません」

「そうなのか、マリア?」

「ああ、そう言われてみますと……確かにご老人が一人でいらっしゃいましたわね?」

「そうなのか、分かった。ありがとう。君たちの協力に感謝するよ!」

何を感謝するのか、マリアにはその意味がよく分からなかった。

「ああ、ところで、先ほどは何の話をしていたのかな?」

バビンスキーは、再びマリアに質問をした。

「はい、この小屋があまりにも小さくて不自由ですので、せっかくですから、リフォームでもしようかと思いまして」

これを聞いたバビンスキーは、再び驚いた。

「リフォームだって?そんな必要ないだろう?一人で住むのだから、これくらいの広さがあれば十分じゃないのか?」

「まあ、そうなんですけれども。でも、一日中、この中で過ごすとなると、やはり窮屈に感じてしまうんですよ。あなた様には分からないでしょうけれども」

「ああ、そうかそうか、それは悪うございました。まあ、迷惑がかからない程度にだったら、文句は言わないから」

「あら、それは本当ですか?」

「ああ、その通りだ」

「ありがとうございます。そう言われましたら、今度リフォーム致しますわ。本当に、ありがとうございます!!!」

マリアはバビンスキーからの承諾をえることができたので、非常に満足だった。そして、バビンスキーは、マリアがフィロソフィアに会ったことを確認できて満足だった。バビンスキーは、そのまま城に帰った。
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