婚約破棄された令嬢は第二の人生を謳歌して狭い自由を手に入れる

tartan321

文字の大きさ
6 / 37

その6

しおりを挟む
すると、突如、城の方が騒がしくなった。看守の歌が届いたのだろうか?まさか、とは思ったが、マリアは一応、スコープで城の様子を観察した。特にこれといって変わったことはなかったが、やはり、騒がしそうだった。

「ひょっとして……また誰か来るのかしら?」

と、誰かが来るのを待っていると、やはり、馬に乗ったバビンスキーが大急ぎでやって来た。

「マリア!!!何をやっているんだ!!!」

「何をやっているって……食事ですよ?」

「そんなことではなくて……」

マリアは再び青ざめたゾンビのような歩き方で台所に向かい、綺麗に拭いたナイフを持って、ニコニコしていた。

「分かった、分かったから。とりあえず、そのナイフは置いてくれないか?」

「ええ、仕方がありませんね。それで、こんな夜遅くにいったい、何の用ですか?私、もう眠いのでそろそろ寝たいと思うんですけど……」

「おいおい、それがワインを飲んでる人間の言うことか?それに……まだ零時じゃないか?お前のことだから、夜は長いんじゃないのか?おい、看守!!!見張りはどうしたんだ、貴様の仕事だろうが!!!それなのに……囚人と一緒にワインを飲んで、その上、下らない歌まで歌いおって!!!喧しいぞ!!!」

「それを伝えるために、わざわざいらっしゃつたのですか?」

「ああ、そうだ。他に何か理由がいるか?」

「いえ、別にどうでもいいですけど……」

マリアはしばらく黙りこくった。そして、陽気な看守をなんとかいさめようとした。しかしながら、完全に酔いが回っていた看守は、マリアの言うことも、そして、バビンスキーの言うことも聞かなかった。

「マリア!!!こいつをなんとか黙らせろ!!!」

「そうおっしゃいましても……酔っているので無理ではありませんか?」

「そこを何とかしろと言ってるんだ!もとはと言えば、お前が蒔いた種だろうが!ええ?こいつの声は何だかすごく響くものだから、耳障りなんだよ!!!」

バビンスキーが、耳障りと言った瞬間、看守は、

「耳障りだと、このやろう!!!」

と言って、バビンスキーに突っかかった。

「おい!!!マリア、なんとかしろ!!!」

「なんとかするのは、お前の方だろうが!!!」

看守は、バビンスキーに抱き着き、動きを封じた。

「あら、あなたも結構お上手なのね?」

マリアが感心すると、看守は再び陽気に戻って、

「どうもどうも、そう褒められたものではないんですが!!!力だけが取り柄でございますから!!!」

なんて、答えた。

「おい、王子に向かって不敬だろうが!!!」

「王子だって?へん、こんな時間にどうして王子様が一人で、こんな田舎をぶらぶら歩きまわってるんだよ!!!そんなバカな話があるわけねえだろう!!!」

看守は余計に力づいて、ついには、バビンスキーを倒してしまった。

「あらあら……看守さん。さすがに、これはやりすぎじゃないかしら?」

倒れたところが悪かった。泥のぬかるみに、顔から真っ逆さまに突っ込んだバビンスキーは、中々抜け出すことができなかった。手と足を必死に動かして、救助を要請しているようだった。マリアは、このままバビンスキーが死んでも構わないと一瞬思ったが、そうなると、看守が確実に死刑になってしまうと思ったので、仕方なく助けることにした。

バビンスキーの手と足を無理やり引っ張って、見事にぬかるみから抜け出すことができた。バビンスキーの端麗な白い肌は、夜だから見えないということもあるが、煤けた野蛮人、あるいは、泥塗れになった農家のせがれのように黒茶っぽく染まってしまった。

「まあ、なんて顔をしているんでしょう……」

そして、マリアは吹き出してしまった。

「おお、兄ちゃん。良い顔になったじゃねえか!やっぱり、若者はこうでなくっちゃ!!!最近は、王様でもなんでも、白い肌がもてはやされているみたいだが、俺はちっとも感心しねえな!こうやって、黒焦げになるのが、元気な男の証ってもんよ!!!うわあっ……随分と臭くなったな!!!」

看守がそう言うものだから、臆すること泣く、マリアもバビンスキーの匂いを嗅いでみた。確かに、今まで感じたレベルの匂いではなかった。

「お前たち……それほどまでに私を愚弄して……覚悟はできているんだろうな!!!」

バビンスキーは、本当に怒っているようだった。そして、昼と同じように、懐から刀を抜いた。

「あん?それは本物かい?どうせ、どっかの張りぼてじゃないのかい?なあ、お嬢さん」

「いや、そんなことはないみたいだけど……。さっき、壊れてなかったっけ?」

マリアは、自分の壊した刀が、数時間でいとも簡単に直っていることを不思議に思った。

「私たちをバカにし過ぎだぞ、マリア!!!城にはな、武器の手入れを専門とする技官がざっと50人はいるんだ。奴らに任せれば、いくら壊れたって、この通り、すぐに修復できるのさ!!!」

バビンスキーはそうやって自慢した。

「あら、そうなんですか?それにしても……切れ味は鈍るのではなくて?」

「だから……バカにするなって言ったろ!!!切れ味だって抜群なのだ!!!」

「へえ、そうなんですか……わかりました。では、これから、この大根を輪切りにしてもらいましょうか?」

「大根だと?お前、ふざけているのか?」

「ふざけてなんかいません。いやね、私のナイフ、少し錆びついちゃってるもので、大根が切れないんですよ。でも、バビンスキー様の刀はもう直ったのでしょう?だったら、切ってごらんなさいって。それで、もし切れるんだったら、あなた様は私たちに勝つわけですよ?」

マリアがこう言うと、バビンスキーは少し考えて、

「よかろう」

と答えた。

「それでは……はい、こちらをお願いします……」

マリアは、大根を机に置いた。

「こんなの、楽勝だぜ……」

楽勝がっていたバビンスキーは、刀を見事、大根に命中させた!!!

だがしかし、ボキボキと音がして、バビンスキーの大事な刀はすぐに折れてしまった……。

マリアの予想通りだった。そして、バビンスキーは再びショックを憶えた。

「おい、どうしてだよ?ちゃんと修理したのに!!!どうして、こんなに役立たずなんだよ!!!」

「そんなの決まっているぞゃないですか。あなたの管理があまりにも雑で、思った以上に速いスピードで、錆びついてしまうからですよ……」

「そんなわけあるか!!!」

バビンスキーは必死に対抗しようと試みた。だが、結果は虚しくも惨敗だった。戦わずして勝つ、これが、マリアのやり方だった。

「ううう……悔しいが、仕方ないのか……」

「バビンスキー様?これ以上無暗な意地の張り合いはやめにしませんか?これでわかったでしょう?あなた様に勝ち目はないのですよ?」

「あああ……そんなことはない……そんなことはないんだ……」

バビンスキーはまともに返事をせずに、のこのこと帰っていった。

「いやあ、お嬢さん。今回もすごいね!!!感心しちゃったよ!!!さあさあ、もっと飲もうじゃないか!!!」

嵐の過ぎ去った大地は、再び静けさを取り戻した。その静けさの中に陽気な看守の歌だけが響き渡った。

「仕方ないわね。まあ、今夜くらいはいいかしら?」

マリアも看守に同意して、もっともっとたくさんのワインを飲むことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...